その日は何事も順調に行われるはずだった。
副隊長のガルシア・ギル・ナダルは帝国騎士として3年皇帝陛下のために尽くしてきた、その思いはこれからも変わることはない。
この村は、これから起きる戦争の火種とするために襲撃した。
四方から囲み込んで、村人を中央の広場に集まるように駆り立てた。その後、集めた村人達は適当に間引き、残った者は逃がして終わる。
さらに、この襲撃には別の目的があった。
王国に新たに誕生した王国騎士の姿を見るためである。
王国貴族の一人を買収し、王国騎士団をこの村に誘き寄せた。王国貴族の一部は腐敗しているため買収は簡単だった。そして数人の団員が残り噂の新人の実力を見ようとしたのだ。
そう、村人を集めるところまでは全てが順調だった。隊長が吹き飛ぶ所を見るまでは。
隊長のザナックは帝国ではそこそこ名の通った資産家で、今回の襲撃には箔を付けるために参加した。正直あまりヤツが隊長で他の団員は乗り気ではなかった。
しかし、ザナックの本当の目的は単に子どもを殺しに参加したのだ。その証拠に村の子どものほとんどはザナックが殺害した。
そして、連れて来た村娘にザナックは剣を突き刺した。彼を止めることはできない。せめて魂は安息の地へと導かれるようにと心の中で祈りを捧げていた。
しかし、ザナックの剣は村娘に刺さることはなかった。
ザナックは何かに吹き飛ばされてそのまま動かなくなった。
その後、村娘の影から見たことのないモンスターが姿を現れた。
何もない眼窩には血のような赤い光が蠢き、辺りには目に見えない死のオーラで満ちていた。
「さて、貴様らに死を与えよう。」
ガルシアは神に祈りを捧げながらも死に剣を向けた。
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影の中にいたラダマンティスは全てを見ていた。
彼は戸惑っていた。以前の自分なら人が死ねば、何かしら感情が現れるはずだが、今の自分は何も思わない。
まるで、そこらにいる蟻見た時と同じような気分だった。
だが、沸き上がる不快感は押さえられなかった。この世界で初めて出会ったリオンの泣く姿を見ていると、さらに不快感が沸き出してきた。
そしてリオンが刺された時、ラダマンティスの何かが切れた。
気が付くとラダマンティスは攻撃魔法を発動していた。
ラダマンティスが使った魔法はレベル1~10まである内のレベル7に当たる高位の魔法であった。
魔法を放った騎士はそのまま動かなくなった。まだ足りない。リオンを悲しませた者達を許さない。
「さて、貴様らに死を与えよう。」
ラダマンティスは死を宣告する。しかし、騎士達は自分を囲み込んで剣を向けてきた。
「チェック」
騎士達のステータスを確認する。騎士達のレベルはほとんどが15であった。これといったスキルもなく、ステータスも低い。全く負ける要素がない。
興味を失ったラダマンティスはもうどうやって殺すかということしか考えていなかった。
無謀にも、それとも動かないラダマンティスに勝てると思ったのだろうか。一人の騎士が飛びかかってきたのだ。
しかし、ラダマンティスにとってはその攻撃はハエが止まったようであった。
ラダマンティスは騎士の頭を
そのまま握り潰した。
周りに血とザクロのように脳の破片がこぼれ落ちる。頭を果物のように握り潰された騎士はそのまま後ろに投げ捨てられた。
騎士達から絶望と恐怖が伝わってくる。今頃になって状況を理解してももう遅い。
こうなってしまったラダマンティスは止まらない。この騎士達を殺し尽くすまで。
「ひゃぁぁーーー‼」
騎士の一人が重圧に耐えられず、剣を捨てて逃げ出した。
それを見たラダマンティスはすぐさま鎌を取り出し、逃げた騎士の背後に回り、鎌を振り下ろした。
