マイスのファーム IF【公開再開】   作:小実

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『5年目:マイス「ある日の日常」【*3*】』

 サブタイトルには『マイス「」』とありますが、第三者視点となっています。



※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、細かい描写の追加、一部表現の変更、句読点、行間……


クーデリア【*3*】

【*3*】

 

 

 

 

 

***サンライズ食堂***

 

 

 

 『アーランドの街』の『職人通り』と呼ばれる通りにあるお店の内の一軒、『サンライズ食堂』。様々な種類の料理がリーズナブルな価格で食べられるということもあって、昼を中心ににぎわっている料理屋である。

 夜間は、昼ほどのにぎわいではないものの、仕事終わりに一杯飲みに来た人や約束のある人、そんなの関係無しに年がら年中飲んでいる人などが、日ごと日ごとに訪れている。

 

 

 さて……その日は、ある種の名物とも言える二人組が夜の『サンライズ食堂』を訪れていた。

 

 (いわ)く、「不可侵領域」、「触れてはいけない存在(モノ)」、「気にしたら負け」などと、結構散々な言われ方を裏でされていたりするのだが……別に嫌われているとかそういうわけではなく、むしろ「普段見れない意外な意味な一面が見れる」とか「見てる分には癒し空間」などと一部から言われていたりもするくらいには人気だったりする。

 そんな、裏では隠れファンがいるのが……

 

 

「「かんぱーい」」

 

 

 『青の農村』の村長・マイスと、『冒険者ギルド』の受付嬢・クーデリアだ。

 

 お酒片手に乾杯をする、外見年齢は二十歳以下の二人組。

 もし二人に「子供がお酒を飲むんじゃない!」などと注意した人がいたとすれば…………お酒が入っているため、大惨事は(まぬが)れないだろう。

 

 店側(イクセル)からしてみれば、不安要素が多くてちょっと気が気でないそんな夜。

 今日もまた二人の飲み会が始まるのだった……。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「あー……なんとなくそんな気はしてたけど、()()()は知らなかったのねー」

 

 建前では「『塔の悪魔』討伐の報告」となっている今回の飲み会。必然的に話題は『塔の悪魔』との戦闘から始まり……次第に討伐後にあったひと騒動の「マイスがギゼラの最期を知らなかった件」に移っていった。

 平たく言えば「塔から出てきた悪魔を押し返すもギゼラも大きな傷を負ってしまい、それが原因で……」という話なのだが……一応内容が内容なだけに『サンライズ食堂(ここ)』での会話ではマイスもクーデリアも、お酒が入りはじめてもその辺りを(にご)して話してはいた。

 

「『塔の悪魔』のことは知っててそのことを知らないっていうのは、逆に凄いんじゃないかしら?」

 

「それ、向こうでも言われたよ。というか、知ってたなら教えてくれても……」

 

「無理よ。あの時、辛かったり複雑な気持ちもあるけど「トトリのためにも頑張らなきゃ!」って自分を奮い立たせているもんだと思ってたし。そこに「知ってる?」って聞いて水を差す度胸は流石のあたしにも無いっての」

 

「あぁ、うん。それは無理だねぇ」

 

 「あははっ」と苦笑い浮かべるマイスと、それに「でしょう?」と返してニヤリと笑うクーデリア。

 

 お酒が回り始めたせいかはわからないが、客の視線の多くが二人のほうを向いていることにマイスとクーデリア(二人)は気づいていない。そして、二人の笑みを見て「おぉ……」と極々小さな歓声が複数の客の口から漏れたことにも、当然気付くことは無かった。

 客でもマイスとクーデリア(どちら)でもないイクセルだけが気付いたのだが、「ん? なんかあったか?」とその歓声の理由まで察することは出来ていなかった。

 

 

 

 と、会話はまた別方向へ。「あっ、そういえば……」と何かを思い出したかのように声をもらしたマイスがそのまま口を開いた。

 

「クーデリアって、東の大陸にある村の話も聞いてるんだよね?」

 

「ええ、トトリからある程度は報告は受けてるわ。あと、その村出身のピアニャって子はトトリだけじゃなくてロロナからも聞いてるし、一応『豊漁祭(あの時)』に会ってて……そのくらいかしら?」

 

