イカロスの翼は死に戻る   作:玄武 水滉

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受験終わりました^^


森を進む

 

 

 

「悪気はなかったんですぅ…………海賊の本能なんですぅ」

 

 許しを乞うような海賊達の姿に思わず苦笑するあなた。腰に手を当てて満足気にするマシュの前にいる海賊達からは先程の勢いは感じ取れない。寧ろ弱々しく涙を流す彼らに、どちらが悪者かすら一瞬忘れてしまう程だ。

 とりあえずドクターと相談し、この海賊達から何か知っている事はないか聞く事にした。

 

「あー、そしたら姉御の方が知ってるんじゃないかと」

 

「姉御とは?」

 

 マシュがそう尋ねると、突然元気になった海賊が言う。

 

「聞いて驚け、我らが栄光の大海賊!フランシス・ドレイク様だ!!」

 

 ドクターとダヴィンチちゃんが海賊のキャラ立てに対して丁寧な分析をしている中、あなたはフランシス・ドレイクという名前が頭の何処かで引っかかっていた。何処かで聞いた事があるような無いような……。

 そうこうしている間に、どうやら海賊達が姉御と呼ぶフランシス・ドレイクの元へ連れて行ってくれる話になった様だ。マシュの「行きますよ、先輩」の声で我に返り、慌てて彼らの背後をついて歩く事にした。テーセウスは相変わらず布を被りながら、あなたの横を歩いている。

 

 ーー太陽が苦手なの?

 

「うん……太陽に当たると痛いから」

 

 被った布の奥から、瞳を覗かせてテーセウスはそう呟いた。

 あなたはテーセウスに海賊について行くように言い、代わりにマシュを呼んだ。

 

「どうしたんですか先輩?」

 

 ーードクターも良い?

 

『どうしたんだい?』

 

 あなたは海賊達に短剣を向けて歩いているテーセウスの背中を見ながら言った。

 あなたの聞きたかった疑問は一つだ。それはテーセウスは本人に()()()()()という弱点があったかどうかだ。先程のドクターの話を聞く限りだと、テーセウスに太陽という弱点はない。彼女の真名がテーセウスならば、太陽を嫌がるのはおかしいはずだとあなたは思う。

 

『そうだね。僕の調べた限りだと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。寧ろ彼は船にも乗っていたらしいし、太陽があそこまで極端に苦手なら、僕ならまず乗らないけどね』

 

 ーーそれはドクターだからでしょ。

 

 ドクターに軽口を返したあなたは、やはり彼女はテーセウスではないと思った。

 ならば、どうして彼女は自分の事をテーセウスだと名乗ったのか。

 分からない。が、あなたは少し彼女の事を信じきれなくなってしまった。意識していないのにも関わらず、あなたの目には疑心の光が浮かぶ。あそこにいるサーヴァントは、契約したサーヴァントの真名は何だ。

 

「先輩?どうかしました?」

 

 ーーあぁ、いや。何でもないよ、マシュ。

 

 心配してくれている後輩に大丈夫だと伝えつつ、あなたは森の中へと歩んでいった。

 

 

 森の中は鬱蒼と生い茂っているものの、何時も海賊達が歩いている道なのか、獣道の様に道が切り開かれていた。見たことも無い植物達を前に、あなたは少し心が躍る。いつだって初めて見る物には興味を惹かれるものだ。

 海賊達は陽気な歌を歌いながら、森を進んでいく。その背後に目を光らせるテーセウス。

 隣を歩いていたマシュは、ふと此方を向いて言った。

 

「先輩疲れてませんか?」

 

 ーー大丈夫。ありがとう、マシュ。

 

 というか疲れていると言ったらどうするつもりだったのだろうか。担がれでもするのか。それはないだろう……いや、マシュならあり得るかもしれない「先輩、任せてください!」とか言って目を爛々と輝かせながら、笑顔で持ち上げそうだ。やめよう、ちょっと恥ずかしい。

 

「先輩、フランシス・ドレイクという人物をご存知ですか?」

 

 ーーうーん、聞いたことはあるんだけど、詳しくはないよ。

 

「では、説明させていただきます」

 

 マシュはこほんと咳払いをすると、得意げに語り始めた。

 

「フランシス・ドレイク。人類史で最も早く世界を一周を成した偉大な英雄であり、航海者。その活躍は、当時、世界の海を制覇していたスペインを撃破します」

 

 ーー大英雄だ……。

 

「はい。決して沈まない太陽と言われていたスペインを沈め、海の悪魔(エル・ドラゴ)と恐れられた人物。まさに“太陽を沈めた英雄”ですね」

 

 ーー太陽を沈めた……英雄。

 

 あなたがフランシス・ドレイクの偉業を聞き、感嘆していると、マシュが「ですが……」と付け加えた。

 

「フランシス・ドレイクは国家承認の私掠船とはいえ、海賊です。これまで出会った海賊達からして、碌な人物ではないと予想します。それでも彼は大英雄ですから、是非とも協力を仰ぎたいですね!」

 

 ーーフランシス・ドレイクって男なはずだよね?

 

「はい、確かにそうですが。どうしました先輩?」

 

 ーーじゃあなんで海賊達は“姉御”って呼んでたんだろ。

 

 そんな事を考えていると、遠くの方から歌声が聞こえてきた。目の前を歩いている海賊達と同じ歌だ。陽気で楽観的な、海賊のあり方を形にした様な歌だ。

 森の中を進んでいくと、暫くして開けた所に出た。

 

 ーーうわぁ……!

 

 広場の様になっているそこには、海賊達が焚き火を囲って歌っていた。食料に困った様子もなく、酒を浴びる程飲んでいる姿も見える。後先考えずに飲んでいるのか、それとも調達のツテがあるのか。

 酔っ払った海賊が、マシュを見て身体に手を出そうとする。が、マシュは何食わぬ顔でシールドバッシュし、海賊を吹き飛ばす。

 一瞬静かになった広場だったが、何もしなければ危害を加えないと判断したのか、何事もなかったかの様に宴を再開した。触らぬ神に祟りなしだ。

 

 宴の中を突っ切っていくと、一つの大きなテントが見えてきた。ここにフランシス・ドレイクがいるのだろうか。

 先頭にいた眼帯の海賊が、カルデア御一行に少し待つ様に言うと、テントへと入って行った。

 少しばかりだが声が聞こえる。あの眼帯の海賊の太い声と、少し嗄れた女性の声だ……女性?いや、聞き間違えるはずもない。

 

 ーーマシュ、フランシス・ドレイクって本当に男性?

 

「の、筈です……」

 

 マシュも耳にしたのか、自信なさそうな顔でそう呟いた。

 話が終わったのか、眼帯の海賊がテントから出てきた。そして、テントの入り口を開けると、その中にいた人物を通した。

 出て来たのは胸元を大きく開け、右手には酒の入っていたであろう瓶を持った人物。赤みがかった髪の毛に帽子を乗せたーー

 

「なんだい人がラム酒を楽しんでいる時に……ってこりゃまた随分とキテレツなのを連れて来たね、ボンベ」

 

 フランシス・ドレイクだった。

 

 ーーフツーに綺麗なお姉さんが出て来た……!?

 

 

 

 

 

 

 




今日の作業用BGM Nightcore-Roundtable Rival

次回(嘘) テーセウスが真名を話さなかったのには訳が……!?その理由に涙が止まらない。
「怪物が……舐めてると潰すぞ」






次回 太陽を沈めた英雄

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