けどそれだとモノリス閉じて各エリアに逃げ込むより先に、人間が絶滅しそうなんですよね・・・
そのあたりも含めて、どこかで描写されると嬉しいですねえ
第一話 黎明
突如として出現した
1が2に、2が4に、4が8にーーー倍々ゲームで増え続ける敵に対して、未だ人類は有効な手段を見いだせず。
凡そ戦争などとは呼べぬ惨劇が各地で繰り広げられていた。
2021年 第一次関東会戦にてーーー
空想上の龍を思わせる生物が、兵士と戦車からなる鋼の陣に向かって咆哮した。
その隣では毒々しい紫色の巨大な蜥蜴が、蟻が、蠍が、身の毛もよだつバケモノ達がーーー歯を軋らせ、鋏を鳴らし、紅い
スケール感が狂った光景。映画じみた現実に、さらに違和感を付け加えるものがあるとすればそれは怪物たちの体。
蜥蜴の尾に毒針などありはしない。蟻の脚は6本しか無いはずだ。サイの背中に甲羅などあったためしがない。生物学上あり得ざる、異形の軍勢。
そうはさせじと、戦車の主砲が火を噴いた。部隊長以下乗員総て、これ以上一歩たりとも怪物の闊歩を許さぬという気迫に満ちている。誰もが皆、決死の覚悟で奴らを止めるつもりなのだ。履帯の音を響かせながら進む姿はまさしく鋼の勇者。雷のような音とともに再び砲撃。
そして彼らを援護せんと、歩兵部隊も包囲射撃を敢行する。無辜の民を守らんとする勇気を、その体へ宿して怪物たちへと立ち向かう。
たとえこの身が砕け燃え尽き、灰と化しても構わぬ、それこそが我らの意気と知るがいい。これ以上我らの国はやらせはしないと燃え上がる闘志。
その一方で彼らは理解している。怪物を屠る剣を、人間が未だ手にしていないことを。それでも尚、その職務を全うせんがために、彼らは決死の特攻を仕掛けたのだ。全ては明日を守らんがため。
嗚呼、だがしかしーーー否、当然のように。
滑腔砲がその横面を張り飛ばしても、怪物は次の瞬間には再生を始めている。頭が欠けたまま時速100㎞を超える速度で突撃し、車両をその四肢で転覆させ、踏み潰す。歩兵からの支援も空しく、戦車隊は壊滅した。ゴミ箱をあさる野良犬のように、怪物たちが車内へと首を突っ込み、何度か銃声が鳴り、そして止んだ。ガストレアに車両ごと踏み抜かれるのと、奴らの内の一体になるのは、果たしてどちらがマシなのだろうか。もっとも、ヒトとしての死を迎えるという点で両者に違いなどありはしない。
彼が手に持った小銃の重さも、今となっては不安を紛らわせる事さえできない。まして、滑腔砲が効かない相手にはこんなものが有効だとなるはずが無いのだ。それでも自分がこれを手放さないのは、訓練の成果か。或いは、人間である内に死ぬための武器を手元に置いておきたいからか。
酸鼻極まる戦場を目にして尚、護国の盾とならんとする気概など己の内には残っていなかった。こんな
もっともそれも、先程の光景を目にするまでの事だが。
同僚は頭から丸のみにされた。上司は踏み潰されて赤い水たまりに早変わり。あるものは頭から串刺しにされた。あるものは上半身を丸ごと溶かされた。引き裂かれぶちまけられ、穿たれ潰され踏みにじられた。斬死。失血死。熱死。凍死。溶死。爆死。死。死。死。
さながら死の見本市。悪夢のような光景を目にして尚、正気を保っている己が恨めしい。
かつての戦場は、今や血の赤と、奴らの赫眼の朱と、爆炎の紅に満ちている。まさしく地獄の具現。悪魔にはふさわしい光景といえるだろう。
そして、
さっきまで隣で戦っていた小隊も、全員が形象崩壊寸前だ。いったいどれだけウィルスを注入されたのか考えたくもないが、凄まじいスピードでDNAを書き換えられたのだろう。すでに体液の色が変化している。じきに怪物へ姿を変えることだろう。
正面にいるのは蜘蛛がベースなのだろう。頭胸部と腹部に分かれた体。そして鋏角と糸疣。戦車を糸で絡めとる光景を目にしている。あれにつかまれば脱出は不可能。
3時の方向にいるのは象がベースになっているのは間違いない。だが果たして、象が毒液を鼻から吹くことなどあり得るだろうか?間違いなく二種類以上の生物が混ざっている。
などとーーーこの期に及んで、何をしているのか。
目の前の敵を分析したところで勝機などない。倒すことのできない相手を分析することの、なんと無意味なことか。
ベースが分かった。ああそれで?こちらの攻撃は全く通用しないどころか、徒に興奮させるだけ。そのくせこっちは一発もらえばよくて致命傷、悪ければ
人生の中でほんの少し、訓練を受けて、装備を手にした男に、まさか勝てるとでも・・・?
