※2019年工事内容※
誤字脱字修正、句読点、行間……
【*4*】
***????・????***
そこは、『アーランドの街』や『青の農村』から遠く離れ、『アランヤ村』からも遠く離れた地。
『アーランド共和国』という枠組みで見ても、とても遠く感じてしまうほど離れた土地に、ある一軒の建物。その建物内の一室は、どこかで見たことがあるような気がする機材の数々と、棚に入りきらず机や床に積まれるようになってしまった本たち、そして二つの錬金釜があり……見る人が見れば『錬金術』のアトリエなのだとすぐに理解できるだろう。
そんな室内空間で動く影が一つ。
少女が二つある錬金釜のうちの一つの前に立ち、その中を杖を使って一定のペースを保って混ぜ続けている……『錬金術』で何かを調合しているのだろうと推測することが出来る。
錬金釜の中を混ぜ続けている、そのフリルがふんだんに付けられた服と左右にまとめられたお団子ヘアーが印象的な少女……ホムンクルスのホムは、このアトリエの主人であるアストリッドの命令により調合を
その命令を与えたアストリッドはといえば、今現在『アトリエ』から外出しておりこの場に
「…………。」
さて、そんな表情をしている
「ぐーるぐーる、ぐーるぐーる……何か、違います。マスターの真似をしてみましたが、さして楽しくもありません。この作戦も失敗でしたか……」
そう言ってため息を吐き、残念そうに肩を落とすホム。それでも相変わらず一定のペースで錬金釜の中をかき混ぜ続けているあたり、流石と言うべきだろう。
独り言を言い、一見すると片手間で仕事をしているような不真面目な印象を受けかねない状況であるホムだが、当の本人は大真面目であり、真剣に悩んでいる。
というのも……
「……お仕事とは、こんなにも退屈で楽しくないモノだったでしょうか?」
ここ最近ホムは、グランドマスターから受けた命令に従い仕事をこなすことが退屈に感じ始めてきているのだ。
もちろん、与えられた仕事が簡単すぎるとか、単純作業で眠くなるとかそういうわけではない。今こうしてかき混ぜてやっている調合だって、一見簡単そうに見えて、作るものの難易度によってはかき混ぜるペースを見極めて保ったり、材料を加えるタイミングなど難しい部分も多くあり、決して楽ではない。
だが、難しい調合であっても完璧にこなし、
しかし、それがどうだろうか。今のホムにはその過去の自分自身の考え自体に疑問を持ちだしてしまていたのだ。つまりは……自分の存在意義そのものに疑問を持ってしまったのだ。
そして、ホムが一番困っていることは……
「ここ数日でいろんな事を試してみましたが……一向に前のような感覚に戻りそうにないです。それに、何故こんな風になったのか
他でもない。
普段、「ナニがドウだからソウである」とか「後でアアなるだろうから、今、コウすべきである」などと蓄積された知識と経験を元に、順序立てて
そのため、「何故そう思う?」と自問自答しようとしても上手く答えが出せず、ただ無意味と思えるほど頭を悩ませることに時間を費やしてしまうわけだ。……とはいえ、今回は調合をしながらであるため、全くの無駄な時間というわけではないのだが……。
「こういう時、誰かに相談できればいいのでしょうが……」
そうは思うが、残念ながら相談が出来るような相手は手近にいなかった。『錬金術』の事であれば、別の仕事を任されている
だが、今回は内容が内容なため二人には相談できない。
というわけで、相談など到底できそうにも無いわけだ。
「今帰った」
「手近でなくても、他に誰か相談にのってくれそうな人は……」そんなことを考えながら錬金釜をかき混ぜ続けていたホムの耳に、ドアの開閉音と聞きなれた声が聞こえてきた。
どうやらこの『アトリエ』の主人であり、ホムを作った人物でもある自称「天才錬金術士」……他称「悪名高い錬金術」だったりする
「おかえりなさいませ、グランドマスター。調合途中で手が離せず、このようなお出迎えになってしまい申し訳ありません」
ホムは、あいかわらず錬金釜をかき混ぜ続けつつも、その顔だけはアストリッドの方へ向けてそう言った。
そんな様子を
「まぁ気にするな。むしろ下手に手を離して調合を失敗でもされたほうが困るからな。……で、進捗状況は?」
「全体の工程の八割を超えたあたりです。あと2,3時間ほどで全行程を終えると予想されます」
「ふむ。今回の調合の難易度を考えれば上々だろうな。その調子で続けてくれ」
「はい。わかりました、グランドマスター」
アストリッドの言葉にいつも通りの返事を返すホム。だが、やはりその心の中の違和感と表情まではいつも通りとはいかず、ホムは内心、より一層「どうしたものでしょうか……」と首をかしげるのだった。
そして…………
そんなホムの変化に気付かないほど、アストリッドの目は曇ってなどいなかった。
ここ最近、ホムが悩んでいることもしっていたし、その理由も、ホムが気づけていない原因さえも
そもそも
「まさか、ここまで影響がでるとはな……」
「……? グランドマスター、なんでしょう? 次の命令ですか?」
「気にするな、ただの独り言だ」
