マクロスΔ 紅翼星歌〜ホシノツバサ〜   作:木野きのこ

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Mission11 雪星 チュース・バースデー Ⅳ

 

——夜。

フレイアは〈ケイオス女子寮〉から〈裸喰娘娘〉へ向かっていた。

月明かりの下、鼻歌交じりに軽やかな足取りで歩みを進める。

時刻はまもなく深夜になる頃で、日付が変わるというところだ。

だんだんと近づいてくる〈裸喰娘娘〉は当然だが営業時間はとっくに過ぎているため、明かりも消されて暗い。

 

「みんな出かけとるんかね……?」

 

ガチャリという音と共に木製のドアが開き、軋むような音が静かな空間に響く。

それがあまりにも大きく響き、自分でやっておきながら少し驚いた。

 

「た、ただいま……?」

 

外が暗いなら中も当然暗く、人の気配もない。

そろりそろりと様子を伺いながら中に入った。

その瞬間、火薬が破裂するような乾いた音が立て続けに響き渡った。

あまりに突然響いた音に、フレイアは今までで一番光ったんじゃないかと錯覚するほどルンを光らせて驚いた。

 

「うひゃあ!!な、なんね!」

 

訳もわからず右往左往していると、室内のライトが一斉に点灯する。

そして——

 

『フレイア!お誕生日おめでとーーー!』

 

——何人もの祝辞の言葉がフレイアの耳に届いた。

見れば、ワルキューレをはじめとした、デルタ小隊のメンバーやオペレーター、チャックの弟妹たち、そして意外にもアイシャまで参加し、こちらを見つめていた。

皆一様に笑顔で、手にはクラッカーらしきものを握りしめて、口々におめでとうと言っていた。

 

「え、誕生日?」

 

「今日でしょ?フレフレの誕生日」

 

「…………………………ああ!!今日私の誕生日!!」

 

長い、長い沈黙の末、ようやく今日が自分の誕生日だと思い出したフレイアが驚きの声を上げる。

 

「もしかして忘れてたの!?」

 

驚かそうとしたつもりが逆に驚かされてしまい、その場にいる全員が口を開けて固まった。

 

「いや〜……この2、3年誕生日のたびに村長さんからはよ結婚せいって言われて逃げ回っとったから」

 

えへへ、と恥ずかしそうに照れ笑いするフレイアにつられるようにして全員が笑う。

すると、フレイアの視線が誰かを探すように泳いだ。

 

(ハヤテは……?)

 

だが、室内を見渡しても、そこに彼女の探し人、ハヤテ・インメルマンの姿はなかった。

 

「おい、ミラージュ」

 

「はい?」

 

その視線に気づいたのだろう。

スバルがミラージュの腕を肘で小突いて呼ぶ。

 

「ハヤテとの連絡まだつかないのか?」

 

「それが……さっきからずっとコールしてるんですが出なくて」

 

「……ったく。アイツ、何やってんだか……」

 

パーティはまだ始まったばかりとは言え、すでにハックとザックが台車にこれでもかと積まれたプレゼントを運んできている。

スバルは心配そうな面持ちで、窓の外を見上げた。

 

その時だった。

 

窓の外をチラリと、白い何かが舞っているのに気づいたのだ。

 

「……雪……か?」

 

「どうかしたんですか?」

 

窓の外を見つめて怪訝な顔つきに変わったスバルを、ミラージュが覗き込む。

 

「いや……今、雪っぽいのが見えてさ」

 

「は?何を言ってるんですか?ラグナは地球でいう温帯ですよ。雪なんて降るわけないじゃないですか」

 

「……だよな。悪い、たぶん見間違いだ」

 

スバルは肩を竦めて、かぶりを振ると、プレゼントの量に驚くフレイアに視線を戻す。

と、今度はフレイアの後方のドアが音を立てて開いた。

全員の視線が注目する中、そこには、これまた意外な来客、美雲・ギンヌメールが、いつもの妖艶な微笑みを浮かべて立っていた。

 

「クモクモ!」

 

「激レア……」

 

普段からこのような催し物に参加することのない美雲がこの場に現れたことに、やはりというか、スバルを除く全員が驚いていた。

唯一スバルは、やっぱり来たんだな、というような悪戯っぽい笑みを浮かべて前へ出る。

 

