メンタル弱めな父上と救いたい反逆の騎士   作:FGO初心者

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第2話

 あれからオレは自らが壊した国を立て直そうと必死になった。

 オレの犯した罪は永遠に消えることはない。

 それでも父上が守ろうとしたものをどうにか元に戻そうと必死になって足掻き続けた。それが父上に対する唯一の贖罪となると信じて。

 

 だが現実はそう甘くはなかった。当然と言えば当然だが、王を裏切った叛逆の騎士たるオレに追随する臣下などいるはずもなかったし、父上という絶対的な王が討たれた今、ブリテンは再度の内乱に見舞われた。

 

 オレはその内乱を鎮めようと戦いに明け暮れた。だが、今にして思えばオレが介入せずとも内乱は治まっていたのかもしれない。

 なぜならもうその時にはブリテンの国力は底を尽いていて。

 戦争を続けるだけの力などもう誰にも残されていなかったのだから。

 

 カムランの戦いで有力な騎士達は皆死に、無し崩し的にオレが新たなブリテンの王となった。

 だが叛逆の騎士であり、あの清廉潔白な王を裏切ったオレが民の支持を、信頼を得られるはずもなかった。

 

 そしてそんな折に再び始まる海の向こうの大陸の侵攻。何の準備もできないままブリテンは大陸の軍勢に蹂躙された。

 

 どうにかしないと。なんとかしないといけないのにオレの身体は動かなかった。それは大陸の軍勢に恐怖を抱き、怯えていたからではない。

 元よりアーサー王を討ち倒す為だけに造られたホムンクルスたるオレの寿命が既に尽きようとしていたのだ。

 吐血が治まらず、身体中に激痛が走る。

 死にたくない。まだ死ねない。オレはまだ何にもしちゃいない。その償いきれない罪を少しも償っちゃいない。

 その一心でオレは生き延びる為の道を模索し続け、そしてかつて父上が所有していたあの聖剣の鞘の元へ辿り着いた。

 

 ――モルガン……。

 ――あら、こんなところに来て、どうしたの? 死にかけのモードレッド(我が息子よ)

 

 父上から聖剣の鞘を盗んだ張本人――オレをこの世に産み落とした母上であるモルガンはクラレントを握り絞めるオレを見据えて言った。

 

 ――話に来たわけじゃない。オレの要求はただ一つ。お前が父上から盗んだ聖剣の鞘をオレによこせ。

 ――あら? 死にかけのお前があの聖剣の鞘を手にして今更どうするというの?

 ――国を立て直す。だが紛い物(ホムンクルス)たるオレの命はもはや尽きようとしている。この命を繋ぐには持ち主に不老不死の力をもたらす聖剣の鞘が必要なんだ。

 

 その言葉を聞いたモルガンは一瞬呆けたようにオレを見ると、さぞ愉快そうにその顔を歪めた。

 

 ――国を立て直す? 今更何を言っているの、お前は。とうに(ブリテン)は滅び、息絶え、王は失意のうちに死んだ。もうこの国に生命の灯など残されていないといういうのに、立て直せる訳がないじゃない。

 見た? あの小娘の絶望に染まった顔……ククッ……最高だったわ!

 

 その侮蔑極まりない言葉にオレの頭は一気に沸騰した。叫ばずにはいられなかった。

 

 ――オレの前で父上を愚弄するか! モルガン!!!

 ――何を言ってるの? 確かに私はお前に王を討ち、国を滅ぼすよう指示を出した……だが実際に王に怒りを感じ、衝動のままに国を滅ぼしたのはお前のほうだろう? 

 ――ッ!!!

 

 オレは言葉を失った。そう、気づいた。いや、思い出したのだ。このオレが、この女を責める権利など無いということを。

 父を何より愚弄したのは、このオレだということを。

 心が絶望に染まりかける。だが、オレに絶望することは許されない。

 

 歯茎から血が滲み出るほどの思いでやるせない思いを断ち切ると、オレはクラレントの切っ先をモルガンに向ける。

 

 ――寄こさないというのなら、力づくで奪うまでだ。

 ――結局は暴力に頼ることしかできない。結局のところ、それがお前の限界よ。お前に国は建て治せない。出来の悪い息子はこの()の手で処分してやるとしよう。

 ――うるせぇ……黙れぇぇえええええええええええ!!!!!!!

