東方東奔西走録   作:練武

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序章 初めまして、幻想郷
1話 7日目の朝


午前...何時だろうか?とりあえず日が昇る前くらいに起床。

数少ない衣服のジャージにすぐ様着替えて布団を畳む。

それが終わると棚に押し込んでから襖を開けて隣の部屋に。

 

「射命丸さん、朝ですよ」

 

「うへぇ....」

 

今の上司、射命丸文さんを起こす。

これが僕の朝の仕事だ、こうして僕の1日が始まる。大学時代の生活に比べると生活リズムが整っていてありがたい。あの頃は平気でオールしていたから昼に爆睡なんて珍しくもなかったな。

 

さて、幻想郷にきて早く一週間。あまりに早すぎる一週間だ。光陰矢の如しとはよく言ったものだ。

 

「四条くん、おはよう」

 

「おはようございます」

 

眠たい目をこすって朝の挨拶をする射命丸さん。彼女には感謝している。ここにきて途方にくれていた僕に衣食住を提供してくれたんだから。しかし、どうしてまたここでも下っ端新聞記者をやっているのか。

大学時代も新聞を作っていたがどうも人の下で動くのがお似合いのようだ。確かに先頭に立って指示するようなタイプではないが。

今僕は、射命丸さんの発行する新聞の手伝いを条件に居候させてもらっている。主に人里の小さな事件なんかを聞きまわったりしているが割と楽しいものである。毎日が発見と驚きの連続である。

 

蝉の鳴く7月手前、今日はこの幻想郷で何を観れるのか。

 

 

 

 

 

 

〜1週間前〜

 

 

 

「四条くん、今すぐにこの奔放山の調査に行ってきて!」

 

大学のとある部屋、そこは大学新聞社のオフィスである。部員達が慌ただしくその部屋を駆け回っているのはこの大学近くの山が原因である。

奔放山、それが名前だ。登山で登って達成感を得られるのは小学生までだろうと思えるほど低い山で道もそれなりに整備されているため登りやすい。

そんな山でここ1ヶ月前に本校学生の失踪事件が起きた。何故登山したかわからない。失踪した学生が俺の知り合いだったなので今も心配だが、それより気になるのは失踪したこと。あの山で失踪なんてしたくてもできない気がする。故意に見つからないように隠れたなら可能だがどうにも腑に落ちない。

そんな事件を、なにより自分の大学の生徒が渦中の人物となれば大学新聞社が見逃す手はない、ということで今調査を行っている。

正直なところ警察も動いているのでこちらが出来ることに限度があるがそれでも出来る範囲で調べていこうとしている。その人の人脈、生活態度、授業態度、素行。もうプライバシーもへったくれもないがそれを根掘り葉掘り聞き漁っている。昨日も数人カラオケ仲間に聞きに行ったようだ。

 

俺も新聞部員として聞き込みなど行っているが成果はない、頭を抱えている時、うちの女部長が俺に声をかけてきた。

奔放山の調査?

それなら何度もやっている。そもそも警察でさえ捜査が難航している現在、僕ら素人でわかるはずなんてない。そう心の中で毒づいたが、部長の命令は絶対。また蚊がブンブン飛んでいる山に入ることになった。

 

「わかりましたけど、前にもしましたよ」

 

すると部長は得意げになりながら1つの本を差し出す。文庫本サイズの小さな本で内容もそんなにあるものじゃなさそうだ。少し黄ばんでいてかなり古いものだと思う。表紙の縦文字が達筆すぎて読めない。

 

「なんですか?これ」

 

「これは、全国の神隠しの伝承をまとめたものよ」

 

神隠し?急に消えてしまう現象だっけ?

まさか説明がつかないからってこんなオカルトだと思っているのか?

 

「神隠し...ですか?」

 

「そう!それによればこの奔放山で50年前忽然と姿を消した1人の女性がいたそうよ!今回も奔放山で起きた失踪事件。偶然とは思えないじゃない!」

 

「いや、それ本当なんですか?」

 

「本当かどうかを今から調べるんじゃない!頼んだわよ」

 

そんな無茶苦茶な....僕の抗議の声をよそに本をぼくに手渡して去っていった。しょうがない、とりあえずオカルトの内容を確かめてみるか。調査の準備のため、一旦寮に戻ることにした。

 

 

 

大学から少し離れた場所にある大学寮「奔放」

奔放山から取られた名前だがそのまますぎているためヤンチャな寮に思う。その寮の2号棟の2-4が僕の部屋だ。4は本来避けられるはずなんだが何故かしっかりと存在している。別にそうゆう類は気にしてないからいいんだけど。部屋の鍵を差し込んで開錠、そのまま入っていく。お風呂があるのが一番良かった点、銭湯に通わずに済む。

