イカロスの翼は死に戻る   作:玄武 水滉

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マテリアルはもう少し待って欲しいです。
FGO一発目は新宿よりあのサーヴァントから。尚、1.5クリアしていない人にはごめんなさい。真名を隠すのは億劫なのでそのまま書かせていただきます。真名バレは嫌だと言う人はクリアしてからきてくれると嬉しいです。
遅れてすみませんでした。
次回の鯖は後書きに書いてあります。最後までのんびりとどうぞ。
文字数は短めです。



FGO日常編
わんわんお


 

 

 

 

 

「うぅ…………」

 

 一人の少女が扉の前でぷるぷると震えていた。

 扉には『ジャンヌ・ダルク・オルタ』と丁寧な字で書かれていた。他の扉にも同じ様な字で書かれていたので、一人が全て書いたのだろうと察した。器用な人がいるのだと少女は思う。

 さてさて、ここで少女が震えている理由を考えてみよう。

 ここは標高6000メートルもの雪山の地下に作られた地下工房。人類継続保障機関 通称フィニス・カルデア。南極大陸に作られた地球最大にして唯一の人理観測所だ。

 成る程、だから寒くて震えているのか。とはならないだろう。実際にカルデア内には温かい風が充満している。ここにはサーヴァントだけでなく、普通の人間もいるからだ。勿論マスターはその枠には入らないと少女自身は思っている。

 そして少女も英霊、つまりはサーヴァントの枠に入る。人間とはかけ離れた身体能力を持つ、言わば怪物だ。

 真名をイカロスという。ギリシャ神話内の登場人物で、太陽に近づき過ぎたため墜落した傲慢の象徴として語り継がれている。

 だがその正体も明かしてみればごく普通の少女だった。ベージュ色の頭髪に、赤い目をしている。強いて言えば彼女の身に纏っている物がおかしいぐらいだった。

 ボロボロの布一枚。足には鉄枷。肌も所々擦り傷だらけで、これがデフォルトなのだ。マスターにも心配されたが、治らない傷はどうしようもないと割り切った。心配されようが、サーヴァントは全盛期の姿で召喚される。この奴隷スタイルが彼女の全盛期であったという事だ。

 因みに彼女の全盛期とは父親と二人だけで迷宮にいた時の事であって、逆にそれ以外の記憶がない。

 つまるところイカロスは、

 

「うぅ……こわい…………!」

 

 コミュ障であった。

 

 

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イカロスは召喚された際に、自室となる部屋に連れて来られた。

 綺麗な部屋だと思ったのも束の間、マスターに同じ復讐者同士親睦を深めようと言われて、挨拶回りに行くように言われた。聞いた時こそ頑張るぞという気持ちで一杯だったのが、マスターは忙しいらしく一人でも行けるよね?と問われて勢いで頷いてしまった。

 それが運の尽き。イカロスはこうして部屋の前で一人でぷるぷる震えていた。

 余談だがサーヴァントはそれぞれクラス毎に部屋の場所も違う。だから復讐者であるイカロスの周りの部屋は同じ復讐者という訳だ。

 右隣からは常に高笑いが聞こえてくるし、左隣の部屋に真っ黒い人が入ってくるのを見てしまったイカロスは、向かいの部屋『ジャンヌ・ダルク・オルタ』と書かれている部屋の主に声を掛けることにした。

 

「…………よし!」

 

 そうだ、自分は怪物を退治した英霊じゃないか。勇気を振り絞ってコンコンとノックする。

 が、出ない。よく見ると、ドアノブにかかっていたプレートには『外出中』の文字が。緊張して損した気分だ。へなへなっと床に座るイカロス。

 そして湿っぽい感触がした時、イカロスは全力で前方に飛び跳ねた。そして空中で短剣を抜き、くるりと背後を向く。

 そこにいたのは首無しの男に、青い狼だった。先程の湿っぽい感触は恐らくだがこの狼に舐められたのだろうと思った。

 ミノタウロス以外の怪物を始めてみるイカロスは、若干怯えながらも銀の短剣の切っ先を狼に向けた。

 