 

 オレはクラレントを振りかぶり、モルガン(母上)に向けて突進した。

 

 +++

 

 ――クククッ……お前は所詮、王の器ではない。たとえこの鞘で命を繋いだ所で、その未来には苦痛と絶望しかないことを、思い知るがいい……。

 

 クラレントに胸を刺し貫かれたモルガンは、もたれかかるようにオレの耳もとで血とともにその言葉を吐き出すと息絶えた。

 

 その言葉が、まるで呪詛のようにオレの耳にこびりついて離れなかった。

 

 それでもオレは――

 

 +++

 

 それでもオレは救いたかった。国を建て治すことが、父上に対する償いとなることを信じていたから。信じるしかなかったから。

 だが、目の前に広がるのは既視感のある血に染まった荒野。いたるところに血が滴り、おびただしい死体が転がっていた。

 

 大陸からの侵略の排除、そして割れた国の統一を同時に進める無謀とともいえる戦いの日々だった。

 

 聖剣の鞘を手にしたことで不老不死となったオレは無敵だった。だが、それだけだった。

 オレ以外の人間は決して無敵ではない。惨たらしい戦火に焼かれ死んでいった。

 

 数少ない味方は皆、死んだ。オレ一人が生き残った。何も残せず、導けず、ただ一人、生き残った。

 

 ――お前は王の器ではない。

 

 うるさい。もうとっくにそんなことはわかってんだよ。わかっていたが、それでも進むしかなかったんだよ。

 

 ――その結果がこれか。”許されたい”という独りよがりの思いで、今度こそ本当に国が滅びた。お前のやって来たことは、王が死に、疲弊しきった国に更なる鞭を打った。それだけの事。大陸の侵略を受け入れていれば、まだ無益な血は流れなかったであろうに。

 

 違う……オレはただ……ただ、父上の守りたかったものを守りたかった……。

 

 ――それこそが独りよがりなのだ。お前が、国を滅ぼしたんだよ。叛逆の騎士よ。

 

 「うわぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

 そう。結局、オレは父上の代わりにはなれなかった。父上でしか、国を救うことしかできなかったのだ。

 オレさえいなければ――父上さえ、いてくれれば――。

 

 ――王を、救いたいか――?

 

 「ッ!!!」

 

 その問いにオレの涙は止まる。辺りを見回すが、声の姿はない。

 今、叫ばなければならないと感じた。今、叫ばなければ、今度こそ全てが終わってしまうと感じた。

 

 「救うッ!! 救いたいッ!!! オレはどうなってもいい!! だから父上を……父上を救ってくれ!!」

 

 その願いを叫んだその瞬間、時が止まった。それと同時にこの〔世界〕に関する膨大な情報が頭の中に流れ込んでくる。父上を救う、唯一の方法が、流れ込んでくる――。

 

 ――ここに契約は完了した。

 

 この日、オレは〔世界〕と契約した。自身の全てと引き換えに、聖杯戦争と呼ばれる万能の願望器を巡る戦いに身を投じることになったのだった。

 

 +++

 

 「英霊を召喚するというのに、そんな単純な儀式で構わないの?」

 「拍子抜けかもしれないけどね。英霊の召喚にそれほど大きな降霊は必要ないんだ。実際に英霊を招き寄せるのは聖杯だからね。僕はマスターとして、現れた英霊をこちらの世界に繋ぎ止め、実体化できるだけの魔力を供給しさえすればいい」

 

 英霊召喚用の魔法陣の出来栄えに満足した術者――衛宮切嗣は、妻であるアイリスフィールにそう説明すると、アハト翁が用意した触媒を、いまいましげに見据えた。

 

 「大お爺様の贈り物が不満なの? 切嗣?」

 「……まさか。ご老体はよくやってくれた。この触媒を用いれば、『セイバー』のクラスとしては最高の英霊を召喚することができるだろう。……マスターである僕との相性は度外視にしてね」

 

