高評価ありがとうございます。作者にとって高評価とはガソリンの様なものです。頑張る気になれます(`・ω・´)
そしてこれからもよろしくお願いします。一応生前編?は10話満たずに終わるかと思っております。予定なのであしからず。
それではどうぞ。
10周目
何時もの通りにダイダロスの腕を引っ張って走りながら、俺は考えていた。
9周目、どうして自分が死んだのか。もう少しでその理由が分かる気がする。時間経過?いや違う。してはいけないことをしたか?いや違う。
答えは自我の交差だ。簡単に言えば、
生憎如何してか名前は思い出せないが、
先程から薄々自分でも気がついていたが、時々イカロスとしての心情が流れ込んでくる。この体が大空に羽ばたきたいと叫ぶのだ。天へと近づきたいと。
その意識に流されて、俺がイカロスとなった時。それが死亡条件だと推測する。つまりラビリンス、いやミノタウルスはーーーーーのままであって欲しいのだろう。名前も思い出せず申し訳ないが。
条件が分かれば怖くない。俺は自分の意識を強く保って、俺である事をこの体に誇示させればいいのだ。
だから俺の考えるべきなのは、どうしたら空へと羽ばたけるのかではなく、どうしたらミノタウルスに遭遇しないで羽を集められるかだ。
神話にはダイダロスがどの様にして羽を集めたのかは詳しくは記載されていない。勿論俺の無知が招いた事故だったら謝る。
だから俺の仕事は羽を集めるまでだ。それ以降は別に神話通りイカロスで良いだろう。その後は大空へと舞って焦げるなり何なり自由にしろ。
「どうしたイカロス、どこか体が痛むのか?」
イカロスと呼ばれると自我が思わずそちらの方へ引っ張られてしまう。少しずつだが、自分という存在が薄れていくのが何となく分かる。このまま時間が経てば、俺はイカロスという名の少女になってしまう。そうなればラビリンス内のミノタウルスに殺されてリスタートだ。
「だ……おとうさん。はねって……どれぐらいあつめるの?」
まだ喉が痛い。その所為か上手く発音も出来ず、言葉も途切れ途切れになってしまう。
少し悩んだダイダロスは人差し指を立てて笑顔で言った。
「まぁざっと100枚程度だろ!」
オイぶん殴っていいか?何が100枚程度だ。まぁ人を飛ばせるレベルの翼を作る時点で量の多さは覚悟していたが、まさかそこまでだとは思わなかった。五分生き残る事ですら九回も死んでいるというのに。一体いつまでラビリンス内を怯えながら散策すれば良いんだ?
「三日間ぐらい探せば集まるだろうな。イカロス行くぞ!」
三日間で100枚集まるのかよ。
とりあえずやることは決まった。ラビリンス内に落ちている羽を探す。間違った道に進めばミノタウルスが殺してくるし、死の恐怖と戦う事以外はイージーモードだな。
しかし九回も殺されているのに、やはり怖い。死ぬという事が痛みと一緒に脳裏に張り付いて離れない。ダイダロスがいなければ、俺は髪の毛を掻きむしったりして叫んでるだろう。いや、イカロスの自我が前に出てきて殺されるか。
クソ親父の大きさを改めて感じつつ、羽集めに走るとするか。
47周目
日が暮れてきた。空に浮かぶ月と星を眺めながら、石畳のラビリンスに俺は寝転んでいた。もちろんどれがどの星かは分からないが。
結論から言えば、羽は30枚集める事が出来た。今はダイダロスがどこからか持ってきた蝋を使って羽をくっつけている。そこ、御都合主義とか言わない。ミノタウルスが現れないという事は、あるだけの羽をくっ付ける事は許可されたようだ。
しかし我ながらよく30枚もの羽を集めたと思う。道を間違える度に死に、ダイダロスが転ぶ度に死ぬ。クソ親父許さない。
そして羽の枚数更新が出来なかった時には危うく心が折れそうになった。今ではあの戦斧を見るだけで涙と震えが止まらなくなってしまった。正直あれに慣れることはないと思う。
なんやかんやあって現在に至る事が出来た俺は心身共に疲弊していた。
そう言えば余談なのだが、俺はイカロスが一体どの様な顔をしているのかを知らない。もちろんラビリンスに鏡などは無いし、水面すら存在しない。まぁ不細工だろうと美少女だろうと、戦斧に切り裂かれては全て同じだしな。
そして神話補正なのか何なのかは知らないが、喉の渇きも腹の減りもあまり無い。まぁ少しずつ減ってきているのは明らかで、明日もし水が得られなかったらと思うと内心焦る。人間食料なくても水があれば生きていけるらしい。自分自身やった事は無い……はず。
「ねぇ……」
「ん?なんだイカロス、もしかして本当に家に帰れるのか心配になってるのか?」
正確にはそのオンボロの翼で飛べるのかという事を聞きたかったのだが。
するとダイダロスは作業をやめて、俺の頭を笑顔で撫でた。
「大丈夫だ。俺が絶対に家に帰してやるからな」
その言葉を聞いて俺の目からは涙が溢れる。不安や恐怖をこの人はたった一言で全てを拭い去った。ダイダロスの笑顔は辛かったもの全てを包み込んでくれるようで、ミノタウルス以外で泣きたくは無かったのだが泣いてしまった。
女の身だからか涙が止まる事は無く、嗚咽がラビリンス内に響く。その間にもダイダロスは俺の背中を撫り、大丈夫の一言で落ち着かせてようとしていた。単調ながらも、その言葉は力強かった。
そしてダイダロスは俺が目を瞑ったのを見ると、作業に戻って行った。
涙を拭いつつ考える。自分がどうしてイカロスになってしまったのか。どうしてイカロスがミノタウルスに襲われているのか。まだまだ不明瞭な事が多く、謎に包まれている。
だけれども、一つだけ分かった事がある。
だが、そんな事を言う前に
脅威が、迫る。
48周目
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
49周目
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
「おい!イカロス!しっかりしろ!」
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
50周目
……力無く笑った。そして拳を血が滲む力で握りしめた。
俺は泣くことすら出来ないのか!!泣いて少しの現実逃避すら許されないと言うのか!!!!ふざけるな!
絶望?そんなものは既にない!在ろう事かこの世界、このラビリンスに住むミノタウルスは父親さえも冒涜した様なものだ!励まし、勇気付けてくれた父親さえも!俺が泣いたせいで死んだと言うのか!!!!?父親だって!不安だったに違いない!それでも俺を慰めてくれた!!!自分が折れてはいけないと思って必死に俺を慰めてくれたんだ!!その父親の死に際の顔を見たか!!?あぁ、酷く見るに耐えない顔をしていただろうな!!
復讐だ……!貴様らが殺した父親の分まで俺が復讐してやる!この世界に!この世界を作った神に!俺の憎悪をぶつけてやる!この身が燃え尽きようが、俺の憎悪だけはその身に刻んでやる!
覚悟しろ!俺は、イカロスは!貴様らを絶対に許さないッッッ!!!!!
……貴様らを許さない。
そして、脅威が
迫る。
字数稼ぎじゃないです(震え