マイスのファーム IF【公開再開】   作:小実

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 クーデリア視点でのお話しとなってます。
 前置き、というか、繋ぎというか……でも、何かと意味のある回。



※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、細かい描写の追加、一部表現の変更、句読点、行間……


クーデリア【*5-1*】

【*5-1*】

 

 

 

 

 

 

***アーランドの街***

 

 

 『冒険者ギルド』での受付の仕事は……他の人に任せられているから、今日は丸一日休み。久々に羽を伸ばせるってわけ。

 

 そんな貴重な日に、何もしなくていいからって「一日中家でゴロゴロしてる」なんていう選択肢は勿論無い。

 けど、今日(今回)は事前に何か予定が入ってるってわけでもないから、今から「さて、何をしようかしら?」と今日の予定を考えないといけない。

 

 とはいえ、ボーっとつっ立ったってり、柔らかいソファーに身を預けた状態でノンビリ何をしようかと考えるのも(しょう)に合わないから、とっとと身支度を整えて街へと繰り出すことに……。

 

 

「と、まぁ出てきたのはいいんだけど……さて、どうしたものかしら?」

 

 口でそうは言っても、実のところ、もうすでにあたしの足は動き始めてた。一種の(くせ)というか、習慣というかで……まあ、その……アトリエのある『職人通り』の方面へと向かってた。

 

 いや、この選択は別段間違っている訳でも無いと思う。

 確か、まだトトリは『アランヤ村』に帰ったままのはず。なら、よっぽど仕事を受けていたりしなければ、トトリ(弟子)のことにかかりっきり気味だったロロナは暇を持て余していることだろう。そして、『冒険者ギルド』で仕事をしていたあたしが記憶している限りでは、ここ数日の間にロロナがそんな依頼を受けに来たことは無かった。

 なら、ロロナは今……というわけだ。

 

「まっ、きっと大丈夫でしょ」

 

 そう呟きながら、わたしはちょっと心なしか足早になってしまいつつ歩いていってた、んだけど……

 

 

「ん? あれは……」

 

 その途中、道すがらに見知った顔を見つけた……いや、見つけてしまった。

 正直なところ、わざわざ見たくも(会いたく)無い顔だし、それがせっかくの休日(こんな時)にならなおさらだけど……そいつがやってることが余りにも放置するのはどうかと思えることだったので、本当に、本当(ほんとー)に不本意ではあるけど、声をかけることにした。

 

 

 

「こーんな時間から()()()なんて、良い御身分ですねー? ()()()()?」

 

「げっ!」

 

 あたしが声をかけたのは、『アーランド共和国(この国)』の大臣職を務めているトリスタン。通りの傍らで……親繋がりで一応はあたしと顔見知りではある『貴族』の娘とくっちゃべっているその姿は、妙に手慣れた雰囲気を漂わせ、その微笑みはあたしが声をかけた瞬間に崩れ、驚きの色に染まる。

 

「ほらっ。あんたもあんたで、職務放棄して女の子に誰彼構わず話しかけるような不真面目な軟派者に引っかかってんじゃないわよ」

 

 「いやっ、流石にそこまで言われるのは心外……」なんて言ってる奴がいるけど、気にせずに『貴族』の娘に言っておいた。すると、その子はあたしに軽く頭を下げて一言言ってからその場から離れて行った。

 

 

「……で? 仕事ほっぽり出してのナンパで、何か収穫はあったのかしら?」

 

「さっきの()が一番好感触だったんだけど……いや、そうじゃなくって、今のはナンパじゃなくってだね」

 

 そんな苦し紛れの言い訳にもなりそうにないことを言い始めた大臣(トリスタン)

 

 大臣であるコイツとは、『冒険者ギルド』が国営で切っても切れない関係にあることから、仕事上、少なからず繋がるがある。……が、それ以前から何かと付き合いはあるのだ。

 というのも、ロロナのアトリエが閉鎖の危機にあった頃、あたしはロロナの手伝いなどをしていたんだけど……ある時期からチョイチョイ顔を出してきてロロナの手伝いをするようになった人たちの内の一人が「タントリス」と名乗っていたトリスタン(コイツ)だった。……でもって、歯の浮くようなセリフでロロナに言い寄ったりする問題児でもあった。

 

 そんな奴がこうして仕事から抜け出して街行く娘に声をかけるのは……まあ、やっぱりコイツが軟派でロクでもない奴だったって話だろう。

 

「……なんだか、もの凄く失礼なことを考えられてる気がしたんだけど、気のせいかな?」

 

「失礼も何も、ただの事実よ。……んで、ロロナのことはついに諦めたの? それとも……まさかとは思うけど、さっきの娘のほうがロロナより魅力的だとでも言いたいのかしら?」

 

「諦めてなんかないし、それにロロナの方が……って、あれ? さっきのを止めたことといい、もしかして僕とロロナの仲を応援してく――」

 