「グルルル……!!!」

 

 唸る狼。

 怪物狩りは自身の領分ではないかと思い直したところで、

 

「えっ?」

 

 首無しの男が土下座をしてきた。

 その奇妙な行動に驚きを隠せないイカロス。

 首無しの男はイカロスの手を引っ張って走り出すと、とある扉の前に立ち止まった。

 何事かと思っていると、必死にある所を指差す首無し男。イカロスがそちらに目を向けてみると、男が言いたい事が分かってきた。

 

「へしあん…………ろぼ?」

 

 そこには『ヘシアン・ロボ』と書かれていた。察するにこの男か狼の名前であろう。

 こくこくっ!と頷く首無しの男。どうやら彼が言いたいのは同じ復讐者であり、敵ではない事を証明したかったのだろう。現に狼は廊下の端でちょこんと座っていた。人が乗れる程の大きなの狼が座っているのは何ともシュールな絵面だ。

 そして首無しの男は懐からクッキーの入った袋をイカロスに渡すと、立っていた狼の背中に飛び乗った。そしてイカロスの方へ手を伸ばす男。

 それを一緒に乗るか?という風に解釈したイカロスは、男の手を掴んで狼の背中に飛び乗った。ふかふかとしていて気持ちいい。青と白の混じった毛並みに載っていると、どうしようもない暖かさがイカロスを襲う。

 

「ふわぁぁぁ………………」

 

 跨がれたらもっと気持ちいいなと思う。だが足枷の付いているイカロスは、腰掛けるぐらいしか出来ない、無念である。

 

「どこに向かってるの?」

 

 イカロスがそう尋ねると、首無しの男は困ったように首を傾げた。

 どうやら話せないらしい。必死にジェスチャーをしているが、一向に伝わらない。

 どうしたものかと二人が首を傾げていると、突然地鳴りの様な音が響いた。

 イカロスが首無しの男をみると、彼は腹を抑えて笑っている様だった。余程面白かったのかバシバシ狼の背中を叩いている。

 

「おなかへってたんだ……」

 

 地鳴り、ではなく狼のお腹が鳴っただけだったらしい。そしてイカロスはそこで彼らが食堂へ向かっているのだと初めて理解した。成る程、食堂だと分かれば彼の先程のジェスチャーも何となくだが理解出来る。あれは狼がご飯を食べているジェスチャーだったのか。

 イカロスがくすりと笑うと、狼は恥ずかしそうの体を左右に揺らした。その反動で落ちた首無しの男を見ると、スピードをぐんぐん上げていく狼。

 

「わっ……はやい!」

 

 イカロスも掴まっていないと振り落とされてしまいそうだ。風を切って廊下を走る狼。そしてみるみるうちに小さくなっていく首無しの男。

 そして食堂という立て札を見つけ、その前で急ブレーキをかけた狼。

 

「あうっ!」

 

 落とされたイカロスは、腰をさすりながら立ち上がった。

 良い匂いの中にクッキーの仄かな甘みが混ざっている。鼻は特別良いと言うわけではないが、何となく分かった辺りクッキーが相当美味しいものであるとイカロスは判断した。

 

「またのせてくれる?」

 

 食堂に入っていく狼『ヘシアン・ロボ』に尋ねるイカロス。

 狼は「ガウッ」と短く吠えると大きな前足で扉を開け、そして食堂に入って行った。

 そして走ってきた首無しの男にクッキーのお礼を言い、狼が入った様に伝える。

 グッと親指を立てた首無しの男を見送りつつ、クッキーの作った人にお礼を言おうとイカロスは食堂に入って行った。

 

 尚、『ジャンヌ・ダルク・オルタ』については忘れていた模様。

 

 

 

 

 

 

 







次回は邪ンヌ

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