その後ふたりは……!?
今回はイクセル視点です。
あと、今更ですが『リディー&スールのアトリエ』DLC無しで一周目クリアしました!
※2019年工事内容※
誤字脱字修正、特殊タグ追加、句読点、行間……
【*5-2*】
***サンライズ食堂***
通りに面した窓から見える景色が夜の闇で黒く染まり、建物の中から漏れる光も段々と減ってきたそんな夜中。俺は面倒事になる予感がビンビンする場面に直面している。
こんな夜中に
客の行動が問題がある、ってわけじゃないんだ。その客自身がちょっと最近色々とあって、その言動次第でなーんとなくだが変に大事になりそうな気がするから、だから気持ち身構え気味になってしまっているわけで。
まっ、どういうことかというとだな……
「えーっと。それでその、イクセルさんに相談に乗って欲しいんですけど……」
カウンター席に座って、カウンター越しに厨房にいる俺にそんな言葉をかけてきてるのは、この街で知らない人はまず居ないだろう――特にここ最近は話題の中心になってばかりの――『青の農村』村長のマイス。
そんなマイスだが、昔から何かと縁のある俺でもそうそう見たことの無いほど眉間にシワを寄せた悩み顔をしていて、「身長の成長が止まった~」とか「お祭りのイベントに参加者として出させてもらえない~」などといった愚痴っぽいのとは違う真面目な相談を持ち掛けてきていることがわかる。
わかるんだが……。
「なぁマイス。
「できれば……ダメですか?」
申し訳なさそうに言うマイスなんだが、自分から引き下がらないあたり、かなり深刻な相談かそこそこ緊急の用件なんだろう。
いやまあ、知らない中じゃないどころか公私共に結構な繋がりあるわけだし、個人的にはマイスの相談に乗るのはやぶさかじゃねえんだけどな。
それに、コイツが相談できる相手っていうのもそこそこ限られている。誰に対してもできる相談できる内容ならまだ相手に選択肢はあるだろうが、異性にはし辛い相談だとすればステルクさんか俺、あと行商のコオルなどといった『青の農村』在住の男連中くらいだろう……が、結婚騒動の発信源が『青の農村』の連中からだってことを考えると、今ヘタな相談をしようものなら尾ひれがついて変に巷に出回りかねない気がしなくも無い。……というわけで、俺に来た時点で色々マイスに選択肢が残されてない可能性も十分にある。
俺は視線をカウンター席にいるマイスからずらし、店内――他の席にいる客たちに目をやる。
時間は晩飯を食うにしちゃあ遅い時間帯、今店内にいる客は基本的にダラダラと酒を飲んでいるような連中ばかりだ。ついでに言うと、『
ってなわけで、今現在の客も、それこそマイスと話す余裕があるくらいにはまばらだ。
でもなぁ……。
実のところ、マイス自身は気づきようが無いだろうが、マイスが店に入って来た途端にそれまで店内にあった賑やかなお喋りがスゥーっと引いてしまっていたりする。どういうことかというと、
聞き耳を立てたくなるその気持ち、俺としてもわからなくはない。
実際はただの噂だったとはいえ『
が、マイスの友人としては「大概にしとけよ」とも思うわけで……あと、マイスの話題が広まると、繋がりのある俺が何か知ってたりしないかと一々聞いてきたりする奴らがいるのがメンドクサイ。
何はともあれ、何とも言えない気持ちがあるわけだ。
そこにマイスからの相談。結婚騒動に関係しているかは聞いてみなきゃわかんねぇけど、今ここでしたらマイスの真剣な相談が他の奴の耳にも入っちまうわけで……だが、マイスの力になってやりたい気持ちと、あと個人的には本当は興味があるって事もあるしなぁ……。
そらしていた視線をカウンター向こうにいるマイスへと戻し、その真っ直ぐ俺を見ている目と数秒見つめ……そんでその後ため息をついてから肩をすくめてみせる。
「まっ、んな顔までされたら断るわけにもいかないな。力になれる保証はできねぇけど、話は聞くぜ?」
「あははは……ありがとうございます」
やっぱりどこか申し訳なさそうなのは相変わらずに、マイスは承諾した俺に頭を下げた。
それに合わせて……マイスが俺を見ていない間に、こちらを横目で見ている他の客たちに一応ジロリと目を向けておく。「何か聞いても他言無用だぞ?」ってことでな。その意図がちゃんと伝わったかはわかんねぇけど……まぁ、そもそも酔っ払いに口止めの効果があるかは微妙だけどな。