 切嗣の言葉にアイリスフィールは礼拝堂の祭壇に設置された触媒を見つめる。

 黄金の地金に、目の覚めるような青の装飾。細部に掘られた刻印は太古に失われた妖精文字。

 一言で表すならば黄金の鞘。神秘を彩る黄金の鞘がその祭壇に設置されていた。これこそがアインツベルン家当主であるアハト翁が、此度の聖杯戦争における勝利の為にコーンウォールで発掘させた聖遺物である。

 そしてこの聖遺物を用いて、ほぼ間違いなく召喚されるであろう英霊を想像すれば自然と夫である切嗣が抱く懸念も理解できるのだった。

 

 「つまりあなたは『騎士王』との契約に不安があるのね」

 

 このアインツベルンに婿養子として受け入れられる前、衛宮切嗣という名の男は魔術師専門に特化したフリーランスの暗殺者として、世界各地の戦場で活動していた。

 無論、夫からその活動の全てを聞かされた訳ではない。しかし、それでも彼がいわゆる『騎士道精神』とは程遠い手段で暗殺を生業としていたことくらいは、アイリスフィールも分かる。

 そんなアイリスフィールの思考を読み取ったかのように、切嗣は頷いた。

 

 「正面切っての決闘なんて僕の流儀じゃない。それが生存戦(バトルロワイヤル)ともなれば尚更だ。狙うとしたら寝込みか背中。時間も場所も選ばずに、より効率よく、確実に仕留められる敵を討つ。……そんな戦法に、高潔なる騎士サマが付き合ってくれるとは思えないからね」

 

 正直なところ、キャスターかアサシンの方がよっぽど僕の性に合っていたと宣う切嗣を、アイリスフィールは苦笑いすることしかできなかった。

 

 「策は考えてある。最強の英霊を最強のままに使い切る策はね。今はひとまず英霊の召喚を成功させることに集中しなければ」

 

 魔法陣の前に立ち上がった切嗣は、令呪の宿った右腕をかざすと目を閉じ意識を集中させた。

 

 「――告げる」

 

 +++

 

 「……」

 

 森のとば口でじゃれ合う父娘の小さな姿を、城の窓から見送る翡翠色の眼差しがあった。

 身に纏うは見る者に重厚な印象を与える白銀の鎧。所々で若干の癖のある白金の髪は背部で一つに結わえ上げられ、垂らされている。

 重厚な鎧には似つかわしくない可憐な容貌。しかしそこに弱々しさは微塵たりともなく、凛と引き締められた眉、眼差しには一種の力強ささえ感じられる。

 

 「何を見ているの、セイバー?」

 

 背後からのアイリスフィールの呼びかけに、んぁ? と反応を見せた鎧の少女――セイバーはもう一度、苦々しげに窓の外を見やると言った。

 

 「いや……な。外の森で貴女の娘さんとマスターが戯れていたものだからよ」

 

 マスターもあんな顔をするんだな、とセイバーは言葉を続ける。

 

 ――我が名はモードレッド。かつて王であった父を裏切り、そして国を滅ぼした叛逆の騎士だ。問おう、お前がオレのマスターか。

 

 召喚が行われたあの日、満を持して召喚された英霊は、召喚されるとされていたかの伝説の騎士王ではなく、その騎士王を裏切り、国を破滅させたとされる叛逆の騎士であった。

 その事実に切嗣は勿論、アイリスフィールもまた驚愕を隠せなかった。英霊の召喚の際に用いられる縁の品である聖遺物は、その来歴が確実であればあるほど現界される英霊もまた単一に絞られていく。そして此度用意された聖遺物はかの騎士王が保有していた黄金の鞘そのもの。これだけの縁のある品を用意したのだから、召喚される英霊もまた間違いなくかの伝説の騎士王で固定されたはずだった。

 しかしそこで誤算――というよりは勘違いしていたのは、その黄金の鞘の持ち主がかの騎士王()()()()()()()()()()()()()

 かつて騎士王――アーサー・ペンドラゴンが保有していたとされる黄金の鞘は持ち主の老化を抑え、呪いを跳ね除け、傷を癒す……まさしくかの聖剣に並ぶ彼の象徴ともいえる聖遺物だった。しかし伝承の一つによるとその黄金の鞘は後に国の転覆を謀る魔女モルガンの手によって盗まれ、失われていたとされていた。