「は、ははは・・・」
そんな馬鹿な。銃で撃たれただけで死んでしまうこちらに比べ、向こうは戦車の砲弾さえものともしないのだ。加えて俺の心はすでに折れている。もはや兵士などではない、ただの負け犬、敗残者。
こんな男にいったい何ができるというのか。
それでも尚・・・戦えと?国のために、民のために、世界のために・・・
「無茶言うなよ・・・」
勘弁してくれ。どう考えても不可能だろう。火を見るよりも明らかな結果なのに、それでも挑めというのか。
ほら、
命乞いなど通じる相手ではないし、まして加減などしないだろう。
傷一つない向こうに比べ、こちらは立つのがやっと。息をするだけで骨折した箇所が痛む上に、そろそろ血を流しすぎて意識を失いそうだ。
怪物を倒せるのは、同じ怪物だけ。人間でありながら怪物を斃す、そんなものがいるとすれば、誰よりも何よりもそいつが
故に分かりきった真理と結末。それでもーーー
戦わなければ、挑まなければ、生きていけぬというのならーーー
とっくの昔に崩れた意志を寄せ集めて。震えの止まらぬ体を抱きしめて。欠けた魂を無理やり奮い立たせたその時に。
「ーーーそこまでだ」
鳴り響いたその声は、さながら鋼鉄の奏でる凱歌だった。
これにて恐怖劇は終幕。もはや二度と、涙が流されることはない。
刮目せよ、これより始まるは最も新しき
民はその背に希望を見出し、天は慄き地は泣き叫ぶ。
地上に生きるもの皆総て、男を止める事はできない。なぜなら彼は覇道を征く者ーーー
そう、彼こそがーーー
「
名を口にするだけで、焼けつくように舌が痺れ、再び気概が燃え上がる。同時に、俺は無意識に一歩下がっていた。誰に命じられるでもなく、
絶対的な、そして驕ることなき強者を前にしたとき、人は畏敬の念を抱く。
その名を知らぬ者など、自衛隊の中で一人もいないだろう。
制服組筆頭、超人、壊刃、天剣、鋼の断頭台・・・
無数の呼び名で讃えられた男を目にして、そう語られた理由を悟ったーーー
己のような凡人とは、何もかもが断絶していた。
そして、そう感じ取ったのは目の前の
気づけば、周りにいたすべての怪物が、彼の周りに集まっている。
だがしかし、信じがたいことにーーー
双方から発する圧とでもいうべきものが
通常ならばあり得ないことだが、さもありなん。なぜなら轟という男は、さながら恒星が人の形をとったような男だから。
瞳に宿す輝きの密度、その身に秘める情熱の質量、どれも桁外れにして規格外だ。一体どれだけの修羅場を潜り抜ければこのような生物が出来上がるのか・・・
己を庇う様に立つその背が、何に代えても民を守ると、百の言葉よりも雄弁に語っている。
先程まで冷え切っていた心臓の鼓動が早鐘のように打ち始める。同時に、叫びだしたいほどの恐怖の念に襲われる。
魔軍と対等、もしくはそれ以上といえる男を見て、誰よりも何よりも、きっとこの人はそうなのだと確信してーーー
「---よく戦った。お前たちの犠牲は無駄にはしない」
数瞬の間瞑目し、物言わぬ骸、或いは怪物となった隊員らに哀悼の意を捧げる。
開眼すると同時に、大瀑布を思わせる激烈な闘志が天を衝く。
その洗練された美しさは、抜身の刀を思わせる。
そうして、
異形を睨むその視線に宿る決意の灯は、日輪さえ翳って見えるほどでーーー
刹那、轟は烈風と化した。
同時、動き出す悪魔達。ここに英雄譚の幕は切って落とされた。
傍観者である「彼」は、彼らが激突する前にまず、こう予測した。
1佐殿は敗北するーーー怪物に勝つことなど、人間には不可能なのだと。
ああ、確かに1佐は傑物だろう。その身に帯びる情熱故か、はたまた天性の気質か、佇まい一つとっても目も眩むほど輝いている。あの偉丈夫が、匹夫とは隔絶していることなど理解している。
実力に至っても通常の兵士、いや、兵器さえも圧倒する域に達しているのは自明の理だ。
弾丸よりも迅いなどという不条理を、生身で実現しているがゆえにこそ、彼はその身に軍刀のみを帯びているのだ。
しかし人間として逸脱していることが、魔物を倒せる証左になるかといえば、やはりそれは否だろう。
化物は、ただ
