イカロスの翼は死に戻る   作:玄武 水滉

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エミヤママが難産すぎた。口調とかおかしいかも知れないけど目を瞑って欲しいです(涙)


しろくろジャンヌ

 

 

 

 食堂に入ると多くのサーヴァントが食事をしていた。食事はサーヴァントにとっては不必要なものであるのだが、娯楽という一面があるからだろう。わいわいと賑わっている食堂に目を輝かすイカロス。

 だが、どうしたら良いか分からない。この食堂の使い方も、そしてそれを聞く友と呼べる様なサーヴァントもいない。ヘシアン・ロボもよく見たら食堂の端で食事をしていた。彼の食事の邪魔をするのは良くなさそうだ。なんというか、頭からがぶりと食べられる様な気がした。

 そこでイカロスは手にしたクッキーの匂いを辿れば、クッキーの作成者に出会えるのではないかと考えた。純白の聖女が小声で「頑張れ!」と言っていたのはまた別の話である。

 迷宮よりかはずっと攻略は楽そうだとイカロスは思った。というよりか怪物が跋扈する迷宮がずっとハードなだけだ。サーヴァントも敵対しているわけではないし、寧ろ温かい目線すら感じるまである。イカロスがふと向くと、多くのサーヴァントがこちらを見ていたのだから。

 その視線にびっくりしながらも、まずはお礼だ。クッキーを作ったのは誰なのか。

 そしてイカロスが立ち止まった先には、一人の男がいた。真っ白な頭髪に褐色肌の男。赤いエプロンがやけに似合っているそのサーヴァントは、イカロスの姿を見るなり作業を止めた。

 

「ふむ、私に何か用か?」

 

 中腰になり、イカロスと視線の高さを合わせてくる男。

 イカロスはわたわたとしながらなんとかお礼を言おうと試みるが、ぱくぱくとしただけで声が出ない。

 イカロスは「うぅ……!」と小さく唸ると何処かへ走り去ってしまった。そしてそれを見送った男 エミヤは首を傾げながらも再び作業に戻る事にした。追ってみたい気持ちも山々なのだが、騎士王が皿を持って此方を睨んでいたのだから。

 

「話には聞いていたが、あれが復讐者のサーヴァントか……?」

 

「アーチャー、ご飯を所望します!」

 

「あぁ、待っていろ」

 

 ぴこぴことアホ毛を動かしている騎士王を見て、エミヤはフッとニヒルに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてさて場面は移り変わってイカロス。

 多くのサーヴァントが利用している食堂で走ったりなどしたら、勿論誰かにぶつかるに決まっている。

 

「あうっ!」

 

 イカロスはぶつかり、その反動で床で一回転。

 目の前を見ると、ぶつかられたであろう被害者がイカロスを見下ろしていた。

 すらりとした白い肌をした美脚。ジャージ素材の短パンを履き、『ふくしゅう!』と書かれたTシャツを着たモデル体型の美少女。

 マスターから聞いた特徴と一致する。些か服装がダサいのはさておいて。

 

「じゃんぬ……?」

 

「……何よアンタ……ってもしかして最近召喚されたサーヴァント?」

 

 こくこくと頷くイカロス。察しが良くて非常に助かった。

「ふーん」と値踏みする様な目線を向けてきた少女に、かたかたと怯えながらもイカロスは持っていたクッキーを差し出した。これで一緒にお茶でもしないかという算段であった。

 それがどういう意味なのか図りかねた少女 ジャンヌ・ダルク・オルタは、とりあえずイカロスの手を引いて近くのテーブルに座った。

 

「で、私に何か用?」

 

「えっと……あいさつしたくて……」

 

「あらそう。ご丁寧にありがとう」

 

 ……会話が続かない。

 じんわりと涙が溜まっていくのを見たオルタは、溜息一つ吐くと何処からか紅茶を持ってきた。

 

「紅茶は飲める?」

 

「うん……」

 

 カップを持って「ふーふー」としているイカロスを見て、オルタはクスリと笑うとイカロスが持ってきたクッキーを皿に出した。

 バターの良い香りのするクッキーだ。それぞれ味が違うのか、チョコチップが混ぜ込められていたり、二色のクッキーもあった。黒と白のクッキーだったが、オルタは作った主の腕前を鑑みるに焦げたのではなくチョコ味なのだと踏んだ。

