※注意※
何度も言うようですが、各ルートはそれぞれ別の世界線IFでの出来事です。
何が言いたいかというと……『クーデリア【*4*】』と似た状況ですが、こちらとあちらが同じ世界で起こっているわけではありません! マイス君、二股なんてしてません!
※2019年工事内容※
誤字脱字修正、特殊タグ追加、句読点、行間……
【*4*】
***冒険者ギルド***
「はわわわわ……!」
営業時間が始まっていない『冒険者ギルド』の依頼受付カウンターで、変な声を漏らしつつ焦点の定まっていない目をしてガクガク震えているのは、依頼の受付カウンターを担当している受付嬢フィリー・エアハルトである。
彼女がそんな風になってしまっている原因は……
「マイス君が結婚、マイスクンガケッコン、まいすくんがけっこん……」
フィリーにとって数少ないまともに接せる相手でもあり、友人でもあるマイスの結婚の話である。
今朝『
そんなフィリーを呆れた顔をして見ている人物が一人。彼女が担当している受付とは別にあるもう一つの受付カウンター……主に冒険者免許関連の事を取り扱っているカウンターの受付嬢クーデリア・フォン・フォイエルバッハである。
「アンタねぇ……いい加減立ち直んなさいよ」
「そ、そんなぁ~!? 無茶言わないでくださいよ~……」
「無茶も何も言ってないでしょうが!
クーデリアが言っているのは、「フィリーが聞いた話はあくまで噂話であり事実ではない」ということ。確かにクーデリアの言っていることには一理あった。そもそも、マイスの周りで浮ついた話など聞いたことがほとんど無く、いきなり結婚の話が出てくるというのも、どうにもおかしい気はするのだ。
が、一度疑ってしまうと中々その疑いを消しきれず、思考の方向が一新できないというのも人の
「もしかしたら、もしかするかもしれないじゃないですかぁ!? そもそも、私は心臓に毛が生えてそうなクーデリア先輩とは違って繊細なんですよっ、そんなに簡単に割り切れたりしません」
「ふーん……まっ、ケンカを売る元気は残ってるみたいでなによりだわ」
こめかみをピクつかせながら笑うクーデリアに、「ぴぃ!?」と悲鳴をあげるフィリー。
そんなこと言わなければいいのに、と思ってしまうが、そういう後先の事を良く考えずにポロッと言ってしまうのも、彼女の持つ一面であるだろう。……それが良い点かどうかはひとまず置いておこう。
マイスの結婚の一件のせいか、クーデリアが怒ったせいか、それともその両方か。ついにフィリーはしくしくと泣きはじめた……のだが、それを気にする人は『冒険者ギルド』にはいない。クーデリアに叱られたり怒られたりしてフィリーが泣く……仕事での失敗だったり職務怠慢だったりと理由は様々だが『冒険者ギルド』ではそこそこよく見られる光景なのだ。
そのため、フィリーの一番近くにおり泣く一因を作ったとも言えるクーデリアも、泣いてるフィリーを見て「うわぁ、面倒くさい……」と言った風に嫌そうな顔をするばかりで、特に
……が、「あっ、そういえば」と手を叩いたかと思えば、泣いているフィリーに声をかけた。
「ねぇ、一つ確認しておきたいことがあるんだけど……」
「う~? ぐしゅん……なんですか?」
「マイスの結婚話にそんなに敏感なのって、やっぱりあいつのことが好きだから?」
「え……ええ、あっ、はぅ……ちょ、ちょっと!? こんな時にこんな場所で、なんてこと言ってるんですかー!?」
「いや、聞くなら今でしょ? まぁ、その様子だと……あたしの目が節穴だったってわけじゃなさそうね。よかったよかった」
「よくないですよ~!?」
安心したように笑うクーデリアだが、対するフィリーは顔を真っ赤にしてわたふたしだす。さっきまで泣いていたというのに、表情がコロコロと変わってなんとも忙しい物である。……まぁ、今のは仕方ない気もするが。
「ていうか、あれ? えっえっ? 何で私がそのっ……!」
おそらくは「なんで私がマイス君のことが好きだと知っているのか」……ということを聞きたいのであろう。残念ながら未だに落ちつかず、頭のほうの整理もできずにいるため、上手く言葉に出来ていないのだろう。
それを察して……というか、フィリーの表情や慌てっぷりがわかりやす過ぎてか、クーデリアは難なくフィリーの言いたいことに気付き「なんでって……」と返答をするのだった。
