マイスのファーム IF【公開再開】   作:小実

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 RF4では『バレンタインデー』『ホワイトデー』に分かれ、それ以前には『感謝祭』の名前で知られるイベント。
 『アーランドシリーズ』ではアプリの『アトリエクエストボード』にて期間限定イベントで『バレンタイン』『ホワイトデー』のイベントがあります。


 今回は、その『アトリエクエストボード』でのイベントをベースに「細かいところは気にするな」精神で書いています。

 時期的には【*5*】前後くらいのタイミングを想定していますが、あまり気にしてはいけません。
 主に、「イベントの概要」、「本編および各ルートでの状況・感情面整合性」等が色々と変化しておかしくなっています。


 また正確には「前編」ではなく「分岐点前」というのが正確な表現となります。


EX
感謝祭・前編(甘くはない)


 

 

【IF】感謝祭・前編【EX】

 

 

 それは、本当にのんびりとしたいつも通りのお昼前。

 

 

 『エビルフェイス(塔の悪魔)』を倒したことで冒険者となった当初の目的だった「おかあさん探し」にも区切りがつき、それ以外でも期限が迫った依頼もこれといって無く、トゥトゥーリア()は少しばかり暇を持て余しちゃってた。

 (こっち)での活動の拠点にさせてもらってる『ロロナのアトリエ(先生のアトリエ)』を朝から出て、そう目的も無く『アーランドの街』をふら~っと散歩してみて…………何があったってわけじゃないけどなんとなく満足したトトリ()は『ロロナのアトリエ(先生のアトリエ)』へと帰ることに。

 

 その帰り道の途中、『ロロナのアトリエ(先生のアトリエ)』のすぐそばの雑貨屋さんの前を通り過ぎようとしたその時、「あっそういえば……」と前回の調合で使い切る直前までに減らしてしまった素材(モノ)があったことを思い出して、急きょ雑貨屋さんに立ち寄ることにしたんだけど――――

 

 

 

―――――――――

 

 

 

***ロウとティファの雑貨店***

 

 

 

「あれ?」

 

 雑貨屋さんに入ってすぐお目当ての素材(モノ)を買うために、普段ソレが置いてある商品棚のほうへと向かおうとして、ふと違和感を感じた。

 

 その違和感の原因はすぐにわかった。

 いつもと商品の位置がちょっと変わってる、というよりも正確には――――

 

「なんだか、(かたよ)ってる?」

 

 いやまぁ、こういったお店の壁際じゃないお店に入ってすぐに目にはいる位置の商品棚に置かれる商品は、季節や流行、仕入れの状況によって入れ替えられて所謂(いわゆる)「おすすめの商品」としてキレイに並べられるっていうことは知ってるつもりなんだけど……それでも、ある程度はばらつきがあったような気がする。

 ただ、今日(今回)のおすすめの商品は、色々あるにはあるんだけど……コレ、ある意味一種類だよね?

 

 

 そう、棚いっぱいに並べられているのは、形や包装の色、そしておそらくは入っている素材(もの)やそれによって変わる味に違いがあるんだと思われる、シンプルな板状のものからちょっと手間がかかってそうなものまで沢山の種類の『チョコ』。色々あるけど、この棚には『チョコ』だけしか置かれてない。

 

「でも、どうしてこんなに『チョコ』ばっかり……?」

 

 これまで聞いたこと無かったけど『青の農村』で作られてるお野菜みたいに『チョコ』にも旬があるのかな?

 

 

「あら? もしかして、トトリちゃんは知らなかったかしら?」

 

 並べられた『チョコ』を前に首をかしげてしまった私に声をかけてきたのは、もちろんこのお店の店主の――

 

「ティファナさん、こんにちは! あの、それで、知らなかったっていうのは……?」

 

「このあたりだと、『チョコ』をプレゼントして相手に想いを伝えるっていう風習があってね。それで、ちょうどこの時期くらいからみんな用意を始めるから、その素材や完成品をウチの店でも取り扱うようになってるの」

 

 「トトリちゃんがいた村ではしてなかったかしら?」ってティファナさん聞かれて、思い返してみる。

 

 うーん……あったような、なかったような……?

