メンタル弱めな父上と救いたい反逆の騎士 作:FGO初心者
眼前に広がる騎士達の屍が積み重ねられた荒野は、アーサーがこれまで築き上げてきた
ざまあみろ。オレは目の前の光景を嘲笑う。
認めてくれなかった。父上がこのオレを認めてくれなかったからこうなったんだ。
いや、父上はそもそも反応する素振りすら見せなかった。
兜を脱ぎすて、息子だと名乗り出たオレを見て、父上は「だからなんだ」と無感動な眼差しを向けるだけだった。
父上にそっくりなオレの容姿を見たのに、淡白なその対応に戸惑いを抱きながらもオレは尚も言った。
オレはあなたの血を引く唯一の息子であり、あなたの後を継げる唯一無二の正当な後継者であると。
かつてはあなたの剣として影として、あなたのことを支えられればそれでよかった。しがない一騎士でしかない自分にはそれだけでも十分名誉なことだと。だが
それなのに……それなのに父上は、そんなオレを一瞥しただけで何も言わなかった。
歓迎の言葉も拒絶の言葉も……何も言われなかった。
ただ一言、去り際に告げたのは。
――今は貴公に構っている暇などない。
自分の中で何かが崩れていく音が聞こえたような気がした。
オレは父上に認められも……拒絶されもしなかった。
その言葉が信じられなかった――信じたくなかったオレは、呆然とその場で立ち尽くしていた。
嘘だ嘘だ嘘だ。これはきっと何かの冗談だ。オレは尚も父上に食い下がろうと顔を上げたその時には、もう既に父上はその場には居なかった。
その時、オレの中で何かがキレた。
オレは吠えた。――ああ、オレは一体何のために生まれたというのか――。認められなかったどころか関心さえ抱かれなかった悲しみを憎しみを絶叫した。
何もかも破滅させてやる。壊して壊して、全てを壊して。何もかもメチャクチャにしてやると。
その時、オレはそう誓った。
「アーサー王は何処に! 騎士王は何処にいるか!!」
血に濡れたカムランの丘。残り僅かとなった敵の騎士を斬り捨て、オレは叫ぶ。程なくして、オレは荒れ果てた荒野、築かれた屍の丘で一人、立ち尽くすアーサーの後ろ姿を見つけた。
「アー……サー」
自分の顔が歪められるのがわかる。ようやく、ようやく見つけた。これで貴様の国は終わりだ。最後はオレの手で引導を渡してやる。
アーサーがその場に膝から崩れ落ちたのは。
「あ……ああ……」
掠れた声が微かに聞こえてくる。一体、アーサーは何をしようとしているのか。訝しげに見ていると。
「ああああああっ!! うわああああああああああっ!!!」
アーサーはその地に拳を打ち付け、慟哭の叫びを上げた。
「どうして……どうしてこんなァ……どうしてこんなことに……!」
そうやって泣き崩れるアーサーの姿を、オレは一瞬、唖然と見つめて、ハッと気づく。
そうだ、何を呆然としている。これこそがオレの望んだ光景。アーサーが絶望するその姿を見るために、報いを受けさせる為にオレは国を叛逆し、国を混沌に貶めたのではないのか。
そうだ。その通りだ。そうやって自分を納得させようとするが、そうにしても目の前のこの光景は
だってあの騎士王が。アーサー·ペンドラゴンが、泣いている。大声を上げて、感情を剥き出しにして、子供のように泣いている。
今まで何時如何なるときも毅然としていた、己が感情というものを、表に出してこなかった父上が。
その時だった。アーサーが顔を上げたのは。グルンと壊れた人形のようにこちらを振り向いたのは。
「モードレッド……」
涙に濡れた瞳でアーサーがオレを見据える。その瞳に、オレの名を口にしたその声音にドキリとする。
アーサーはそんなオレを見て、次の瞬間、烈火の如く吠えた。
「なぜ……どうして、こんなことをしたんだ、モードレッド!!!」
「!」
その言葉にゾクリと身が竦む。その瞳に込められた憎悪にオレは心の臓を鷲掴みにされたかのような錯覚に陥った。
「だ……だって、あなたが……父上がオレを認めなかったから……」
こんなハズじゃなかったのに。父上の剣幕に気圧されたオレは、しどろもどろに、まるで言い訳をする
だが父上はそんなオレの言葉が聞こえていないかのように更に捲し立てる。
「そんなにも私が憎かったか!? 王としての責務を満足に果たせない私が……民を苦しめることしかできない私がそんなにも!!」
思いもよらないその言葉にオレは目を見開く。この人が一体何を言っているのか理解できなかった。
だって、あなたはオレが考えられる限り、完璧な王だった。
だからあなたの後を追いかけた。父親であるあなたに認められたかった。
ただ、それだけだった。
「ちが……」
「違う? なら貴公は何故にこんなことをした? 叛逆をした? この
――答えろ、モードレッド!!
