前回のあらすじ!
何でかわかんないけどトトリがマイス君から逃げるように村に帰っちゃって、パメラに「それは恋よ~」とちゃかされて、ゲラルドさんに「『ぬし』を釣ってきてくれ」と頼まれて、色々考えた上で「マイスさんなら!」と色々と建前……もとい正当な理由をつけて、トトリはマイス君に協力を仰ぎに行くこととなった!
きっと、たぶん、だいたいあってる……はず。
※2019年工事内容※
誤字脱字修正、特殊タグ追加、細かい描写の追加、句読点、行間……
【*5-3*】
***青の農村・マイスの家***
これまで『アンチョビア』などなど、『アランヤ村』の名物になるお酒をつくることとなり半ばやけくそになってる部分もあって、断るにも断り切れず流れで請け負ってしまったゲラルドさんからのお願い――『ぬし』釣り。
それに必要なもののひとつとしてあげられていた「『ぬし』を釣り上げることのできる力の持ち主」であり、他の必要なものである「くだもの(エサ)」や「釣竿」とかも一気に解決できる人物として、
玄関戸をノックするよりも先に、家の外に出てたマイスさんから、心の準備が出来上がってない状態で後ろから不意打ちで声をかけられちゃったりするハプニングもあったりしたけど……こうして、なんとか事情を説明してお願いすることが出来た。
対する、マイスさんの返事は……?
「うん、いいよ!」
「ですよねー」
もちろん、マイスさんと一緒に
「それに、私から頼んでおいてなんですけど……本当に大丈夫なんですか?」
「任せといてよ! 『ヌシ』って呼ばれている奴を釣り上げた事はまだ無いけど、釣りに関してはそれなりに実力もあるから」
そう言って力こぶを見せるような仕草をするマイスさん。
ええっと……普通に細いです。
いやまあ、昔から間近で見てきたメルおねえちゃんっていう例もあるし、マイスさん自身の実力も知ってるから「見た目で判断しちゃいけない」っていうのは十分理解しているつもり。
……けど、やっぱり頼りになるっていう腕っぷしには見えないなぁ。もっとこう……ゲラルドさんとかハゲルさんみたいにムキムキだったら…………かわいくなくなっちゃうんで遠慮しときます。
子供っぽい顔つきだって事もあって凄くアンバランスで気持ち悪いマイスさんを想像しちゃった。うぅ、夢に出てきそう……。
「って、そうじゃなくって! 時間とかそう言った都合のほうですよ。いつもの『お祭り』とかはもちろん『学校』の事だって色々ありますよね? そのあたりは大丈夫なのかなーって」
私の言葉に、マイスさんが合点がいったといった雰囲気で「ああっ」と手を打つ。と、その後ひとつ間をおいてから、どこか恥ずかしそうな笑みをうかべる。
きっと、勘違いしてしまってたことを誤魔化そうとしたんだろう。ちょっと誤魔化しきれてない気がするけど……そういった
思考が反れてしまったことに気付いて、自分の中で区切りをつけるために――ちょっとわざとらしいかもしれないけど――ひとつ咳ばらいをしてからまた話しはじめることにした。
「こ、コホンッ! それで、時間のほうは大丈夫そうですか?」
「そうだなぁ……トトリちゃんは、いつに行こうとか考えてたりするのかな?」
「ええっと、それがゲラルドさん曰く『ぬし』は真月の夜に出るらしいので……今月の月末にいけたらなーって思ってるんですけど」
ゲラルドさんに教えられたことも絡めて私の考えを伝えると、マイスさんは「ふんふん」と小さく数度頷いてから目をつむって。
「それじゃあ、釣りのポイントに行くまでとか準備の事を考えたら、それより数日前から時間を取っておいて……うん、うん。来月の初めも1、2日予定をあけといたほうがいいかも? そのあたりは、もう村のお祭りも終わって一段落してるころだから……うんっ、大丈夫だよ! スケジュールの調整は難しくないからその予定で計画を立てて行こう!」
その後はとんとん拍子で計画が立てられ……「くだものも釣竿も任せといて!」というマイスさんの一言で、『ぬし』釣りに関して私が出来ることは「船の点検」くらいになった…………。
―――――――――
***アランヤ村***
そういうわけで、さっそく村に帰って私たちの船の調子を確認したんだけど、何の問題もなさそうだった。たまたま埠頭にいた――いるのを見つけられた――お父さんが言うには、私はこれまで全然気づかなかったけど私が使っていない期間もお父さんが定期的に点検や掃除をしてくれてたらしい。
あとは、食料とかその辺りの準備だけど……あての無い旅ってわけじゃないし、そう遠くも無いからコンテナの中にある食料品だけで十分すぎるほどたりそうで……『秘密バッグ』一つ持っておくだけで解決できてしまった。
「となると、あとできることは……」
家に帰る道を歩きながら、私は考える。
船は大型だし、一人二人でも操れなくはないけど……負担や睡眠とか休憩の事を考えると人数は多いに越したことは――
「あー……でも、そのあたりもいざとなればマイスさんの『アクティブシード』とかで何とかなるかぁ」
おかあさんを探して東へ東へと旅したあの時の航海でも、自分で動き手伝ってくれる『アクティブシード』にはいろいろとお世話になったからわかるけど、よほど細かい作業とか人の目が必要な確認作業以外は大抵どうにかなるだろう。
となると、あとは……そうだなぁ?
