マイスのファーム IF【公開再開】   作:小実

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『5年目:結婚疑惑騒動【*4*】』

※注意※
 お話の都合上、モブキャラが出てきます。
 いちおうこれまでの話しに関係が全くないキャラというわけでは無いのですが……今回以外で出てくるかは不明です。


そして……


天の声「ほら、早く察しなよ」(無理ゲー)




※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、特殊タグ追加、一部表現の変更、句読点、行間……


ミミ【*4*】

【*4*】

 

 

 

 

 

 

***旅人の街道***

 

 

 『アーランドの街』から見て比較的近場の採取地『旅人の街道』。

 街にある『冒険者ギルド』で冒険者免許を取得した新人冒険者でも立ち寄ってもいいレベルとされている採取地だが……同時に次のランクに上がる前の難関とも言える少々難易度が高い採取地でもある。

 というのも、『旅人の街道(ここ)』に生息している主なモンスターとして挙げられるのが『耳ぷに』というモンスターで、そいつらが「仲間を呼ぶ」行動をしてドンドン増えてくる厄介者だと言うのと……もう一つ、新人冒険者が相手にするには強すぎる桁違いの凶悪モンスターが生息しているのだ。

 

 

「ピキュオオオォー……」

 

 ドシィィ……ン

 

 その凶悪モンスター、初心者の壁である『グリフォン』が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「まぁ、こんなものかしら?」

 

 

 倒れた『グリフォン』の前にして余裕の表情でそう呟いたのは、今や一流の冒険者となったミミ・ウリエ・フォン・シュヴァルツラングだ。いましがた戦闘を終えたばかりだとは思えない、悠然とした立ち姿である。

 

 

 ミミの数メートル後方にいるのは、大きな荷物を背負った20歳ほどに見える青年だった。青年はミミの背中ごしに見える『グリフォン』に目をみはって驚いている。

 そんな青年に、ミミは振り返りつつ声をかけた。

 

「お怪我はありませんか?」

 

「あ、ああっ」

 

 まだ落ち着きを取り戻せずにいながらも、しかししっかりと頷く青年。それを確認したミミはとりあえず一安心し……けど、それは表には出さずに猫かぶりモードで「そうですか。それはなによりです」とだけ淡々と言い……その大きな荷物から『行商人』の類であると推測できる青年に対して忠告をする。

 

「『アーランドの街』と各地を繋ぐ街道はおおよそ整備されていますし、その中でもモンスターが徘徊しない道というのも確立されています。……ですが、相手(モンスター)もまた生物です。縄張りを広げたり普段と違う行動に出ないと絶対言い切ることはできません。持てるものに限りがあっても、獣避けなど最低限の対策を取っておくことをお薦めします」

 

「ああ、すまない。何度も通っているうちに慢心してしまっていたようだ。キミが通りかかっていなかった可能性を考えると、恐ろしい限りだ……本当に感謝する」

 

 そう言って深々と頭を下げる青年に、ミミは「まぁ、この様子なら大丈夫かしら?」と青年の今後のことを考えつつ……偶然にも青年がモンスターに襲われている場に出くわせたことに安堵した。

 というのも、ミミが『旅人の街道』の近くを通ったのは本当に偶然で、「これ以上街に(とど)まったままだと流石に腕が落ちそうだわ」と適当な依頼を受けて一人で冒険に出たのだが……今はその帰り。もうちょっと別の採取地で時間を使っていたり、別ルートから街に帰っていたりしたら、こうして青年を救うこともできなかっただろう。

 

 

「人と共に暮らし、わかり合えるモンスターもいる。そう思っているが……やはり危険なモンスターがいることも事実なんだな」

 

 倒れた『グリフォン』を見た後、目を瞑ってまるで祈るかのような仕草をした青年がそう言った。

 その言葉から――そして、青年が進んでいたであろう方向にある()()のことを思い浮かべ――ミミはこの青年がどのような人物なのか大方予想がついた。

 

「ああ、あなた『青の農村』で取引している行商人さんですか。……どおりで、というのも変かもしれませんけど、モンスターへの警戒心が低いわけですね」

 

「はははっ、お恥ずかしながらおっしゃる通りです。あそこ素晴らしい場所ですが……いかんせん、危機感が鈍ってしまいます。まぁ、それでもあの辺りには思い入れがありますので、何があっても嫌いにはなれそうにないんですよね」

 

 「『青の農村(あそこ)』の影響で、こうして警戒心が鈍ってしまって危険な目に遭ってもね」と青年は笑顔で言った。

 ミミは、そういう人も出てきて当然だろうと思いつつも、青年が言う別の部分が変に気になった。

 

「「あの辺り」というと、村そのものに思い入れがあると言うわけではないんですね?」

 

「ええ。あれは村が出来るよりも随分前のことでしたから……あれは、まだ私が幼かったころ、今の私と同じく行商を営んでいた父にせがんで商品を乗せた馬車で親子二人で街まで行った時の事です」

 

 懐かしむように語りだした青年に、ミミは少しだけ「早く話を切り上げればよかったかしら?」と後悔しつつも、別段急いで帰る用も無いので少しつきあうことにした。

 

 

 

「当時の私は親の仕事に興味があったとかそういうわけではなくて、ただ単純に街に憧れていて父の仕事についていったのですが、まぁ行商の旅自体も嫌いではありませんでした。……ですが、あの時は「ついてこなければよかった」という考えばかりに頭の中が埋め尽くされました」

 

 ミミのほうを見ていた青年の目がチラリと倒れている『グリフォン』のほうへと向いた。それを見てミミは「ああ、なるほど」と頷いた。

 