「……っで、どうしたんだ?」
「えっと、実は……」
俺がちょっと気を遣って、少しだけ顔をカウンターのほうに寄せて声の大きさを抑え気味に聞くと、マイスも声を抑えておずおずと話しだした。
さて、今度は何があったのやら……
「結婚の噂を真に受けた娘から……その、こ、告白を受けたとしたら、どう答えるのが正解だったと思いますか?」
「…………」
俺は顔を寄せるために曲げていた背をゆっくりと伸ばして、軽く目をつむってから静かに深呼吸を一度二度と繰り返し……その上で先程耳に入った言葉をじっくりと噛み砕き、改めてマイスを見て口を開く。
「アレか? 前に聞いた『青の農村』の子供から「わたしもマイスとけっこんしたいー」って言われたってヤツか?」
「そうじゃなくって、普通に結婚できる歳の人で……」
「じゃあ、玉砕覚悟で「好きです」っつって、ケジメをつけて新しい恋に生きるって感じか?」
「玉砕覚悟というか……
「いやまあ、そりゃ
というか誰だよ? そんなマヌケなことするお相手は? マイスの周りでそんなのことをしでかしそうな奴って誰か……いや、複数人思い浮かんじまうくらいそそっかしい複数人いるこたぁいるな。
「まてよ?」とはたと思い、俺は一旦口をつぐんだ。
マイスが言っている
「実際どうしたんだよ、お前は? ウチに来たってことは、その話には一応一区切りついたんだろ?」
「あー……それが、その、ですね? なんていうか、お互いにこう……何を言ったらいいかわかんなくなって、ついでに目も合わせられなくもなっちゃって。で、どうしようもなくなったその場の空気とか色々紛らわすためにいつも通りに帰って「じゃあ、またね」っていつものように別れて……」
ヘタレかよ。
俺は喉元まで出かかった言葉を寸前で飲み込んだ。
マイスがやったのは、答えを先伸ばし――悪く言えば勘違いからだったとはいえ相手の告白を無下にしたようなもの――だ。唐突な告白に即座に答えるのはそりゃあ難しいことだろうが、男としてせめて一言二言「待ってほしい」意思を伝えておくのが最低限の対処だろう。
けど、なんていうか、そう強く
というのも、今俺の眼前にいるマイスだが……よくよく見てみれば、今日はまだ酒も飲んだりしてないってのに
このマイスの反応……聞き耳を立ててた連中も当然俺も察したが、これは十分脈ありだろう。ならなおさらマイスは相手にちゃんと返事をするべきだったろうし、俺は俺で今マイスに「ヘタレ」とか言ってでも発破をかけたりすべきだろう。
だがしかし、だ。
常識が微妙にズレてたり時々突拍子の無い事をしたりはするが、コミュニケーション能力も十分あり、顔も広く、評判も上々、経済力は文句なしで、人柄も十分良い……が、浮いた話しどころか、そもそも異性に
そんなマイスがこうして頬を真っ赤にして初々しさの感じる反応をしているのを見ると、「やっとか」っていう親心というか、変な安堵感があって悪く言えない感じがするんだよなぁ。
それにだな……
「で、誰なんだよ、その相手は? そのあたりがわからないと出来るアドバイスもしようが無いんだが……お前と普段から「またね」とか言う間柄ってことは俺も知ってる奴だったりするのか?」
……自分で言うのも何だが、いかにももっともらしい理由を付けて、そのマイスに告白
いやだって、しょうがないだろ?
そりゃあ面倒事に巻き込まれるのは勘弁だけど、なんだかんだ言っても俺だって
「名前を言うのはあの人に悪いんで。僕の口から勝手に出していいものじゃないですから」
「……そういやぁ、いざという時にはヘタレたみたいだけど、根は変に馬鹿真面目だったな、マイスは」
「えっ、へたれ!?」
「ああ、いやっ何でもない……言葉のあやだ」
ついポロッと漏れちまった。さすがのマイスも、ヘタレと言われるのは心外だったらしい。いちおう俺もなんとか取り繕ってみたが……
あっ大丈夫そうだ。「あやって……そういうものなのかな?」って首をかしげつつもそれ以上は特に言わなかった。普段のマイスなら、もう少しどういうことなのか問い詰めてきたり嫌そうな顔をしてこちらに訴えかけてくるなりしたはずだけど……。おそらくは未だに告白の事が頭の中の大半を占めてしまっているんだろう。頬が未だに赤みをおびているあたり恐らくは間違い無いはずだ。
つーか、本当に誰なんだよ。その告白してきた……マイスをここまでしてしまった相手ってのは?