父上の問いに、ビクッと身を竦ませたオレの視界が歪む。何かが己の内から沸き起こってきて、溢れ出たそれはオレの頬を濡らした。
「だって……だって、ちちうえがオレをみとめてくれなかったから……オレはただあなたにみとめてもらいたかったから……だから……」
「つまり貴公はこの私に認められなかったから……息子として認めなかったから、腹いせに叛逆したと、そう言いたいのか?」
父上の言葉に涙を拭いながらオレは頷いた。その時だった。
「――」
静寂が訪れた。
見ると父上は、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。光を失った瞳には何も映っておらず、ただ虚空を見つめていた。
「……けるな」
「え?」
「巫山戯るなッ!!!」
血走った目で父上が叫ぶ。
「巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るなァァァァアアアアアッッッ!!!!!」
壊れたように叫び続ける父上を呆然と見つめる。
この姿を見てわかった。オレは今、父上残されていた最後の砦を粉々に打ち砕いたのだということを。
「こんな一個人の自分身勝手な感情で、
泣き叫び続ける父上を、オレは嘲笑う事ができなかった。むしろオレの中で芽生えるのは、取り返しのつかないことをしてしまったのだという罪悪感。
なぜオレは周りを巻き込んでしまったのか。この築かれた屍の中にはそれこそ何の罪もない、ただ戦乱に巻き込まれた騎士も大勢いただろう。
オレが報いを受けさせたかったのは父上だけで……報いを受けさせる手段などいくらでもあっただろうに。
胸糞悪いことを、してしまった。
「父上……」
オレが父上に呼びかけようとしたその時だった。
「ガァアアアッ!!」
「グッ!?」
振り下ろされた斬撃を
「ガァッ!」
「ち…‥父上」
不意こそ突かれたが、怒りで理性を失っている父上の斬撃は単調なもので、捌けないことはなかった。
だがその一振り一振りが、オレの心に突き刺さる。
ああ、そんなにもオレが憎いのか。国を破滅させたこのオレが。
オレが初めて顔を見せたあの時は反応さえしなかったのに。国が滅びたら、こんなにも感情を剥き出しにするなんて。
そう思ったその瞬間、オレの視界から色が消えた。オレなんかじゃ、父上の心は動かない。オレなんかじゃ父上は――
「……」
涙が、零れた。
+++
「……」
父上が倒れている。眠るように目を閉じて横たわるその姿は静かなもので、先程の激昂した様子が嘘のようだ。
カランと
終わった。もう、何かも。父上が死に、
それなのになぜだろう。こんなにも心が満たさないのは。なぜ、こんなにも虚しいのか。
紅く、染まった空を、見上げる。
「ああっ、そんな。こんなことが」
不意に背後から気配がして、振り返るとそこには見覚えのある花の魔術師の姿があった。
「マーリン……」
花の魔術師――マーリンはオレの横を駆け抜け、地に付した騎士王の亡骸に駆け寄る。跪き、騎士王の手を取り、何かを確認したと思いきやガクリと項垂れる。
「間に……合わなかったか」
間に合わなかった? この魔術師は一体何を言っているんだ?
