轟々と紅蓮の炎が燃え上がる。
辺りを焼き尽くす勢いは衰える事なく広がり続け、まるで地獄のような光景だった。
炎が吐き出した黒煙は空を黒く染め上げ、夜よりも暗い空を作り上げている。
瓦解した家屋は今にも崩れそうなほど危うい。
そんな中に少年はひとり立っていた。
全身は煤で汚れ、着ている服はボロボロ。
虚ろな瞳でその地獄のような光景を見渡す。
生者の存在は許されず、死者が渦巻く世界に、少年だけが存在していた。
ふと、少年は虚ろな瞳で視線を上げる。
いつのまにか、目の前には黒い巨人がいた。
光を映さない少年の瞳にその巨人が映り込む。
それは死を告げる天使のようにも、死を運ぶ死神のようにも見えただろう。
もっとも、自失した彼の中では生死など、もはやどうでもいいことだったのかもしれない。
ただ立ち尽くしたまま、巨人を見上げていた。
それは一瞬だったのか、長い時間だったのかは定かではない。
だが、巨人は少年に興味を無くしたのか、踵を返して去っていき、その場には少年だけが残された。
視線を前へと戻せば、巨人が去った足下に何かが転がっている。
それがかつて人だった物ということ、そして自分の両親と妹だということに、少年は気づかない——いや、幼いその頭では理解できなかった。
そこで、その少年——
これが夢であるという事に。
6年前のあの日、〈フロンティア動乱〉と呼ばれる惨劇以降見るようになった、呪いにも似た悪夢だという事に。
どんな夢を見ていようとも、最後にはこの夢に辿り着く、いつも通りの終着点。
それはつまり、もう目覚めが近いという事だ。
——さあ、もう目覚めよう。
◆
ゆっくりと瞼が開く。
視界に入る光景は先ほどまでの地獄のような光景ではない。
満天の星空に宝石を散りばめたかのように輝く宇宙と機械的なグリーンライトで表示されているアビオニクスのモニターが視界を埋め尽くしている。
聴覚が捉える音も炎が燃え盛る音や建物が崩れる音ではない。
自身の呼吸音だけがこのコックピット内の小さな空間に響いていた。
どうやら居眠りをしてしまっていたらしい。
操縦中に眠ってしまうなんて長旅で疲れているんだろうか。
「…………」
ヘルメットを外し、額に浮かんだ汗を拭っていると、アビオニクスのモニターから惑星に接近しているとアラートが鳴った。
視線の先には地表の半分以上がサンドブラウンに覆われた惑星が鎮座している。
——惑星アル・シャハル。
彼が向かう目的地、惑星ラグナの30光年隣にある惑星だ。
30光年程度ならば、立ち寄らずに目的地へ直接向かった方が速いのだが、銀河の中心——惑星フロンティアから、ほぼ外縁部に位置するブリージンガル球状星団へは長旅な上、長時間狭い機内にいては息がつまるという理由が大きい。
さらに付け加えれば、前情報で惑星アル・シャハルは観光地として開発されているらしいとのことなので、リフレッシュも兼ねて立ち寄ろうという魂胆なのだ。
スバルは先ほど見た夢の絡みつくような感覚を払うように頭を振ると、期待に胸を膨らませ意気揚々と惑星アル・シャハルへ向かっていった。