マイスのファーム IF【公開再開】   作:小実

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『5年目:結婚疑惑騒動【*4*】』

 二度と登場しないと思ってたあの人の登場。
 第三者視点となっています。






※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、一部表現の変更、行間……


トトリ【*4*】

【*4*】

 

 

 

 

 

 

***アランヤ村***

 

 

 建物の一部が『トトリのアトリエ』となっているヘルモルト家。その家がある海に面した丘から村へと降りてくる道を歩いているのは、『アランヤ村』が生んだ錬金術士であるトトリことトゥトゥーリア・ヘルモルト。

 

 

 冒険者免許のランクアップもとりあえずは大丈夫だろうというランクまで上げ終え、『冒険者』になるきっかけであった母親・ギゼラを探す旅も望む最高の結果では無かったものの足跡をたどってたどり着き、たどり着いた先の『最果ての村』が抱えていた問題である『塔の悪魔』も倒した。

 解決すべきと考えていた大きな目標は全て解決したトトリは、ようやく()()()()()()自分のために冒険ができるようになった。……のだが、特に何が変わるというわけではなかった。

 

 『錬金術』をするための素材集めに冒険に出て、依頼をこなして困っている人を助け、時には直接会った人から悩み事を聞きそれを解決するべく調合をしたり、時々『青の農村』に立ち寄り学校の『錬金術』の授業・教科書の準備の手伝いをする……そんな日々が続いている。

 変わった事と言えば、活動の拠点が『トトリのアトリエ』に定まってきていることくらいだろう。『アーランドの街』の『ロロナのアトリエ』のほうにも行かないわけでもないが、以前のように長期間滞在することは無くなっている。ランクアップの必要性が無くなった事や、ツェツィ()やピアニャが村にいること、そしてその気になれば『トラベルゲート』ですぐに行けるからどちらで生活してても冒険にはさほど影響が出ないことが理由にあげられるだろう。

 

 

 

 

 

 そんなわけで、比較的のんびりと過ごしているトトリだが……今日は受けていた依頼の納品・報告をするために、『バー・ゲラルド』へと向かっていた。

 なお、ピアニャは『トトリのアトリエ』担当のちむちゃんたち――ちむちゃん、ちみゅちゃん、ちみゅみゅちゃん、ちむおとこ、ちむぐれーと――と、お留守番中である。

 

「依頼の報告をしてー、そのまま酒場にいるお姉ちゃんのところで買い物してー、あとで『パメラ屋さん』にも寄ってー……他に何かあったかなぁ? あっ。あれって……」

 

 村の中で他に用事がなかったか考えつつ歩いているトトリだったが、建物が増えてきて『アランヤ村』の中心地であり『バー・ゲラルド』もある広場が見えてきた時、あるものが見え、彼女の意識はそちらへと向かった。

 当然、視線もそちらへといくのだが……そのため、()()()と偶然にも視線が合ってしまい、無視するわけにもいかなかったためトトリは『バー・ゲラルド』を少し通り過ぎてソッチへと歩を進めることとなった。

 

 トトリがそばに来るよりも先に、視線の先にいる人物のほうからトトリに向かって声がかけられる。

 

「よぉトトリ。元気にしてたかぁ?」

 

「何事も無くって感じだよ。そういう()()()()()()はどうだったの? どこか行ってたみたいだけど……」

 

 トトリの問いに、ここ最近馬車と共にどこかへ行っていて『アランヤ村』にいなかった村出身の御者ペーターが、いつも通りの何とも言えないニヘラとした笑みを浮かべて喋りだす。

 

「まぁ、相変わらずってことだな。行先は街のほうだったし街道もキチンとしてるとこしか通ってないから安全だった……けど、やっぱり馬車の長旅は体のあちこちが痛くなってさ、特に腰回りが」

 

「ああ、いつも言ってる……だから「相変わらず」なんだね」

 

「まあな。だから、これからちょっとの期間、仕事は休みにして体をいたわろうかなーって思ってんだ。というわけで、馬車に乗りたいって言っても、俺は働かないぜ?」

 

「あーうん、別にいいよ? 馬車が無くても特に困らないから。そもそも最近はペーターさんの馬車、全然使ってないし……」

 

「あれ? そう言えばそんな気が……なんでだぁ?」

 

 最近、トトリが馬車を使っていないことを本人に言われて初めて気付き疑問に思うペーターは「あれ? あれぇ!?」と焦り気味に首を傾げ始めた。基本仕事に不真面目な彼だが、それでも生活がかかってはいる。そんな中、固定客だと思っていた相手(トトリ)が馬車を使わないとなると少なからず利益を得る機会が減るわけで……かなり大きな問題である。