 

「……ほら、アンタがまず食べなさいよ」

 

「え、でも……」

 

「いいから!早くしないと私が全部食べちゃうわよ?」

 

 ギョッとするイカロス。慌ててクッキーを口の含み始めたイカロスを見てニヤニヤしていたオルタだったが、苦しそうな表情を浮かべ始めたイカロスを見て今度はオルタが慌て始めた。

 

「ちょっ!アンタ口に含みすぎなのよ!ほら紅茶飲んで!」

 

「むぐぐ……!」

 

「ああもう……!口の周りに食べカスが付いてるじゃない!」

 

 取り出したハンカチでイカロスの口元を拭うオルタ。

 そして後ろで見ていた聖処女に復讐の炎が飛んだ。轟々と燃え盛る炎を旗で受け止めてにっこりと笑うジャンヌ・ダルク。

 

「ああもう!さっきから視界の端でニヤニヤうるさいのよ!!」

 

「成長しましたね……オルタ」

 

「アンタは私の親か!」

 

 やり取りを見て困ったそぶりのイカロスの腕を引き、何処かへ向かうオルタ。

 イカロスはなんとかクッキーを飲み込むと、食べカスの散った皿を持ってオルタに引かれていった。

 なんで?と言わんばかりに首を傾げていると、立ち止まったオルタが溜息を吐いた。

 

「なんでって……アンタ、お礼が言いたかったんじゃないの?さっきウロウロしてたのを見かけたのよ」

 

 どうやらオルタはイカロスが食堂に入った時から見ていたらしい。あの視線の中に彼女のものがあったという事だ。

 そしてオルタはエミヤと話そうとして逃げた所も見ていた。手にはエミヤ製であろうクッキーを持っていたことからオルタはお礼を言いたかったのではないかと推測した。

 こくんと頷いたイカロスの手を再び引いていくオルタ。

 

「それに食べてからお礼言いなさいよ。美味しかったってのが一番のお礼になるでしょ」

 

「うん……!」

 

 笑顔に戻ったのを確認して頷くオルタ。やっぱり聖処女の視線を感じるが、もう無視しておこう。後で焼けばいいか。

 キッチンに着くと、未だにエミヤは騎士王の食事を作っていた。フォークとナイフを持った騎士王がじっとキッチンを睨んでいるのが印象的だ。

 

「オルタか。どうした……って」

 

「この子が言いたい事があるんだって。ほら、さっさと言っちゃいなさい」

 

 オルタに背中を押されてエミヤの前に出るイカロス。

 そして勇気を振り絞った様に一言。

 

「ありがとう……」

 

「あぁ、どういたしm

 

 エミヤが言い終わる前に走り去ってしまったイカロス。その後ろ姿をエミヤは微笑ましそうに眺め、オルタは溜息を吐いた。

 

「いい子だな」

 

「えぇ、でもあの子も復讐者よ」

 

 悲しそうに呟くオルタ。彼女は自分がどんな存在であるか、復讐者の持つ願いがどれだけドス黒いものかが分かっているからこその表情だった。

 エミヤはフライパンの上でハンバーグをひっくり返しながら言う。

 

「だからこそ、あの子が暴れた時に止めるのが役目だろう?」

 

「もちろん。マスターにも言われてますし」

 

 ジャンヌ・ダルク・オルタはマスターから言われた一言を思い出していた。

 彼女はとびっきり優しいサーヴァントであり、だからこそ反動が激しいと。彼女が復讐の炎に囚われた時には、同じ復讐者として助けて欲しいと。

 

「……全く、復讐者(アヴェンジャー)に頼む事ではないでしょう。ねぇ、マスター」

 

 オルタはイカロスから貰ったクッキーを齧った。仄かな甘みが口の中に漂う。

 

 彼女がイカロスの復讐者としての面を見るのは、そう遠い話ではないかもしれない。

 

 

 

 






高評価ありがとうございます。いつも糧になってます(´∀`)
次回は期待を裏切らない様にアステリオスとエウリュアレ編を投稿します。イカロスちゃんが暴れます。
相当な難産になる可能性があるので、心の中で応援してくださると幸いです^ ^

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