いくら『ぬし』を釣るスポットが、村の港からほんの一、二日の比較的近場だとしても、『フラウシュトラウト』みたいな規格外はありえないとしても、空を飛ぶ普通のモンスターとは遭遇する可能性は十分にある。そう考えると戦える人がもっといたほうが――
「って、それこそマイスさん一人で事足りそうだよね、うん」
ええっと、他には…………
「無い、かな?」
そうと決まればあとはコンテナの中を整頓して、
「ん? 私とマイスさん……?」
えっと?
ええーっと…………?
うん、何度考えても二人だ。それで大丈夫だし、考え得る限りのありとあらゆる事態も問題無い。
そう、
………………………………。
……………………。
…………。
「問題しかない!?」
暑いっ! なんだかすっごく暑いよ! もうそろそろ冬になるっていうのに……原因がワカンナイナー!!
別に、マイスさんのことが気になるとか、パメラさんに言われた「恋してる~」っていうのが頭から離れないとか、そういうわけじゃ……!
「って、これじゃあ私、ミミちゃんかクーデリアさんだよぅ!」
とにかく落ち着け私っ。
そう、別に意識はしてない、してないったらしてない!
いつもどおりにしてれば、なんの問題も無いもん!!
「……でも、色々調整してまで手伝ってくれてるんだよね? なら、お礼に何かしてあげられたらいいんだけど……」
お礼になりそうな……マイスさんが喜びそうなこと?
何かあるかなぁ? 無難にプレゼントにしたって、マイスさんって何あげても大体喜びそうだし……。その上、考えれば考えるほど、マイスさんって自分で何でもできちゃうから「欲しいもの」が無さそうにも思えてきて……うん、プレゼントはダメそう。
他に何かマイスさんが喜びそうなの……お祭り?
いやいや、お祭りって何? 私が何か開催しろってこと? そりゃあ喜びそうではなるけどなぁ……
「あっ」
「お祭り」って考えて一つ思い出した。
喜ぶっていうのとはちょっと違うかもしれないけど……『豊漁祭』の時の事を。
「私の水着を見て「いつもと違って新鮮味が――」みたいなこと言ってた気がするような? マイスさんって意外とオシャレに敏感だったりするのかな? 本人の格好はあんな感じであんまり代わり映えしないけど」
「服をプレゼントする」っていうのはサイズとか色々とハードルが高いけど……。
「た、試すだけ試してみようかな?」
でも、そうすると何か新しい服が必要だ。
今着てる、先生お手製の錬金術士の服は数着あるんだけど、それ以外は最近はほとんど着てないからサッパリなんだよね……。
「昔のを引っ張り出す――――のは、なんか違う気がする。新しいのを今から買いに行くって言うのも……そもそも、自分の服を選ぶ自信が無いんだよね。オシャレって言ってもよくわかんないし、元々おねえちゃんが……って、あ!」
―――――――――
***ヘルモルト家***
「ただいまー……」
そっと入って行った家の中……。玄関から真っ直ぐ正面方向にあるソファーにおねえちゃんはいた。
おひざにピアニャちゃんを乗せて絵本を読んであげてるみたいで、私が帰ってきたことにはいちおう気付いて、ピアニャちゃんと一緒に顔を上げてコッチを見てきた。
「おかえりなさい」
「トトリ、おかえり~」
でも、そうやって言った後、おねえちゃんはすぐに視線を絵本に戻して……おねえちゃんが絵本を読み出したことでピアニャちゃんも自然とソッチを向く。
……もう慣れたし、寂しくなんかないよっ。
それに、今は別に優先事項があるんだから!
