マイスのファーム IF【公開再開】   作:小実

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『5年目:マイス「ある日の日常」【*3*】』

サブタイトルには『マイス「」』とありますが、第三者視点でのお話しとなっています。



※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、一部表現の変更、句読点、行間……


ホム【*3*】

【*3*】

 

 

 

 『塔の悪魔』の討伐を終えて『青の農村』に帰ってきたマイス。

 マイスを待っていたのはいつもの日常。……とはいっても、ちょっと前から間近に迫っている()()()を発表するお祭りのことや、その()()()関係のこれから先のことで色々とあるため、ヒマというわけではなくそこそこ忙しい日々を過ごしていたりするのだが……。

 

 時に村の人たちと祭りの予行練習や確認作業を行い、時に家にその道を行く知り合いを呼んで各教科の教科書や授業の方式について議論を交わしたりするマイス。

 

 

 そんな日々の内の、とある日のこと……

 

 

 

――――――――――――

 

***青の農村・マイスの家***

 

 

 

 太陽がその日の内の最も高い位置にさしかかろうかという時刻。

 一人「農具も用意しとかないとなぁ」と『作業場』の『炉』の前で延々と『農具』を作って(量産して)いたマイスだったが、お昼前になったことに気付き、一旦片付けてから昼ゴハンを作りに『作業場』を出た。

 

 『作業場』からリビングダイニングをそのまま通り過ぎ『キッチン』へ。様々な調理器具が揃った調理台を前にしたマイスが「さて、さっそく調理にとりかかろうっ!」、そう意気込んで手を動かそうとしたちょうどその時……。

 

 

 「コンコンコンッ」という小気味良い(ノック)が、『キッチン』の隣のリビングダイニングと外とを(へだ)てる玄関戸のほうから聞こえてきた。

 

「はーい! ちょっと待ってくださーい!」

 

 ノックに気付いたマイスは調理を始めようとしたその手を止めて、その足を玄関のほうへと向けた。

 

 

「お待たせしましたー……あぁっ! ホムちゃん! いらっしゃい! 謹慎処分って聞いた時には驚いたけど……無事に解いてもらえたんだね!」

 

「こんにちは、おにいちゃん。ちょっとだけお久しぶりですね。謹慎処分については……おかげさまで、といったところでしょうか?」

 

 そう。マイスが扉を開けた先にいたのはホムちゃん。いつも通りのスッと正された姿勢でたたずんでおり、出てきたマイスに礼儀正しくお辞儀をした。

 

「この間のおつかいにはホムくんが来てくれたから会えなかったもんねー。って、あれ? いつも以上におつかいの間の期間が短い?」

 

「それについては、先程少しだけあがった謹慎処分の解除にも関係しているのですが……」

 

 

 「実は……」とホムはマイスへと、今回のおつかいの経緯を語り始めるのであった。

 

「それが、先日のおつかいの際にあちらのホムが持ち帰った情報……おにいちゃんの情報提供によって判明した『水着コンテスト』を『さつえい』したカメラ。それをグランドマスターは入手したのですが……」

 

 そこまで聞いて、マイスはマークの研究所(ラボ)に泥棒が入ったという話を思い出し、「あっ、あれってやっぱりアストリッドさんが……」と半ば確信に近い予感だったものがやはり事実だったということを理解した。

 

「残念ながら記録したものを『さいせい』する機能は不完全だったらしく、また、『さいせい』専用の機械も開発途中でグランドマスターは『えいぞう』をまともに見ることが出来なかったのです。……が、「再生する機械が無いのであれば、暇潰しに調合して(作って)みるか」とグランドマスターが思い立ち、その素材集めにホムたちが奔走することになった……というわけです」

 

「えっ!? それって、アストリッドさんが『さいせい』のための機械を作るってこと!?」

 

「グランドマスター(いわ)く、理論的にも『錬金術』による調合は不可能ではないそうです」

 

 『錬金術士』が機械を……。

 そう考えると違和感を感じてしまったマイスだったが、いちおう、どういうものが必要なのかがわかっていれば機械の部品を『調合』すること自体は出来なくないことだということにすぐに気がついた。問題は、現象の原理やその理論、作る機械の仕組みをよく理解する必要がある事なのだが「アストリッドさんなら何だかできちゃいそうなんだよなぁ……」という思いがマイスの頭の中にあった。