「ずいぶん遅い到着だな。美雲」

 

「フフッ、主役は遅れてやってくるものよ」

 

「あー……ウンソウダネ」

 

(……それを言うなら真打登場だろ)

 

口には出さず心の中でツッコミを入れていると、フレイアは——おそらく意味もわかっていないが——目をキラキラさせて美雲へと駆け寄った。

 

「美雲さんも来てくれたんね!」

 

「ええ」

 

フワリと微笑むと、美雲は胸に手を当て大きく息を吸い込み、そして——

 

Happy Birthday

Happy Birthday

Happy Birthday to you

 

——ゆっくりと歌い始めた。

その美雲の意図を察したのだろう、ひとり、またひとりと、その歌声が広がって、いつしか全員が歌っていた。

アラドとメッサーは歌うことなく見守っているだけだったが、それでもきっと気持ちは同じなのだろう。

今まで見たことがないほど優しく微笑んでその様子を見守るメッサーの姿を見て、スバルはそう思った。

だから、スバルはその歌に合わせるようにしてハーモニカを奏でる。

ハヤテに、メッサーに——デルタ小隊の仲間に出会えたことを。

フレイアに、美雲に——ワルキューレに出会えたことを。

全ての運命に感謝を告げるように、心を込めて、音を奏でる。

 

——Wishing the best, dear Freyja

 

Happy Birthday

Happy Birthday

Happy Birthday to you

 

Happy Birthday to you!

 

やがて歌が終わり、裸喰娘娘はその余韻の静寂に包まれる。

 

「……みんな」

 

「フレイア」

 

そんな様子のフレイアに、演奏を終えたスバルが厨房の奥からケーキを持って現れる。

大きめの皿には半円状のホールケーキが鎮座し、誕生日を意識したデコレーションを施され、〈happy birthday Freyja〉と書かれたプレートの後ろには、十五歳を迎えるフレイアのためにロウソクが燃えていた。

 

「これって……」

 

「オレからのプレゼント兼バースデーケーキってことで」

 

「え、これスバルさんがつくったんかね?」

 

キョトンとした眼差しでフレイアが見つめると、照れ臭そうに頬を掻きながら、スバルが頷いた。

 

「まあな。久しぶりだったから少し手間取ったけど、いい出来だろ?」

 

「うん!でもなんでパウンドケーキなんね?」

 

確かにフレイアの言う通り、それは小麦色のホールケーキであり、バースデーケーキの定番であるショートケーキからはかけ離れた物だった。

 

「バーカ。パウンドケーキじゃねえ。匂いでわかるだろ」

 

「匂いって……あ、これ!」

 

スバルの言わんとしていることがわかったのだろう。

顔を上げたフレイアのルンがピカッと光った。

 

「そう、お前の好きなリンゴを使ったアップルケーキだ」

 

ドッキリ大成功、とでも言いたげな表情でニシシと笑う。

そう、これがスバルの思いついたプレゼントだった。

以前ランカの誕生日を祝った際に覚えたパインケーキのレシピを応用して作った気持ちの籠ったプレゼント。

どうやらそれは思惑通りに喜んでもらえたらしい。

 

「スバルさん……あんがとござます」

 

「さ、話はここまで。ロウソクを消しなよ」

 

「はいな!」

 

大きく息を吸う。

グルリとその様子を見ているみんなの中にハヤテがいないことへの心残りはあった。

だが、それでも万感の思いを込めて、ロウソクを吹き消した。

 

パチパチパチと拍手が起こり、おめでとうという言葉が贈られる。

 

「みんな……あんがとございます!」

 

「それじゃあフレフレからご挨拶!」

 

「……はい!」

 

感極まって涙を流しそうになるが、ぐっと堪えて精一杯の返事を。

ぐしぐしと涙を拭うと、フレイアはゆっくりと話し始めた。

 

「私が子供の頃に……ウィンダミアと地球の人たちと戦争が始まって……でもウチの村は田舎だったから大したことなかったけど、それでもほんに大変で——」

 

