東方東奔西走録   作:練武

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3話 空を飛ぼう

射命丸さんは美人だ、これは断言できる。艶やかな黒髪、整った顔立ち、親しみやすい砕けた性格。あちらの世界なら原宿を歩けばスカウトは間違いないだろう。こんな美人と屋根の下同棲しているなんて男冥利に尽きるものだが、特に意識することはない。

童貞だから意識するものかと思うが、なぜかそんな気分にはならない。自然と会話できるし、無防備に寝ていても何の感情も湧いてこない。

何でだろうか?と考えていくとどうも1つ思い当たる節があった。

新聞部の頃の女部長にそっくりなのだ、性格的に。

部長はメガネでややロングヘアーの茶髪なのだが顔はそれなりに美人の部類である。なにより体つきもいい。そんな部長だが彼氏が出来たことがない。きっとその砕けすぎた性格のせいだろう、ロマンチックな夜景を見るより近くの運動場で走り回ってる方が好きなんだから。

流石に射命丸さんがここまでではないが部長と似ているなと思うと落ち着いて話せる。

部長は女である前に鬼の編集長だったからかもしれない。

 

 

 

「いやー最近飛び回ってばっかりでしたから、こうやってゆっくりと歩くのもいいですね」

 

引っ張られて連れてこられたのは家の外、約束通り散歩をすることになった。夏前で蝉が喧しくなく中、射命丸さんの透き通った声が僕の元にも届く。今妖怪の山をゆっくりと下っているところだ。この山かなり高いのだが、一体何mあるのだろうか。

 

「僕は逆に空飛んでみたいんですけどね。」

 

射命丸さんが当たり前のように空を飛んでいたのを腰を抜かして見ていたのが既に懐かしい。どうやら僕の常識がどんどんと塗り替えられていっている。

目の前の人が妖怪、なんて信じられなかったけどこの世界を知るにつれ僕の否定するオカルトそのものの世界だった。妖怪、神、魔法使い、妖精が存在する和でも洋でもないこのファンタジーワールド。

もう何があっても驚かないで受け入れるつもりだ。驚いていたらきりがない。

 

「いつか飛べるようになるといいですねー」

 

「いえ、僕人間ですし」

 

すると足を止めて不思議そうにこちらを覗いてきた。

 

「人間でも飛べますよ」

 

「飛べる人間は人間じゃないような...いや、もう何も言うまい。」

 

「博麗神社の巫女は普通に飛びますよ」

 

巫女が空を飛ぶのか。というか神社もあるんだこの世界。

あらゆる物が詰め込まれている。もう魔王なんて出てきてもおかしくない。

 

「そうだ、四条くんが飛べるようになったら人里以外の場所も取材できますね!一旦戻って飛ぶ練習しませんか?」

 

空を飛ぶ練習、まるで漫画の世界の話だ。どうやって練習するのか、想像ができなくて怖い。だけど空を飛ぶのか、きっと気持ちいいんだろうな。

ダメ元でやってみるのも1つの手かもしれない。

 

「出来るかどうかわからないですけど。空を飛びたいです。」

 

「その言葉、待ってました。では戻りましょう」

 

Uターンしてきた道を戻っていく。空を飛べるようになったら、幻想郷を駆け巡ってみよう。空への期待を胸に、きた道を一歩一歩踏みしめた。

 

 

 

 

「まずは気を探ることから始めましょう」

 

気を探る?ますます僕の好きな漫画地味だ展開になってきた。

家のすぐ横のスペースで、僕らは空を飛ぶ練習を始めた。

 

「まず、深呼吸して心を落ち着かせてください。」

 

促された通り、直立のまま目を瞑って深呼吸する。吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー

 

「ではそのまま力を抜いた状態でお願いします。次に私が3カウント数えますので0になったと同時に全力で全身に力を入れてみて下さい。いきますよ〜」

 

「3」

全身に力を入れる?とりあえず脱力状態から抜け出せばいいんだな

「2」

なんか、緊張してきた、力が勝手に入りそう。

「1」

次だ、次で力を入れればいいんだ、慌てるなよ。

「0」

膝を落として踏ん張る体制になる。無理に力を入れているので腕や足がピクピクと震える。とにかく全身がきつい。

 

「はい、お疲れ様です。周りをみて下さい」

 

しばらくピクピクしていると声をかけられる。

周り?顔を上げてみると、そこには白い玉のようなものがフワフワと僕の周囲を浮かんでいた。野球ボールサイズからバスケットボールサイズまで様々存在する。手を伸ばしてみても触った感触がない、雲に手を伸ばしているかのようだ。

 

「これが四条くんの気、です。」

 

「これが気...」

 

こんなにはっきり見えるものなのか。

 

「白なので霊気、人間が持つ一般的な気ですね。人間の中には稀に別の気を持つタイプもいるようです。人と別種の間の子とかなんらかの形で輸血したり移植したり。四条くんは人間だと分かっていましたが一応確かめてみたんですけど......確かめて良かったですね、あれを見てください」

 

射命丸さんが指を指す方向、それは僕のちょうど後ろだ。振り返って確認すると、それは見たこともない赤色をしていた。1つだけじゃない、後ろのほとんどが赤に染まっていた。

 

「赤.....?」

 

「妖気。私達妖怪が持つ気のことです。これはちょっと興味が湧きましたね。この数なら相当の妖気を保有しています。」

 

妖気?僕が妖怪だというのか、幻想郷で何も驚かないと言ったがこればかりは驚くしかない。オカルトを否定していた歩くオカルトだったということか!?

 

「まぁでも人間の中でも妖気を持っているなんて珍しい話ですが不可思議なことでもありません。現に数人見ていますし。」

 

「じゃあ僕は少し変わっている人間、ということですか?」

 

「そうなりますね。妖気を持っていれば妖怪とは限りませんし」

 

びっくりしたが僕は人間らしい、安堵する。人外になりかけたがギリギリのところで踏みとどまっていたようだ。

 

「妖気があるなら話早いですよ、すぐ飛べると思います。」

 

「本当ですか?」

 

「はい、私もこうして飛んでいるわけですし。さっそく飛びましょうか」

 

 

その後射命丸さんに気の使い方を教わった。身体から出る力を使いこなすにはそれほど時間はかからなかった。15分もすれば数m浮くことに成功した。

 

「うおおお。浮いてる!」

 

下で手を振る射命丸さん、こうなると身長が一気に伸びた気分だ

 

「だいぶ基本はできましたね。あとは自由に飛べるようになれば完成です」

 

「わかりました。頑張ります」

 

しばらくは射命丸さんとのマンツーマンが続きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

今日偶々近くを通りかかったので挨拶に伺ったわけだが、どうも家の近くで何かしているようだ。ゆっくり忍び足で近づいてその様子を確認すると、文さんと見知らぬ男が立っていた。仲睦まじく話す姿に、思わず舌打ちをした。

 

「誰ですかあの冴えない男は?」

 

あんなに楽しく話す文さんの姿は久しぶりだ。あの男、きっと狙ってるに違いない。あんな冴えない男が文さんの相手なんて釣り合っていない、妖怪ならまだしも人間とは、生意気にもほどがある。

 

「これは、話を聞くしかないですね。」

 

私、犬走椛は2人の元へと駆け寄る。誰かは知らないが人間、お前のくる場所じゃないことを教えてやる。

 

 


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