 セイバーが語ったのは、伝承にも語られるカムランの丘にて父であるアーサー王を討ち取ったということ。

 王を失ったことで混沌の戦火に包まれた国を統一するために、モルガンがアーサー王から盗み出した黄金の鞘を手にすべく彼女に戦いを挑み、彼女を倒すことで黄金の鞘を手にしたこと。

 そのために黄金の鞘を依代とした際の召喚が騎士王一択では無くなり、自身が召喚されたのではないかということだった。

 それは言われてすぐに納得できるような内容ではなかった。しかし現に召喚されたのは騎士王ではなく叛逆の騎士。無理矢理にでも納得するほかなかった。

 しかし納得したからといって、彼女――彼を自分のサーヴァントとして切嗣が認めるかどうかは別問題であった。現にこのセイバーは召喚されてからただの一度も切嗣から言葉をかけられていない。

 サーヴァントをあくまでマスターの下僕に過ぎない道具として認識し、扱うのはたしかに魔術師然として道理にに適った態度なのかもしれない。だがそれにしても切嗣のセイバーに対する姿勢は度が過ぎるようにアイリスフィールは感じていた。実際、いくらなんでもこの対応は英霊に対してあまりにも失礼ではないのか、彼に問い詰めたこともある。

 その時、切嗣はこう答えた。

 

 ――叛逆の騎士だなんて論外だよ。騎士王ならばともかく、かつては主君を裏切り、挙句の果てに国を滅ぼした英霊など信用できるはずもない。言葉を交わしたところで相容れないことなんて目に見えてる。それでもセイバークラスを得たサーヴァントとして利用できるものは利用するつもりではいるけどね。

 

 その言葉に内包していたのは怒りだった。切嗣が英雄という存在を毛嫌いしていることは八年もの付き合いを経てアイリスフィールは理解していた。彼等(英雄)が世界に安寧をもたらしたことなど過去の歴史上一度もないと。彼等(英雄)がさも戦場に尊いものがあるかのように民を扇動し戦いに駆り立たせる。これまでいったいどれだけの若者たちが武勇だの名誉だのに誘惑され、血を流して死んでいったのか。戦争の愚かさを、地獄を人々は何時までたってもその真実に向き合おうとしない。その原因の発端が英雄達の紡ぎだした英雄譚にあると切嗣は考えているのだ。

 だがこの英霊はその英雄達ともまた違う。ただ国を治める主君を裏切り、戦いを生み出した権化。この者のせいでどれだけの民衆がくだらない戦争の戦火に巻き込まれたのか。このサーヴァントにも何か事情があったのかもしれないが、理解したくもなければ、理解する必要もない。ただ、利用できる限りは最大限利用する。それが切嗣の考えだった。

 そしてこの叛逆の騎士もまた主君を裏切り国を破滅させた自分自身を信用してもらえるとは思ってもいないのか、そんな切嗣(マスター)に詰め寄るということもなかった。ただ悲しげに己に背を向ける切嗣(マスター)の姿を見つめていた。

 そんな彼の眼差しが、あまりにも哀れで――半ば無意識にアイリスフィールは彼に言葉をかけていた。そのおかげなのか、今ではこうして気さくに言葉を交わしあう程度の仲にはなっている、

 

 「アイリスフィールには感謝している。もし貴女という女性(ヒト)がいなかったらオレは此度の聖杯戦争に戦うこともできないまま負けていたとこだろうからな」

 「それはお互い様よ。私だって、夫には最後に聖杯を手にするマスターであってほしいんだから」

 

 かねてから騎士王――アーサー・ペンドラゴンとの相性を危惧していた切嗣は、その打開策として、他の陣営の想像も及ばないような奇策を考案していた。実際に召喚されたのはその主君を裏切った叛逆の騎士(モードレッド)であったが、腐っても彼女もまた騎士であり、その性能も正面から敵と対峙する真っ向勝負を前提とした戦士である以上、その打開策は彼女にも応用できる。

