※2019年工事内容※
誤字脱字修正、細かい描写の追加、一部表現の変更、句読点、行間……
【*4*】
***アーランドの街・冒険者ギルド***
『冒険者ギルド』。
『アーランド王国』が『アーランド共和国』となった時、様々な事情・経緯を経て確立された職業・冒険者が集う場所であり、その冒険者の登録やランクアップ等業務、活動の補助、依頼の斡旋が行われる場所である。
そんな『冒険者ギルド』なのだが、今日は何故か少しばかり空気が違う……と、入ったクーデリアは思った。
朝一に来て『冒険者ギルド』を開けるのは、勤めている人たちの中から当番制で決まっており、その日はクーデリアの当番の日ではなく、別の人……ちょうどフィリーが当番だったのだが……。
「あわわわわ……!?」
「……なにこれ」
『冒険者ギルド』に入ったクーデリアが目にしたのは、自分の持ち場である依頼の受付カウンターで、直立しこれでもかと言うほど震えながら口をパクパクとさせつつ目を泳がせているフィリーだった。
いや、でもまぁ、仕事から逃げたりすることも過去にあった事を考えると、自分の持ち場にちゃんとついているだけ
「にしても……
そう言うクーデリアが目をやるのは、受付カウンター以外の場所で
清掃や案内役、書類整理や記録保存の裏方等々様々な業務を行う人がいるのだが……まだ全員揃っているわけではないが、今、目に入る範囲にいる者はもれなく、クーデリアの目には何やらいつもとは様子が違うように見えた。
なんというか、落ち着きがないというか、心ここにあらずというか……
そんな光景を、ただつっ立って見ていたところでどうしようもないクーデリアもわかっていた。
故に、「なんか面倒くさそうね……」と思いため息を吐いてしまいながらも、自分の持ち場である冒険者免許関連の受付カウンターへと向かうのであった。
――――――――――――
カウンターについたクーデリアは、まずは身の回りを整え確認し、いつ業務が始まっても――利用客が来ても問題がないように準備を終えた。
ここからはいつもならば免許関連の書類整理を行ったり、他所からあがってきた書類や報告の確認をして、勤務している人としてではなく一般的な利用者から見て『冒険者ギルド』が開くまでの時間を有効利用するのだが……
「あばばばばっ……!」
「…………はぁ」
隣の受付で相変わらずガクブル状態のフィリーが気になってしょうがなく、放っておいても後々の業務で失敗されて結局はクーデリア自身にも支障が出るのは目に見えている。そのため、気は乗らないもののクーデリアはフィリーを何とかすることにしたのだ。
「ちょっと。さっきからずっと変だけど……正直、気持ち悪いわよ? どうしたのよ」
「うぇぅっ!? く、クーデリア先輩!? いつの間に……っていうか! どうしたも、こうしたも、無いですよ~!?」
驚いたことに――いや、薄々そんな気はしていたが――今の今までクーデリアのことに気付いていなかったフィリー。
かけられた声に驚き、跳び上がってからクーデリアのほうへ向きなおるフィリーの目は涙目になっていてる。どうやら大事……でもないかもしれない。フィリーが泣くのはよくある事であり、場合によっては悲鳴からの気絶というコンボもあるくらいだ。
「結局、何があったのか」その説明をしびれをきらしたクーデリアが催促するよりも早く、フィリーが目に涙を溜めたまま話し出す。
「結婚ですよ! 結婚!! マイスくんが結婚するって話です!」
「ふーん……で?」
「で、って……! 一大事じゃないですかぁ!? このままじゃあ私、お姉ちゃんの二の舞……ヒィ!?」
何を言おうとしたのかは知らないが、顔を青くしてより一層震えだすフィリー。それを見ていたクーデリアは呆れ顔で言う。
原因は……まあ、おそらくは
「いやまあ、確かにアンタはマイス以外にまともに接せる男がいないのは知ってるけど……自分の将来のこと心配するなら、マイスのことで一喜一憂するより、まずは対人恐怖症まがいのソレをなんとかすることが先じゃないかしら?」
「そんな簡単に何とかできるなら苦労してませんよ~!? ……って、あれ?」
「わーん!」と泣き出しそうになっていたフィリーだが、ふとここまでの会話で違和感というか疑問に思ったことがあったのだろう。目をパチクリとまたたかせた後、その顔をクーデリアのほうに少し寄せて問いかけた。
「あのー……クーデリア先輩? マイスくんの結婚の話、驚かないんですか?」
「まあね」
「ええっウソ!? 前から知ってたとか!? あっ、え……も、もももっもしかして、お相手ってクーデリアせ――」