「今日のように、モンスターに襲われたんですか」

 

「ええ。あの時は……確か、鳥系と狼系のモンスターが数匹ずつの群れでした。馬車を引いていた馬に、私を守ろうとする父に襲いかかってくるモンスター……怖かったですよ、特に赤い血が飛び散った時は」

 

 そう言う青年だったが、その顔には何故か笑みが浮かんでおり……その理由へと繋がる話をすべく「ですが……」と続けた。

 

「そんな時、私達をモンスター助けてくれた()がいたんです……その方もモンスターだったんですがね。でもそのモンスターは、他のモンスターを追い払い、私と父にはどこからか持ってきた傷薬をくれ、混乱して暴れる馬をなだめてから傷を治療して……幼い私の目にはヒーローか神様が使わした天使か何かに見えました。相手は自分たちを襲って来たモンスターたちと同じモンスターなはずなのに…………まぁ、その方はまるでヌイグルミのような見た目で、そもそも凶悪(こわ)さのカケラもなかったんですけどね」

 

「ヌイグルミって……あっ、あの子か」

 

 最後に青年が笑いながら言った言葉を聞いて、ミミはあるモンスターをすぐに思い出して納得した。あの子ならそのくらいのことをするだろう、と。

 採取地で出会い戦うモンスターと同じ種族だとは思えないほど大人しくって人懐っこい子がそろった『青の農村』のモンスターたちの中でも、特に賢くてなんか人間っぽい子。「モコちゃん」と呼ばれる二足歩行の金のモコモコした毛が特徴的なモンスターだ。

 

「そんな経験があって、私は恐怖を感じつつも不思議とモンスターに引かれて行き、後にこうして自分も行商人になってからは、あの方と会った場所を通るようになって……そうしたら必然的に新しく出来ていた『青の農村』にも足を運ぶようになっていたんです」

 

「そこで、そのモンスターと再会ができたんですね?」

 

 半ば確信を持ってミミが言うと、青年は嬉しそうに笑いながら頷いてくるのだった。

 

「そうなんですよ! 初めて訪れた時に村長さんのところへ挨拶に行って、そのついでに今の話をしてあの方の事を何か知らないか聞いたところ、村長さんがあの方から話を聞いたことがあったみたいで「ああ、キミはあの時の……」って言って、その後、「連れてきますね」って言って出ていったかと思えば……本当に来たんですよ!」

 

 そのことがよほど嬉しかったのか、過去のことであるにも関わらずかなりテンションが上がり始めた青年。

 

 

 

 ……と、まだ自制心を発揮できるほどには冷静さが残っていたようで、ハッとした後「こほんっ」とわざとらしい咳ばらいをした青年。

 

「えー、そんなわけで、『青の農村(あそこ)』のことも、モンスターのことも嫌いになれないんですよ」

 

「ま、まぁ、熱心なファンというか、なんというかー……マイスさんは喜びそうではあるけど」

 

 

 少し呆れ気味に呟くミミだったが…………青年の言葉に固まることとなる。

 

 

 

「ああ、そういえば昨日すれ違った行商仲間から聞いた話なんですが、()()()()()()()()()()()()()()()()! あの人にも少なからずお世話になってますし、こうしてちょうどいい機会にこっちに来れて私は幸運です」

 

 

 

「…………はっ?」

 

「えっ、どうかしまし――」

 

 

はあぁぁーーーーっ!?

 

 

 猫かぶりモードは、剥された……というよりは、一瞬で砕け散ってしまったかのようで、パリィッン!ガシャァン!というガラスが割れるような音が聞こえた……ような気がした。

 

 

「え、ちょっ嘘!? 私が離れた数日間に何があったのよ!? っていうか、そんな予兆なかったわよね!? 何? 学校のこと頑張ってると思ってたら、隠れて女の子口説いてたの!? なんであの人、こういうところばっかり予想外の事してくるのよっ!!」

 

「ちょっと、落ち着いて下さ……」

 

うるさいっ! そもそも結婚って、そういうお祝いの時ってどういう物を贈り物にしたら……それとも、物じゃなくって気持ちとか言葉だけのほうが……ううん、やっぱり家事道具とか? ああもうっ! もっと早くに知ってればこんなに慌てなくても……って、ああっ!!??」

 

「ど、どうしたんですかっ!?」

 

「そういえば、『青の農村』の結婚式って街とはまた違った独自の方式だって聞いた気が……何か作法とか規則とか違ったりするのかしら? マイス以外にあの村に知り合いの人がいないからこれまで行ったことないし、全然わかんない……!! ……式? 式に参列するとして、どんな服装で行けば……ここは貴族として当然の立ち居振る舞いをして……って、でも服装には細心の注意をはらわないと、お嫁さんよりも目立つような見た目は…………って、誰よ!? マイスさんのお嫁さんって!?」

 

 思考が一転二転してせわしないミミ。もはや、周りのことなんてとっくに見えていないし聞こえていないだろう。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! 一度この目で確かめて……って、コレ裏があるんじゃ……つまり財産目当てで、マイスさんを騙して…………ったく! あの人、脳内お花畑なんだからっ!!」

 

 そう言ったかと思うと、ミミは足早に街道を『アーランドの街』や『青の農村』がある方向へと歩き出した。

 

 

 

 そして、残された行商人の青年はと言えば……

 

「……あの人、私を助けてくれた人と同一人物、ですよね? それとも、二重人格とかそういう……?」

 

 こっちはこっちで困惑していた。

 




 次回! 「突撃! (街の)隣の(村の)晩ご飯!」(嘘……ではないかも)

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