「んなわけないに決まってるでしょ! 止めたのは、常識的に考えて仕事から抜け出してる奴を戻すべきだから。あとは……ロロナに寄ってくる悪い虫がいなくなるのは嬉しいけど、ロロナのどこかが悪いって思われるのは(しゃく)だったからよ」

 

 的外れな想像をし始めたトリスタンに言い放ったところ、「メンドクサイ人だなぁ……」なんて呟かれたけど、別にそのくらいどうとも思わない。というか、名前も立場も偽って、妨害工作するわけでもなく手伝って、最後には自分から離れて行って……という遠回りなことばっかりしてた奴にメンドクサイ人呼ばわりされる筋合いは無い。

 

 

 そんな奴にこれ以上時間を費やすつもりもないため、「仕事場に戻るように」と一言言ってから、とっととこの場から離れることにしようと思ったんだけど……

 

「一応、もう一回言っとくけど、アレはナンパとかじゃないからね?」

 

 まだ言うか……。

 たぶん、あたしの口からロロナへと伝わる事を案じて何とかしようとしてるんだろうけど……正直なところ、『王国時代(あのころ)』からロロナはコイツの事を「恥ずかしくなるような事を誰彼かまわず時と場も考えずに言う人」っていう認識だったから、今更どうしようもない気がするけどねぇ?

 というか、ロロナは例の「歯の浮くようなセリフ」もトリスタン(コイツ)から言われる分には慣れきってしまってて、「また言ってるよー」程度で何とも思われなくなっていそうな(ふし)さえある。

 

 それでも「まだいける」と思ってそうなあたり、一周回ってコイツがかわいそうに……は、思えてこないわね。あくまでロロナに寄ってくる悪い虫のひとりでしかないし。

 

 

「……じゃあ、ナンパじゃなかったなら、何だったのよ?」

 

 とはいえ、全く信じないのも流石に悪いと思い、そう聞いてみるけど……トリスタンは……

 

「あー、いや……それはー……さ?」

 

「うわぁ……」

 

 どう見てもアウトじゃない。

 言葉は詰まるわ、目は泳ぎまくるわ……むしろこれでどう信じろっていうのよ。

 

「いやっ!? 本当に違うんだって!」

 

「そうねー、違うんだろうし、気にしないことにするわー……ロロナに寄ってくる悪い虫が減って良かったわー」

 

「信じてない!?」

 

 

 足早に立ち去ろうとしたところ、必死に引き止められた……。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 引くぐらい必死だったから、仕方なく言い訳……もとい、事情説明を聞いてあげたんだけど…………

 

 

 

「うわぁ……」

 

「なんでそうなるのかな!?」

 

 別の意味でドン引してしまった。いや、だって……

 

「あの噂で心配になったからって、ロロナとマイスの関係進展妨害のためにマイスの所に見合い相手を差し向けるって……そもそも色々間違ってるし、あんた馬鹿でしょ?」

 

 なんていうか、遠回りし過ぎてるというか、無駄というか、ホントはロロナの事を射止める気は無いんじゃ……いや、ただ単にへたれてるだけか……。なんにせよ、そりゃあ、こんな調子じゃあ間が詰まるわけがないわ……。

 

 そんなことは全く思っていない様子のトリスタン(職務放棄大臣)は、妙に自慢げに胸を張って語り出す。

 

「そんなこと無いと思うけどなぁ……これはそう、必要な下準備……保険さ!」

 

「んなことしてる暇があるなら、普通にロロナ本人にアタックしたほうがよっぽど有意義に決まってるじゃない」

 

「やっぱり、なんだかんだ言って応援してくれてるんじゃ……」

 

「まず、そのすぐに仕事から逃げる根性を鍛え直して、これまでの軽率さを払拭させるほどの誠実さを身に付けて、ロロナの隣を歩いても恥ずかしく無いくらいファッションセンスを磨きあげて、絶対に他の女性になびかないと信頼されるくらい馬鹿真面目になってから出直してきなさい」

 

「……注文多くない?」

 

 これでも譲歩してかなり削ったくらいだというのに、目の前のトリスタンは不満そうに漏らす。……結局のところはロロナ自身なわけだから、あたしからは本当に最低限のことしか言ってないつもりなんだけど……それでも、厳しいと思ったのかしら?