 

 

「……それでこれが今回のおつかいのリストです」

 

「はーい。ちょっと待ってねー……っと、うん! パッと見た感じウチで全部そろいそうだよ!」

 

 「機械を作るのに、『鉱石類』はともかく『植物類』や『毒の素材』、『神秘の力』の素材が必要になるのは何で……?」と疑問を抱きつつも、リストに書かれた素材が全て手元か倉庫のコンテナに保管されていると記憶していたマイスが、笑顔でホムにOKサインを出す。

 

「それじゃあ、その素材はまとめとく……けど、その前にお昼ゴハンだね! 今から造るから、座って待ってて!」

 

「はい。と、その前になーを…………ぁっ」

 

「……?」

 

 玄関からキッチンへ戻ろうとしたマイスだったが、ホムの声が不意に途切れたことに疑問を感じ、すぐに振り返った。

 「なーのことで何かあっただろうか?」と考えてみるが、思い当たるのは、ここ最近、ホムが村に来ればホムが迎えに行かなくてもいつの間にかホムのもとに来るようになっている。動物特有の敏感な感覚で、ホムの気配を察知しれいるのかもしれない。

 

 それで「迎えに行かなくてもいいかな?」ということで言葉を途中で止めたのか、とマイスは予想したのだが……そうではないという事を、マイスはすぐに察する。

 

 

 ホムが一歩踏み出さずに――家に入らずに扉の開いた玄関の前で、顔を少しうつむかせて立ち尽くしていた。

 

 振り返ったマイスが見たホムの表情は、眉が()()()()下がり、口角も()()()()下がって「へ」の字に。そして、その目は普段よりも潤んでいる()()()()()()()()()()……そんな表情(かお)

 

 マイスの頭に真っ先に浮かんできたのは、()()()のホムの姿だ。

 そう、それは……当時は「こなー」だった「なー」をその両手で抱えて立ち尽くしていたホムと『職人通り』で出会ったあの時の事。拾って来た「こなー」をアトリエで飼いたいと言ったところアストリッド(グランドマスター)に拒否され「捨ててこい」と命令を受け……「命令をこなさなければいけない」でも「こなーを捨てたくない」と葛藤して、ホム自身は自覚できていなかったがとても苦しんでいた。

 

 

 今のホムの表情(かお)()()()以上に歪んでおり――それが、あの時よりも苦しいからか、あの時よりも感情表現が豊かになったからなのかは不明だが――「そんなのはどっちでもいい」と言わんばかりに、マイスはすぐさまホムの元へと駆け寄るのだった。

 

 

「ホムちゃん!? どうしたの? どこか痛いの? それとも……謹慎の時にアストリッドさんに何か言われた?」

 

 マイスがアストリッドの名前を出した時、ホムの身体がピクリと動き……それを見たマイスが「あぁ……やっぱり」と察して、彼としては珍しく怒りの感情をわき上がらせる。

 それを見てか見ずかはわからないが、顔をうつむかせたままのホムがポツリッポツリッと、話し始めた。

 

「ホムが謹慎処分を受けた、()()()()()は……おにいちゃんと選んだおみやげを渡した後……普段グランドマスターは聞いてこなかった「祭りは何があったんだ?」という質問をされて話した『豊漁祭』の一件ですが……もう一つの理由は、ホムがグランドマスターからのいいつけを守っていなかったことが、事情聴取でバレたからです」

 

「いいつけ?」

 

 マイスに聞き返されたホムは、顔をうつむかせたまま「……はい」と小さく頷く。

 

「休暇以外の外出であるおつかい……ホムは()()()おつかいの時には出発の際にその上限期間を伝えられます。それは、「その日までは外に出ていていい」のではなく「指定した素材が集まらなかった場合であっても、この日までには絶対に帰ってくること」と。つまり……」

 

 そこまで言われたマイスは、ホムちゃんが言葉を詰まらせてしまっているその先を、理解した。

 

「つまりは、素材が全て集まった場合はすぐに帰らないといけなかった……そういうことなんだね?」

 

 僕が聞くと、今度は何も言わずにゆっくり頷いた。

 

 

 何がどういうことなのかといえば……

 

