マイスのファーム IF【公開再開】   作:小実

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 『ホム【*5-3*】』です。
 今回はマイス視点でのお話となっております。

 今回、ホムちゃんは出番がありません。ただ、代わりにと言ってはなんですが、アノ人が本編のタイミングより一足先に出てきたりしてます。






※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、一部表現の変更……



ホム【*5-3*】

 

【*5-3*】

 

 

***アーランドの街・某所***

 

 

 

 ホムちゃんが家出をして僕の家(うち)に来てから数日、ロロナが突撃して来てホムちゃんがアトリエに行くことになったのが三日前のこと。

 

 昔のように『ロロナのアトリエ』で生活することになってからその後のホムちゃんの様子が何かと気になってはいたんだけど、昨日、一昨日は『学校』や直前に迫った『お祭り』の準備で忙しくて様子を見に行くことが出来なかった。だけど、今日はこうして時間を作ることが出来て数日ぶりの『アーランドの街』を歩いている――

 

 ――んだけど、実は今僕が向かっている場所は『ロロナのアトリエ』アトリエでは無かったりする。

 

「っと。確か、このあたり……だったよね?」

 

 ついついそんな呟きをひとりで漏らしてしまいつつ、僕は辺りを見渡してお目当ての「()()」を探す。

 

 

 

 

 

 

「あっ、あったあった。ここだ」

 

 多少時間がかかっちゃったけど、「目印」は無事に見つけることが出来た。

 

 「目印」……それは、一つの看板。

 

 

 そこに書かれているのは「()()()()()()()()()()()()()――――「()()()()()()」。

 

 

 そう、僕が目指していたのは、アストリッドさんのアトリエだった。……「(もと)」ってつけた方がいいかもしれないけど。

 

 というのも、『王国時代』にロロナが王国課題の最後の結果発表を受けたその日の内に街を出て旅に出たことがあった――――のだが、それから一年も経たないうちにアストリッドさんは街に帰ってきたそうだ。自分で新たなアトリエを開店し、周囲がアストリッドさんのことを察するよりも早く『ロロナのアトリエ』の客をふんだくるほどの実力と営業力を見せつけて……クーデリア曰く「本気出せばこの程度造作も無い」と得意げにしていたらしい。

 ……ただ、「~そうだ」とか「~らしい」っていってるように、僕は当時の事をあんまり知らない。だって、ちょうどそのころ僕の周りでは、『農業』を教えていた人たちの本格的な移住計画とか、その延長上の村の構想なんかにかかりっきりになってたころで、今以上に街のほうに行ってる余裕がなかったから又聞きでしか知れなかったんだ。なので、『アストリッドのアトリエ』は今回が初めてなのだ。

 

 

 玄関先に金具を使って吊るすタイプの看板は未だに出たままだが、玄関戸には貼り紙がされてある。そこには「気が向くまで休業中 アストリッド・ゼクセス」と書いてある。

 ……単純計算で7,8年以上前に貼られた(もの)なのに紙も書いてある文字もシッカリ綺麗に残ってることを考えると、きっと『錬金術』でなにかしらの加工がされてるんだと思う。

 

 

 

 

 そんな玄関先の様子を見て……僕は「さて、どうしよう?」と首をかしげた。

 

 そもそも、僕が『アストリッドのアトリエ』に来たのには()()()理由がある。

 

「家出の理由を知るには、アストリッドさんから聞くしかないからね……」

 

 ホムちゃんが教えてくれない以上、そのことを知るであろう人物はアストリッドさんくらいだ。……ホムくんも何か知ってるかもしれないけど、以前にホムちゃんが謹慎を受けていた時にしか会ったことが無いことや()()()()()()もあって、候補にはギリギリ入らないと判断した。

 

 ……で、だ。

 先に在ったように、()()()()()()()()()()()()()()()()。何年も前から街から姿を消していて、『アストリッドのアトリエ(ここ)』に来たところで会えるわけでもない。現に、ロロナが国中探し周っても見つけ出せなかったのだ、ここに居たら驚きだ。

 

「って、そもそも中に入れないし、入れたところでどうしようもない気も……。うーん……でも、ココ以外にアストリッドさんの手掛かりがありそうな場所ってわからないからなぁ?」

 

 冷静に考えれ見れば、ここの事を調べるだなんて、国中を探し周るよりも先にロロナもしてるだろうことはすぐに想像できる。きっとすでにしてるはずだ。

 

 

 でも、だからと言って何もせずにはいられない。

 少しでも何か手がかりが……ほんの少しでも可能性がありそうなら意地でも探しだしてみせる。家出をした理由を聞いた時の、何も言わないホムちゃんのわずかに――しかし確かに歪んだ辛く苦しそうな顔を思い出す度、僕の中でその意志はどんどん強くなっていってた。

 

 

 

「よしっ、やるぞ! まずはなんとかしてこの鍵を開けないと……」

 

「ほう。留守の他人の(アトリエ)に無断で侵入しようとするとは……ずいぶんと「悪い子」になったものだな」

 

「昔からアストリッドさんには僕の家(ウチ)に勝手に入られて物も盗られてましたし、おあいこだと思います」

 

「「アストリッドさんなら持って行った物を最大限に活かしてくれると思ってますから」などと言っていた純粋無垢で素直な少年はいなくなったのだな。ううっ、私はかなしいぞー(棒)」

 

「それはー……あれです! 状況に応じて臨機応変に……というか、ホムちゃんの事を考えたら、手段は多少手荒だったとしてもなんとかしてあげ――」

 

 

 ……あ、あれ? ちょっと待って。

 今、僕、誰と……?

