マイスのファーム IF【公開再開】   作:小実

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※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、行間……



ホム【*5-1*】

【*5-1*】

 

 

 

 

 

 

***青の農村・マイスの家前***

 

 

 

「え?」

 

 僕は、耳に入った突拍子も無く思える言葉に理解が追い付かなくて、ついそんな間の抜けた声を漏らしてしまった。

 

「どうかしましたか?」

 

 玄関先にいる……さっき(ウチ)を訪ねてきたホムちゃんが、その目を僕のほうに向けたままコテンッと可愛らしく首を傾げる。

 ……が、どうしたもこうしたも、ホムちゃんの口から出てきた(と思われる)言葉のせいでこんなことになっちゃったんだけど……。

 

 そう言うわけにもいかないから、とりあえず、僕の聞き間違いの可能性もあるから、一応ホムちゃんに聞き返してみることにする。

 

 

「ええっと……ごめん、ホムちゃん。()()()なんて言ったのかな? できれば、もう一回言ってくれたら嬉しいんだけど……」

 

「はあ? それはまあ、かまいませんけど」

 

 傾けていた首を真っ直ぐに戻し……でも、どこか納得していないのか釈然としていない様子で……何かが詰められたカゴを持ったホムちゃんは改めて口を開く。

 

 

 

 

 

「この(たび)()()()()()()()()()

 

 

 

 

「あはははっ……聞き間違いじゃ、ないんだね……」

 

「…………?」

 

 あまりに予想外の出来事に、僕は頭を抱えずにはいられなかった……!

 

 いや、だって! あの家出だよ!? 家出!!

 不良のする非行と言われて思いつくことの代表格の一つでもあるため、この場にいたのが僕じゃなくてロロナだったとしたら「ホムちゃんが悪い子に~!?」とか言って騒ぎだしたことだろう。

 それはもう、僕だって耳を疑いたくもなるよっ!

 

 「そんな事する人は知り合いにも流石に……」と考えて「あれ?」と首をかしげた。

 未遂ならある気が……? というか、『アーランド(こっち)』の知り合いじゃあトリスタンさんなんかは、昔、家を飛び出して行ったことがあるって話を、愚痴と自責の言葉と共にメリオダスさんから聞いたことがある。

 

 

 いやっ、例があるからって別に良いことってわけでもない。

 家出する子が悪いか、される親が悪いか、どっちもなのか、どっちでもないのか? 難しい問題だし、いったい何があったのか聞いてみないとわからない……なので、何があったのか聞くべきなのだろうけど、デリケートな問題だと予想されるからいきなり聞くのはあまり良くないと思う。下手をすればホムちゃんを傷付けてしまいかねないから、ホムちゃんのほうから切り出してくるまで、その辺りはひとまず触れずにそっとしておく。

 だから、とりあえず今僕がすることは()()現状確認のはずだ。そして、今、真っ先に聞くべきなのは……。

 

「ええっと……家出をしてて、それで僕の家(ウチ)に来たってことは……?」

 

「はい。おにいちゃんの家に居候(いそうろう)させてほしいのです」

 

 まぁ、大体予想は出来てたし、僕としては断る理由も無い。

 事情はともあれ、家出してしまうほどの状態にあるホムちゃんを放置しておくなんてことは出来ない。あと、ホムちゃんが僕を頼ってくれるのは単純に嬉しいし、そんなホムちゃんのためにも何かしてあげたい。

 それに、ホムちゃんが家に泊まること自体はこれまでにも何度もあったから僕もホムちゃんも勝手を知っている。だから、「食べ物の好き嫌い」や「枕が変わると寝れない」云々(うんぬん)の確認事項だとか、早急に何か用意しないといけないとか、そういうことも無いからササっと受け入れることもできるから、問題無しなのだ。

 

 

 だから僕は、当然のように頷くんだけど……それよりもわずかに先に、ホムちゃんが続けて話し出したため、僕は一旦止まることとなった。

 

「ホムがいることで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことはわかってます。でも、ホムはおにいちゃんのところに居候させてほしいのです。でないとホムは、人通りの少ない街道のかたわらで寒空の下、ひとり身を震わせることに……」

 

「あははっ……そんな必死に頼まなくたって、僕のほうはいつだってOKだよー…………あれ?」

 

 家出という不安な状況のせいか、余計にマイナス思考になってしまっているようで、随分と具体的な最悪のイメージをしてそれを口にしているホムちゃん……なんだけど、その前の遠慮がちな感じでホムちゃんが言ってたことに、数秒遅れて首をかしげることとなった。

 

 「おにいちゃんと()()()()」……?