「違うわよ? 何口走ってんのよ、アンタは……」
「頭が痛いわ……」とでも言いたげに、片手を自分の
「いちおう確認だけど、その話ってマイスから直接聞いたんじゃないわよね?」
「えっ、まぁ……朝、ここに来る途中に街の通りにいたおばちゃんたちから聞いた話ですけど……」
「なら、ただの噂話じゃない」
そうビシッと言って話を終わらせるクーデリア。
しかし、あんなに慌てふためいていたフィリーが、説明になっているか微妙なくらいの短い会話で納得できるわけも無く……だが、それを見越してか、察してかはわからないが、フィリーが口を開く前にクーデリアが言う。
「仮に本当に結婚するんだとすれば、噂で聞くよりも先に
「ああ……そんな気はしなくもないですけど……」
「そういうこと。あくまで誰が行ったかもわからないような噂話なんだから、気にするほうが馬鹿らしいわよ」
そう言った上で「ほらっ、仕事の準備に戻りなさい」と付け足したクーデリア。対するフィリーは、頷ける部分があるのも事実だが完全にスッキリしたわけでもないようで、少し不満げにしていたが「はーい……」と返事をして、依頼書の束の整理を始めた。
それを見たクーデリアもまた、自分のすべきことに手を付け始めるのだった……。
そんなことがありながらも、いちおうはいつも通りの業務に戻ったわけなのだが、業務が始まってからというものの……
――――――――――――
ある時は、依頼をしに来るだけの街の御婦人がクーデリアのほうの受付にも来て……
「あの村長さんが結婚するんだって? お相手が誰だか聞いたりしていないかい?」
「聞いてないわ。そもそもアレは噂話でウソみたいなものだから真に受けるんじゃないわよ」
――――――――――――
ある時は、普段は『冒険者ギルド』を利用することはまず無い『貴族』出身の子共が来て……
「ねぇねぇ! マイスが結婚するって話、本当? お祝いって何してあげたらいいと思う?」
「アレはウソだから、祝う必要は無いわ。というか、アタシに聞くんじゃないわよ。ほら、帰った、帰った」
―――――――――――――――
ある時は、普段はおどおどしていて記憶にあまり残らない
「あの村長さんの結婚相手がクーデリアさんだと聞きました……でも、諦められないんです! クーデリアさん! 貴女を一目見た時から好きでした!! 無茶を承知で言いますが、自分とお付き合いを……!!」
「アイツもあたしも結婚はしない。あと、アンタはウソの噂も見抜けないその節穴な目と耳を取り換えるかどうかしてきなさい」
―――――――――――――――
ある時は、『青の農村』の人が何故かわざわざクーデリアのところまで来て……
「あのっ、あのっ! 村長が結婚って本当なんですか!?」
「……いや、なんでコッチに来るのよ。本人に聞きに行きなさいよ、そこは」
―――――――――――――――
***青の農村・マイスの家***
「……ってことがあって、正直な話、業務に支障が出てるのよ。早く何とかしてくれないかしら?」
「いやぁ……そう言われても困るかなぁ。僕からしてもどうしようもないというか……ね?」
苦笑いをしながら首をカクンッと傾けるマイス。
そんなマイスと、
何故、クーデリアがマイスの家に来ているのか……それは言わずもがな、例の噂によって引き起こされた面倒事の文句を言いに来たのが半分。あとは、一応マイス本人からちゃんと確認を取っておこうとクーデリアが考えたからである。
そのため、クーデリアは仕事を終えてすぐにマイスの家へとむかったのである。
そうしてクーデリアがマイスの家へ訪問したわけなのだが……そこでちょうどマイスが晩ゴハンの用意をしていたため、急きょそれを二人分に増やしてマイスはクーデリアを晩ゴハンへ招待したわけだ。
「それにしても、なんでこんなことに……。ずいぶんと噂が独り歩きしちゃってるっていうか、いつの間にか村や街どころかもっと外にまで広まっちゃってるくらいで……勢いが凄すぎて手の付けようが無いんだよね」
「なんでって、何か心当たりは無いの? なんかこう……きっかけとか」
「たぶん、このあいだ『
心底どうしてこうなったかわからない、といった様子で首をかしげるマイス。
そんなマイスの様子を見て、改めてやはりただの噂なのだと確信したクーデリア。だが、同時に「
「噂の事とか抜きにして……実際のところはどうなのよ? 予定だったり、結婚のこととか考えたりしてないものなの?」
これまでの話の延長線上ではあるが、ただ単純に興味本位で問いかけるクーデリア。
その問いに、マイスは「うーん……?」と腕を組んで少し悩んだ後……ゆっくりとしゃべり出した。