 先生から『錬金術』を習うまでは私って自分で何かするってことも無かったし、そもそもゴハンとかおやつとか時々お手伝いすることもあったけど基本的になんでもおねえちゃんがしてくれてて……『チョコ』を貰ったことはあっても、それが同じ(この)時期だったかどうかは、憶えてないや。

 

 だけど、「想い」を伝えるなんてそんなイベントがあったなら、今よりもこどもだったとはいえ私が興味を持つと思うんだけどなぁ……? だとしたら、知っててもおかしくない気もしなくはないから、知らないってことはやっぱり『アランヤ村』ではしてなかったのかな?

 

 ……あれ? そういえば、普通に()()()()()()()()()()想像ちゃってたけど――――

 

「いちおう確認なんですけど……「想いを伝える」っていうのは、アレなんですか? そのー、こっ恋人とかそういう……?」

 

「ふふっ。もちろんそういう意味もあるけれど、家族やお友達への感謝の気持ちを伝える日でもあるわよ?」

 

「あぁ、そうなんですね」

 

 なんだ……安心したような、ちょっと残念なような……。 

 変に身構えちゃってただけに、どっと力が抜けて――――

 

 

「もっとも「感謝を伝える日」は別にもあるから、気になる相手への告白の意味合いが強いのも確かなのよねぇ」

 

「うぇえっ!?」

 

「あらあら? その反応……もしかして、トトリちゃんにもついに()()()()()()()が出来たのかしら?」

 

「そっ! そういうわけじゃ……!!」

 

 ううっ。否定しても、ティファナさんは意味有り気に微笑むばっかりでちゃんと聞いてくれない……

 それは、まあ、私だってそういう話に全く興味が無いって言ったらウソになっちゃうけど、だからと言って「自分が」ってなるとそれはまた別問題だよね。……興味がないわけじゃないけどっ。

 

 

 

 何はともあれ、そんなイベントがあるってことはわかったんだけど、一つ疑問が……

 

 

 

「私って、そういうイベントはマイスさんのところで真っ先に知るはず……なんで教えてもらってないんだろ?」

 

 

 

 

 

―――――――――

 

***ロロナのアトリエ***

 

 

 とりあえず買う物を買ってから帰り着いた『ロロナのアトリエ(先生のアトリエ)』は、普段よりちょっとだけ賑やかだった。

 とは言っても、依頼が沢山舞い込んで忙しくしてたとかそういうわけじゃなくって、お客さんが来てただけなんだけどね。

 

 ロロナ先生と、お仕事がお休みだから先生に会いに来たっていうクーデリアさん。私が出掛けてる間に来て、すれ違いになっても悪いしその内帰ってくるだろうからと待ってくれてたミミちゃん。あと、何の用事かは詳しくは知らないけど、昔先生のお手伝いをしてたっていう――けど、私の中ではどちらかというとマイスさんとセットなイメージのある――ホムちゃん。

 帰ってきた私を入れて5人――と、それに加えて『ロロナのアトリエ』にいるちむちゃんたち4人が、今アトリエにいることに。

 

 

 

 

 私はとりあえず、先生からお茶を受け取りながら、お散歩中のこととを……そして、雑貨屋さんで聞いたイベントの話をしたんだけど――

 

 

「あー! あったね、そんなイベント。なつかしいなぁ~」

 

 先生以外も「そういえば」といった感じで、思ってたのとは違ってみんな興味が薄いみたい? あれ? もしかして、「ちょっと楽しそうだなー」なんて思ってたのは私だけなのかな?

