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「要約すると、つまりあなた達は途中の島で彼女を拾い、別な島で売ろうとしていたと」
「売ろうだなんてとんでもねぇ!俺たちは、彼女に第二の人生とやらを歩ませたいだけだぜ?」
ーー正義の奴隷船ってなんか物語みたいだね。
あなたがそう呟いた所で、件の布のサーヴァントがやって来た。
どうやら女性らしく、『彼女』と海賊達が読んでいたことからそう察した。尤も、今現在まで顔すら見せてもらっていないのだが。
布のサーヴァントは、あなたの前までやって来ると、右手の甲をじっと見ていた。マスターの証、サーヴァントを使役している証である令呪を見ていた様だ。
ドクター・ロマンの布のサーヴァントについての見解はこうだ。
彼曰く、布のサーヴァントははぐれサーヴァントだと。オルレアンでのジャンヌの様に何らかの影響を受けて召喚された。マスターのいないサーヴァントだとか。
となれば今、布のサーヴァントが欲しているのは恐らく魔力だろう。魔力供給のされていないはぐれサーヴァントは、魔力が尽きれば消えてしまう。尽きそうになっても供給されるサーヴァントとは違うのだ。
だから、あなたは彼女が令呪を見ている理由を何となく察せた。
ーーえっと……
「契約して欲しい」
小さな声で布のサーヴァントが言った。
それを予想していたカルデア御一行は既に結論を出していた。
余程歪んだ英霊ではない限りは、契約して戦力を増やすのはプラスにしかならない。普通の聖杯戦争とは違い、マスターはカルデアからのバックアップがある。魔力が尽きる事は滅多にないだろう。
ーーこちらこそよろしく。
「うん、ありがとう
一瞬だけ何かが抜き取られる様な感覚が走った。くらりと体が傾くが、マシュが支えてくれた。
マシュに感謝の言葉を告げたあなたは、次に布のサーヴァントの真名を聞く事にした。名前をバラすのは弱点の露出に繋がるが、生憎周りにいるのは正義の奴隷船と名乗る海賊のみだ。強力なサーヴァントも近くにはいないし、折角だから自己紹介をしようと思ったのだ。そちらの方が信頼も得れる。
一瞬だけ戸惑う素振りを見せた布のサーヴァントは、やがて口を開いた。
「サーヴァント セイバー。真名をテーセウス。これからよろしく、マスター」
布の下の銀色の短剣が鈍く光った様な気がした。
「マスター!」
ーーうん、一先ず迎撃しよう。話はそれからでも出来る。
正義の奴隷船から降ろされたカルデア御一行は、その後森の奥からわらわらと現れた海賊達に囲まれていた。
確かにこちらは少女が二人に、武器も何も持たない男一人。海賊からすれば良いカモだ。下品な目をマシュやテーセウスに向けているのが分かる。
ーーテーセウスは素早く動きながら、海賊の足を払ってくれ。
「切りつけちゃダメ?」
ーー僕らの目的は殺す事じゃない。話を聞く事だからね。
「分かった」
こくんと頷いたテーセウスは銀の短剣をしまい、海賊達の群れに飛びかかった。
俊敏性を活かし、素早く海賊に足払いをかけていく。それでも相手は負けじと切りかかって来る。テーセウスの溢した海賊。
「やぁああああ!!!!」
それをマシュがカバーしていく。
彼女のシールドバッシュが、海賊の背中に当たった。
声を上げて吹っ飛ぶ海賊を満足気に見送ったマシュは、次々と海賊を倒していく。勿論、大怪我などはさせない。
その間、あなたは先程ドクターが言っていた言葉を思い出していた。
ーーテーセウス?
『そうだよ!ギリシャ神話の英雄だ!』
興奮気味に語るドクターを見るに、余程凄い英雄なのだろう。とあなたは推測した。
テーセウスとはギリシャ神話における怪物殺しの英雄らしい。
迷宮にいる怪物へと毎年生贄が捧げられている。そしてそれがミーノース王によって強要されている事を知ったテーセウスは憤慨し、父親の反対を押しきって自ら生贄を志願したという。
その後、クレータ島に着いたテーセウス。だが、そこでミーノース王の娘が彼に恋をしてしまい、こっそり赤い麻糸と短剣を渡したという。
その後、迷宮の入り口に麻糸を結び付け、糸を少しずつ伸ばしながら奥に進んでいくテーセウス。
その奥でテーセウスは迷宮の怪物 ミノタウルスと遭遇する。
他の生贄が怯え震える中、テーセウスは短剣を構え、ミノタウルスに立ち向かった。
そして見事にミノタウルスを討ち果たしたテーセウスは、入り口に付けられた麻糸を頼りに、石工 ダイダロスの作った脱出不可能な迷宮から脱出する事に成功する。
その後、順風満帆な人生を送ると思われたテーセウスだが、ミーノース王の娘 アリアドネーと帰路についていたその途中に寄った島にて、アリアドネーは攫われてしまう。
行方が分からなくなったテーセウスは仕方がなく船を出港させた。
そして無事に故郷の島に戻ってきたテーセウスだが、帰りの際に無事であったのならば白い旗を上げると父親に言っていたにも関わらず、それを忘れて黒い旗を上げていたので、殺されたと勘違いした父親は、絶望のあまり海に身を投げたという。
そこまで話を聞いたあなたは、何とも言えない気持ちになった。
最初こそ、ミノタウルスを討伐して英雄となったテーセウス。だが、その途中で妻にすると約束したアリアドネーを失い、故郷に帰って父親を亡くした。
彼はミノタウルスを討伐すべきだったのだろうか。討伐に向かわなければアリアドネーには会えなかったが、父親を亡くすことはなかった。
『英雄ってそういうものじゃないのかな』
ドクターが言う。
テーセウスが立ち上がった理由は、ミーノース王の元にアリアドネーという娘がいたからではない。
彼は、生贄が捧げられている。そしてそれが王によって強要されている。その事実に憤慨して怪物に立ち向かったのだ。
彼は二人の人物を結果的に亡くす事になってしまったが、それと同時に沢山の人を救ったのだ。
だから英雄。
だからこそ英雄。
それが英雄。
ーードクター、テーセウスはそれで良かったのかな。
『……それは僕にも分からないよ』
ーーだよね。変な事を聞いてごめん。
『それでも』
モニター越しのドクターの声が二重に聞こえた気がした。
『それが
あなたはそんなドクターの言葉を思い出していた。
そして戦闘を終えた彼女らの元へと走る。助けを乞う様な表情の海賊達を見て、苦笑を浮かばせながら。