 これまで、ホムはおつかいの時にマイスの家に立ち寄り、必要な素材をリストを渡して用意してもらっておきながらも数日間――おつかいの上限期間の間――そのままマイスの家に滞在していた。

 しかし、それはアストリッドからのいいつけを破る行為であり、それが『豊漁祭』の一件から芋づる式に露呈して、余計にアストリッドの怒りを買ってしまったのだろう。

 

 

 つまり、ホムがマイスの家に踏み込めずにいるのは……

 

「ホムが、今、ここでお昼ゴハンをいただくのも、マイスの家でお喋りするのも、『青の農村』で遊ぶのも……してはいけないことなのです。出発の際にグランドマスターから重々忠告を受けました」

 

 相変わらずのうつむき加減で言うホムの肩はわずかに震えており……その足元近くには数滴の雫が落ちはじめた……。

 

 

 

 ホムの話を聞き、その姿を見たマイスは……

 

「ちょっと待ってて!」

 

 そうホムに言って一目散に何処かへ走って行った。

 その数秒後……

 

 

 

 

 

ガンッガンッガンッ!

 

ガンッガンッガンッガンッガンッガンッ!!

 

ガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッ!!!!

 

 

 

 

 

「!?」

 

 いきなりどこからかなり響き出した音に、目元を少し赤くしているホムも驚き、さすがにその顔を上げその目を見開かせて辺りをキョロキョロと見渡した。

 

 ……と、玄関とはリビングダイニングの部屋を挟んで反対方向にある『離れ』や『モンスター小屋』に続く渡り廊下のある方向の扉が開き、そこから何処かへ行っていたマイスがいろんな素材をその手に持って現れた。

 

 

「あー! たいへんだー! 素材、全部揃ってると思ったのに、『鉱石類』の品質が全部最悪レベルだー!」

 

「……品質が最悪というか、粉々に砕けているように見えるのですが……」

 

「そ……そうかなー? とっとにかく、これを渡すんじゃあアストリッドさんに怒られちゃうよー」

 

「もの凄く視線が泳いでいますが……というか、いったい何を……」

 

 

 

「ここで素材が集まらないなら、ホムちゃんは採取に行かないといけないけど、早く帰らないとアストリッドさんに怒られちゃうかもだよねー? だったら……僕が責任を持って採取のお手伝いをしないとなー」

 

 

 マイスの言葉に目をパチクリとまたたかせるホム。そして……

 

「おにいちゃん……それは何というか、屁理屈なのでは……?」

 

「うぐっ……!!」

 

 自覚があったのか、まるで腹部に何かをグサッと刺されたかのように、身体を「く」の字に曲げてうめき声をあげるマイス。

 が、すぐになんとか体勢を立て直して……背筋を伸ばした。

 

「屁理屈だって言うよ。だって……やっとホムちゃんに会えた。ホムくんには悪いけど……やっぱり、僕はホムちゃんと話して、笑って、ゴハン食べて、遊びたいんだよ。だから、この前、ホムちゃんが来れなくて、やっと今日会えたのにすぐにお別れだなんて僕は嫌なんだ……僕のワガママでも何でも……」

 

 

 

 

 

「ワガママなんかじゃないです」

 

 マイスの言葉を(さえぎ)るように、ホムが言った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。一緒にゴハンを食べたいです。お話もいっぱいしたいです。だから……ウソが苦手なおにいちゃんのひとり芝居にまんまと乗せられることにします」

 

 さきほどまでの気の沈み様は何処へ行ったのか、微笑むホム。数秒、間を空けてマイスは「そっか」と嬉しそうに呟き、続けて言う。

 

「それじゃあ、ちょっと家を空けることと、予定をずらすこととかをコオルに伝えてくるから、その間にホムちゃんは(ウチ)に入って、持って行くゴハンとおやつ……もとい、採取を効率的に行うための栄養補給の物資の用意をしててくれないかな?」

 

「お任せ下さい」

 

 

 こうして二人は足りない素材の採取のための冒険の準備を始めるのだった……。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 そして……

 

 

「………………。」

 

 

 そんな二人を遠くから観察する目があることを、二人は知ることは無かった……。

 




 仲良し(?)義兄妹。


アストリッド「祭りのお土産? なんだいつものか……ん? ちょっと待て」

 ……このあたりのやりとりが、今後の展開にも関わって……?

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