 あと、ミミちゃんに関しては、送る相手(ともだち)がいた事にちょっと驚いてる……あっ、友達じゃなくて家族かな? それなら納得だね。

 

 というか……

 

「「そんな」って……。先生、なんだか少してきとーな扱いしてる気がするんですけど、もしかして嫌いだったりしました?」

 

「そ、そんなこと無いよ!? 良い風習だと思うし、私自身も色々と思い出もあって……!」

 

 ロロナ先生がなんとなくだけど()()()()()反応をしてる気がして、そこをつついてみる。すると、思った通りではあるんだけど、思った以上に動揺してて目が泳ぎ出してた。

 一体どうしたんだろう? ……もうちょっと、つっついてみよう。

 

「本当ですかー?」

 

「ううぅ~……感謝を伝えたり大事なイベントだって言うのはわかってるし、嬉しいし、気合も入るけど……けど、チョコの調合の依頼が山ほど入ってきて何日もチョコばっかり調合することになったり、国からの課題の進行具合とかと変に被っちゃったら、それはもう大変で大変でー……」

 

 ほんのちょっと涙目になりションボリしながら話し出すロロナ先生。

 

 その話を聞けば、先生のさっきまでの反応は納得はできた。

 国からの課題っていうのは、話には聞いてはいるあのアトリエ存続のためのやつだったよね? つまりは、楽しいことだけじゃなく、大変なこともたくさんあったってこと……うん、『チョコ』の依頼で忙しかったってことも含めて、きっと先生自身が楽しめるような状況じゃなかったんだろうなぁ。

 

 と、先生が言ってたことに静かにだけどしっかりと頷いていたホムちゃんが、私が見た限りではいつも通りの表情で――でも、こころなしか声はトーンが落ちてる感じてて――当時の事を少し付け加えて教えてくれた。

 

「時期的には課題の期限そのものと被ることはありませんでしたが、それでも休む暇も無いようないわゆる「修羅場」というやつでしたね。……ですが、今のアトリエの(この)様子を見る限り、どうやら最近はそういう依頼は入ってきてないようで」

 

「そういえば、イベントがあるなら依頼が入ってきててもおかしくないんだけどなぁ?」

 

「確かに……。それに、これまではトトリがそういった依頼受けてたことってなかったわよね?」

 

 ミミちゃんが(こっち)のほうを向きながら聞いてきたけど……ミミちゃんが言ったように、言われてみれば私が『ロロナのアトリエ(先生のアトリエ)』を借りて活動するようになってから何年も経ってるけど、これまでにそういった依頼は無かった気がする。

 いや……一応『パイ』とか他のお菓子関係の依頼に交ざって『チョコ』系もあったような? でも、そんな大忙しになるほどじゃなかったし、そもそもこの時期でもなかったから、気のせいかな?

 

 とにかく、今までの話を聞く限りじゃあ、本来今頃こんなのんびりとお茶飲んでお喋りしてる暇なんて無いはずなんだけど……なんでだろう?

 

 

 そんな私たちの疑問は、今までチョビチョビと香茶を飲みながら話しを聞いてたクーデリアさんだった。

 

「それは、アレよ。ロロナが前に旅に出てた時期があったからよ」

 

「ふえ?」

 

「先生が旅に出て? ……あっ、もしかして?」

 

 一瞬、頭に疑問符(ハテナマーク)が浮かんじゃったけど……ここまでの話を改めて振り返ってみたら、クーデリアさんの言おうとすることは大体予想できた(わかった)

 私の考えが読み取れたのか、クーデリアさんは短く「そっ」と頷いてからそのまま話しを続けた。

 

「アトリエに誰もいなくなれば当然依頼も来なくなって、アトリエにお願いしてた人たちは他所に頼むようになったのよ。昔からこの時期には『サンライズ食堂』とかでも『チョコ』を取り扱ってたりしててね」

 

 そう言ったクーデリアさんだったけど、そこから「でも……」と少し話を変えつつ話しを続ける。

 

「もっと結果的なことを言えば、アトリエに来てた分を他所に回っても、ただでさえ忙しかった所に注文が増えても限度が出てイベントそのもののあり方も微妙に変わっていったのよ。つまりは、頼む側もそれとなく察せて……ちょっと過程は省くけどそれから色々あって、このイベントでのプレゼントの主流が市販のシンプルな既製品の『チョコ(ヤツ)』か、それを元にして作った手作りの『チョコ(ヤツ)』になったの」