ポツリと呟いた言葉を聞きとれなかったものの反応したホムの問いかけに、アストリッドは手をヒラヒラと振って「何でも無い」と返す。
そんなことをしながら、アストリッドは自信の思考に没頭する……。
――――――――――――
徐々に出てきていた変化をだったが、アストリッドが大きく「変わった」と感じたのは三回。
一度目は、アストリッド自身のちょっとした興味がきっかけとなったあの時……何故マイスのことを「おにいちゃん」と呼ぶのか問いかけたあの後だ。その前から小さな兆候はいくらかあったのだが、それを元に自身がたてた推論を確かめるためにアストリッドは聞いたのだが……結果的に、それがホムの変化を
二度目は、働き詰めだったホムに何気なしに与えた休暇。それから帰ってきたホムが、ホムくんとアストリッドにお土産を渡したあの日。
「お祭りのお土産です」とお土産を渡された時、アストリッドは「また
……のだが、アストリッドは「ん?」と首をかしげることとなった。その理由はお土産がこれまでの「実用性に
故に、気になってホムに直接今回の休暇中の事を聞くことにしたのだが……そう思ったアストリッドが目にしたのは、普段のアトリエでの生活に戻っているが、妙に機嫌が良すぎるホムの姿だった。天才のアストリッドでなくともわかったことだろう、「これは絶対何かあった」と。
……問い詰めた結果、お祭りはいつもの『青の農村』のモノではなく『アランヤ村』で行われた『豊漁祭』というもので、機嫌がよかったのはその中の『水着コンテスト』に色々あって参加し、優勝は逃したもののマイスに票を入れてもらえたからだということが判明することとなる。
三度目はつい最近のこと。「一人で勝手にロロナの水着を見たこと」という半分本音、半分建前の理由で、ホムのバイタルチェックなどといった身体・精神の双方の検査期間も兼ねた「謹慎処分」を下した時のこと。
おつかいの際に与えた上限期間のいっぱいいっぱい『青の農村』にいたことなど、アストリッドからしても「そこまでなのか」と驚くことが判明したりもしたのだが……それ以上にアストリッドの目に止まるようになったものがあった。
それが、「
アストリッドは「期限に余裕があるからといって遊んではダメだ」とか「お前は謹慎中は私のそばから離れないように」などと叱ったり、命令したり、何かしらの制約を言ったりする度に、本人に自覚があるかは不明だが、口では良い返事をするのに顔は不満顔になっていたりするのだ。
特にひどかったのが、ホムの代わりにおつかいに出るホムくんを二人で見送った時など、ホムくんのことをうらめしそうにジットリと睨みつけていた時。それには流石のアストリッドも苦笑いをしたほどだ。
そんな、普段のアトリエでの仕事中などといった日常に影響を与え始めたホムの変化。それを観察し続けたアストリッドは思った。
「ああ、これはもうほぼ確実か」と。
「おにいちゃん」呼びに執着し他には無い繫がりを求め、そばにいることを好み、マイスのことを「特別だ」と思い、思われたい……ホムはマイスにある種の好意を感じているのだろう、と。
――――――――――――
「
イスに座り、体重を背もたれに預けるようにして体をそらす。アストリッドが思い出していたのは、先日謹慎処分を解きおつかいに行かせたホムを隠れて追跡したあの日のこと。
はたから見ていて、「兄妹などという表現が合っているのか?」と疑問を浮かべてしまいそうにも見える光景だった……が、アストリッドにとっては、それくらいは大したことでは無かったりするのだが……。
「さて。どうしたものか……」
他にもすべきことはあるのだが、ホムとマイスのことをこのまま放っておくのもどうかと思っている。半鐘は控える、などと決めていたが……アストリッド自身、感情の芽生えから始まり、作りだした自分が思っていた以上の変化をしていくホムに少なからず興味が湧いているのだ。
少し考えたアストリッドは、ふとある事を思い出し……そこからちょっとホムの感情を
「ホム。そう言えばお前には私が今回どこに行っていたのか伝えていたかな?」
「はい、聞いています。『さいせい』する機械の調合のために、レシピのヒントを求めて「異能の天才科学者、マーク・マクブライン」のラボに潜入しに行く……でしたか?」
アストリッドの問いかけに錬金釜をかき混ぜる作業を続けたままのホムが答える。
「そうだ。警備が強化されていたが……まあ、あの程度のトラップは私にとっては在って無いようなものなのだがな。……あとは、ちょっと変装をして街とロロナの様子を見てきたのだが……そこで面白い話を聞いてな」
「面白い話、ですか?」
「ああ。「
「……………………」
「ホム?」
「…………」
「おいっ、今混ぜる手を止めるのは最終的な品質に……」
いきなり固まってホムを見て、イスから立ち上がりそばに歩み寄るアストリッドだったが……そこである事に気付く。
「立ったまま、気絶している……だと……!?」
自覚の無い気持ち。
感じるのは胸のモヤモヤと、一緒にいない時の満たされない心。
さて、マイスの結婚騒動を知ったホムが取る行動とは……!?
次回! 「おにいちゃんどいて!そいつ