やっぱりこれ聞きながらだとはかどりますねー。「哀しき錬金術師」とか「英雄殺しの滅亡剣」も好きなんですが、轟閣下の描写がある場面はこれ聞きながら書いてました。
あと今回は人によったらグロく感じる描写がありますのでご注意をば。残酷な描写タグはつけてるので大丈夫だとは思いますが一応。
まあ伝奇もののノベルゲーなんてこんなの目じゃないくらいの描写あるし大丈夫でしょ(慢心)
※9/12 追記 感想で指摘があったので主人公と蓮太郎が遭遇した時の描写を追加。
春先ーー逢魔ヶ刻。夕焼けが何もかもを血よりも朱く染める時間。なるほど確かに、魔にも逢おうというもの。
道往く者全てが朱に染まっているのならば、怪物が通り過ぎたことに気づかぬのは道理。故にこそーー魑魅魍魎が蠢きだした。日の光など要らぬ、夜こそ我らの世界ーー汝らの神はここには居ないと知るがいい。
例えばそうーーこの古びたマンションなどはまさに悪魔の食い残しだ。ひび割れ、汚損、腐食に破損ーー傷みこそあれ、至って普通のマンションだった。
事の発端は一件の通報だった。曰く、隣のマンションから異臭がする。現場に急行した警察官が見たものは、一面の赤、朱、紅ーー廊下には何かを引きずったような血痕。鍵を借りに入った管理人室は壁や床に、前衛芸術もかくやと言わんばかりの飛沫の跡。状況からして、間違いなくガストレアの仕業であると断定された。
問題はそれが、
そのうちの一人、里見蓮太郎は今更ながら、我が身の迂闊さを呪っていた。まさか
通常民警は、戦闘を担うイニシエーターと、指示を出すプロモーターの二人一組で行動する。イニシエーターとなる「呪われた子供たち」は、身体能力こそガストレアに対抗しうるものの、精神的に幼く、不安定であることが多い。一方ただの人間ではガストレアとの戦闘には不安が残る。民間警備会社としても、一つの現場に大人数を送り込む訳にはいかない。故に、
裏を返せば、現場にーー特に今回のような死地に赴く上で、プロモーター単独での行動などあり得ない、ということ。
なにせ今回は、ここに立ち入った警官にさえ死者が出ているーーだからこそ、ガストレアの巣と化したこのマンションを
突入命令を待っている民警ペアの中でも、とりわけ彼の服装は
スーツに似た黒い制服の胸元には、勾田高校の徽章が縫い取られている。
それがどうやら、現場に同行している殺人課の主任刑事の目に留まったらしい。
「あぁん? お前が俺たちの応援に駆け付けた『民警』だぁ? 馬鹿も休み休み言え。まだガキじゃねえか!」
子供が見れば泣き出しそうな顔を近づけられて、蓮太郎は覇気のない瞳で視線を斜め上に逸らし、ぼんやりと巣に帰っていく鴉を眺めていた。カラスがうらやましい。もう、帰りたくてしようがない。
「よく見りゃお前、その制服・・・学生なのか」
「・・・わりーかよ。拳銃も持ってる。ライセンスだってある。ウチの社長に言われたから仕方なく来てやってんだ。疑うなら帰るぜ」
他の民警ペアがいる上、どのみちイニシエーターがいない以上大したことは今の自分にはできないだろう。であれば、いっそ帰ってしまっても問題はない。・・・社長に折檻されることを除けば、であるが。
「チッ、最近はガキまで民警ごっこかよ。・・・
言われた通り許可証を差し出すと、刑事は添付された証明写真と蓮太郎の顔を見比べてその出っ張った腹を揺する始末。どうやら自分の顔が不幸面なのが、よほどウケたらしい。
多田島と名乗ったその刑事は、許可証を投げて返してきた。
「『天童民間警備会社』ね、聞かねえ名前だな」