 

「なるほど。それで『ロロナのアトリエ(ここ)』に私が居るようになる時期には、もうアトリエに『チョコ』の依頼をする人がいなくなってたわけですね」

 

 でも、少し勿体ない気がするなぁ。

 依頼が来てたら、このイベントの事をもっと早く知れてたわけだし、お菓子作りも別段嫌いなわけじゃないし、当然プレゼント様に先生やミミちゃん、他にもお世話になってる人たちの分とか、ついでに自分の分も作っちゃったりして……

 

 ……ううん、冷静に考えたらちょっと無理だよね。今でこそ余裕が出来てるけど、『冒険者免許』の期限の事やおかあさん探しのことを考えると、そんな『チョコ』作りに没頭するヒマはあんまり無かっただろうなぁ。というか、今の私なら何とかこなせるかもしれないけど、(まえ)の私じゃあそんな沢山の『チョコ』の依頼を期限を守りきれなかっただろうし……。

 先生、アトリエの存続がかかってた時期らしいのによくやれたよね……。おっちょこちょいなところもあるけど、『錬金術』に関しては昔から凄かったのかな?

 

 

 いや、でも……うん。改めて考えても、依頼のほうは無理だったとしてもイベントのことについては早く知っておきたかった。

 それはまぁ準備とか色々大変な部分もあるだろうけど、せっかくの楽しそうなイベントなんだから多少忙しくてもちょっとだけでもいいから参加しておきたかった。こういうのって、やっぱり楽しんだもの勝ちだし、どうせならお祭りみたいにみんなで盛り上がった方が…………なんだか、考え方がマイスさんみたいになっちゃってる?

 

 

 

 

 

 って、そうだった!

 私が今回のイベントを今の今まで知らなかった大きな要因って、やっぱり()()()()だと思ってるし、それが一番の疑問なんだ。だから、先生たちに聞かないと!

 

 

「あのっ! ティファナさんから聞いてからずっと思ってたんですけど……私、こういうイベントって大抵マイスさんのところで知るんです。だけど、今度のは今まで聞いた憶えが無くって……その、もしかして、何か理由があったりするんですか?」

 

 疑問に思っていたことを口にしたところ――

 

 

「えーっと……『青の農村』のお祭りには含まれてないし、告白とかそういうのはもちろん、()()()()()()()()()……マイス君だし、ね?」

 

 そう言ってちょっと困ったような笑みを浮かべる先生。

 でもマイスさんは、告白とかソッチ方面はそれはそうかもしれないですけど、感謝の気持ちはむしろ人一倍表しそう(ありそう)な気が……。

 

 

「おにいちゃんは感覚がズレてますので。おそらくは、そういったおにいちゃん特有の事情もあってお話になる機会が無かったのだと、ホムは思います」

 

 ホムちゃんはどこか残念なものでも見るような目をしてマイスさんの事を語った。

 マイスさん特有の事情? それがいったい何のことなのかはわかんないんだけど、感覚がずれてるのは否定できないし、する気は無い。

 

 

マイス(あいつ)の頭の中じゃあ「お祭り=皆で賑やかに」みたいになってんでしょ。……けど、参加自体はちゃんとしてるんじゃないかしら? リオネラは街にいない間はしらないけど、フィリーなんかは熱心に毎年あげてたみたいだし、それに対して律儀なマイスがお返しをしないわけがないし」

 

 私はクーデリアさんの言葉の前半で凄く納得して――後半には凄く驚かされた。

 えっと、もしかして……いや、もしかしなくても、わざわざ名前を出された二人は――――ううん、やめとこう。そもそも、それは私が聞いても良いものなのかな?

 いいなら、もうちょっと聞いてみたいんだけど……

 

 

「マイスさんはイベント自体はちゃんと把握してた(知ってた)わよ? ただ……前にいたところでは、似たようなお祭りを話に聞いたことはあっても、実際にしたことは無くて「どうにも馴染まない」とか「いつものおすそわけとの違いがわからない」とか言ってたわ」

 

 ミミちゃんは、クーデリアさんよりも詳しくマイスさん側の認識を教えてくれた。すっかり忘れてたけど、マイスさんって私と同じで『アーランドの街(このあたり)』出身じゃなかったんだったね。

 似たようなお祭りを話に聞いたことがある、ってことは他所の街でもそういった風習があったりするってことかぁ。街でのこともそうだけど、本当私が知らなかっただけで、意外と有名なのかな?