 そう言われたマイスは「それくらい知ってれば十分だよ」と言い、続けて本題について話しだした。

 

「あの村、っていうか地域? 年中冬の気候らしくって、それを活かした農業とか考えてるんだー。あと、人の行き来もできたらいいんじゃないかなーって」

 

「ちょっと待って。なんか()()()で言ったことがトンデモ無い気がするんだけど……。あんた、今、別のことも何かしてたわよね? それもかなり大事を……確か、今度のお祭りで発表するんじゃなかった? よくもまあ、そう次から次に思いつくものよね」

 

「そんな~たまたま思いついただけのことだよ? 第一、「やってみたい」ってだけでやれるかどうかは正直微妙なんだけど」

 

 「残念ながらねー」と言いながらも、あいかわらずの微笑みを浮かべているマイス。どうやら「難しい」と思ってはいてもやり様はあるらしく、諦めていたりしていそうな様子は全く感じられなかった。

 

「人の行き来は、その遠さがネックなんだ。『錬金術』の道具を駆使すればそれこそ距離なんて関係ないけど、アレは使える人が限られてるからね。それに、僕としてはやっぱり『アランヤ村』で造られた外洋船を使った旅が一番良いと思って。船の旅っていうのは……」

 

 そこから珍しく長々と海の旅を語りだすマイス。

 ついでに言うと、その航海は先日行った『塔の悪魔』討伐よりも前……ギゼラを探しに出た、『フラウシュトラウト』と戦ったりもしたあの旅の日々の話だ。

 

 

 マイス個人の感想も交えつつ語られる海の旅の話を、クーデリアは要所要所で「トトリの報告でもそんな話があったわね」なんて思いながら時折グラスを(かたむ)けてお酒で喉を潤していた。

 

 

 と、不意にマイスの声が止まった。

 「ん?」と不思議に思ったクーデリアは傾けかけたグラスから口を離し、マイスのほうを見た。マイスは--ただただジーッと真っ直ぐクーデリアを見つめていた。

 

「何?」

 

 そう聞いてはいるものの、クーデリアは内心そこまで疑問にも思っていなかったりする。

 というのも、今現在のクーデリアの思考は……「あぁ、今回はマイスのほうが先に酔払ったのね」というもので……つまりはよくある事なのだ。まぁとは言っても、自分(クーデリア)自身が先に酔払った場合は逆にマイスに「今日はクーデリアが先かぁ」と思われているのでどっこいどっこいだろう。

 さらに言うなら、「マイスが先」、「クーデリアが先」、「ほぼ同時」の全てを毎度見ているイクセルからすれば「今回は、呂律が段々と怪しくなっていくタイプじゃなくて、黙った後に切り替わるタイプかぁ」とパターンまで完全に把握済みだった。

 

 

 急に黙ったマイスだが、少しの間を空けてからクーデリアの問いに答え出した。

 

「ん~……ええっとぅ、実際にクーデリアも一緒に船に乗ってみたらいいのになーって思ってー」

 

東の大陸(あっち)の村との人の行き来の話じゃなかったの? それで船を使うって……。あたしだって興味が無いわけじゃないけど、まずはソッチの話が優先でしょ?」

 

「それはそれでちゃんと考えてますよー? ……で、さっき話した通り、船での旅は景色も良いし、発見も色々あって楽しいんだって!」

 

「「楽しい」ってだけじゃなくってねぇ、もっとこう……航海中の生活の安定化を考えると、食料の確保とか衛生面とか病気とか非常時の対処のこととか課題は山積みじゃないかしら? というか、そもそも----あの『フラウシュトラウト』が出るかもしれない海域をどうするかって話あるじゃない」

 

 遠洋まで出てきた船を過去に何隻も沈めてきた海竜型とでもいうべき大型モンスター『フラウシュトラウト』。

 マイスが同行したトトリたちのギゼラを探す冒険でも現れたのだが、トトリたちは無事撃退した。……が、撃退しただけであり、今は負った傷を癒すために隠れているのかもしれないが、今後再び縄張りを広げて船の航路上に出現しないとも限らない。

 一人前の『冒険者』6人で何とか撃退出来たモンスター。そんな奴が出没するかもしれない海域をそう気軽に行き来できるだろうか?