ゆっくりと言葉を紡ぐフレイアの中では子供の頃から幾度となく見てきた思い出が巡っていた。

空襲で焼け果てた家の残骸、この先どうなるかわからない不安が表情となって現れている人々。

山向こうから時折聞こえる爆発のようなくぐもった音。

辛く、苦しい時がほとんどだった。

それでもこうしてここに立っているのは。

それでもこうして絶望せずに希望を持てるのは。

 

「——お父さんが戦争で風に召されて、風に還って……お母さんもお姉ちゃんも、私もほんに哀しかった……そんな時、地球の音楽に出会ったんよ」

 

そっとポケットから取り出したのは、普段から大事に持っているあの音楽プレイヤーだった。

 

「その歌を聴いていたら、辛い思いもも寂しい思いも、悲しい気持ちも、楽しい歌や明るい歌がパーッて吹き飛ばしてくれて、なんかようわからんけどすごいって思った」

 

リン・ミンメイの歌が悲しみから救い出してくれた。

ミルキードールズの歌が、父のいない淋しさを埋めてくれた。

ファイヤーボンバーの歌が辛さを和らげてくれた。

チェルシー・スカーレットの歌が苦しい気持ちを代弁してくれた。

シェリル・ノームの歌が、未来に希望を持たせてくれた。

ランカ・リーの歌が、沈んだ心に元気をくれた。

ミーナ・フォルテの歌がバラバラになりかけた村人たちを繋いでくれた。

 

きっと彼女や彼らの歌に出会わなければ、今の自分はいなかったことだろう。

歌の素晴らしさを知ることもなく。

歌でみんなを笑顔にさせられることも知らず。

ウィンダミアの片田舎で、幼なじみと小さな家庭を築いていたかもしれない。

 

「だから、ワルキューレのオーディションがあるって知った時、どうしてもワルキューレになりたいって思って、そしたらオーディションに受かって……ほんに嬉しくて」

 

話すフレイアの声に涙が混じる。

目尻から大粒の涙が溢れて、床に大きなシミを作った。

 

「……間に合った、かな?」

 

そんな様子のフレイアを見守っていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

振り向けば、裏口から入ってきたらしいハヤテが隣に立っていた。

 

「ギリギリ遅刻だ。何してたんだよ?」

 

「まあ、ちょっとね。蓋を開けてからのお楽しみってことで」

 

「なんだそれ」

 

ニヤリと口角を上げてハヤテが笑みを浮かべる。

そんなハヤテを半目で見つめていると、フレイアもハヤテがいるのに気づいたらしく、涙を流しながらも、パアッと花が咲いたような笑顔に変わった。

 

「私、今日で15歳になりました。ウィンダミア人にとって人生の折り返しになる大切なこの日にこんな……素敵な……」

 

涙でぐしゃぐしゃになった顔に気合いを入れるように、両手で頬を叩く。

そして、〈W〉のマークを両手で作り前に突き出した。

 

「……私!みんなに出会えてぶっちゃ幸せです!これからも悔いのないようにずっと!ずーっと歌い続けます!!」

 

それが精一杯の言葉だった。

大切な仲間に囲まれて誕生日を迎えられた嬉しさ、人生が半分も終わってしまった悲しさ。

この先の未来はどうなっているかはわからない。

期待と不安が入り混じる感情を抱えて、それでも前に進むために、フレイアは高らかに宣言した。

 

「よーしそれじゃあパーティーを始めるか!」

 

チャックがパーティー開始を告げたその時——

 

「見て見て!」

 

「みんな!こっちこっち!」

 

——エリザベスとザックが遮るように大きな声をあげた。

ふたりは窓の外の光景を見つめており、かぶりつくように、窓に張り付いている。

 

「どうした?お前ら」

 

チャックが何事かと見に行こうとするが、エリザベスとザックは興奮のあまり、その前に外へと飛び出していた。

バァン!と壊れてしまうんじゃないかと勘違いしそうなほど盛大な音を立ててドアが開かれる。

 

「おいおい!お前ら!……なんだってんだ?」

 

ふたりを追いかけるようにしてその場にいる全員が外に出ると——

 

「「「…………………」」」

 