 そして……確かに、マイスさんって昔から「沢山出来てもったいないから」とか「いつもお世話になってるから」とか何かと理由をつけて、畑で作った野菜とかソレらを加工した『パイ』とか諸々を普段からよく持ってきてくれたりしてた。そう言われてみれば……なんというか特別感が無い気がするかも? もしかして、先生が言ってた「()()()()()()()()()」っていうのは「普段からやりまくってるから周囲もマイスさん自身も変に薄れてる」とかそういうことだったり……?

 

 

 というか、それら以上に気になるのは……

 

 

「ミミちゃん、まるで聞いたように具体的に言ってるけど……もしかして、そういう話をマイスさんとしたことがあるの?」

 

「あるもなにも、私がこのイベントの事を教えてくれたのはマイスさんで――――はっ!?」

 

 言ってる途中で()()に気付いたようで、ミミちゃんは柄にもなく目と口を大きく開いてしまいながらも、なんとか言葉を止めた――けど、もう遅いんじゃ? 私を含め、アトリエにいたみんなの視線がミミちゃんに突き刺さっちゃってる。

 そんな視線を一身に受けたミミちゃんは、案の定、これでもかというくらい顔を真っ赤っ赤にしちゃって……そして、首と手を振りながら「ちがうわよっ!」って必死に弁解(ごまかそうと)しだした。

 

「別に街出身なのに、全然知らなかったとかそういうんじゃなくて……だいいち、あの頃はまだ私はこんくらい小さい子供で知らなくて当然だったのっ! そこに本当にたまたまマイスさんがいて、怪我とか心配だからって『チョコ』の作り方とかも一から教えてくれたってだけで……!!」

 

「……前から思ってたけど、私と初めて会った時のミミちゃんって「マイスには会わないー」とか言ってたのに、実際はマイスさんのこと凄く知ってるし、よくお喋りしててなんだかんだで仲も良いよね? それに今の話じゃぁ結構昔からの知り合いだったみたいだし……一体、どういう関係なの?」

 

「関係!? そっそれはーまぁその……知り合い――昔からお世話になってるんだし、それはちょっと違う気が……? いいえっ、ともだ――でもないし……」

 

 一人でブツブツ呟いてうんうん唸りながら左右に何度も首をかしげるミミちゃん。

 ついには考えるのを放棄したのか、「あーもうっ!!」っておっきな声をあげて――――

 

 

「だだだっだからって、別にこうなんか特別とかそう言うのじゃないわよっ!? 『チョコ』をプレゼントしたのだって作り方教えてくれたののお礼と、あくまでお母様のオマケなんだから!!」

 

 

((((プレゼントしたことはあるんだ))))

 

 ……そこまでなら、やっぱりミミちゃんとマイスさんってただの顔見知りとかそういうのじゃないんだろうなぁ。

 気にはなるけど……でも、これ以上聞こうとしたらミミちゃんが逃げたり暴れたりしかねないから、今はやめとこう。

 

 それにしても、聞いてもいないことまで暴露してるけど……いいのかな? けど、結局はミミちゃんが恥ずかしいだけなわけだし、そんなに気にする必要はないかも?