「売れてねぇからな。早速で申し訳ないんだけどさ」
「ーーなあ刑事さんよ、仕事の話しねぇか? 悪いがこっちも暇じゃねえんだ、手早く片付けちまおうぜ」
会話に割り込んだのは、待機していたプロモーターの一人だった。どうやら痺れを切らしたらしい。
「こっちとしてもそうしたいのはやまやまなんだが、上から待機命令が出ててな。なんでも自衛隊から増援が来るから、そいつを待てだと」
「ーー自衛隊?」
「今回は規模が規模だけにそういう事になったんだとよ。とにかくそいつが来ない事には突入するわけにいかん」
民警達も顔を見合わせている。民警の報酬はどれだけガストレアを討伐したかで決まる。彼らとしては面白くない事だろう。横から割って入った自衛隊に得物をかっさらわれては商売あがったり、という訳だ。
「・・・で、その増援とやらはいつ来るんだ? この調子じゃ突入するのが夜になっちまう」
「まったくだ。なんならそいつが到着するまでにやっちまってもいいんだぜ」
民警から不満の声が上がったその時ーーついに、
東京エリアに降りかかる災厄を掃う軍神。生ける伝説。滅刃。天剣ーー数多の異名を持つ
「ーーー待たせたな。現時刻を以て、突入部隊の指揮権は自衛隊統合幕僚監部 統合幕僚長 轟八色が継承した。これより掃討作戦を開始する」
「ーーーあなたは・・・」
「ーーーそんな馬鹿な」
「あり得ない。なんであんたがここにーーー」
驚く者、戸惑う者、畏れる者ーー民警や機動隊などの警察官達の反応は様々だが、ただ一つ全員に共通しているのは、「この男がいれば勝てる」という確信。
気性の荒い民警たちでさえ彼の前では道を譲る。
それは階級だけではない。「
(なんだ、この男は)
蓮太郎が抱いたのは、憧憬でもなければ畏怖でもない。ひたすら純粋な恐怖のみ。
彼は光に目が眩んでいる訳でも、光から目を逸らしている訳でもない。故にこの場で彼は
確かに轟八色は傑物だろう。瞳の奥には炎より熱い
特に何をされたわけでもないのに体の震えが止まらない。歯の根が合わず、汗でシャツが背中に張り付き、頭の中で警鐘が鳴り響く。
思い出そうとすると、頭蓋が割れそうになる。それは理性ではなく本能が、精神ではなく肉体が、過去の記憶を想起するのを拒んでいる証拠だろう。痛みで思考すらままならない。
蓮太郎が、今の己は死地に赴くコンディションでは無いと自己分析したその直後ーーー
股間に走った激痛が、彼を現実へと引き戻した。
「ぐあああああああああッ」
激痛の正体は、いつの間にか目の前にいた少女が放った蹴りだった。
「え、延珠ッ・・・お前ッ・・・」
思わず昇天するほどの痛みに膝を屈するかと思われたが、男の意地でたたらを踏んでこらえる蓮太郎。そんな彼を、両手を腰に当て傲然と見下ろしているのは身長一四五センチの少女、藍原延珠。彼の同居人にして、モデル・ラビットのイニシエーター。
「妾を自転車から放り出しておいて、目の前にいても気づかないとは!」
「お。怒ってんのかよ?」
「当たり前だ」
「し、仕方ねぇだろ。この仕事取れなかったら木更さんに尻を蹴り回されるのは俺なんだぜ?」
「妾を捨てていったら妾が蹴り回す」
「じゃどーすりゃいいんだよッ!」
「大人しく尻を差し出せ。あとはどちらに蹴り回されるかの問題でしかない。蓮太郎が蹴られたい方を選べばいいだろう」
「アホッ、んな二択があってたまるか」
弛緩する空気。遠ざかる恐怖。気づけば蓮太郎の震えが止まっていた。彼は未だ気づいていない。藍原延珠に己が依存していることに。