 

 「ええ?」と思ったけど、それは一瞬で、経験が()きた……って言うのもおかしいかもしれないけど、ホムちゃんが何の事を思って言っているのか、僕はすぐに察した。

 「マイス()が結婚する」っていうあの噂のことを真に受けているんだろう。

 これまでにもいろんな人に誤解されてしまったけど、ホムちゃんもその人たちと同じく信じてしまい……そのせいで、ちょっとだけ遠慮をしてしまったんだと思う。遠くにいたはずのホムちゃんが、いつ、どこでその噂を聞いたのかはわからないけど、間違い無いと思う。

 

 そうとわかれば、まずはそこの誤解を解いておくべきだ。

 

 

「えっと、ホムちゃん?」

 

「はい、なんでしょう」

 

「たぶん「マイス()が結婚する」っていう話をどこかで聞いたんだと思うけど……あれ、誰かが勝手に言い出した真っ赤な嘘だからね?」

 

「……そうなんですか?」

 

 僕の目をジィーっと見つめて聞いてくるホムちゃんに、僕は大きく頷いてみせる。

 

「本当に、ですか?」

 

「うん、本当だよ」

 

「ウソだったら『うに』千個()み込めますか?」

 

「嘘じゃないってー……随分疑われてるみたいだけど、僕、そんなに信用無いかなぁ?」

 

 ちょっと悲しくなって肩を落としてしまうけど、目の前にいるホムちゃんは静かに首を振り「別に、そういうわけではありませんが……」と否定してくれたから、たぶん、信用はされている……のかな?

 じゃあ、なんでそんなに確認してくるのかって話になるんだけど……それもやっぱりわからないんだよなぁ?

 

 

 

「では、ホムは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「うん…………うん?」

 

「……? どうかしましたか?」

 

「いやっ、ちょっと何か変だった気が……気のせいかな?」

 

 なんだか、ホムちゃんの言ってることが微妙にズレてた気がしたけど……

 ホムちゃんって、喋り方が変に丁寧過ぎたり、難しい言い回しや表現をしたりするから、たぶんそういう独特な部分があるせいでちょっと変に聞こえただけ……だよね?

 

 

 でも、なんか気になるっていうか、引っかかる感じがして、そのことを考えようとしたんだけど……またまたホムちゃんが喋りだしたことで思考は中断されることに。

 

「それはそれで良しとして……ホムは家出をしました。住む場所が無く、他にアテも無いホムは、このままでは雨の日に外に放り出されグショグショな濡れ鼠になったネコのように、見るも無残な状態に……」

 

「だから、なんでそんな聞いてるだけでかわいそうな状況ばっかり……って、んん?」

 

「また、何か?」

 

 コテンと首をかしげるホムちゃん。

 僕が言葉を途中で止めてしまったのは、さっきのようにホムちゃんの言ったことに変な違和感を覚えたから……では無かった。原因は僕の目の前にあるその傾けられられたホムちゃんの顔……その表情にあった。

 何か、って言うか……

 

 

 

「ホムちゃん、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「笑ってる……? ホムがですか?」

 

 心底不思議そうに言ったホムちゃんは、手に持ってたカゴをその場に下ろしてから、自分の両手で自身の顔をペタペタと触りだす。

 

 

 そう。これまでは、いつもの無表情に近いけど悲しんでいる顔をしていたのに、何故か今はうっすらとではあるけど口角が上がり、確かにホムちゃんは()()()()()んだ。言ってることはあいかわらずなのに、だ。

 

 これって……本当にどういうこと?

 だって、「雨でグショグショになったネコ」みたいなこと言ってるけど、普段のホムちゃんならそんなこと言った時点で自分で勝手に想像してちょっと辛そうな顔をするはずだ。……いやいや、それ以前にホムちゃんは家出の真っ最中なわけで……。最初っから楽しそうにしていたならまだしも、最初は悲しそうな顔をしていたホムちゃんが家出を楽しんでて笑ってるはずがないし……。

 しかも、僕はまだ「OK」とは言ってない(言えてない)。だから「許可が出て喜んだ」ってわけでもないわけで……? 本当に何でホムちゃんは笑顔になったんだろう?

 

 

 けど、僕がいくら考えても答えは出てきそうになくって……当のホムちゃんも相変わらず笑顔になってる自身の顔をペタペタ触っては首を左右に傾げて続けていた。

 

「おかしいですね……? おにいちゃんの同情を誘うために、ホムはポロポロ涙を零す演技(マネ)をして語らなければいけないのに……どうしてでしょう?」

 

「それは、まあ、嬉しいことでもあったからなんじゃ……? ん? ()()?」

 

 それ以外にも、なんか気になることが聞こえたような気が……?