殺到する蝕雨を、轟は素早く躱したーーー何故なら、そうせざるを得ないから。
着地点に飛来する獄網も当然躱したーーーこれもまた、そうせざるを得ないから。
当然である。何故なら、如何に彼が優れているからと言って、所詮身体組成は人間の
こと殺し合いにおいて勝敗を左右するのは、速度、出力、そして防御力。
つまるところは
窮鼠は猫を噛むが、攻撃できたとしてもそれは蛮勇、犬死だ。何故なら相手を殺せていない。
弱者が強者に勝利する展開は常に稀少。ゆえに誰もが夢想して、そして多くは果たせない。
弱肉強食こそ世の真理。強いものは当たり前に強い。それ故当然、能力だけでなく潜ってきた場数も違う。何故ならそれまで生き延びてきているから。
弱者は常に喰らわれる側である以上、経験でも性能でも敵うはずが無い。
上官の敗北を、彼が予想したのは、つまりはそういうこと。
実際問題、轟の敗北は必定と言っていい。
小手先の技術など、生物としての性能差に比べれば些末な要素だ。さらに現状、人類はガストレアに対して有効となる戦術を見いだせずにいる。
気合や根性などではどうすることもできない、絶望的な格差。
そう思っていたーーーゆえに想像した未来は、だが。
未だ訪れずにいた。否、それどころかーーーなんだこれは。一体何が起こっている。
互角以上に渡り合っているのだ。それも、凄絶に。
当たり前のように、彼は両の手に握り締めた二振りの刃で、異形と対等の戦いを演じている。
鈍い剣閃が響くたびに、火花を散らす鋼と甲殻。火花が咲いては散り、散っては咲いて、彼らの闘争を彩っている。
衝突するたび、刀身が大きく軋む。たった一度でもまともに攻撃を受けてしまえば折れてしまうと、鍛造刀が絶叫している。
しかし未だに武器の破壊を免れているのは、ひとえに担い手の技量がゆえだろう。
いいや、攻撃だけでない。回避、防御、反撃、追撃・・・技量が生かされていない場面など、どこにも見受けられない。
総てが絶技の域にあるーーー一体どれだけの鍛錬を積めば、ここまでに至るのか、一挙一動から想像するだけで寒気がする。
一刀、一足、一眼に至るまで、全てに無駄がない。機械仕掛けのように、襲い来る暴力の渦を払いのける姿。
だが時に、目を見張るような博打に出るのはどういう事か。死中に活を求める思考。不合理の中にて活きる理合。勝利への嗅覚。
破綻しているとさえ見える飽くなき勝利への執着は、強者には必須。そして、常に最善手だけを打ち続ける機械にはとても出来ぬ芸当である。
王道と邪道。
正統と我流。
相対する要素が、理想的な形で融合している。
どだい生物として立っている土俵がそもそも違うのにも関わらずーーー執念という意志力だけで、彼は戦局を覆してみせたのだ。
嗚呼、だがしかし・・・
彼の刃が首を断とうが、蹴りが四肢を粉砕しようがーーー
怪物は瞬く間に再生してのけるのだ。
人間は未だ
そして無論、轟にとってもそれは織り込み済みでーーー
「再生するというのならばーーー」
ガストレアとて生物である以上、細胞分裂にはエネルギーを必要とすることは分かっている。であるがゆえに、彼がとった戦略はただ一つーーー
即ち、眼前の敵が消耗するまで只管に打ち砕くというものである。
愚直を通り越して、愚鈍とさえ言わざるを得ない戦術であるがしかし、これ以外、
実現が事実上不可能に近いという点に目をつぶれば、であるが。
目の前の敵以外のガストレアが来ない保証などどこにも無い。しかし、生き残った部下の命を守るため、そして守るべき民に怪物を近寄らせないためにはこれ以外の手段は存在しない。
であるならば、
困難や不可能など知ったことではない。
不世出の英傑を喰い殺さんと、悪魔の軍勢が襲い掛かる。それを見据えてーーー
「来るがいい。俺は必ず勝利してみせる。
そんな訳で、光の奴隷をブラック・ブレットの世界にぶち込んでみました。オリ主はだいぶトンチキキメてるので、安心して見守って欲しいと思います。
バラニウムもないのに白兵戦とかこの人頭おかしい・・・(小声)
因みにこの時轟はまだ二十代前半です。その年で一等陸佐やってる時点ですでにおかしいんですよね。それ以上に頭がおかしいんですが。