訝しげに睨んでいるとマーリンがこちらを見て、静かに告げた。
「己の憎しみに、屈してしまったのだね……君は」
「どういうことだ?」
「いや、私がもっとはやくに気づいていれば……教えてあげられてさえすれば、こんなことにはならなかったのかもしれないが……」
「どういうことだと聞いている!」
苛立つオレを見てマーリンはようやく答えた。
「アーサー王は限界を迎えていたんだよ。王としても、一人の人間としても……息子だと名乗りをあげた君を意識する余裕などない程にね」
「何を言っている……父上は王としては完璧だった。そんな父上に余裕がないなどあるはずがないだろう」
その言葉にマーリンは悲しげに笑みをこぼした。哀れむような、その表情がイライラする。
「完璧……か。確かに周りから見れば彼女は完璧だったのかもしれない。完璧すぎて、逆に周りから畏怖されてしまう程にね」
だが、実際の彼女はそうではなかったとマーリンは言う。
「アーサー王は本当はどこまでも真面目で健気な·……一人の女の子でしかなかったんだよ。未来の王として、この世界に生み落とされたその時から」
マーリンは語り出した。騎士王アーサー·ペンドラゴンのその生い立ちを。
完璧なその王の裏側に隠された真実を――。
+++
頑張っても頑張っても頑張っても。
国は一向に良くならない。凶作が続き、民は苦しみ、蛮族の侵攻は止まらない。
私は女であるというのに、婚約したのは女性。民に、夫婦としての理想の形を示すためには伴侶となる妃がどうしても必要だった。理想の王には理想の家庭があると。そう考えると、私が女性であるというその時点で私は人々の思い描く理想の王ではないのではないかと、そう思ってしまう。ギネヴィアに対する罪悪感は、留まることを知らない。
そのような中、ランスロット鄕は本当に頼りになる方だった。
私以上の剣の腕前、強きを挫き弱きを救うその精神性、凶作に喘ぐ
だからそのランスロット鄕とギネヴィアが結ばれた時……私は本当に嬉しかった。
それが不義の恋であるとか、そのような事は微塵たりとも思わなかった。それを言うなら、ギネヴィアに女であることを隠して婚約した私の方が不義であるし、ランスロット鄕であるならば必ずギネヴィアを幸せにできるという――女性としての幸せを味あわせてあげられるという確信があったからだ。
それでも世間一般としては彼と彼女の恋は決して許されるものではなく、一国の主として二人の関係性を認める訳にはいかなかった。故に二人には国外追放の刑を言い渡した。
ランスロット鄕とギネヴィアが人知れず国を立ち去る際、私は二人に謝った。悪いのは女性であることを偽り続けてきた私であるはずのに、ギネヴィアに無理強いさせてきたのは私であるはずなのに――二人の名を罪人として貶め、これまで世話になってきた恩を知らずに国外に追放するような真似をして、申し訳ないと。騎士である
その時の二人の顔はもう決して忘れることなどできないだろう。痛々しいまでに歪められたその表情。無理もない、私は二人にそれだけの罪を――辱めを与えてしまったのだから。
許してくれるはずもない。歪められたその表情は私に対する怒りと憎悪によって歪められたものだったのだろう。不覚にも涙が零れた。ああ、今、この時、私は友を失ったのだなと。
ランスロット鄕がいなくなった後の私は……一言で告げるなら孤独だった。
無論、私に追随してくれた騎士たちはいた。だがランスロット鄕のように私に意見し、共に歩んでくれる友はいなかった。ガウェイン鄕は盲目的に私に追従するのみで、私が告げたことが間違っていたとしても、正してくれることは無かった。トリスタン鄕も、べディヴィエール鄕も、アグラヴェイン鄕も――。
私と彼らとの間には壁があった。王とそれに仕える騎士という身分の壁が。身分に関係なく、
ランスロット鄕の支援が受け入れなくなった
だから私は戦線付近にある小さい一つの村を干上がらせる事で無理矢理にでも軍を維持した。守るべき民を、故郷を犠牲にして、より多くの命を救う。自分のしていることが矛盾していることなど百も承知だ。だが、果たして他にどんな手段があったというのだろうか。無能な私にはこれしか方法が思いつかなかった。周りの騎士たちにも意見を求めたが、誰も答えてはくれなかった。ただ騎士としての矜持が許さないのか、ただ私に非難の目を向けてきた。それでも最後には私に従ってくれたのは、騎士としての忠義を主君である私に果たしてくれたからだろう。
結果、私たちはその戦いに勝利を収めた。犠牲は村一つと最小限に食い止められたはず。だがトリスタン卿は「王は人の心がわからない」と言い残して、
無理もないと思った。守るべき民を見捨ててまでも戦に勝利を収めるという行為は、騎士としての精神に反する。此度の私の命令は騎士の矜持を穢したことに他ならない。こんな主に仕えることなどできないと、私の元を立ち去る事を責めることなどできない。できるはずもなかった。
だが、愚かな私には他にどうすればよかったのか、まるで思いつかなかったのだ。だから教えてほしい。他にどうすればよかったのか、誰でもいいから私に教えてくれ――。