 ……だというのに、何故、今の今までトトリが馬車を使わなくなったこと(そのこと)に気付かなかったのだろうか? やはり、色々と残念なペーターである。

 

 

 

 と、そんなペーターが「あっ、そうだそうだ!」と何かを思い出したようで、自分の生活に関わる問題を放り投げて別の話題を出す。

 

「街に行った時に聞いた話なんだけどな、あいつ、結婚するんだってよ」

 

「あいつ?」

 

 聞き返すトトリに向かって、一度頷いた後にペーターはその人物の名前を出した。

 

 

()()()()()。あのお前のかぁちゃんに「アタシの次に強い!」て言わたり、俺のこと海にブン投げたりした……」

 

 

 言っていてその時の事を思い出したのだろう。ペーターは少し顔を青くしてブルリッとその身を震わせる。

 そんな姿を見てトトリは呆れ顔で短くため息を吐いた。

 

「いやぁ、『水着コンテスト(アレ)』はマイスさんのお祭りへの熱意もあるけど、それ以上にペーターさんが()()っていうか、気色()()()()というか……って、あれ?」

 

 「はて?」とトトリはその口を止めた。そして考える……「今、何の話をしていてマイスさんの名前が出てきたんだっけ?」と。

 

「えっとー……確か、結婚するって……結婚? …………ケッコン!?」

 

「ちょっ、トトリ! 今俺のこと気色悪いって……!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()!! それで! マイスさんが結婚するって本当(ホント)!?」

 

 トトリの言い様に「ひでぇ!?」と目と口をあんぐりと開けて驚愕するペーター……だったが、トトリにこの程度の事を言われて再起不能になるのであれば『アランヤ村』ではやっていけない。

 内心ではまだ完璧には立ち直れずとも、すぐになんとか気持ちを落ち着けて律儀にトトリの問いに答えるのであった。

 

「マイス本人から聞いたわけじゃなくって、噂でそんな話があってたんだよ。聞く相手を変えたら微妙に内容が変わってたりしたから、ホントかウソかっていうのは半々(はんはん)くらいじゃないかぁ?」

 

 ……と、ここまでは比較的まともな返答をしたペーターだったが、「けどなぁ……」と呟いたかと思うと、眉をひそめて何やら怪訝そうにして続けて言いだした。

 

「俺個人としては、この噂にはなんか裏がある気がするんだよな……」

 

「裏がある、って、噂にですか?」

 

「だって、考えてもみろよ。()()()に、八方美人でお人好しなだけの()()マイスが結婚なんて出来ると思うか? どう考えたって「いい人」どまりが関の山だろ? それに……俺より先にあいつが結婚だなんて有り得ない、いやっ! あってはいけないと思う!」

 

 「俺以外」という部分をやけに強調するペーター。やはり『水着コンテスト』の一件で海に投げられたことが根深く印象に残っているのだろう。

 前半は、マイスのことを知っていれば「まぁそうかも?」と思えなくも無い内容……だが、後半はどう考えても完全にペーターの私情であり、それを聞いて頷く人はまずいないに決まっている。

 

 

 話を聞いていたトトリも、ペーターの言葉に「うわぁー」と引きつつツッコミを入れようとして……急にピタッと数秒固まったかと思うと、目を少し見開いてから薄っすらとイタズラを思いついたかのような笑みを浮かべた。

 

「そうだよねっ! ()()マイスさんが結婚だなんて、絶対ありえないよー。だって、マイスさんってカッコイイっていうかカワイイ系で、身長もミミちゃんとほとんど変わらないくらいだし、童顔でロロナ先生以上に成人してなさそうに見えて……そもそも、外見も子供っぽいのに、性格とかも一見落ち着いてるように思えるけど、実は結構はしゃいだり頑固でワガママだったり、内面も子供っぽくって」

 

「おおっ! 今日のトトリはあいつにもかなりズカズカ言ってくなぁ……。でもまあ、トトリの言う通りだと思うぞ。やっぱりお嫁さんを貰う男っていうのは、立派な大人じゃないとダメだ! ああいう子供っぽい奴だと仕事とか外との付き合いも心配だし、頼りがいも無いからな」

 

「それだとペーターさんもダメダメじゃないかな……? まあ、それは置いといて。その点でマイスさんは、経済面は全く心配がない……ように見えて、額が高すぎて問題になりそうだったり、マイスさんのその辺りの感覚と常識が頭のネジと一緒に吹っ飛んでいっちゃってて、数万コールを「別にいいよー」ってポーンって投げ捨てちゃうようなことする人だし、逆にある意味悩み事だらけでそばにいたら胃に穴が開いちゃいそうかも」

 

「あ、んん……?」

 