部屋自体は実家の自分の部屋と大して変わらない。ベットと机とテレビを置くと一気に狭く感じる。

肩掛けカバンをベットに放り投げて自分もベットに腰を下ろす。時刻は2時を過ぎた頃。調査に行くならさっさといかないとな。

とりあえず差し出された古い本の中身を確認するか、カバンを探って本を手に取って開けてみる。すると嗅いだことのない嫌な臭いが鼻を襲う。一体これをどこから持ってきたのか。異臭が気になるが中に目を通す。中身は表紙と同じように筆で達筆に書かれていて全く読めなかった。どうしたあの人は読めたんだと疑問が湧く。

とりあえず最後までパラパラとページをめくってみる、すると最後のページに四つ折りされた白い紙が挟まっていた。取り出して開けてみるとそこにはその50年前の奔放山失踪事件の件について書かれたものだった。

 

「1967年、村娘が1人奔放山へお詣りに行ったきり帰ってこなくなった。村民総出で捜索をしたが見つからず結局行方不明者となった。娘の両親はたいそう悲しみ毎日山へ向かい娘の名前を叫んだ。また

村のものはこの失踪事件を神隠しと呼び以降この山を恐れるようになったようだ」

 

内容としてはよくある話というか、特段変わった所が見当たらない。....いや、待て。

1つ浮いた言葉がある。お詣りだ。この言葉を使うということは神社のような参拝できる建物があったということか?

しかしそんな建物あの山に存在していた記憶がない。中途半端に整備された道を延々歩いて到着する山頂にも何もない山なんだ。

しかし万が一、なんてこともある。本と紙を脇に置いてカバンからスマホを取り出す。ロックを解除してすぐさまネットを開ける。

奔放山

そう打ち込むと色々なサイトが出てくる。市の観光PRの1つに使われていたり、それをとある掲示板に『何もないのにPRの1つにするとか、必死すぎww』と馬鹿にした内容がまとめサイトで紹介されていたりと。少し興味をそそられたが欲しい情報ではなかった。

そんな時ふと思い出す。そういえば大学図書館に地元の歴史を載せた分厚い辞典のような本があると。さっそくカバンに本やスマホを入れて図書館へと向かった。

 

 

 

静かな大学図書館はテスト勉強するのに最適だ。テスト間際になると普段本を読まない奴もここに足を運ぶ、かく言う自分もその1人だ。

図書館へ入り目的の本を探す。確かあの本は隅の方に置かれていた気がする。入って右側のいかにも年季ものの本が並んだ棚が目に入ったのでそこから探してみることにした。

日本全国の市町村の名前、日本全国の駅の名前。これが人生で役に立つ日が来るのか怪しんでいると歴史系のジャンルが目立つようになってきた。日本歴史大全。日本と中国大全。そして◯◯市 歴史。

まさかこの流れでくるとは、あっさり見つかったので少し拍子抜けだが多分これに乗っているんだろう。

近くの椅子に座って目次を見る。目で追っていると下の方に奔放山と書かれた項目が見つかる。

急いでページをそこに合わせて中を見る。第二次世界大戦前から20年前の奔放山周辺の歴史がびっしりと細やかに書かれていた。こんなに奔放山って書くことあったんだと驚いていると、僕の知りたかった答えをとうとう見つけることができた。

奔放神社、それはかつて山の中腹あたりに存在していたようだ。

そしてこの神社、50年前を境に参拝客が途絶えて、消えてしまったそうだ。50年前、それは失踪事件が起きた時と一致する。

ということは50年前に失踪した女性はこの奔放神社にお詣りしたことになる。その道中で失踪事件が起きた。

頭で浮かんでいた点達は今確かに線で結ばれ確信となった。

僕は幽霊や妖怪を信じてはいない。だけど今回だけは、少し信じてみようと思う。

本の最後のページに載っていた50年前の地図をスマホに収めて、図書館を後にした。

 

 

寮に一度戻り装備を整える。山に入るならまず長袖長ズボン。それにデジカメ、携帯、財布、あとコンパス、ソーラーチャージャー充電器、愛用のメモ帳とペン。

長袖長ズボンはジャージでいいとして、他も不具合無しだな。

時間は夕方前。すぐに終わらせるつもりだ。もし長引いても夜になるまでは頑張ってみよう。

肩にカバンを掛けて部屋を出る。目指すは奔放神社。

 

 

 

 

 

 

「あややや?何してるんですか?四条くん」

 

「な、なんでもありません」

 

少しぼーっとしていたようだ。お腹も空いているのでまずは朝ごはんだ。


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