 

 クーデリアからそこまで言われて、マイスはピタリと動きを数秒止めてから……手を口元に当てて唸った。

 

「あっ、うー……考えてなかった」

 

「ほらっ、ダメじゃない」

 

 ドヨンと落ち込むマイスに、それを見て「やれやれ」と苦笑いを浮かべるクーデリア。

 

「なんとなくで喋っちゃってたんでしょ。とはいえ、自覚も無い様子だし、そんなにどうこう責め立てる(いう)つもりは無いけど……ちょっとペースが早かったかしら? ここから抑えるべきでしょうね。ねぇ、マイスにお水……あたしにはお酒をもう一杯頂戴(ちょうだーい)

 

「あいよー。ちょっと待ってろー」

 

 カウンターの向こうから聞こえてきたイクセルの返事に満足した様子のクーデリア。

 そして、クーデリアは注文したものが届くまでの間、目の前にいるマイスと談笑を続けることにした。酔払ってきて微妙にズレた反応を示したりちょっとテンションの上がり下がりが激しかったりもするが、基本はいつも通りのマイスである。それに……酔払った時のマイスとの会話を楽しむ(すべ)も、クーデリアはこれまでの経験で既に理解していた。

 

 こうして、また『サンライズ食堂』の一角で談笑の花が咲くのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「あー……ちゅまり、(おちょこ)云々(うんにゅん)以前(いじぇん)に、カワイイが(ましゃ)っちゃてたってわけんにぇ?」

 

そうです(しょうれす)あの(あにょ)村の人たち、マークさん(しゃん)やジーノくんは遠目でジロジロ見るだけだった(らけりゃった)のに、僕だけ(らけ)村のそば(しょば)の畑の土を(いじ)ってたら(っれたら)「まだちっちゃいのに詳しいねぇ」とか「いつも畑仕事手伝ってるの?」とか「偉い偉い♪」とか言って頭を撫でまわしてきて……!」

 

「女だけの村れも、あんたのカワイがられはいつも(ろー)だった(らった)ってわけ? もはや、男や子供どころか……小動物(しょーろーぶつ)的な扱われかた(かちゃ)かしら?」

 

「間違っ(ちぇ)ない! 間違っ(ちぇ)ない気がするけど(けろ)、違うって言いたい!」

 

 

 あれから後、()()()()()()()キレイに出来上がってしまっていた。

 そもそも水一杯ですぐどうなるってわけではないし、ストッパーとなるべきクーデリアが普通にお酒を飲み続けたため、次の追加注文の時点で止めが聞かなくなっており、二人そろってお酒の注文をしたので当然の結果だろう。

 

 まぁ、会話の内容は相変わらずの自分たちの自虐ネタのようなものなので、周囲は触れると火傷しそうだが……二人は盛り上がっているので、よしとすべきかもしれない。

 

 

「こないだも、ステルクさんは怖がって()のに、僕には普通に寄って来て……」

 

「アイツも相変わらずねえ(にぇえ)……。っていうか、それ(しょれ)いつもの(いちゅもの)光景じゃない?」

 

 一部の(ある特定の)人物は聞いているだけでもダメージを受けそうな気もするが、それもある意味ではいつも通りなので気にしなくていいだろう。

 

 

「ああ、そういえば(しょういえば)あたしもこの前……」

 

 まだまだ続く、マイスとクーデリアのある意味危険な談笑。

 こうして今日も夜は(ふけ)ていくのだった……。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 なお、今回の飲み会はどちらかが酔いつぶれたりすることも無く、「じゃあ……」、「(しょ)うねー」と案外あっさりとお開きになった。

 

 ただし、『サンライズ食堂』を出る二人の足取りは微妙にふらついており、それをお互いに肩を貸し合って支え合うという……どちらかがこけてももう一人も踏ん張りきれずに倒れてしまいそうな、逆に不安なってしまう手段をとって帰路へと付いた。

 

 

「……というか、マイスは『青の農村』までちゃんと帰れるのか?」

 

 そんなイクセルの不安をよそに…………

 

 

 

 

 

 翌日、朝早くにフォイエルバッハ家から出てくるマイスの姿が目撃されたとか、されてないとか……。

 




 い・つ・も・の

 相変わらずの気の置けない仲の二人……ですが、こんな風に飲んで喋って……端から見れば、イチャイチャしているようにも見えなくも無いような……?

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