 それらを追及するよりも先に、いつの間にかいつもの無表情に戻ったホムちゃんが口を開いてビシッと言ってくる。

 

「はて? なんのことでしょう? 大方おにいちゃんの聞き間違いでは?」

 

「ええ!? いや、でも……」

 

「もしくは、()()()()()というものでしょう」

 

「ううん……そういうものなのかな? って、それってやっぱりホムちゃんが言ったことは違いないんじゃない!?」

 

 僕はそう言って聞き返すけど、自身の足元に置いていたカゴを拾い上げたホムちゃんは「なんのことでしょう?」と言うばかりで、あとは軽く首を横に振るだけだった。

 

 

 

 

 

「コホンッ……そんなことより、家出をしたホムの今後についてです」

 

 ひとつわざとらしくも可愛らしい咳払いをしたホムちゃんが、改めて僕の顔をジッと見て口を開いた。

 

「このままではホムは「捨てネコ」ならぬ「捨てホムンクルス」になってしまいます。このままでは野垂れ死にか、グランドマスターに()()()()()()()()無理矢理連れ帰されてしまいます。……おにいちゃんの家に居候できないでしょうか?」

 

 言っていることはやっぱり不安のありそうな後ろ向きなことなんだけど……その表情はなんて言うかこう、不安そうどころか何故か自信に満ちてる気さえするほどで、目もいつもより輝いている……気のせいかな?

 

それは置いといたとしても、自分から飛び出して行ったのを「捨て」と表現するものかな? あと、アストリッドさんはホムちゃんに一体何を……。

 気になることは増えるばかりだけど……最初に思ってた通り、ホムちゃんを(ウチ)に泊まること自体は何の問題は無い。だから、僕はホムちゃんにそう伝えることにした。

 

 

「心配しないで。事情は結局よくわかんないままだけど……でも、ほむちゃんの頼みとあれば(ウチ)や『離れ』はいくらでも使っていいよ! いつも通りに、ね」

 

「おにいちゃんならそ言ってくれると思ってました」

 

 僕が行った後、ほとんど間も開けず、噂の真偽の時のように確認を取ったりもせずに、何故か胸を張ってそう言うホムちゃん。

 

 ……って、ああ、なるほど。さっき自信満々だったのは僕の答えがすでにわかってたからで……

 ……ん? それだと、最初のほうに表情からして不安そうっていうか悲しそうだったのは何で……? 僕の答えがわかりきってたならあの時から自信満々でもおかしくないような? 何か状況的に変わったこととかあったっけ? そんなのそれこそ例の噂のことくらいしか……。

 

「では、さっそく、この荷物を『離れ』の方へ持って行きましょう。そして、それから()()に会いに行って、よかったらなーにも(こっち)に来てもらいましょう」

 

「えっ、あ、うん。そうだね。毎日掃除もしてるし大丈夫だと思うけど、一回『離れ』のほうの状態を僕も一緒に確認しておこっか」

 

 僕がアレコレ考えているのは当然のようにおかまいなしに本格的に居候の準備を始めるホムちゃん。いやっ、おかまいなしっていうか、こころなしか興奮気味(ハイテンション)で……もしかして、ホムちゃん自身自制が利いていなかったりするのかな?

 

 

 でも、結局どうしてホムちゃんはこんな元気があるのか無いのかわかんない状態なのかは不明なままで……家出の原因も()()()()アストリッドさんの仕事の頼み過ぎや()()理不尽とも思える謹慎処分とか、そういったのの積み重ねだろう……っていう()()しか出来てない。

 

 うーん……これからどうなるんだろう?

 

 そうちょっと不安に思いながらも、ホムちゃんから少しずつ事情を聞いたりとか自分に出来ることを最大限するしかないだろうなぁ、という考えにしか至らない。

 まあ、きっとなんとかなる……よね?

 

 

 

 

 

「そういえば、何か忘れてる気がするんだけど……なんだろう?」

 

「おにいちゃんが忘れてしまうことですから、たいしたことではないのでは……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

***ロロナのアトリエ***

 

 

 

「ぇっ、へぷしっ……!! うう、風邪? 季節の変わり目だし、気をつけてるつもりなんだけどなぁ?」

 




※『ホムルート』特有の変化※

 ホムちゃんの家出&居候。
 本編の共通のお話に一番影響を与えてしまっている……んけど、『ロロナのアトリエ編』『番外編』~『IF』までの『ホムルート』のことを考えると、ある意味当然の流れだったりする。
 ……ホムちゃんのホムンクルス離れ?

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