——その光景に息を呑んだ。

彼らの眼前に広がっているのは暗い宵闇の世界ではなく、白に染め上げられた一面の銀世界。

はらりはらりと舞い散る白い雪が環境音を遮断し、静寂に包まれたこの場は、まるで別世界なのではないかと思わせる。

 

「雪……」

 

呆然としたまま外へ出てきたフレイアがルンを輝かせて、でも吐息に混じって消えてしまいそうなほどか細い声で呟く。

 

「雪……雪……雪ゴリ〜!!」

 

一歩、また一歩と故郷の光景を思い出すように呟き、庭へ飛び出した。

 

「なるほど……遅れてたのはこれが理由か」

 

ハヤテたちと共に出てきたスバルが、手すりに積もった雪をなぞり、してやられたというような顔でハヤテを見つめる。

 

「まあね」

 

得意げな顔でサムズアップしたハヤテに、同じようにサムズアップで返す。

 

「ハヤテ〜!」

 

庭に飛び出したフレイアが、いつになくルンを輝かせて手を振って呼んでいた。

 

「ほらフレイアちゃん呼んでるぞ。行ってこいよ」

 

「……ああ」

 

後ろから現れたチャックがトンとハヤテの背中を押すと、ハヤテはゆっくりと、フレイアの元に駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの?改まって話って?」

 

ハヤテやフレイア、スバルたちが庭で騒いでいるのを傍目に、メッサーとカナメは人気の少ない浜辺で、その雪景色を見ていた。

宝石箱をひっくり返したかのような星の海が空には広がっているのに、辺りにはしんしんと雪が降り積もる。

その幻想的な光景をふたりは見上げていた。

 

「綺麗ね……」

 

「……ええ。そうですね」

 

そう答えたメッサーの顔つきが意を決したようなものに変わる。

左腕を捲ると、手首につけられたソレを外して、カナメへと差し出した。

 

「カナメさん、これを」

 

「……なに?」

 

受け取ったソレは銀色に輝くバングルだ。

だが、ただのバングルではなくオーディオプレイヤーの機能を内包しているタイプで、小さなホログラム・スクリーンが投映されており、そこには短く〈AXIA〉と表示されていた。

その曲名にカナメは見覚えがある。

 

「この曲……」

 

「俺の命を救ってくれた歌です」

 

「え……?」

 

「二年前、ヴァールになりかけた俺を、貴方の歌が繋ぎ止めてくれた」

 

今でも憶えている。

病室の片隅で、目に涙を溜め、助けられてよかったと心から喜んでいる少女を。

それが、あまりにも嬉しそうで。

救われたのは自分ではなく、彼女の方なのではないかと思ったほど。

涙を流して、よかったと安堵のため息をこぼす少女の姿を、憶えている。

 

「あれ以来、貴方の歌は俺の命だった。貴方の歌があったから、俺は生きることができた」

 

「メッサーくん……」

 

「本当にありがとうございました」

 

「……ううん、こちらこそ。ありがとうメッサーくん」

 

 

 

 

 

 

 

 

「美雲」

 

「あら、どうしたのスバル?」

 

一方その頃、ハヤテたちを見守っていたスバルは手持ち無沙汰なのか、なんとも言えない表情で、美雲の元に訪れていた。

 

「いや、あっちもこっちもロマンスしてるなと思ってさ」

 

そう言ったスバルの視線の先には浜辺でふたり並んで空を見上げるメッサーとカナメの姿がある。

 

「……そうね」

 

美雲の見つめる先には、雪の上に寝そべったフレイアと話をしているハヤテの姿があった。

 

「でも、側から見れば私たちもそう見えるんじゃない?」

 

「……かもな。でも別にオレと美雲はそういう関係じゃないし、ただ話してるだけだろ?」

 

スバルは肩を竦めると、演劇のように大仰に振舞ってみせる。

 

「それよりさ、やっぱりパーティー来たんだな」

 

テラスに備え付けられたイスを引っ張ってきて、背もたれに向かって逆座りをする。

 

「誕生日がどんなものか知りたかったから」

 

そう言って空を見上げた美雲は哀しげだった。

彼女がそっと差し出した手のひらに雪が降り、やがて溶けて消える。

 

「……記憶、取り戻したいって思うか?」

 