目の下にまるで私の治世に苦しむ民の怨恨のように赤黒い隈ができた。竜の因子を持つこの身体が、疲れることなどないはずなのに。頭の中が抉られるようにガンガンと痛む。胸の動悸が収まらない。
それでも王として、そんな無様な姿を見せられるはずもない。目の下の隈は化粧をして誤魔化し、原因不明の頭の痛み、胸の動悸はただ我慢するしかなかった。
そんな中、ある日。私の前に一人の騎士が現れた。まるで子供のように喜々として目を輝かせて。今まで兜をしていたからその顔には見覚えがなかったが、その重厚な鎧には見覚えがある。たしかモードレッドといったか。
そんなことをぼんやりと思い返しながら私の中では苛立ちが止まらなかった。こんな忙しい時に一体何のようなのか。今日はまだしなくてはならない政務が山のように溜まっているというのに。
モードレッドはそんな私の内心をつゆ知らず、私に胸を張って告げた。――自分はあなたの息子だと。
淡泊な私の反応にモードレッドは僅かに戸惑いを見せながらも、それでも希望に満ちた笑顔を浮かべて、私に尚も告げた。――だから自分をあなたの跡継ぎとして、認めてくれと。
巫山戯るなと思った。毎日毎日が、国の存亡をかけた戦いの日々であるというのに、明日には国そのものが滅びてしまうかもしれないという瀬戸際であるというのに、何を呑気に後継者の事について議論しなければならないのか。今はそんなことをしている場合ではない。
だから私は言った。
――今は貴公に構っている暇などない。
まさかその言葉が
それから私はすぐに
――その時には既に私には王としての威厳などもはやなかったのであるにも関わらず。
モードレッドの反逆を知ったのは、それから間もなくして。私が大陸に遠征に出向いていたその時のことだった。
ああ、どうしてこんなことに。どうして。どうして。どうして――。
頑張ってきた。毎日毎日血反吐を吐くような想いで頑張ってきた。それなのに、どうしてこんなことになったのか。悲しみと怒りで頭がおかしくなりそうだった。
それでも私は状況を鎮圧すべく、
そして気が付けば、眼前に広がるは血にまみれた
やがて涙が頬を伝う。一筋、二筋、止めどなく流れて、留まることを知らない。
「あ……ああ……」
身体から力が抜けていく。膝からガクリと崩れ落ちる。
「ああああああっ!! うわああああああああああっ!!!」
私は感情のままに地を殴った。終わった。終わってしまった。ここまで積み重ねてきたものが全部。苦しくて苦しくて、たまらなかった。それでもいつかは報われるのだと。
それなのに。
「どうして……どうしてこんなァ……どうしてこんなことに……!」
不意に背後に感じる気配に振り向く。すると私の背後に立っていたのは、戸惑った顔をした――この戦乱を引き起こした反逆の騎士の姿があった。
「モードレッド……」
その名前を呟いたその途端、私の中に沸き起こるは行き場をなくした、途方もない怒り。
その怒りのままに私は叫ぶ。
「なぜ……どうして、こんなことをしたんだ、モードレッド!!!」
「!」
私の言葉にモードレッドはビクリと身体と竦ませた。怒鳴られた恐怖に身を竦ませ、まるで悪事がばれてしまった子供のようだ。
「だ……だって、あなたが……父上がオレを認めなかったから……」
モードレッドが何やらぼつりぽつりと何かを口にしていたが、怒りに我を失った私の耳には届かない。
今まで心の奥底に溜め込んで、押し隠してきた本音が、煮えたぎった溶岩のように私の内から噴き出してくる。
「そんなにも私が憎かったか!? 王としての責務を満足に果たせない私が……民を苦しめることしかできない私がそんなにも!!」
私が王として無能であることは理解していた。それでも無能なりに必死に頑張ってきた。
助けてほしかった。意見だって求めた。それでも騎士たちはついてくるだけで誰も応えてはくれなかった。私が王として不甲斐ないから? だから騎士たちは私に応えてくれないのか?
それならそんな私がなぜ王になった?
あろうことか、モードレッドはそんな私の言葉を否定しようとしてきた。
「ちが……」
「違う? なら貴公は何故にこんなことをした? 叛逆をした? この
そうだ。違うならなぜこんなことをしたというのか。王としての私に不満があるから、こんな無能な王に国は任せられないと思ったから、叛逆し、
私の問いに、モードレッドはその大きな瞳から涙をぽろぽろとこぼしながら、しどろもどろに答え始める。
「だって……だって、ちちうえがオレをみとめてくれなかったから……オレはただあなたにみとめてもらいたかったから……だから……」
そういえばと思い出す。少し前にこのモードレッドが私に自分はあなたの息子だと、跡継ぎとして認めてほしいと言われたことを。
嫌な予感がする。まさかとは思うが……。
「つまり貴公はこの私に認められなかったから……息子として認めなかったから、腹いせに叛逆したと、そう言いたいのか?」
その言葉に涙をぐしりぐしりと拭いながらモードレッドは……頷いた。
「――」
言葉を失った。
何だ? 目の前のこの者は、ただ自分が認められなかったから。跡継ぎとして認められなかったから、このような暴挙に及んだとそう言いたいのか?
