イカロスの翼は死に戻る   作:玄武 水滉

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高評価ありがとうございます……!泣きそう(;ω;)
これからものんびり頑張るのでよろしくお願いします。
名前とかって感謝の気持ちを込めて載せちゃっても良いのかな……?偶に載せている作者様を見るけれども。

話が飛びます。一周一周書いてたらきりがないので。そこだけはご了承下さい。

後1話2話で生前編は終わると思います。お付き合いいただければ幸いです。


殺されなかった怪物

 

 

 

 

 

 

 

 

 87周目

 

 

 

 2日目ははっきり言って前日とあまり変わらない1日だった。強いて言えばダイダロスは作業をしているため、散策するのが自分1人になった事だろう。地図は必要かと言われたが、間違った所で()()()()だから必要ないと言った。それに地図を書いたらミノタウルスが現れそうだし。

 

 そして一つ分かった事がある。2日目に死ぬと、1日目に戻される事だ。だから一回死ぬ度に1日目を乗り越える必要がある。だが、そこは数々の経験により一回も死ぬ事なく1日目は乗り切れるようになった。

 

 ラビリンスには屋根がある部分があり、そこにはどうやらミノタウルスは入ってこれないらしい。拠点をそこに移動させる事も少し考えたが、集中しているダイダロスに話しかけるのは少し躊躇う。まぁ入れないからと言って安全ではない事は確認済みだ。長すぎる戦斧は屋根が有ろうとも十分脅威になった。

 

 そして今、遂に最後の3日目。ここを乗り切れば、遂に世界への復讐を成し遂げる事が出来る。こみ上げてくる笑いを抑え、俺は1人散策に向かう事にした。

 

 もちろん最初は死んで道を覚えるところからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 127周目

 

 

 

 

 

 

 それを見つけたのは俺が31枚もの羽を集め終わった時だった。

 

 曲がり角を曲がった俺は、そこで大きな血溜まりを見つけた。そして落ちている一本の短剣に壁に書かれた血文字。何語かはわからないが、不思議とその訳はするりと頭の中に入って来た。

 

『テーセウスは死んだ』

 

 ……神話では生贄になったテーセウスが一本の短剣を使ってミノタウルスを倒す事になっている。だが、目の前の血文字が正しいのならばテーセウスはミノタウルスに負けた事になる。

 ミノタウルスが未だに存在しているのはテーセウスが負けたからなのか……?この血溜まりもテーセウスの血だと考えれば一応の辻褄が合う。落ちている一本の短剣も、テーセウスの負けた痕跡であると考えられた。

 

 そして一本の短剣を拾ったと同時に

 

 

 

 背後からの轟音が俺の意識を消しとばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 128周目

 

 

 

 

 

 

 

 何となくこの世界が、このラビリンスが何をさせたいのかは分かってきた。

 俺に求めるのはミノタウルスの撃破。つまりテーセウスの短剣を使って神話を修正する事ではないだろうか。

 ここで条件をもう一度見つめ直す。

 ミノタウルスが現れる条件。それは俺が間違った道に進んだから。俺はそう思っていた。だけれども、間違えたのなら追い返すだけでも良いのではないか?

 神話の修正が必要であるこのラビリンス。間違った道に進むという事は、修正不可能になってしまうのではないか?それならば死に戻りさせる意味もある。だけどそんな簡単にリセット出来るのならば、テーセウスが勝つまでリセットしろよ俺はふと思う。

 そして二つ目の条件。俺が俺ではなくなった時、ミノタウルスは俺を殺す。

 そういえば、どうしてーーーーーがイカロスになってしまったのか。そこを考えていなかった。いや、今までの材料では考える事が出来なかった。でも、今ならわかる。

 

 この世界は、このラビリンスは俺にテーセウスになって欲しかったのだろう。だからイカロスになってはいけなかった。だから短剣を拾った時に俺は殺された。だって怪物が自分を殺しにくる奴を殺すのは道理に適ってるだろう?

 俺はテーセウスの短剣を拾った時点でテーセウスだった。テーセウスが死んだ所為で俺がテーセウスとしてミノタウルスを殺さなければならなくなった。テーセウス許すまじ。

 

 やる事が明確であれば、俺の体は自然と動く。

 この身は全てを踏みにじった神への復讐の為に。短剣の切っ先が自然とミノタウルスに向く。荒い鼻息を撒き散らしながら、血染めの戦斧がギラリと太陽の光を受けて光った。

 

 今からこの身と憎悪を持ってお前を殺してやる。幾千幾万もの死を積み重ねて俺は、テーセウスはお前を殺す。

 

 覚悟しろ牛公。

 

 

 そして脅威は、明確な死の雰囲気を纏って迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 129周目

 

