元新選組の斬れない男   作:えび^^

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プロローグ1

「お前は死んだのじゃ。さっさと起きろ。」

 

 聞き慣れない爺さんの声で、眠りから覚めるように覚醒すると、僕は真っ白な空間に立っていた。そう、立っていたのだ。立ったまま寝ていたのだろうか?

 そして僕の目の前には、齢80を超えていそうな老人がいる。ここはどこだろう。

 

「ここはお前らの言うところの死後の世界じゃ。もう一度言うが、お前は死んだのじゃ。」

 

 そうか、死んだのか。死因はなんなのだろう。トラックにでも轢かれたか?理解が追い付かないが、この爺さんの言ったことに嘘を感じない。なんか神様っぽいし。

 

「理解が早くて助かるのぉ。そうじゃ、わしが神だ。早速だがおぬしにはある世界に転生してもらう。有名な漫画の世界だし、おぬしも知っておるじゃろう。」

 

 漫画の世界に転生?よくある神様転生というやつであろうか。まさか自分の身にそんなことが起こるとは思わなんだ。とりあえず、特典を頂けるかどうかで転生後の身の振り方が変わるであろう。

 

「特典はあるが、呪いもある。呪いのほうは原作に介入しないと寿命が縮まる呪いじゃ。この呪いを付けないと原作に介入しないまま人生を終えるやつが多くてのぉ。あと転生特典は3つまでじゃ。希望が何かあるかのぅ?」

 

 げっ、介入しないと死ぬのか?進撃の巨人みたいな命の軽い世界に飛ばされたら原作に関わらなくても直ぐに死にそうなんだけど。せめてどの漫画の世界に転生するのか教えてほしいところ。

 

「すまんが原作名は教えることができないのじゃ。」

 

 マジかよ。とりあえず、どんな漫画に転生しても生き残ることを考えて特典を考えなければ。まずは丈夫で強い体だよな。病気にも強い感じの。

 

「一つ目の特典はそれで決まりじゃの。」

 

 あとは原作知識を有効に生かしたい。前世での記憶を劣化せずに思い出せるようにしたい。

 

「妥当な選択じゃな。二つ目の特典はそれでええじゃろ。おまけで儂との会話も前世の記憶に入れておくぞ。」

 

 次は戦闘能力がほしい。『ドラクエ』の魔法とか特技とか全部使える感じにしてもらうか。もしもの時はルーラで逃走できそうだし、怪我すればベホマで傷が全部治せるしな。原作死亡キャラはザオリクで蘇生させちゃろ。

 

「最後の特典はそれで良いの。但し、魔法は使えないぞ。おぬしに魔法のない世界に転生するんじゃからな。それじゃあの。」

 

 えっ、待って、魔法が使えないなら考え直したいんだけど。そんなことを考えながら、僕の記憶はブラックアウトした。

 

 

 

 赤ん坊になり、物心がつくまで育った私は、ようやく自我というモノを手に入れた。それまではぼんやりと夢の中にいるような感覚であったが、日毎に夢が覚めていくように意識がはっきりとし、ようやく物事を考えられるようになったのだ。

 結論から言うと転生した場所は、江戸だった。転生といえば中世ヨーロッパの世界観が定番との思い込みがあり、多少ガッカリしたのだが、時代劇のセットのような街並みは、それはそれで面白くあった。

 

 生まれ変わった私の新しい名前は、浜口竜之介という。ちなみに竜之介の名前には、竜のように強い男になって欲しいとの父の願いが込められていると、母から聞いた。

 父は醤油の卸問屋を商いにしており、母との仲は良好。兄弟は、二人の兄と一人の姉がおり、皆私をかわいがってくれた。

 家業は好調なようで、かなり裕福な暮らしをすることができているように思う。少なくとも食べるモノには困ることはなかった。

 

 私が10歳になった頃に、父は私を近所の道場に連れて行った。父は武士に憧れている節があるようで、私に武士の真似事というか、剣術を学んで欲しいようであった。本当は兄上たちにも剣術をさせたかったようだが、大事な跡取りには怪我をされては困るとか、家業を継ぐための勉強の時間が必要だとか、様々理由で道場に連れてこれなかったのだと聞かされた。

 私が連れていかれた道場は、試衛館というところであった。

 

 私は試衛館に通うようになり、初めて友と呼べる存在ができた。厳しい稽古で苦楽を共にし、切磋琢磨しながら剣術を磨くことが何よりも喜びであった。

 特に同年代である沖田に対して、密かにライバル認定し何度も打ち合ったが勝ち越すことがなかなかできない。転生特典である身体能力だけではやはり無理があったか。ちなみにズルをしているような気がしてドラクエ特技は封印していたのだが。

 熱心に稽古を行う姿を、先生からも見どころがあると褒められ、父も機嫌を良くしてくれたため、剣術に打ち込むことを何も咎めずにいてくれた。

 

 

 そのまま、剣術を学び幾ばくかの時が流れた。私が15を過ぎたころ、道場の仲間に誘われて、将軍上洛の警護のため、京へ行くこととなった。母は最後まで反対したが、父は立派に勤めを果たしてこいと、応援してくれた。

 この頃確信したのだが、試衛館の仲良くしているメンバーは近藤先生、土方さん、沖田…。どう考えても新選組である。

 江戸時代だと何となく思っていたが、今の世は幕末であったようだ。黒船の騒ぎとかあったけど、黒船が江戸時代のどのくらいの時期の出来事か覚えてないし、西暦なんて調べようもなかったんで、気づくのが遅くなった。

 未だにこの世界が何の漫画原作であるのかわからないが、新選組関連の漫画とか多そうなんで、ついていけば少しでもヒントがあるのではないか期待を持ち京に向かった。

 

 

 新選組としての活動は地獄であった。平和な日本で過ごしていた私には、日常的に人が殺し殺される日常は辛かった。それ故に、私には人を殺す覚悟がなかったのである。

 初めての斬り合いになった際に、私は3人の敵を戦闘不能に追いやった。相手は所詮テロリストや犯罪者の類なのだから、殺しても構わないと自分に言い聞かせていたが、止めを刺すことができなかった。見かねた沖田が助太刀と称して、止めを刺してくれたのだが、死体を見てゲロをはいてしまった。

 

 その夜、土方さんに部屋に呼ばれると、ボコボコに殴られた。私が人を殺す覚悟ができていないと泣きながら謝ると、さらに10発程殴られた。その後、部屋に戻るように言われ、切腹させられるのではないかとドキドキしていたら、次の日の朝に副長直属の『捕縛方』という役職に命じられた。

 

 『捕縛方』とは攘夷志士を殺さずに捉える役職で、相手を殺すことを禁じる役目だと、隊士の前で説明された。試衛館組以外の隊士から白い目で見られたが、土方さんの殺さずに敵を捕らえる理を説き、殺さずに捕らえることがどれ程難しいのか説明してくれたため、その場は収まった。

 

 その日から刀の代わりに木刀を携え、京を歩き回ることになった。土方さんが周りの文句を抑え込むためにかなり頻繁に出撃命令を私に下し、私もそれに応えて志士を捕らえてくると周りからの白い目や揶揄も次第になくなっていった。私が捕縛した志士達の大半は、拷問か死罪となり、その結果を見て、あぁ私も人殺しの片棒を担いでいるんだなと思うことはあれど、直接自分の手を汚し、人を殺すことはできなかった。

 

 

 




17.08.17 誤字修正

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