マクロスΔ 紅翼星歌〜ホシノツバサ〜   作:木野きのこ

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Mission02 始動 ゲット・レディ Ⅳ

模擬戦が終了し、アイテールへ帰投する。

オレの〈VF-31F〉は見事に模擬弾で彩られ、撃墜されたと大々的に喧伝していた。

それは別として、風防(キャノピー)に模擬弾が付くと前が見えないせいで帰路は大変だった。

前が見えないせいで、あっちへ行ったりこっちへ行ったりして、挙げ句の果てにチャックに牽引されて戻ってくる始末だ。

メッサーのやつ、当てるところくらい考えろよ、まったく。

でもまあ、初めて乗った機体にしては上出来だったんじゃないだろうか。

 

格納庫へ機体を収納し、コックピットから出る。

 

「よう、お疲れさん」

 

そこでは先に機体を格納していたチャックが待っていた。

隣にはミラージュも一緒にいる。

 

「お疲れチャック。悪い負けちまった」

 

「何言ってんだ、メッサー相手にあそこまで戦えたんだ。上等な方だよ。な、ミラージュ?」

 

「うぇ!?い、いきなり振らないでください!」

 

自分に振られると思っていなかったのか、素っ頓狂な声を上げるミラージュ。

 

「さ、着替えてくるとしよーぜ!健闘祝いに今日の飯は俺の奢りだ!」

 

「よっしゃあ!」

 

オレとチャックは肩を組んで意気揚々と格納庫を後にした。

それを見てミラージュがやれやれといった感じで続いて出ていく。

 

 

 

 

 

 

模擬戦終了後、機体を降りてからもメッサーは自分の機体を見たまま動こうとしなかった。

そんな折り、アラドが格納庫のメッサーの元へやってくる。

 

「ご苦労だったな。どうだアイツは?」

 

「及第点ですね。センスはありますがまだ荒削りといったところです」

 

メッサーは返事はするが、機体を見つめたまま動かない。

 

「どうしたメッサー?」

 

「……もしかしたら、アイツは化けるかもしれません」

 

「ほぅ?お前がそこまで言うなんて珍しいな」

 

「右翼先端を見ていただければわかるかと」

 

「……何かあるのか?」

 

怪訝そうな顔をしながら、アラドはメッサーの言う右翼先端を見に行くと——

 

「……ッこれは!」

 

——先端には、模擬弾1発分のペイントが付着していた。

そこでアラドは、最後に交差するあの一騎討ちの際に当てられたと確信する。

 

「模擬戦で当てられたのは久しぶりです」

 

「……確かに、こりゃ化けるかもしれないな」

 

アラドは頭を抱えて、だが嬉しそうに不敵に笑ってみせた。

 

 

 

 

 

 

——夜。

〈裸喰娘娘〉での晩飯を終えたオレは腹ごなしに涼みに出ていた。

近くの桟橋に腰掛け、夜の海と、星の海を交互に眺める。

 

こうしていると、グリフィスパークを思い出す。

街の喧騒からも離れ、人もいないと言う点についてはほぼ一緒だ。

唯一違う点といえば、近くの〈裸喰娘娘〉から喧騒が聞こえて来るくらいだ。

……でも、嫌な喧騒じゃない。人の営みがあると実感させてくれる心地いい喧騒だ。

 

——空を見上げていたら、なんとなくハーモニカを吹きたくなった。

首から下げていたハーモニカを手に取り、ゆっくりと吹き始める。

 

奏でるのは、オレのお気に入り、ランカさんから教えてもらった大事な歌〈アイモ〉

星の海を越えて、銀河の彼方にいるであろう彼女へ届くように、奏でる。

オレはここにいる——と。

心配しなくても元気でやっている——と。

 

やがて、演奏が終わる。

ギャラリーはいない。強いて言うなら遠くの星のランカさん、か。

なんて、ロマンチシストのようなことを考える。

 

すると、背後からパチパチパチと拍手が聞こえてきた。

いないと思っていたギャラリーはどうやらいたようだ。たった1人分の拍手があまりに響く。

オレは拍手の主を確認するために振り向いて、驚いた。

 

「……美雲?」

 

ワルキューレのエースボーカル。ミステリアスクイーンこと美雲・ギンヌメールがそこに居た。

 

「どうしてここに?」

 

「真っ直ぐで綺麗な音色が聴こえたから、見に来たの」

 

夜の散歩でもしていたということなんだろうか?よく見れば格好もワルキューレの制服ではなく、私服だ。

 

「いい曲だったわ。なんて曲名なの?」

 

美雲がゆっくりとこちらに歩いて来る。

そして、オレの後ろで立ち止まり、同じように海を眺める。

 

「……恋の歌(アイモ)って言いうんだ」

 

2人で夜の海を見つめながら、淡々と言葉を呟く。

 

「ラグナに来る前に、オレの恩人から教わった大切な歌さ」

 

「……そう」

 

「ああ……」

 

静かな時が流れる。

本当ならこういう沈黙は気まずいって感じるのだろうが、なぜか美雲との間にある沈黙はそれを感じなかった。

 

「ねえスバル。貴方、その恩人とはどんな関係だったの?」

 

「……急にどうした?」

 

「だって、恩人のことを話している貴方の表情(かお)、すごく優しい表情だったから」

 

優しそうな顔って、緩んでたとかそういうことか?

ペタペタと顔を触って確認していると、美雲がその様子をみてクスクス笑う。

 

「まあ別に隠すことではないけど……関係、か」

 

答えに詰まる。

別に恋人とかそんな関係ではない。かと言って友達かと言われたら、微妙に違うし……。

 

「家族……姉、かな?」

 

「フフッ、貴方のお姉さんって、想像できないわね」

 

またクスクスと笑う美雲。

その仕草にオレの心臓が大きく跳ねた。

 

「姉って言っても本当の姉じゃないぞ」

 

「あら、そうなの?」

 

「そうなの。だから姉なんだけど友達みたいな感覚というか……友達より近いんだけど、恋人とかそういう目で見れないというか……」

 

「複雑な関係ね」

 

「……オレもそう思う」

 

自分でも言ってることがよくわからなくなってきた。

頭を抱えていると、美雲が一歩寄ってくる。

 

「ねえ、もう1度あの曲を吹いてくれるかしら?」

 

「え?ああ、まあ……いいけど」

 

そう言って、再びハーモニカを咥える。

今度はギャラリーがいるから気合が入るな。

 

ゆっくりと再び奏でられる旋律。

どこかの誰かの想いが、届きますように。

些細な願いが、天へと届きますように。

遠い銀河の彼方へ、届きますように。

あなた、あなた、求める誰かに応えるように。

すると、その旋律に別の旋律が加わる。

虹色に輝く女神の旋律。

振り返ると美雲が、その声でスバルの演奏に彩りを加えていた。

その音色は、かつてグリフィスパークでランカとスバル——2人が奏でた旋律ととてもよく似ていた。

 

空を見上げれば、スバルと美雲、ふたりの行く道を照らすように月が大きく輝いていた。

 


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