「今さっき言ったように、噂話への反応と……あとは、普段から漏れ出してる妄想とか呟きとかから十分わかるわ。 特にマイスに会う予定の前とか、会った後とかは色々ゆるくなってて「少なからず好意は持ってるんだろうな」っていうのは丸わかりよ」
「うそぉ!? そ、そそそうなんですかぁ~!?」
自覚がなかったのだろう。さっきまでも十分赤かったというのに、顔をより一層真っ赤にしたかと思えば、両手で顔を隠しその場にしゃがみ込んでしまって、羞恥心から
それを見ているクーデリアはやっぱりフィリーの反応は想定の範囲内だったのか、特に気にした様子も無く淡々と言葉を続けた。
「まぁ、そんなこと言っても、あんたが普段からしてる別の言動のせいで「もしかして、あたしの勘違いかしら?」なんて思ったりもしちゃったわけだけど……」
「ふぇぇ!? あのっ! 私、知らないうちに他にも変な事しちゃってたりしたんですかー!? それで、クーデリア先輩とか他の人たちにもマイス君が好きってことを知られて……!!」
「ちゃんと聞いてる? 今してるのは逆の話で……というか、そうやってあんたが大声で言ってるのが一番周囲に知られる原因だと思うけど?」
しゃがみ込んでいた体勢から、今度は勢いよく立ち上がって頭を抱えてワーワー言いだすフィリー。クーデリアはそれを見ながら苦笑いをしてツッコミを入れる。
……なお、クーデリアの指摘通り、今までのやりとりは受付以外で仕事をしているギルドの勤務者にも筒抜けであり……ついでに、その多くから、顔を赤くして慌てふためく姿を温かい目でみられていることをフィリーは知らない。
「話を戻すけど、あんた、マイスがいない時は「マイス君……♥」って感じなのに、本人を目の前にするといつも毛玉のことばっかじゃない。アレを見てると「マイス<毛玉」で、あいつへの好きって気持ちはたかが知れてるんだなー……って、思えたわけよ」
「ええっ? 私ってそんな風に……!? いやまあ、確かにモコちゃんは大好きですけど、別にマイス君のことが嫌いってわけじゃぁ……っていうか、先輩、何言ってるんですか? モコちゃんとマイス君はおんな――」
パァンッ!!
大きな短い音、いわゆる「発砲音」が『冒険者ギルド』内に響き渡り……フィリーの左頬の近くを風が通り過ぎた……。
「あら? 何か言ったかしら?」
「い……いえ~……」
いつの間にかクーデリアの手の中に納まっている護身用のデリンジャー式の拳銃。その銃口からはうっすら硝煙が見える。
それを見て大体何が起きたのか察したフィリーは顔を引きつらせながらゆっくり首を振ることしかできなかった……。もし振り向けていたら、フィリーは背後にある柱に新しくできた銃痕をその目で見ることができただろう。
「たっく、ちょっとは気をつけなさいよ? あんたはそう何とも思ってないのかもしれないけど、周りもそうだとは決まってないんだからね?」
「ええっと、それってどういう……あっ…………ああっ!? そういうことっ!」
ようやくクーデリアが発砲するなんてとんでもない行動に出たのか理解したフィリーは目を見開いて手を叩いた。
まあ、つまるところ「マイス=
疲れた様子で「はぁ……」とため息を吐いたクーデリアが、再び話始めた。
「あんたがどっちのほうが好きだと思ってるかは正直知ったこっちゃないんだけど、何も言わないままで相手に勘違いされて愛想尽かされても知らないわよって話。……例えば、マイスの家に行っても毛玉のほうにばっかり構っていたり、ね」
同僚兼後輩であるフィリーを思ってか、それとも友人であるマイスの事を考えてか、そんな
「でも、モコちゃんと遊ぶってことは、マイス君とあそ――」
カチャリ……
「ハイ、ナンデモナイデス。マイスクントモアソビマス」
鉄槌を上げる音を聞いた瞬間、フッ……と表情を消して頷くフィリー。
そんなフィリーを見てクーデリアは、「本当に大丈夫かしら……?」と心配になり、片手を額に当てて「ハァー……」と今日一番大きなため息を深々と吐くのだった……。
ちょっとお節介焼きな親友&先輩ポジションに綺麗に収まっているくーちゃん。
たぶん、『クーデリアルート』以外では大体こんな感じになるんじゃないかと。