本編の『ロロナルート』とは異なり、一緒には行かない組なので出発前のお話となっています。
※2019年工事内容※
誤字脱字修正、細かい描写の追加、一部表現の変更、句読点、行間……
【*2*】
僕を訪ねてきたトトリちゃんから「『塔の悪魔』を倒しに行く」ことを伝えられ、僕はその準備をすることに……。
『塔の悪魔』のことや、それを今後倒しに行くという話は以前に聞いていたので、前々から色々と考えていちおう準備を進めはいた。なので、持っていく武器やアイテムを選別しまとめるのには時間はかからなかった。
準備をサクッと終えた僕は、さっそくトトリちゃんたちとの集合場所である『アランヤ村』に……行くわけではなかった。
出発は明日。僕の手元には『トラベルゲート』があるから『
もちろん、早めに行っていても何も問題は無いんだけど……でも、やっておくべきことが僕にはあった。
それは、遠出をする際に行く前と帰ってからいつもしている「挨拶回り」だ。
――――――――――――
***アーランドの街・冒険者ギルド***
『冒険者ギルド』。その名前の通り、主に冒険者が利用する施設で、冒険者としての登録や免許の更新、あとは依頼の受けたり報告ができる。また、依頼を出すために冒険者以外の人がきたりすることもあるんだけど……それはとりあえずおいておこう。
今、僕がいるのは、冒険者の免許関係の受付と依頼関係の受付のうち前者のほう……クーデリアが受付嬢をしている、免許関係の受付。そこで『塔の悪魔』を倒しに行く話をしていたんだけど……。
「ああ、その話。やっぱりマイスも行くのね」
「あれ?知ってたの?」
予想外の反応に僕は少し驚きながらもそのことについて聞いてみる。するとクーデリアは「まあね」と返し、そのまま言葉を続けてきた。
「マイスのとこに行く前か後かは知らないけど、コッチにもトトリが来たのよ。で、その時に「『塔の悪魔』を討伐しに行く」って話を聞いたの。まぁ、『塔の悪魔』の話自体は前から聞いてたから個人的には「ようやくか」って感じだったんだけどね」
クーデリアの説明に「なるほど」と頷きかけた僕だったけど、後半の話に「ん?」と首をかしげてしまう。
「えっ? 『塔の悪魔』のことも知ってたんだ」
「あんたらが
「その中で『塔の悪魔』のことも聞いてたの」とクーデリアは話を締めくくった。
そこまで聞けば、さすがの僕も理解出来た。
というか、僕がうっかりしすぎだろう。モンスターを倒したりすることも仕事の内だけど、訪れた土地の地図を描いたり、その地の特徴や環境を書きしるしたりすることも『冒険者』の仕事の一部じゃないか。
そして、それは報告して初めて意味があるわけで、その報告先は冒険者免許関係を扱う受付……つまりはここであり、担当であるクーデリアの目にも当然入るわけだ。もちろんトトリちゃんが直接来るだろうから地図や書類以外にも口頭で話も聞いたりしている可能性も大いにある。
……そう考えたら、そりゃあクーデリアも少なからず『
自分の思慮の浅さを痛感しながらも、そう大きな問題に繋がりそうにもないことだったので「まぁ、これから気をつければいっかー」と思い、僕は流すことにした。
と、そんなことを考えていると、「クスリッ」というより「ふふん」といった感じの可愛らしく鼻で笑っているのが聞こえた。距離からして、笑ったのは目の前にいるクーデリア以外にありえないだろう。
何かおかしいことでもあったのだろうか?と疑問に思い、僕はクーデリアに問いかける。
「どうかした?」
「別に? 相変わらずわかりやすいなって思っただけよ。あとは……そうねぇ?」
腕を組んで僕の顔を見てニヤリと笑うクーデリア。
一体どうしたって言うんだろう?
「この調子じゃあ、トトリの冒険者ランクがマイスに追い付くのも時間の問題じゃないかなって。冒険者としての実力のほうも、そろそろ追い抜いたりするんじゃないかしら?」
「ああ、なるほど。まぁ確かに、あり得る話かもね。事実、トトリちゃんが冒険者になってすぐの頃には僕が教えたりしたこともあった『錬金術』は、とっくの昔に僕を追い抜いちゃってるわけだし」
「あら? 焦ったり、悔しがったりはしないの?」
「まあね。僕の本職は『錬金術士』でもなければ『冒険者』でもなくて、あくまで『農家』だからね。成長を喜ぶことはあっても、それを悪く思うことは無いよ」
「ふぅん、そんな感じなのね。……実際は、あんたのことを「『農家』だ」って認識してる人は逆に少ない気もするけど」
クーデリアが苦笑いをしながらそう言った。
……いや、でも、僕が『農家』じゃないとしたら、一体何だと思っているんだろう? 一応肩書に持っている『村長』? でも、村長として何か特別なことをしてるわけじゃないし、そう思われてるとも考えにくい気がするんだけどなぁ?