 

 

 

 と、ミミちゃんの赤裸々な情報漏洩に、勝手に色々と考えてしまってる私だけど、周りのみんなも各々思い思いに好きに言ってるみたいだ。

 

「でも、ミミちゃんったら、そんなに恥ずかしがらなくていいのに……。わたしだってマイス君や他の人にも『チョコ』あげたことあるし、お世話になってる人にプレゼントするくらい普通だよ」

 

「以前グランドマスターが言ってました。「有ること無いこと意識して過剰な反応を示すのは若さゆえで、歳を取ればイタイだけ――だが、どちらもイジル分には面白い!」と。そして「ホムは『チョコ』を渡す際にもっと様々な変化を加えて相手をからかい尽くすべきだ」とも言ってました」

 

「何言ってんのよアストリッド(あいつ)は……。マイスとミミ(あのふたり)に関してはちょっと面倒だし仕方ない気はするけど。……あたしもギルド連中に配るための『チョコ』、そろそろ用意をはじめないとかしら」

 

 ミミちゃんの反応に「もしかしたら」の可能性については全く考えてない様子の先生に、なんだかマイスさんとは別方向にズレてる気がするホムちゃん。

 クーデリアさんは「あいつ」とか「あのふたり」っていうのはよくわからないけど、その表情からするに気苦労が絶えないみたいで……。それに、『チョコ』のプレゼントに関しても先生達とはなんだかちょっと違う感じ?

 

 

 というか、やっぱりというべきか、『アーランドの街(コッチ)』にいた事のある人達は、聞いてる限り皆このイベントに参加したことがあるみたい。

 私の勝手な妄想かもしれないけど、なんだか凄い疎外感が……

 

 

「せっかくの機会だし、今から準備して私も参加してみようかな?」

 

 感謝の気持ちっていったら、おねえちゃんやメルおねえちゃん、村の人たちにも何人か……あと、今ココにいる先生たちと、他には――――

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

***マイスの家***

 

 

 

「うっかり忘れてだけど……もうそんな時期だったんだね」

 

 今朝、起きてすぐに取り掛かっていた日課の畑仕事。その最中にコオル君が来て僕に渡した『チョコ』。

 「いきなりどうしたんだろう?」と首をかしげてると、コオル君は「まあ、最近の様子からして忘れてるとは思った」って言って――予想してたらしいのに、呆れ顔で大きなため息を吐いてたんだけど――いちから説明してくれた。

 

 

 とは言っても、僕もその説明の途中で思い出しはした。

 

 『青の農村(ウチ)』のお祭りには含まれていないものの、昔からの風習として続いているイベントで、内容としては、『シアレンス』のあるアッチの世界では『バレンタインデー』や『ホワイトデー』、『感謝祭』と呼ばれるお祭りと似たものだ。

 行われる時期やプレゼントするモノがそれぞれ微妙に違ったりするけど、おおよそは同じような行事(もの)……だと思う。『シアレンス』ではそういったお祭りは行われてなくて、必然的に僕も参加したことが無いわけだから大体でしか知らないからなぁ……。

 

 

 なにはともあれ、コオル君のおかげで思い出すことが出来た僕は、大急ぎで『チョコ』のお菓子を作りだした。

 都合のいいことに、材料自体は沢山あったから問題はRP(ルーン)次第だったんだけど……いざとりかかると、常日頃から料理をしていた僕には大した問題じゃなくて、ポンポン作ることが出来た。

 

「これだけ用意してとけば、とりあえずは大丈夫かな?」

 

 急ごしらえなため、全部(みんな)一緒のものになっちゃったけど、これでお返しができないっていう最悪の事態は免れただろう。

 

「待てよ? こういう時は、僕のほうから配って周ったほうが良いのかな?」

 

 そうなると、もっと用意したほうが良いかな? 『青の農村(ウチ)』にいるモンスター()たちにもあげたら喜んでくれそうだし……

 

 

 そうと決まれば、追加で作る作業を――――

 

 

 コンコンコンッ

 

 

 ――――そう思って改めてお菓子作りにとりかかろうとした僕の耳に、玄関のほうからノックの音が聞こえてきた。

 

「はーい! 今行きまーす」

 

 

 

 

 

「お腹を空かせたロロナかな?」◀

「クーデリアかもしれない」◀

「おつかいしにホムちゃんが?」◀

「トトリちゃんだったり……」◀

「規則正しいノックはミミちゃんだね」◀

「リオネラさんが律儀に今年も?」◀

「フィリーさんがモフリに……!」◀

「……誰だろう?」◀

 

 


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