里見蓮太郎が闘う理由の根幹に、彼女の存在は根を張っている。彼女がいるからこそ、彼は前を向いて歩けるのだ。
蓮太郎の意識を引き戻したのは、磨き抜かれた刃を思わせる声だった。
「ーーーそこの二人。所属と名前は」
「・・・天童民間警備会社所属、里見蓮太郎。プロモーターだ」
「同じく天童民間警備会社、藍原延珠だ! そして蓮太郎のイニシエーターにしてフィアンむぐっ」
相棒が余計なことを口走らぬよう、とっさに蓮太郎は口を塞ぐ。
今から鉄火場に赴く者とはおよそ思えぬその様子が、どうやら
「・・・弛んでいるな」
にべもなく切り捨てたその鉄面皮には、波紋すら立っていない。笑えばさぞかし華があるだろうに、怜悧な美貌には感情一つ、一欠片の人間味さえ感じられない。轟八色とは別の意味で、この女もまた人間を止めているらしい。
彼が人間性を正義の炉に捧げた鋼鉄の使徒であるとすれば、彼女は一片の感情も宿らぬ氷の計算機ーーー碓氷茉莉花とはそういう女だ。断じて手弱女の類ではなく、
彼直属の特務部隊において副官を務める彼女にとって、たとえ民警であろうと緩みを見過ごすことはできないのだ。
彼女は正しい。修羅場においては一瞬の気の緩みでさえ死を招く。いわんや尋常ならざる魔窟と化したこのマンションにおいて、それは死神を抱擁するに等しい愚行である。
蓮太郎もそれは理解しているからこそ、無言で頭を下げる。
「・・・ではこれより、本作戦のブリーフィングを始める。我々はエントランスから突入後、一階から順に制圧していく。別動隊は屋上からヘリで降下し、そのまま制圧する。既に付近には戒厳令が敷かれている上、このマンションの外は我々自衛隊で包囲してある。故に諸君らの討伐対象はこのマンションに残っているガストレアだ。心してかかれ」
(詰まるところ、最も危険なカチコミを
どのみち民警同士の連携にはあまり期待していないのだろうということがありありと分かる作戦立案。おそらくは先程の女が行ったのだろう。
そして下される突入命令。常ならば指揮官は後ろから指示を出すーーーだがここに、例外が存在する。
「ーーーッ!!!」
颶風の速さで鋼の使徒が疾駆する。おそらくはこの場の誰よりも、犠牲者を彼は悼んでいる。だからこそーーー早く
エントランスから続く階段。その階ではなく壁を蹴り、どの民警ペアより疾く駆け上がる。そうして最初にドアを蹴破り入った部屋でーーー
悪魔の飽食。その哀れな
ーーーその部屋に住んでいたのは親子三人の、ありふれてはいるが幸福な家族だった。夫は妻と娘の為に仕事に精を出し、妻は夫を愛し、娘を慈しむ。そうして、自分の家族が子供にとっては何よりの宝物である。そんな、幸せな家庭を絵に描いたようなーーー
だがその全て、何もかもを、あの赤い眼の悪魔は奪い去ったのだ。
一家の大黒柱であった男は思考するーーーなぜ自分は床に倒れているのだろうかと。
そう、確か自分は何かに向かっていき、そして手足をその顎でーーー
思いだした。オモイダシタオモイダシタオモイダシターーーそうだ、妻と娘は。あの後俺の家族たちはどうなったのだ。
何故ならそこには、
まず目に入ったのは部屋一面にばらまかれた
続いて見えたのは散らばる肉塊。いいやあれは、どこかの臓器だろうか。おそらくは運悪くガストレアに踏み潰されたのであろうそれは、もはや原型を留めていない。常人ならばこうなった時点で死んでいる。不幸にも?---否、幸運にも、だ。
こうなっても死ねない時点で、人としての生を全うすることは叶わない。
そして、先程のはらわたの持ち主はーーー嗚呼、何たることか。その面貌、血に塗れようとも見紛う事はない。俺の妻では無いか。