以前、同じことを訊いた。

雪は降っていないが、綺麗な星空と月夜だったと覚えている。

その時の彼女は迷うことなく、凛とした眼差しで〈NO〉と答えた。

が、今の美雲は違った。

顎に手を当てて考えるような仕草をしてみせる。

短い沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。

 

「……少しだけ、ね」

 

そう言って、美雲は困ったように笑った。

 

「……変わったな、美雲」

 

「そうかしら?」

 

「ああ。前同じことを訊いた時は即答だった。けど今は記憶を取り戻したいって少しでも思えるようになってる。それだけでも十分変わったよ」

 

「……だとしたら、貴方のおかげね」

 

「オレ?オレは何もしてないよ」

 

「いいえ。貴方がいたから、私は変わることができた。そう思ってるわ」

 

「……買い被りすぎだ。それは美雲がひとりで勝手に変わっただけで、オレはあくまできっかけだろ?」

 

どんなに手を貸しても、助けても、相手が変わりたいと願わなければ、変わるための努力をしなければ、変わることはできない。

きっかけは何でも良い、結局は自分次第なのだ。

変わりたいという意思がなければ何も変わらない。

変わるという意志がなければ行動に移すことはできない。

 

「まあでも、変わるのは悪いことじゃないし、美雲が歌以外のことに興味を持つのもいいことだと思うぞ」

 

そう言って、昼間初めてホットドッグを見た美雲の表情(かお)を思い出し、クックックッ、と笑いを堪える。

 

「誕生日は楽しい、ホットドッグは美味しい、雪は冷たい——面白いことがこの世の中にはたくさん溢れてる」

 

すっくと立ち上がり、美雲の隣に立つ。

手すりに肘を置いて同じように空を見上げて、手を伸ばした。

 

「今の美雲の歌も好きだけどさ。もっとたくさんのことを知って、変わった美雲の歌も、オレは聴いてみたい」

 

「……そう。なら、いつか必ず特等席で聴かせてあげるわ」

 

いつもの自信に満ち溢れた微笑みで美雲が答える。

手はもちろんワルキューレのマークである〈W〉を作っていた。

ニカッとスバルは星のような眩しい笑顔で返すと、手慣れたように片手で〈W〉のマークを作った。

 

「何にせよ、まずは記憶を取り戻さないとな」

 

「ええ、そうね」

 

「記憶が戻ったらさ、今までの分も全部ひっくるめて盛大なパーティーを開こう。当然メッサーもラグナまで呼びつけてさ。きっと楽しいと思う」

 

「……うん」

 

「じゃあ約束だ」

 

そう言って、スバルは小指だけを立てて美雲へ拳を差し出した。

が、美雲にはその意図が伝わっていないのか、キョトンとした表情で、スバルの真似をして小指を立てている。

 

「スバル、これは?」

 

「ああ、指切りげんまんって言うんだ。約束を守るシルシ……みたいなものかな。こうやって——」

 

スバルの小指が美雲の小指を引っ掛けて、絡め合う。

 

「——指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます。指切った」

 

「……随分と物騒な歌ね」

 

「だろ?だからちゃんと約束は守るって意味で使うんだ」

 

「じゃあ約束を破ったら針千本呑まなきゃいけないわね、スバル」

 

「ゔ……。ま、まあ守ればいい話だからな。いいぜ、約束破ったら針千本のんでやるよ」

 

「おーい!そろそろメシが冷めちまうぞー!」

 

美雲の悪戯っぽい微笑みにたじろいでいると、チャックが〈裸喰娘娘〉の中からみんなを呼ぶ声が聞こえた。

 

「……行くか」

 

「ええ」

 

スバルと美雲はもう一度笑うと、並んでその場を後にした。

空に輝く月は、彼らと、彼女たちの行方を見守るように照らしている。

だが、その明かりに陰りが見え始めていることに、その場にいる誰もが知る由も、気づくこともなかった。




マクロスΔ完全新作劇場版が決定しましたね!
今後のオリジナル展開が劇場版と似通った内容になったりしないか不安でしょうがないきのこです。
劇場公開がいつになるかわかりませんが、それまでにオリジナル展開である第2部に入るために鋭意執筆中でございます!
次回もお楽しみに!

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