東方東奔西走録   作:練武

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2話 山で

「「ごちそうさまでした」」

 

2人で手を合わせて食材への感謝をする。ふぅ、美味しかった。

お皿を両手で持って台所へ運んでいく。

 

「やはり朝のご飯味噌汁は最高ですね。そう思いませんか?」

 

並んで台所へと運ぶ射命丸さんが満足そうに尋ねてくる。

 

「そうですね、美味しいですね」

 

台所の流しでお皿と箸を手で洗う。寮生活をしてから食洗機とはおさらばしたので手洗いなのだが、やはり無くなってから便利さがわかるものだ。入れてピッと押せばいいだけなんだし。

2人分で朝食ということもあり量自体は少なかった。5分もかからず洗って脇に乾かすために置いておいた。

 

「ご苦労様。というわけで仕事しますね」

 

そう告げると寝室の隣の部屋、仕事室に入っていった。あれ?僕はどうなるんだ?追って部屋に入る。そこは机と椅子が部屋の奥に置かれていて和室の部屋にミスマッチなプリンター、それと小さな丸い窓しかない殺風景な部屋だった。その部屋で椅子に座って何かを書いている射命丸さんの姿があった。

 

「あの、僕はどうすれば」

 

「今日は私が原稿を書くだけなので。午前中には終わらせるつもりです。....そうだ」

 

何か思いついたのか椅子から立ち上がり僕の元へ寄る。

 

「午後から、幻想郷を散歩しませんか?」

 

「散歩、ですか?」

 

「そういえばここに来てから仕事ばかり押し付けてましたからね。たまには休暇ということで羽を伸ばしてもらうのもいいかと思いまして」

 

そう言えば僕が仕事で行った人里以外どこにも行っていない。幻想郷が一体どんなところなのかもっと知りたいと思っていたところだ。

その提案に僕は強く頷いて肯定した。すると射命丸さんはそれではしばしお待ちを、と言い残し襖を閉めた。

 

幻想郷、僕が神隠しにあった先は自分が否定していたオカルトだらけの世界だった。

 

 

 

 

 

 

奔放神社は山頂への道から外れた場所に存在していた。スマホの地図を確認しながら山頂への道を進んでいく。太陽は次第にオレンジ色の日差しへと変わり人が夕方かな、と認識を始める頃、僕はやっと神社への直線ルートとなる場所までついた。道の脇には草木が生い茂り光が届いていないのかやや薄暗く感じる。意を決して脇の木々へと入っていく。雑草だらけの地を踏みしめて進んでいく。目印となるものがないため、ここからコンパスを頼りにひたすら東へと進んでいくだけだ。地図の尺度を考えるに距離は約500mほど。しかしこうも木や草が多いと見つけるのも一苦労だ、神社についても神社がまだ残っている可能性は保証されていない。しかし点が繋がったがまた奇妙な点が浮かび上がる。神社で神隠しが起こったなら、どうして失踪した知り合いはそこに行ったのだろう。僕のように神隠しの事を知って興味本位できたのか?それか失踪したかったのか?

今考えたって仕方ない。日も沈んできたので足を速める。距離的にはそろそろじゃないかな。すると自分の身長以上の縦に伸びた草が進行方向に生えていた。掻き分けながら進んでいくしかない。草を踏み倒して手で前を確保しながらゆっくり進んでいく。10歩くらいそうして進むと、何か足元に石畳的なものが見え、それが見え始めると草の長さも短くなっていく。

とうとう腰くらいまでになりかき分ける必要がなくなると何かぼんやりと建物が見えてくる。石畳はその建物へとまっすぐ伸びていて、その建物の脇には左右1つずつ棒のようなものが立っている。そして奇妙だが建物の後ろから鳥居のようなものが建てられている。

あれが神社か?走って近づいてみる。近づけばそれが確信へと変わる。廃墟の神社だ。

建物全体は茶緑色で賽銭箱なんて苔だらけだ。灯篭も僕から見て右側が先の方が欠けている。

神社をぐるっと一周してみる。鳥居にも苔がひっしり張り付いていた以外特に目ぼしい発見はなかった。

こうなれば拝殿を除くしかないが、これは法律的に大丈夫なのだろうか。廃墟とはいえ無断で忍び込むのは罪悪感がするというか。

と考えたがもうここまで来たんだし、誰も見てないし大丈夫だろ、と、すぐさま納得する理由を作った、いざ拝殿。

賽銭箱の後ろにある階段に足をつけると、聞きたくない軋む音が響く。慎重に一歩ずつ登っていき、なんとか扉前まで来ることができた。

襖の取っ手に手をかけて少し横にずらしてみる。どうやら鍵が閉まったりはしていないようだ。深呼吸して、取っ手を横に引っ張る。

そこからの記憶はない。そこで何を見たのかはわからない。だけど気付いた時には僕は見知らぬ地にいたことだ。

そこは人里の人たちから、妖怪の山と言われている。

 

 

 

「お待たせしましたー!早く終わりましたよ!さぁ、行きましょうか!」

 

寝転がってウトウトしていると射命丸さんが飛び込んできた。文字通り。起き上がろうとしている僕の手を引っ張って強引に立たせた。

 

「さあ、幻想郷へ!」

 

射命丸さんは万遍の笑み、僕が教えてもらう側だよね。その温度差にちょっと引いてしまうが。僕も実際楽しみだ。

一体、どこに連れて行かれるのか。楽しみである。


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