「考えたことが無いわけじゃないけど、とりあえず今は予定は無いかなぁ?」
「あら? そうなの? アンタの事だから、なんだかんだ言って相手の一人や二人いるもんだと思ってたんだけど?」
意外そうにしながらも、マイスをからかうように言葉を続けたクーデリア。その言葉にマイスは少し苦笑いをもらして「二人もいちゃダメでしょ」とツッコミを入れた後に自分の考えを述べ始める。
「学校の事とか、やるべきことがいっぱいあるから……っていうのもあるんだけど、やっぱり出身地とか『ハーフ』であることとかを考えたら、どうしてもさぁ」
「ああ……あたしが「アンタの考え過ぎだ」とでも言ってあげられればいいんだけど、流石に無責任に言っていいほど軽いでも無いものねぇ……。けど、逆に言えばそこを受け入れてくれる人なら良いってわけでしょ?」
「最低でも……って付くかもしれないけどね。じゃないと相手に迷惑になっちゃうし」
そうマイスが言うように、長い目・広い目で見れば結婚相手以外の周りの人からも受け入れてもらえていないと、肝心の結婚相手に少なからず被害が出てしまいかねないだろう。
……だが、それでもやっぱり最初に考えるべきは「相手が受け入れてくれるかどうか」だろう。
その点を考えた上でクーデリアは口を開いた。
「アンタの事を知ってるのっていえば……確か、リオネラとかフィリーとか、そのあたりだったかしら? その二人とかは結婚相手にはどうなの?」
「ええっ!? そ、それはー……二人とも可愛くて、綺麗で、優しくて、いい人だとは思うけど……リオネラさんはなんて言うか仲はいいんだけど、いつも一歩引かれているっていうか時々壁を感じてさ「ちゃんと本音で話してくれてるのかな?」って不安になることがあって。フィリーさんはどっちかと言うと僕と言うよりは『モコモコ』が好きって感じで、向こうも結婚とかは眼中にないと思うんだ」
「本当に好意が無いなら、あんなに何度も
フィリーの金のモコモコの溺愛ぶりを思いうかべたからなのか、珍しくケラケラと笑うクーデリア。
「他には……ああっ、あのホムも知ってるんだったかしら?」
「ホムちゃんは、錬金術でも家事全般でも凄く頼りになるし、そばにいてくれるだけでも凄くなごんで、一緒に何かするのも楽しくって……」
「客観的に見てだけど、友達っていうか本当に兄妹みたいで、結婚相手って感じが全くと言っていいほどしないのよねー」
マイスが言っている最中に割り込むようにして言う。だが、それを「的外れだ」とか「割り込むなど無粋だ」などと言う人はほとんどいないだろう。
というのも、マイスとホムの二人の様子を見た人の感想が大抵の場合クーデリアが言ったこととほとんど変わらないからだ。
「あとは……誰かいる?」
「クーデリアとメルヴィアくらいかな?」
「メルヴィア? ああ、あの『アランヤ村』の冒険者の? あんまり一緒にいるイメージは無いんだけど、そんなに仲が良かったの? ……というか、ロロナはまだ知らないのね」
「まぁ、なんとなくあの時のままな気はしてたけど」と漏らすクーデリア。
「メルヴィアが知ったのは、たまたまっていうか、なにも言ってないのにむこうから察して来たっていうか……」
「そんなこともあるのね。じゃあ、特別仲が良いとかそういうわけじゃない、と。なら候補から外れるとして、残りは……あたし?」
ここまでの人数を指折り数えた後、クーデリアは自分自身を指差してマイスに問いかけた。
それに対するマイスの返答は……
「クーデリアは……クーデリアだし?」
「いや、それどういう意味よ?」
「それに、僕にはジオさんみたいな威厳も無ければ渋みも欠片も無いからなぁ」
「それはまぁ……。アンタ以上に威厳とか渋みとかいう表現が似合わない
そこから、クーデリアに「そういうアンタの異性の好みって何なのよ?」と疑問を投げかけられ「ええっ」とアワアワしだすマイス。そして、それをクーデリアは少しからかいながら食事を進めて行く。
……お酒が入っていないが、
――――――――――――
なお、これが原因で一層例の噂がおさまりを見せないようになってしまうのだが……それは本人たちの気付かないことであった。
見よ、これが
……いや、イチャイチャしろよ。仲がいいのはわかるけど、こう言うのじゃ無くて、どっちかかどっちもが赤面してアワアワしたりツンツンデレデレしたり……そんなのが求められてるんだよ!
この後、どうなるっていうんでしょうねぇ? ロロナを間に入れても、フィリーを間に入れても、この二人の関係に進展があるのかどうか……。