「おねえちゃん、ちょっと……」
「ん? なぁに?」
「実は、おねえちゃんに頼みたいことがあって」
そう言ってもまだ視線は絵本のほうにいってるおねえちゃん。私への返事をしながらも、声色を変えて器用にピアニャちゃんに読み聞かせをしてあげている。
「あら、久しぶりねぇトトリちゃんが頼み事なんて。……アトリエのお掃除?」
「さ、最近は爆発させてないからっ!? そうじゃなくって、えっと、その……
「へぇ~、お洋服ねぇ。珍しいじゃない、そんなこと頼むなんて――――――
――――――へ? トトリちゃんが……お洋服? 私の?」
さっきまで絵本を見てたおねえちゃんの顔がギュルンとコッチを向いた。
「う、うん。先生に貰ったこの服も悪くは無いんだけど、たまにはこう……昔みたいにおねえちゃんが作ってくれたお洋服をきて冒険とかもしてみたいかなーって思って」
「ウソ……!? ゆ、夢じゃないわよね……?」
いや、なんでそんなに疑って……って、泣いてる!?
「どうしたの!? どこか痛い所でも……!?」
「痛くなんて無いわ! そんなことより、またトトリちゃんのお洋服を作れるなんて……! そのお洋服を着るようになってから全然私のお洋服は着てくれなくなって……色々アイデアは浮かんではくるのに、トトリちゃんは着てくれなくって……!!」
つまり、嬉しくって泣いてるってこと?
そ、そんなになのかぁ。何がおねえちゃんをそこまで駆り立てるんだろう……。
ちょっとびっくりしちゃった私を他所に、おねえちゃんはピアニャちゃんを膝から降ろして立ち上がった。
「ちぇちぃー?」
不思議そうにコテンと首をかしげるピアニャちゃん。そんなピアニャちゃんにお姉ちゃんは頭を撫でながら優しく微笑む。
「ごめんね、ピアニャちゃん。私、用事ができちゃったの。絵本の続きは――――――トトリちゃんが読んでくれるわよ」
「えっ」
「わぁい!」
嬉しそうに絵本を持って駆け寄ってくるピアニャちゃん。
ううっ、私がおねえちゃんにお洋服を頼んだからだし、これは仕方ない。それに、このピアニャちゃんの笑顔を裏切るわけには……。
「それじゃあ、さっそく取り掛かってくるわ!」
「あれとこれと、あとペアルック……いいえ、ピアニャちゃんも加えたトリプルでも!」なんて、いったい何着作るのかもわからない独り言を残しておねえちゃんは部屋を出て行ってしまった……。
って、あれ?
前にお洋服を作って貰ったのって結構前のことだし……今のサイズを採寸しなくてよかったのかなぁ?
まあ、そのうち戻ってくるよね? 戻ってこなかったら…………どういうことなんだろう?
一抹の不安を覚えつつ、とりあえず今はピアニャちゃんの相手をすることに……ん? どうしたのかな? 絵本を持って近くまで来てたピアニャちゃんがジーッと私の顔を見てる気がするんだけど……?
「ピアニャちゃん? もしかして、私の顔に何か付いてるの?」
「うぇ? なんにもついてないよ?」
「じゃあなんで……?」
「うぅーんとね、トトリ、もうキレイなのにもっとキレイになるのかなぁーって」
……? つまり、もう今の時点でおねえちゃんが作ってくれる新しいお洋服を着た私を想像したってこと?
なにはともあれ、私は着実に『ぬし』釣りの準備を進めたのだった――――――これって、『ぬし』釣りの準備だったかなぁ?
喜ぶんだ、ツェツィさん。いまのうちに