目を凝らせばその下にいるのは愛娘。ああ、そうか。彼女はどうやらとっさに我が子を庇ったらしい。
ーーーだが運命は、彼に容赦などしなかった。
よく見れば、妻の腹部に空いた穴は、そのまま娘の胸部に空いた空洞と重なっている。そしてその傷口から流れるのは、
ここに彼らの末路は定まった。
男の胸に去来するのは悲哀。家族さえ守れぬ、己が非力への怒り。そして何よりーーー
すまない。許してくれ。俺はだめだ。弱かったーーー
男の心が絶望に染まった時、彼ら三人の残る手足が急速にしぼみ、種子から芽が出る様を早送りにしたように、黒い脚が飛び出した。
「ーーー遅かったか」
突入した部屋では、ちょうど親子三人がガストレアに
「すまない。そして誓おう。お前たちの犠牲は無駄にはしない」
一瞬だけ瞑目し、名簿にあったこの部屋の住人である家族三人を悼む。
戦場と化したこの部屋において、目を閉じるなど自殺行為ーーーだが、それでも。彼は
そして迸る裂帛の気合と共に、腰の二刀を抜き放つ。バラニウム製であることを示す漆黒の刀身には彼が裡に宿す光熱が宿っている。
「ガストレアーーーモデルスパイダー・ステージⅠを三体確認。これより殲滅に入る」
その言葉に籠った
轟から最も遠い一体が出糸突起を彼に向けて震えるやいなや、投げ網のような物体が殺到する。
おそらくは蜘蛛の因子が由来のそれに絡め取られれば脱出は困難だろう。
襲い掛かる獄吏の網ーーーそれを躱し、彼は未だ糸を吐き出し硬直状態にある個体を斬り捨てんと一迅の影となった。
ーーーだがしかし。彼の死角から、二体目のガストレアがその首に食らいつかんと、人の身では不可能な軌道で飛来した。
閉鎖空間内において、この多脚の体は邪魔になるどころか無類の機動性を発揮する。床だけではない。壁、天井、果ては家具に至るまで、全てが彼らにとって足場となる。
そんな悪魔の強襲、常人ならば首を食いちぎられる一撃を、鋼の英雄は身を屈めることで回避する。
そしてすぐさま反撃に出る。狙いは八脚ーーーその機動性をまず奪う。
「ふッーーー!」
轟雷一閃、流れるように続けてニ閃。それだけで、脚を失った蜘蛛がごろりと転がる。
そして転がった巨体を
だがその疾走は、三体目に阻まれる。
今度は真上から、毒液を滴らせて凶顎が墜ちてきた。糸を使い、バンジージャンプの要領で殺到するその様は、質の悪い
まともに受ければガストレアの体重に潰される魔槌。それをーーー
「---ーーー」
僅かに身をずらし、逆手に持ち換えた左の一刀で切り上げ両断した。
頭胸部から腹部に至るまで真っ二つとなったガストレア。その脚が、断末魔のように痙攣する。
まずは一体。瞬く間に切り伏せたそれに見向きもせず、獲物ではなく同族をその糸で絡めとった奥の個体へ向かい駆ける。
それに対してガストレアは再三網を吐き出して動きを止めようとするがーーー
それより早く、颶風が懐へと入り込む。
この距離ならば、糸よりも刃が迅いーーー黒き
そして最後に残ったのは脚を落とされた一体のみ。その赤い複眼に最後に映ったのは、己の頭を割らんと降ってきた刀身だった。
ステージⅠのガストレア三体。並の民警ペアでは手古摺るであろうそれらを殲滅するまでに経過した時間は一秒にも満たない刹那である。
そして再び駆けだす黒い影。次の
かくして掃討作戦は終盤に差し掛かる。討伐したガストレアは全て合わせれば四十体を優に超そう。それだけの数を十分弱で殲滅できたのは何と言っても、轟八色の存在が大きい。