 

 無意識のうちに自然と会話をしてしまっていた相手――その声がするほう……向かって左手のほうへ顔を向けてみると、1,2メートルほど先にあるアトリエのいつの間にか開け放たれてた窓には――――

 

 

「……アストリッドさん?」

 

「どうした? ロロナにでも見えたか?」

 

 

 ――――窓の桟にもたれかかるように両肘をついて顔を覗かせ、視線をこちらへと向けてきているアストリッドさんの姿があった。

 

 ……え? いや、何で!?

 

「おおっと、叫んだり大声を上げたりするんじゃないぞ? 今日は訳あって秘密裏にココに置いてきていた装置の点検をしにきていたんだ。……全く、何処かの誰かがいなくなったせいで、人手が減って、わざわざこうして私が出向かなければいけなくなったのだから困ったものだ」

 

 驚く僕に制止をかけながらそう言ったアストリッドさん。

 

 アトリエにおいてるっていう装置も気にはなるけど、今はひとまずおいておこう。

 後半の部分はきっと……ううん、間違い無くホムちゃんの事を言っている。……なんだか、昔もみたことがあるはずの「やれやれ」といった感じのアストリッドさんの態度が、今日はなんだか見てるとやけにイライラしてくる気がする。

 

 

 

「アストリッドさん! ホムちゃんが家出してウチに来たんですけど、一体ホムちゃんになにを――「なにもしていない」

 

 僕の言葉にくってかかるように、アストリッドさんは被せて言ってきた。

 

「なにもしていない……《だからこそこうなったのだろうな》》。ずっと(さかのぼ)れば、私の選択肢に間違いが無かったとも言い切れんが」

 

「つまり、結局はアストリッドさんが原因って事なんじゃ……?」

 

 そう思って、僕がアストリッドさんに問いかけてみるけど、アストリッドさんは静かに首を振ってから、その目で僕をジットリと睨みつけて……その上でため息を吐いた。

 

 

 

「ハァ……いいや。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……え?」

 

 それって、どういう……

 

「今度……そうだな、あと1,2週間で今の研究に一区切りがつく。それからホムを迎えに行くからな。それまでに決めておくといい」

 

「ちょ……待ってください! いっぺんに色々頭に入ってき過ぎて、何が何やら……決めるって一体何を……!?」

 

 いきなりの事に困惑しつつ何とか整理しようとする頭に、(相手)の都合なんて知ったことじゃない様子のアストリッドさんの口は止まりそうもない。

 

「お前は……いや、ホム自身も理解していないだろうが、今のホムは非常に不安定な状態だ。正直に言えば、できるのであれば初期化してしまったほうが良いくらいに()()()()()()()()()。存在意義そのものが根元から折れかかってると言ってもいい……一応、見方を変えれば「進化」とも言えなくはないのかもしれないがな」

 

「だから! 一体、何の話なんですか!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 僕が、ホムちゃんの全てを……?

 その責任って、一体どういうこと……?

 

「……お前が決めないなら、私が都合の良い様に決めてしまうぞ」

 

 そう言ったアストリッドさんは、僕へ向けて手のひらをかざし……て…………

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

「―――ったく、――、おい!」

 

 

 呼ぶ声、揺すられる感覚……

 この掴んできてる手の大きさ、この声の感じ……ステルク、さん?

 

 ようやく瞼が開きはじめて目に光が入り見えたのは、想像した通りの人物、ステルクさん。仏頂面とよく言われるその顔には、僕の目が正しければ安堵した表情(ようす)が見て取れた。

 そして、周りは……アストリッドさんのアトリエの前、だね。

 

「やっと起きたか」

 

「んっ……ステルクさん、なんでここに……?」

 

「アストリッドにここの管理を任せ(押し付け)られているんだ。それで、定期的にこうして鍵を持って様子を……そう言うキミこそ、どうしてこんなところで寝ていたんだ? 最近忙しそうにしているそうだが、睡眠不足で倒れてしまうほなのか?」

 

 ステルクさんにそう言われて、僕は「はて?」と首をかしげる。

 

 「寝ていた」? 僕が? そんなはずは、無いと思うんだけど……だって、さっきまでアストリッドさんと話してた、というか色々言われてたはずなんだけど……?

 ……いや、まさかさっきまでのアレは全部、いつの間にか居眠りしてしまってた僕が見た夢?

 

 

「……? どうした、まだ寝ぼけといるのか?」

 

 

 ステルクさんの声をどこか遠くのことのように聞きながら、僕は夢か現かわからなくなり始めてたあの会話の中でのアストリッドさんの言葉が、頭から離れずに繰り返し鳴り響いていた。

 

 

 

――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 


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