 

 というかねぇ……

 

「そもそも、その()をどうにかしたほうがいいと思うわよ?」

 

「め?」

 

「焦ってるのか何なのか知らないけど……あんた、ものの見方がズレてるっていうか、視野が狭まってるわよ?」

 

 あたしの指摘を聞いて……首をかしげるだけだった。どうやら何が言いたいのか理解してないみたいで、声にこそ出ていないけど「はぁ? 何言ってるんだ?」と言いたげなのは一目でわかる。……目は口程に物を言う、とはよく言ったモノねぇ……。

 まあ、これ以上コイツに付き合う気もないから、端的にズバッと言って終わらせてしまい……いい加減、立ち去ってしまおう。

 

 

 

「あの子らの親友として言わせてもらうけど、()()()()()()()()()()()()

 

「……ん?」

 

「だーかーらー! 互いにそういう意識はしてなくって……近しい間柄であっても、あくまでそれは親愛とかそういう感じの……そうねぇ、あえていうならそれこそロロナが何時も言ってるような姉弟関係みたいな距離であって、それ以上は有り得ないって話よ」

 

 これは決して間違ってはいないと思う。

 

 絶対に一回も異性として意識したことがない……とまでは断言できないけど、あったとしても周りから何か言われたりした時くらいで、そこから数歩歩いたりすれば忘れるくらい……っていうのは言い過ぎかもしれないけど、大体その程度のものだろう。

 

 

 ロロナの方は詳しく確認をしたことは無いけど、マイスに関してはすでに少し前に恋愛関係の話をしてきたばかりでほとんどわかりきっていると言っても過言じゃない。面と向かってした質問をマイス(あいつ)がごまかすならともかくウソで返せるわけもないので、ほぼ間違い無く本音だったはずだ。

 

 例の噂から話題が転じて「結婚相手はいないのか?」って話になったんだけど……その時、マイスが真っ先に挙げた()()によって候補が選別されたわけだけど……「マイスが金のモコモコ(あの毛玉)である」ことを知らないため、その候補の中にロロナは残らなかった。

 けど、それは正直、あまり意味は無い。というのも、どうやらマイスは自分があの毛玉であることを明かす必要性を特別感じていないような部分があり――それはまあ、そうなのかもしれないけど――ロロナに対しても明かすタイミングが無いだけで、明かしたくないという拒否的な意識は無いらしい。そして、ロロナはといえば……ほぼ間違い無く気にしないだろう。むしろ相乗効果で愛で始めるだけじゃないかしら? どこぞの「モコちゃん(毛玉)大好きっ!」なあの後輩受付嬢(フィリー)みたいに……。

 そして、仮にあの時、候補に残ってたとしても……ホム(あの子)と同じく「一緒にいるのは楽しいけど、そういう目では見れない」みたいな感じで落ちつくはずだ。

 

 

「第一、良くて「恋に恋する少年少女」、最悪「純粋無垢な幼児」レベルの恋愛観しか持ち合わせていなさそうなあの二人が、マトモにお付き合いだなんて出来ると思う? まず、よっぽどの事でもない限りその段階までいかないでしょ?」

 

「……えっ? あー、うん。そんな気もしなくも無いような……? 特にロロナはともかく、マイス()のほうは僕と同じ男なのかどうかも怪しいくらいだと思う」

 

 結構な言われようである。

 でも、事実、トリスタン(こいつ)は知らないでしょうけど、『豊漁祭』の『水着コンテスト』でのことを思い返せば……あの元騎士ですら赤面したりと()()があったのにマイスはいつも通りだったりと、まあ確かにアイツは同年代の男性と比べてそういう方面に疎い感じがあるから、そのくらい言われても仕方ない気もする。……もちろん、あたしもそう思ってる。

 

「まぁ、そんなんだから、あの仲良し二人組の間柄は気にするだけ無駄だって話。わかったら、裏でアレコレする前に、ちゃんと仕事に戻って真人間になりなさい」

 

「うーん……姉弟ってアレくらいが普通、なのかなぁ?」

 

 言うこと言ったあたしは、改めて『職人通り』方面を目指して歩きはじめる。

 トリスタンはいまいち納得できてはいない様子だけど、今度は立ち去るあたしを引き止めたりはしなかった。それは、納得云々じゃなくて、ナンパの誤解を一応は解けたからなのかもしれないけど……。

 

 

 

 何はともあれ、これでようやくあたしはアトリエへと行けるわけだ。

 

「たっく……無駄に時間費やしたっちゃわね」

 

 その分、アトリエでは気持ち普段以上にノンビリしようと考えつつ、わたしは足早に歩を進めるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「色々と思うところはあるけど…………「()()()()()()()()()()」ねぇ……ふぅん? もしかすると、案外()()()()()のほうが……」

 

 

「何処だぁ! トリスタン!! また仕事を放り出して、抜け出しおって!」

 

 

「げぇっ!? 街は広いっていうのに……なんで親父はこうも変に勘がいいのかなぁ? 見つかる前に、大人しく先に執務室に帰るとしますか……」

 




※『クーデリアルート』特有の変化※

……というよりも

※『ロロナルート』以外※
 トリスタンがちょっと焦ったりして行動はするものの、すぐに思いとどまる程度には余裕がある(『ロロナルート』と比べ、ロロナとマイス君の絡み自体が減ってる&トリスタンが目撃する機会も減ってるから)

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