短め。以上
召喚されて少し経ったある日。イカロスはいつも通りのんびりとカルデア内を歩いていた。
というのも大して話すサーヴァントもいない上に、今日はヘシアン・ロボもオルタも忙しいらしく、部屋に行った時には既に外出中であった。恐らくマスターと一緒にレイシフトとやらに行っているのだろうと適当に推測。
まだカルデアに来たばっかりのイカロスに友と呼べる様なサーヴァントはあまりいない。巌窟王とやらも適当に挨拶を交わしただけで、それ以降は話していない。同じ復讐者とはいえ、必ずしも常に話すかと言われれば答えはノーである。尤もイカロス自体あまり彼の事が得意ではないのだが。
イカロスはそういえばと思い、壁を摩った。
ここは若干であるがイカロスがいた
忌々しい記憶が蘇るが、イカロスはそれをぶんぶん頭を振る事で解消した。そうだ、ここはイカロスの知っている迷宮ではない。あの様な怪物もいないし、お父さんもいない。優しい人がいて、温かいマスターがいて。食べるご飯もあったかいし、水すらない迷宮とは大違いだ。
「よし……!」
イカロスは聞かされていたレクリエーションルームに向かう事にした。聞けば多くのサーヴァントが其処で遊んでいるとのこと。沢山のサーヴァントと友達になるためにここは一念発起する場面だ。
そして握り拳を作り、気合いを入れたイカロスの視界に見慣れたものが入ってきた。
白い鬣の怪物。ここにいるはずがないのに。
肩に乗っている女神がくすりと笑った瞬間、
「アアアアアアアアアアァァァアアア!!!!!!!!!!」
イカロスの視界は赤く染まった。
ー
「全く、マスターも人扱いが荒いんだから……」
レイシフトから帰ってきたオルタは、自室のシャワーを浴びた後、何時ものラフな服装に着替えていた。余談だが、サーヴァントの私服はいつもエミヤが回収しては洗濯している。「正義の味方ってこうだったか……?」とは本人談である。
レイシフト以外に予定のなかったオルタは突然と暇になってしまった。シュミレーションルームに行くか。いや、今自分は汗をかいて疲れていた所ではないか。何故また戦闘に身を落とさねばならないのか。却下。
それじゃあレクリエーションルームでも行こうか。そう思った矢先、悲鳴の様な声が廊下に轟いた。
本能的に何時もの黒い鎧に瞬時に着替えたオルタは、その声の主の所まで走って行く。
「な、何よこれ……」
そしてオルタが見たのは、焼け爛れる廊下と背中から翼を生やした少女だった。最近よく見ているベージュ色の頭髪だ。
目線の先にはゴルゴーン三姉妹の次女であり、ステンノの妹であるエウリュアレが楽しそうに笑っていた。乗っているアステリオスの耳を塞いで。
「アアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!!」
「まずはこっちを止めるのが先決ね……!!!」
太陽の様に燃え盛るイカロスに駆け寄り、彼女の視界からなんとかあの女神を外そうとするオルタだったが、彼女は短剣がイカロスの掌を貫いているのを見た。いつもイカロスが腰に付けていた怪物殺しの銀の短剣だ。
何とかイカロスの前に回り込み、肩を抑える。そして後ろを向き、女神に「早く行け」とサインを送った。また嬉しそうに笑う女神を見たオルタは、手に刺さっている短剣を抜き取って投げた。カランカランと金属音が廊下内に木霊する。
「あいつが殺したんだッッッッ!!!!!!!」
血涙を流しながら叫ぶイカロスの肩を揺する。
「あいつがお父さんを殺したんだ!!!ぐちゃぐちゃにして!ズタズタにして!!!!苦しむ姿を見て笑って!!!!!」
イカロスの放つ炎が勢いを増した。オルタ自身復讐の炎を扱う立場である。だからこそ、彼女が抱える復讐の重さがよく分かった。
兎に角落ち着かせるしかない。そう判断したオルタは、荒治療であるがイカロスを殴った。だが、イカロスは倒れるどころか更に吠えた。羽から血の様なものをボタボタと垂らしながら。
「絶対に殺してやる……!!!!肉片も残さない!助けてって言っても殺してやる!後悔しても絶対に殺してやるッッッ!!!!!!!!!!!!!!」
「いい加減に……黙りなさいよッ!」
オルタの一喝。それに反応する様にイカロスの炎が弱くなっていく。
よし。と思ったオルタだったが、彼女の炎が収まったのはオルタが叫んだからではなかった。
イカロスは涙を流していた。流した涙が、燃えていた廊下の炎を消していく。
「それでも……」
イカロスが見た女神の笑い。それは決してイカロスを見て
「それでも、あんな幸せそうな顔を見たら殺せない………………ッッ!!!」
彼女を肩車しているアステリオス。彼との会話に対して笑っていたのだ。
だからイカロスは残る僅かな理性で自分の掌に短剣を突き刺した。文字通り、彼女の中に眠る怪物を殺すために。
自分を殺した怪物が、別な人と笑っている。そしてそれを殺してしまう様な事があれば、イカロス自身も
「……大丈夫よ。アンタには私が、私たちがいるわ」
「うぅ……!!!」
ぼろぼろと泣くイカロスをオルタは抱きしめていた。
子供の様に胸で泣きじゃくるイカロスを見て、オルタは顔を歪めた。
あれが彼女が抱える復讐。自身の抱えるフランスへの復讐とは違ってスケールは小さいが、それだけ抱える思いは大きい。
血涙は既に収まっており、透明な涙が廊下に溢れた。
「アンタは少し優しすぎるのよ……」
オルタはイカロスの翼を撫でながら言った。
「私達は復讐者なんだから」
イカロスの泣き声だけが廊下にずっと響いていた。
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次回は黒ひげでも出すか。着せ替え回にでもするかな。
40分で書きました(迫真