彼の常軌を逸した撃破速度が無ければ、民警たちにも少なからずの被害が出ていたことは疑うべくもない。おそらく今回の作戦に彼が駆り出されたのは、当初の想定以上にガストレアが発生したからだろう。
(・・・いや、それにしても普通自衛隊のトップが出張らないだろう)
ふと、そんな考えが蓮太郎の脳をチクりと刺した。それを振り払うように、目の前のドアへと目を向けた。そしてーーー
「噴ッ!!」
鋭く吐き出された呼気と共に放たれた蹴りが、それを木っ端微塵に打ち砕いた。
だがそこで蓮太郎と延珠は、予想だにしないものを見た
身長は百九〇を超えようか。細すぎる手足に胴体。細い縦じまの入ったワインレッドの燕尾服にシルクハット、極め付きは舞踏会用の
そしてもう一つ。夕暮れに赤く染まった室内に、
鼻を衝く血臭。特徴的な制服。統一された装備。そして階級を現す徽章。
間違いない。ここにある死体は、自衛隊員のものだ。
(もしかしてこいつら・・・屋上から下りてきた別動隊か)
仮面男が首を巡らせる。仮面の奥から鋭い視線が蓮太郎を刺した瞬間、蓮太郎は背中に氷柱が差し込まれるのを感じた。
仮面の上からでは表情までは分からない。だがあの瞳はなんだ。まるで魔女の鍋の底のように煮えたぎったそれーーードス黒く濁った思念が渦巻いているその孔は、さながら黒い太陽を思わせた。
「随分早かったじゃないか、民警くん」
「なんだ・・・・・・アンタ・・・・・・俺らと同じ方の突入部隊か? それにしてはイニシエーターがいないようだが」
「確かに私もガストレアを追っていた。しかし突入部隊ではないし、ましてや同業者でもない。なぜならねーーー」
男は芝居がかった調子で両手を広げる。さながら怪鳥のように。
「彼らを殺したのは私だ」
敵だということが分かった瞬間、体が反応していた。一瞬で玄関からリビングまでの間合いを詰めると、有無を言わせず掬い上げるような掌打を繰り出す。直撃すれば顎を揺らし、その衝撃は脳まで届く。初撃として選択したのが
そのはずだった。だがそれをーーー
「悪くない、だがまだまだ甘いね」
仮面男がそれを、子供をあやすような気軽さで受け流したかと思うと胸に衝撃。その正体は男が放った拳打だった。
蓮太郎の体はリビングのガラステーブルに背中から激突ーーー咄嗟に頭は守ったが、肺から空気が絞り出されて息が詰まる。
同時に飛び掛かった延珠の、後頭部を狙った蹴り。男はそれも躱すと同時に延珠の脇腹を狙った
咄嗟に腕でガードした延珠だったが、重量の差で部屋の壁まで吹っ飛ばされる。
(一体なんだ、こいつは)
激痛に顔を歪めながら何とか片眼を開けると、仮面の男の拳が降ってきた。
咄嗟にテーブルから転げ落ち、その一撃を回避すると、ガラステーブルが粉砕されたところだった。今の一撃を躱さなければ、蓮太郎の体の骨のどれかが、あれと同じ末路をたどっていたことは間違いない。
飛散するテーブルの破片から飛び退いて立ち上がるよりも僅かに早く、側頭部に回し蹴りが飛来するーーー回避する位置まで予測されていたかのように。
「蓮太郎!」
延珠がそれを飛び蹴りで迎撃する。バラニウムが仕込まれた靴の重量と、延珠の筋力から生み出される速度が合わさった一撃。ガストレアの体を貫く
室内の空気が、あまりの勢いに渦を巻く。そして延珠と仮面の男は、互いの蹴りがぶつかった地点から僅かに後退する。相手の蹴りの威力に押されたためだ。
だが異常なのは、この男の足に全くダメージが見られない事だ。
(コイツーーー遊んでやがる)