騎士は見事に分かれ、その場に崩れ落ちた。
「残り8人、さあ次はどいつだ?」
騎士達は、あまりの恐怖にその場を動くことができなかった。
しかし、かえってそれがラダマンティスをさらにイラつかせた。
「来ないというなら、こちらからいくぞ!」
神速のスピードで一番近くにいた騎士二人の間に入ると、目にも止まらぬ速さで鎌を振るう。
二人の騎士は体に線が入ったと思ったときには、人体一つ一つがサイコロぐらいになって、バラバラに崩れ落ちた。
次に目をつけた騎士は縦に寸断され、自分が真っ二つになるまで死んだことに気が付かなかった。
そのまま流れるように動き、騎士三人の首を切り飛ばす。首から噴水のように血が吹き出し、ラダマンティスを汚した。
すると、一番離れた所にいた騎士が逃げ出した。
ラダマンティスはそちらを向き、逃がさんとばかりに魔法を発動する。
「
すると、騎士の足が止まった。いや、足が石へと変わっていった。みるみる広がってゆき、騎士は一つの石像に変わった。
その石像に近づき、ラダマンティスは石像を叩いた。
「脆いな。」
そして、石像を殴り粉々にした。
残りはもうガルシアしかいなかった。ガルシアはラダマンティスに無駄と知りながらも剣を向けた。だが、剣先はガルシアの恐怖によってカチャカチャ音を立てる。
そんなガルシアにラダマンティスはゆっくり一歩ずつ近づいていく。
ゆっくりと死が迫ってくる。
ガルシアは恐怖で顔がしわくちゃになり、穴という穴から水分が抜け落ちるようであった。
そして、ラダマンティスが残り2メートルをきった時、ガルシアは耐えられなくなり。
「おおおおぉおお!」
ガルシアは声を上げ、ラダマンティスにめがけ、全力で剣を振るう。
極限の状況下の中で放ったその一撃は、誰もが驚愕するほどの最高の一撃だった。
剣は吸い込まれるようにラダマンティスの肩に当たり、
ガルシアの
驚愕で固まるガルシアに、ラダマンティスは優しく告げる。
「惜しかったな。」
ガルシアが最後に見たのは、崩れ落ちる自らの体であった。
村の広場に死体が転がる。
先程まであった危機は呆気なく去った。しかし喜ぶことを村人達はできない。より一層'死'に近い存在がいるからだ。
村人達は身を寄せ合い少しでも恐怖から逃れようとする。
そんな中、馬に乗った騎士二人が近づいて来た。おそらく見張りの騎士が様子を見に来たのだろう。
騎士二人はラダマンティスを見ると真っ先に逃げ出した。正確には馬が恐怖のため勝手に走り出しただけであった。
しかし、ラダマンティスには関係無い。
新たな獲物を見つけたラダマンティスは一気に距離を詰め、そのまま騎士を切り裂いた。
騎士は上半身と下半身が分かれ、馬から落ちる。
そして、最後の一人に飛び掛かろうとしたその時。
「もう止めて!!」
リオンの悲しい声が響き渡る。
ラダマンティスはリオンを見る。その目からは涙が溢れ出していた。
リオンはラダマンティスに近づき、そのまま抱きしめた。
「もう止めて。さっきの優しいあなたに戻ってよ!」
ラダマンティスは気付いた。自分が何をしたのかを。
リオンを守ろうとしたことが、かえってリオンを悲しませた。
鎌が手から滑り落ち、その場に膝を付く。
「ごめん、ごめんなさい・・・」
ラダマンティスは涙を流せない。だが、その姿はまるで子供が泣いているようであった。
眼窩の中で蠢いていた血のような赤い光は、優しい青い光に変わっていた。
石化(ハーデン)レベル8魔法
・発動した相手を石にする魔法。しかし50%の確率で失敗する。それに、他のプレイヤーは対策しているためあまり効果はない。ラダマンティスは石像にしたモンスターを自分好みの彫刻にして、自分の拠点のインテリアとして飾っていた。