「ナヨナヨしてて「へたれ」なペーターさんとは別方向に頼りない見た目だったりするけど、実際はいろんな分野の事を知ってたり、普通に強かったりするから凄く頼りにはなる…………んだけど、やっぱり変な方向に飛び抜けちゃってて、戦闘なんか……「レックウ!」って前へ()びかかったかと思ったらすぐに後ろへ()()ねたり、回転して敵に突っ込んだり、いきなり光ったかと思ったら残像が見えるくらい速く動き出したり、『魔法』で最早(もはや)何でもありで……力や技術が「強い」とか「凄い」じゃなくって、なんていうかもう「怖い」とか「気持ち悪い」レベルで……」

 

「…………なぁ、トトリって、実はマイス(あいつ)のこと大嫌いだったりするのか? あと、ついでに俺のことも」

 

 流れ弾を受けて、目尻に涙を溜めながら引きつった笑みを浮かべるペーター。

 だが当のトトリはその問いかけに「ふぇ?」とマヌケな声をもらして首をかしげるのみだった。つまり、自覚も悪気も無いようだ。

 

 

 

 と、そんなトトリの様子を見て、ペーターとは少し違った顔の引きつらせ方をしている人物が一人。

 

「うわぁ……」

 

 それは、『バー・ゲラルド』から出てきたメルヴィアだった。酒場の前あたりが少し騒がしい気がしていたのだが、どうやらその声の一つがトトリのモノである事に気付き「何してんだろ?」と興味をひかれて酒場から出てみれば……この状況である。そりゃあ引きもするだろう。

 

「マイスの悪口合戦? どうしたのよ、トトリ? いつもの毒舌にしては盛り盛りというか……いや、そもそもなんでマイスの? こないだのお祭りなんて、「マイスさんの『魔法』のこと、みんなが受け入れてくれなかったらどうしよう」っていうふうな心配顔までしてたってのに……えっ、何? ()()()反抗期ってやつ?」

 

「心配くらいするよ。……っていうか、メルおねえちゃん! ソレはソレ、コレはコレなの! それに、わたしだってちょっとくらい陰でマイスさんのこと悪く言ったっていいでしょ!? 今度は私の番なんだもん!」

 

「ああ、うん……なるほど」

 

 頬を膨らませて、両手は握りこぶしを作ってブンブン振るトトリ。

 それを見たメルヴィアは、先程までの引きつった顔を消し、代わりに真剣な表情になって…………

 

 

 

 

 

「ペーターのそばにいすぎたから、ひねくれ曲がった根性が感染(うつ)っちゃったのね」

 

 ……ペーターの肩にポンッと手を置いた。

 

「ちょ!? ちが……」

 

「あ、大丈夫よ? 別に物理的に叩き直そうとかそういうわけじゃなくって「トトリに悪影響が出てるみたい」ってツェツィに相談するだけだから、ね?」

 

「「ね?」じゃないだろぉ!? ヤメロー! そっちのほうがマズイんだよー!!」

 

 ガチで泣き出しそうになりながら、酒場にいるツェツィに報告(チクリ)に行こうとしているメルヴィアの脚にすがりつくように抱きついて止めようとするペーター。

 

 

 そんなメルヴィアとペーターのそばにいるトトリだが……

 

「結婚……結婚って……ふ、ふーんだ! どうせウソに決まってるよ! マイスさんって一人でなんでもしちゃうし、できちゃうから、お嫁さん候補がいたって「私、彼には必要無いのかも……」って振られるにきまってるし、それに……うん、もっと悪口言っちゃおう! そんなことに付き合ってくれそうな人っていったら……」

 

 目の前のイチャイチャ(?)は眼中にないようで、大きな独り言を呟きながら、当初の目的地の『バー・ゲラルド』ではなく『パメラ屋さん』へと向かって行った。

 どうやら悪口を言っているところを姉のツェツィに見られるのは、流石に抵抗があったらしい。

 

 

―――――――――――――――

 

 

 なお、『パメラ屋さん』にて「結婚できそうにないマイスさん」といった感じの内容で話してみたところ、思った以上に店主のパメラが「そうよねぇ~!」とノリノリでくいついてきて盛り上がったのだが……

 

「カワイイ系で~。そうねぇ~旦那さんっていうか、弟……子供……? ううん、ペットかしらぁ~♪」

 

 という、パメラの発言で今度はトトリが引き、少し冷静になったり……。

 しかし、その「ペット」という表現がある意味ではそう間違っていないことをトトリが知るのは、もう少し後のことである……。

 




 マイス君のことを誉めたいのか、けなしたいのか、よくわからないトトリちゃん。
 トトリちゃんからしてみれば、マイス君とちむちゃん達の相談会の意趣返しのつもり……なんでしょうけど、色々と間違えちゃってます。

 こんな状態のトトリちゃん。マイス君に会ったらどうなるんでしょうねぇ?

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