そんな蓮太郎達をちらりとみやり、仮面男は小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
延珠は未だ戦闘続行の意志を持ってこそいるが、彼我の間に絶望的な実力差があることは最早疑いようもない。思わず気が遠のきそうになるほどにーーー
その時、場違いな着信音が室内に鳴り響き、仮面男が電話に出る。
「小比奈か・・・・・・ああ、うん。そうかわかった、これからそちらに合流すーーー」
消音器を付けた拳銃特有の甲高い発砲音が木霊する。見ればドアのそばに別の民警ペアがいた。今の発砲はプロモーターによるものか。
そして発砲は囮。回避させて目的の位置まで陽動し、本命はイニシエーターによる一撃ーーー
だが彼らに目をくれることもなく、仮面男は腰のホルスターから
イニシエーターの体から赤い飛沫が上がり壁に飛散する。
男はそのまま連射すると、プロモーターも撃ち倒される。
彼らが稼いだ数秒。その間にーーー
蓮太郎は全力で間合いを詰め、床を踏みしめる。
天童式戦闘術二の型十六番ーーー
「『隠禅・黒天風』ッ!」
お返しとばかりに放った回し蹴りは首の動きだけで躱されるが、素早く追撃の態勢へと移行。
続く二撃目の『隠禅・玄明窩』ーーー顔を狙ったハイキックは、狙い過たず仮面男のマスケラに直撃した。だがーーー
男は蹴りの衝撃でがくりと真後ろを向いた首に手を当てると、怪音と共に力任せに首を戻し、携帯電話を手放す事もなく蓮太郎にも凶弾を放つ。
その頭と胸に二発ずつ放たれたそれは延珠が蹴り飛ばして事なきを得たが、蓮太郎は血液が凍り付くような悪寒を味わっていた。
「いや、なんでもない。ちょっと立て込んでてね。すぐそっちに行く」
男は通話を終えると、じっとこちらを見たまま動かない。
仮面を押さえながら喉の奥でキキキという笑いを漏らす。
「いやいやお見事、油断していたとはいえまさか一撃貰うとは思わなかった。ここで殺したいのは山々だが、今ちょっとやることがあってね」
世間話でもするような気安さで『殺す』という単語を口にする男の瞳がこちらを見る。
「ところで君、名前は?」
「・・・・・・里見、蓮太郎」
男は口の中で「サトミ、里見くんね・・・・・・」とブツブツ呟きながら割れた窓ガラスをくぐってベランダに出ると、手すりに足をかける。
「またどこかで会おう里見くん・・・・・・いや、私から会いに行くべきかな?」
「アンタ・・・・・・何者だ」
「私は世界を滅ぼす者。誰にも私を止める事は出来ない。たとえあの英雄サマだろうとね」
男が一足飛びにベランダから飛び降りる。
強張った体は、しばらくの間縫い付けられたように動かなかった。蓮太郎は自分が冷や汗をかいていることに遅まきながら気づいた。
あんな怪物が、轟八色以外にも存在するのか。
戦闘音を聞きつけて、突入部隊が集まって来たときには、立ち尽くす蓮太郎と延珠。そして死体の山だけが残っていた。
戦闘とモブの悲劇があると筆が進む事進む事。やっぱり英雄譚にはこの二つが大事なんやなって・・・・・・
モブ家族についての描写を実はノリノリで書いていたり。ありふれていても大事なものってありますよね。失ってはじめて気づく大切さとかね!()
あとはヒロインですが、そんなものはない(無慈悲)
英雄に愛だの恋だのは必要ないってそれ一番言われてるから。・・・流石にチ〇コ切り落としてはいませんよ。今は、ですが。
そして超強化された影胤さん。イニシエーターの蹴り受けて足折れないとかどんだけぇ・・・因みにまだ斥力フィールド出してません。素の身体能力でこれです。
まあ英雄もいるし大丈夫でしょ()