「まっ、追い付く・追い抜かれるって話を抜きにしても、最高ランクの冒険者が「仕事を全くしてない」、「報告の仕方を忘れてる」なんてことがあったら、後輩冒険者たちに示しがつかないでしょ? たまにはマイスも『冒険者』として冒険の報告をしに来なさい」
「ええっと……じゃあ帰ってきてから今回の『塔の悪魔』討伐のことを報告に来たらいいかな?」
「そうね。帰ってきたら都合を合わせて『サンライズ食堂』でって感じでいいんじゃないかしら?」
「はーい……って、あれ?」
流れのまま返事をしたけど、それっておかしくないかな?
報告って普通『
「それこそ後輩冒険者の手本にはならないような気がするんだけど……?」
「どうせちゃんとした報告はトトリのほうからくるだろうし、あんたはもうポイントためる必要も無いから、そんなしっかりと手順を踏んだ報告じゃなくても別にいいじゃない」
「えぇ……。もしかして、ただ単にお酒を飲みたいだけだったりする?」
「さぁ? それはどうかしらね?」
はぐらかすように言ってるけど、この感じはほぼ間違い無いと思うなぁ……。
そういえば、クーデリアに家には良いお酒もあったりしたし、一緒に飲みに行ったりした時も結構飲んでいたし……もしかしてクーデリアって、かなりのお酒好きだったりするのかな? 普段はそんな様子を全く見せないけど、意外とそうなのかもしれない。
それにしても、帰ってきてから都合を合わせて『サンライズ食堂』かぁ……『サンライズ食堂』に行くこと自体は別に嫌じゃないし、もうそういうことでいいかも?
「ううん……じゃあそういうことにしとこっか」
「
まあ、ピークの時間に当たらない限り……お酒を飲むような陽が沈みきってからの時間であれば、そう
僕は、そう思いながらその予定の事を頭に刻み込む。
「……そういうわけだから、ちゃんと無事に帰ってきなさいよ」
「大丈夫だよ。今回はいつも以上に事前の準備をしてるし……僕の実力は、一緒に冒険したこともあるクーデリアもよく知ってるでしょ?」
「まぁそうだけど……相手が『塔の悪魔』だからって、肩に力を入れ過ぎちゃあ逆にダメなんだからね?」
トトリちゃんからの報告で『塔の悪魔』の凄さを聞いているからなのか、やたらと念を押してくるクーデリア。
そんなクーデリアの不安をなるべく拭い払うべく、僕は改めて「大丈夫」と笑顔で頷いてみせるのだった……。
――――――――――――
挨拶回りを終えてマイスが出ていった『冒険者ギルド』。
そのカウンターに残されたクーデリアはひとり、誰かに聞かせるわけでもなく、とても小さな声で呟いていた……。
「無理して笑ってるって感じでもなかったし、いい感じにリラックスできてるのかもしれないけど……」
クーデリアの中でひっかかっていること。
それは、
「けど、もしかして、ギゼラのことを未だに知らないってことは無いわよね? いやまあ、『塔の悪魔』のこともちゃんと知ってるみたいだし、ありえないとは思うんだけど、いちおう確認しておけばよかったかしら? マイス本人も色々と抜けてるし、なんていうか変に運が悪いところもあるから……やっぱり、真っ先に聞いておけば……」
こうして、クーデリアはマイスたちの安否とはまた別のことで気を揉むこととなるのだった……。
『トトリのアトリエ編』以降のこの二人は、お互いに嫌いではなくむしろ好意は少なからず持っているし、気が合わないわけじゃないのだけど、間に他に誰かが入ったり外部からの何かが無いと本当にずっとこんな調子で「一定の距離を保っててイチャイチャしたりはしない仲良しコンビ」のまま続きそうなんですよね……。
……で、くっついてもそのままな感じなのか、デレッデレになるのか……どっちかだけか、二人ともなのか……。妄想は絶えません。