マイスの
完全にお手上げ状態――――けど、ここで終るほど俺は諦めは良くはない。
マイスがその状況でどう返答するのがせいかいだったかを一緒に考える……ふりを半分しつつ、名前は聞き出せずともなんとかして他の
つーわけで、さっそく話をきりだそうとした……んだが、ちょうど間の悪いことに店の扉についているベルが鳴った。つまりは新しい客が来ちまったってことで、俺はそっちの対応もしなきゃならなくなっちまったわけだ。
「いらっしゃー……おろ?」
簡単な席の案内をするため、店の入り口のほうへと目を向けたんだが……そこにいたのは、見知った顔だった。
「うぇへへへーっ、やっぱり良いことがあった日のお酒は美味しいよねー! よぉーし! もっと飲んじゃおー!!」
「良いことっつーか、悪い事が「実は無かった」ってだけのはずなんだけどなー?」
「まあ、それは
「あ、あははは……ど、どうしよう」
入って来たのは、二人+α。
一人は頬を赤くして妙にテンションが高いフィリー。普段オドオドした印象が強いんだが……話の内容は一部は意味がわからないんだが、他所で一回飲んだ上で『
んで、あとはフィリーの言葉に、いまいちわからないツッコミを入れた
まあ、当然のことだがカウンター席にいるマイスに気付くわけで……おそらくは酒のせいで変にテンションの高いフィリーが、飛びつくような勢いでマイスのもとへと行き、その流れのまま隣の席へと座る。
「き、奇遇だね、マイス君! 今日は、一人で飲みに来てたのっ?」
「うわっ! フィリーさん!? ビックリし、た……っ」
「ちょっと色々あって、家でリオネラちゃんと飲んでたの。あんまり家にお酒買い置いてなくてなくなっちゃって、でも、もうちょっと飲みたいねーってなってねっ! こんなことなら、三人で飲みに来れば……な、なんて」
俺やその他周りが見えていないんじゃないかって調子で、テレテレと照れまくりで喋るフィリー。ただでさえ酒で赤く
つーか、見て分かる通り、フィリーもマイスに特別好意を持ってる人間の一人だろう。
「ほらっ、リオネラちゃんも。こっちこっち!」
フィリーとは違って、マイスを見るなり跳びついたりはしなかったリオネラは、二体の浮かぶネコに人形と一緒にまだ立っていた。そのリオネラを、フィリーは自分とは反対のマイスの隣の席を指し示しながら手招きして呼んだ。
………………
不覚にも、俺は思考が一瞬完全に停止してしまってた。
人が一人、席に座っただけだ。だけど……俺は、
店にいた他の客たちのほとんどはそう驚いてない感じがするが、俺は自分で言うのは変かもしれないが驚いてしまってもおかしくないと思う。
そう短くない付き合いがある俺は知ってる。フィリーがそう勧めたように、歩く時でも、座る時でも、この三人が並ぶ時はマイスを挟んで左右に二人が……っていう俗に言う「両手に花」状態が基本形なんだ。酒が入っているから、今日はフィリーはそうでもなかったけど、リオネラも少し遠慮気味にしながらもどこか嬉しそうにはにかんで座る、それが今日は何故か
どういう事だ? 他の客はまだしも、
…………
座ったリオネラのヤツに顔を向けようともしていない
マイスの顔
ほんの10秒にも満たないたった数秒の観察だったんだが、そうやって見てるといきなり二人揃って「ビクッ!?」っと座ったまま少しはね上がったかと思えば、二人してそれぞれ反対を……
……って、ここまでされりゃあ、
俺はついさっきのマイスからの「告白を受けたとしたら、どう答えるのが正解だったと思いますか?」という
――――付き合えばいいんじゃね?
目の前で年齢にしては初々しすぎる二人の反応を見て、そう言いそうになったんだが……二人に挟まれ、すっかり酔いがさめた様子で目を白黒させながら二人の顔を交互に見る、おそらくは
ヤべェ……すげぇ面倒だよ、この状況。
さっきまで興味を持っといてなんだけど、俺は「
本編である『ロロナ』ルートでもあったように、突然のラブストーリーがフィリーのを襲う!!
そして、本人達は……互いに言葉を発さなくなるくらい『