 

 

 

 右振り避けた後の縦振りを避けられず死亡

 

 

 

 

 

 

 130周目

 

 

 

 

 

 縦振りを避け、短剣で傷を作り死亡

 

 

 

 

 

 131周目

 

 

 

 

 

 

 傷を作った後に後方に跳ねるが、血で滑って死亡

 

 

 

 

 

 

 

 

 132周目

 

 133周目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 349周目

 

 

 

 

 

 ミノタウルスも俺も心身が共に疲弊していた。

 俺の短剣によって作られた無数の切り傷からは血が溢れ、それがミノタウルスに響いていた。

 刃の小さい短剣では一撃一撃が小さく、致命傷を上手く与えられない。だから手数で勝負する事にした。少しずつ少しずつ命を削り取る。小さな傷も、数が多くなる内にその効果を発揮してミノタウルスを鈍らせる。

 ミノタウルスはどの周でも同じ行動をして来た。俺が右手を振りかざせば片方でガードし、もう一方で切り裂く。

 だから右手を振りかざす様な仕草をすれば隙が出来る。そこを切り裂くと別な方向から戦斧が飛んでくる。だから次の周ではそれを頭に入れて戦う。死に戻りが無ければここまでは戦えなったと思う。この時だけはこの力を授けた奴に感謝しようと思う。

 時刻は既に夜だろうか。月と星々が俺らの戦いを見守る中、俺は短剣を振りかざした。

 

「イカロス!!!!」

 

 ミノタウルスの後方からの叫び声。ダイダロスのものだ。恐らく俺が帰ってこない事を心配して探しに来たのだろう。全く良い父親だ。

 だが最悪のタイミングだ。その叫び声に反応したミノタウルスは、背後を振り返らずに戦斧を振るった。

 容赦無く切られたダイダロスは、上半身だけで動きながらも軈て止まった。

 

「…………な」

 

 

 

 

 

 

「ふざけるなッッッッッッ!!!!!!!!!」

 

 

 怒りと同時に振り下ろした短剣は戦斧に阻まれてしまった。刃物と刃物がぶつかり合う甲高い音が鳴り響いた後、斜めに振られたもう一方の戦斧によって俺の体は切り裂かれた。

 俺は上半身だけになりながらもミノタウルスを睨んだ。明確な殺意を持って。憎悪の瞳は余程怖かったのだろう。

 

 その時、初めてミノタウルスが怯えた様に見えた。

 そしてその怯えを隠すが如く、俺にとどめを刺した。

 

 薄れていく意識の中、俺は短剣の切っ先を向けて叫んだ。

 

 

 

 

 

「俺は……いや、俺がテーセウスだ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 714周目

 

 

 

 

 

 

 そして俺は遂にミノタウルスを死の淵まで追いやう事に成功した。

 全身から血を流しながら倒れるミノタウルスに俺はとどめを刺すことにした。

 

 テーセウスの短剣を握りしめて振りかざす。喉に刺さった短剣はみるみる内に血に染まり、俺の着ているボロ布も血だらけになった。

 

 終わった。遂にミノタウルスとの長き戦いが終わった。だが、こんな所で達成感など感じている場合じゃない。最後奥に落ちていた羽を拾って帰るとしよう。ふと奥に月夜に照らされて銀色に光る何かを見つけたが、俺には関係ないだろう。なんせ羽は集まった。後はダイダロスに渡すだけでイカロスは空へと羽ばたける(俺の復讐は成し遂げられる)のだから。

 

 帰ろうとした俺はミノタウルスの指がピクリと動いたのを逃さなかった。

 思わず避けようとするが、ミノタウルスの手によって俺の足首は握り潰された。そのまま立ち上がり、床にいる俺を睨んだ。

 痛みに思わず呻くが、ミノタウルスはそんなの御構い無しに俺の頭を握る。

 

 何が足りない……?俺は本物のテーセウスに代わってミノタウルスを退治出来たはずだ。いや、死んでなかったと言うのだろうか。それにしては最大の隙があった時に攻撃を仕掛けてこなかった。仮に後々躱されるリスクを考えたら、羽を拾っている間に殺すのが妥当な判断と言える。死んではいなかったが、動くこともままならず最後の力で俺を握り潰したのか?いや、それならば立つ気力もないんじゃないか?生憎俺にはミノタウルスの事はよく分からないが。

 

 いや、()()()()()()()()()()()()()!翼を作る際、ダイダロスが一つだけ持っていなかった。必要不可欠な物を。

 

 それは……

 

 

 

 

 水っぽい音と同時に、一つの遺体がラビリンスの床に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








???「俺が、俺たちがサンタムだ!!」

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