 その策とは即ち、サーヴァントとマスターとの、完全なる別行動。サーヴァント同士の正面戦闘はセイバーに任せ、暗殺者(ヒットマン)である切嗣はその戦闘に意識を向けている敵マスターを背後から刈り取るという作戦である。

 無論、戦闘の各局面において、全ての判断をサーヴァントに託すわけにもいかないので、戦闘の現場でセイバーの行動を監督する役をアイリスフィールに任せた。この決断は決して無謀なものではなく、もし仮に叛逆の騎士である切嗣のサーヴァントに叛意があったとしても聖杯を求めている以上は『聖杯の器』であるアイリスフィールを殺めることはない。むしろマスター同然に彼女を守り抜く必要がある。一見、変則的とも見えるこのチーム編成は、戦術面、相性を考慮してなるべくしてなった必然的なモノだったのである。

 

 「アイリスフィールから見て、切嗣はどんな奴なんだ?」

 

 不意にセイバーから問われたその言葉にアイリスフィールは少し悲しげに目を伏せる。

 

 「……元を正せば優しい人なの。ただ、あんまりにも優しすぎたせいで、世界の残酷さを許せなかった。それに立ち向かおうとして、誰よりも冷酷になろうとした人なのよ」

 「そうか……」

 

 セイバーはどこか虚空を見据えて、呟く。

 

 「正直に言って、オレには理解できない感情なのかもな。王を裏切り、国を滅ぼした叛逆の騎士(張本人)が理解するにはあまりに尊く、正しい……正しかった感情」

 

 ――オレは、同じような思いを志した人を一人だけ知ってる。

 

 「それはもしかしてあなたの主――アーサー・ペンドラゴンその人かしら?」

 

 セイバーは頷く。

 

 「オレは……あの人の事を何も理解できてはいなかった。ただ認められたかっただけで……ただ認められなかっただけで、ガキみたいに癇癪を起こし、国を崩壊させた。オレはまだあの人に認められるような事も……あの人が抱いていた苦しみを微塵たりとも理解できていなかったというのに……あの人が、その生涯を賭けて守り抜こうとしたモノをオレは……っ」

 

 顔を歪ませ、自虐的にそこまで述べたセイバーは、ハッ、と気づいたかのように我を取り戻すと、アイリスフィールを見据えた。

 

 「聖杯の力で世界を救済したい――アイリスフィールはそう言ったよな。それが貴女と切嗣の願いだと」

 「ええ。私のはあの人の受け売りでしかないけれど。それでもそれは命を賭す価値のあることだと思うわ」

 「……似ているんだな。あの人と、切嗣は」

 

 どこまでも真っ直ぐなアイリスフィールの言葉がセイバーには眩しかった。

 だからこそ思う。

 

 「オレの願いは主である父上――騎士王の救済だ。かつてオレが貶めたものを直して、あの人が全うすべきだった王道を取り戻す。……世界の救済を願う切嗣やアイリスフィールからしてみればちっぽけな願いかもしれないが、その願いこそが今のオレの全てだ」

 

 己が胸に手を当てて、更にセイバーは告げる。

 

 「だが貴女たちの抱く願望が正しいこともわかってるし……どうか成就してほしいと願う気持ちもある。だからオレは自分自身の願いの為だけでなく貴女たちの願いの為にもこの剣を振るおう」

 

 その言葉にアイリスフィールは目を見開く。

 

 「許してくれるの? あの人の事を」

 「叛逆の騎士からの誓いの言葉なんざ信じられないかもしれないがな」

 

 自虐的に笑うセイバーであったが、その翡翠色の瞳にはただ真っ直ぐな想いしか込められていなかった。そこに偽りなどなかった。本人は認めないかもしれないが一人の騎士の姿しかなかった。

 故にアイリスフィールは一人の騎士に感謝の言葉を告げた。

 

 「ありがとう」

 




・なんとか書きあがったので投稿してみました。リアルが忙死いので次回は期待しないでください。
・少しモードレッドに対しキツイ描写がありますが、作者はモードレッド好きです。FGOのフレンド枠のセイバー枠に入れるくらい好きです。
・久々に書いたので矛盾点とかあるかもですが、その場合はごめんなさい。

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