「……けるな」
「え?」
「巫山戯るなッ!!!」
途方に暮れるモードレッドを私は怒鳴りつける。
「巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るなァァァァアアアアアッッッ!!!!!」
私が無能で、私が不甲斐ないから。私に非があるならそれは認めよう。
だが私に認められなかったから? ただそれだけの理由でこの者は
巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな巫山戯るな。私だって王として認められてなどいない。認められていないからトリスタン卿をはじめとする騎士たちは私の元を立ち去って行ったし、騎士は私の思いに応えてくれない。
第一、息子として認めろとは一体何だというのだ? 私はお前のことを何も知らない。息子が生まれていたなんて知りもしないし、子供を造った事も一度もない、赤の他人に等しい存在だ。
それでいきなり私の前に現れて、息子として認めろだと? 馬鹿を言うな!!
ああ、怒りが、憎しみが収まらない。こんな自分身勝手な一個人の感情でこの
私は一体今まで何のために……何のために頑張ってきたというのか。
「父上……」
ああ、お前にそう呼ばれるだけで虫唾が走る。お前は私の子なんかじゃない。たとえ本当に息子だったとしても断じて認めてやるものか。認めてなるものか!!
「ガァアアアッ!!」
「グッ!?」
怒りに身を任せて
殺してやる。殺してやる。殺してやる!
「ガァッ!」
「ち…‥父上」
不意にモードレッドと視線が交錯する。その眼から涙が、一筋、零れ落ちる――。
私の身体を刃が貫いた。
+++
「……」
身体の震えが、止まらなかった。
何も知らなかった。父上がどんな想いで、この
オレが、全部ぶち壊した。ただ認められなかっただけで。自分勝手な我が儘で。
寂しかったんだ。誰からも愛を注がれず、ただ王を倒す為だけに造りだされた事が。
誰かに認めてほしかった。騎士王に……あなたに認めてほしかった。オレにも繋がりが欲しかった。家族の……絆という繋がりが。
あなたがそこまで追い込まれていたなんて、思いもしなかった。だってあなたの立ち振る舞いは、何時だって理想の王そのもので、完璧だったから。
本当はそうじゃなかった。王であるが故に、王としての責務がある故にあなたは理想の王として振るわなければならなかった。
父上の亡骸を見る。痩せこけた頬、崩れた化粧の奥に隠された赤黒い隈、髪だって至る所で枝毛が分け、ボサボサだ。
何で気づいてあげられなかったのだろう。どうして助けてあげられなかったのだろう。
オレは、オレは、オレは――。
「ちち……うぇ……」
オレの涙が父上の顔に落ちる。後悔したところでもう遅い。父上は動かない。オレが、この剣でその身を貫いてしまったのだから。
「ごめん……なさい。ごめ……なさ……い」
静寂に包まれたカムランの丘でオレはただ謝り続ける事しかできなかった。
+++
懺悔の果てに、全てを破滅させた少女は世界と契約する。
全ては敬愛する騎士王のために。
理想の王というしがらみに捕らわれた、哀れな父親を、救い出すために。
「さぁ、問おう……お前が、オレのマスターか」
アルトリア・ペンドラゴン
・原作よりも人間味があり、それ故にメンタルが弱い。正義感が強く、真面目。自身のことを無能だと思い込んでいるが、実際はそんなことはない。その現状でできる限りのことはやっていた。ちなみにストレスで髪はバサバサに、目の下は隈は化粧して隠していた。
・なお、モードレッドに息子と名乗られた時は、もはやそんなことに気にしていられるほど精神的な余裕がなかった為、無関心と取られるような反応を返してしまった。実際に普通に出会っていたら、驚きこそすれども否定はしなかった模様。
モードレッド
・父上に認められなかったから自暴自棄になり反逆した。自分よりも国のほうが父上の心を動かした事実を見て、虚しくなり、父上を殺した。手を出した妖精の罠に捕らわれていたマーリンから父上の裏側の話を聞き、後悔するが、既に時は遅かった。
マーリン
・アルトリアはいずれ国は亡びるだろうというマーリンの予言にだいぶストレスを貯めていた。彼女のストレスの三割くらいは彼の影響。彼女は最後まで国の繁栄を願い、破滅を認めなかったため彼女の心は病んでいくこととなった。
・しかしどんなに先が絶望でも諦めない彼女の姿を見て、やがてマーリンも彼女のために救いの道を模索するようになる。その中で国の破滅をもたらしかねないモードレッドに、忠告に向かおうとしていたその矢先に手を出していた妖精の罠にかかり、抜け出すのに少し手間取ってる間に手遅れになっていた。
続くか未定です。