「報告は以上です。」
「そうか。」
一際豪華なこの部屋にいる青髪の青年こそヴァルナ帝国皇帝、カリス・イルヴィド・ハート陛下である。非常に優れたカリスマ性で、帝国を発展させた張本人だ。
また、帝国きっての美形であり、平民からの支持も厚い(特に女性層)。王国の貴族達とは全く正反対である。
「報告書に書かれている事は、間違いないのか?」
「偽りはないとの事です。」
現在カリスは帰還した帝国騎士の報告書を専属メイドと共に読んでいた。
そこに書かれていた事はにわかに信じ難いものであった。
「まさか、村に魔族が現れるとは。」
今回の戦争は必ず勝てると踏んで、宣戦布告のために騎士送り出したのだが、魔族が出てくる事はさすがに想定外だった。
これでは、戦争の火種にはならない。村が襲われたのが帝国騎士ならば、王国は戦いを仕掛けてくるだろうが、魔族はモンスターとして扱われて、冒険者ギルドが対応する事になる。
こちらには、村から帰還した生き残りが居るが、買収した王国貴族から騎士の証拠は発見されなかったと伝わっている。
つまり、今回の作戦は完全に失敗に終わった。
「まあ良い、次の作戦を考えれば良い。」
「さすがです、陛下。」
失敗して嘆いていた所で次には進めない。ならば、失敗を次に生かして完璧にすれば良い。
カリスは次なる作戦を考える。今度はモンスターが出る事も想定した作戦を。
しかし、頭脳をフル回転しているカリスは、突如下の階から凄まじい爆発音が聞こえた事によって、思考が停止する。
「・・・またか?」
「・・・おそらく。」
カリスはこのような爆発音に覚えがある。というより、このような爆発音を起こすのは“彼女”しかあり得ない。
カリスは自分の装備を確認し、メイドと共に下の階へ向かう。
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階段を下り、廊下をため息をつきながらカリスは歩く。
すると、一つの部屋の扉の隙間から煙が漏れ出している。扉の前に立ち、さらに深いため息をつきながらカリスは扉を勢い良く開ける。
「なんじゃこりゃーーーーーー!!!」
目の前に広がっている光景に、カリスはそう叫ばずにはいられなかった。
それもそのはず、部屋の中にいた執事や騎士達が頬を染めて抱き合う光景が広がっていたのだから。
簡単に言うと、腐女神セレスティアが涎を出しながら喜びそうな薔薇が咲きほこっていたのだ。
カリスは思わず吐き気をこらえ、隣のメイドは顔を手で覆う。しかし、指の隙間からチラチラと見ているが。
そんな部屋の中で、唯一中央のテーブルで紅茶を飲む人がいた。
「今度は何をしたんだ。クウィン!」
美しいエメラルドグリーンのロングヘアー、何処かミステリアスな雰囲気をかもし出す美女。
彼女は帝国宮廷魔術師、『クウィン・リンシーナ』。最近になって世代交代によって新たにその座についた女性である。
帝国で一番魔法に優れ、数々の奇跡を起こしており、宮廷内での人気も高い。
しかし、カリスは彼女の日々の行動に、いつも振り回されている。
「別に、ただ媚薬を使って惚れ薬を作ろうとして・・・『ホモ薬』が出来てしまっただけよ。」
「大問題だわ!!」
カリスは皇帝らしからぬ言葉で突っ込む。
クウィンは、宮廷魔術師の立場から様々なアイテムを制作している。だが、それらのアイテムは大抵が問題だらけなのだ。
つい先月も、媚薬から『ユリ薬』を開発し大問題になっていた。ちなみに、現在そのユリ薬は裏世界で高値で取引されているほどの一品らしい。
「陛下だ・・・。」
「今日も美しい・・・。」
「少し味見を・・・。」
すると、部屋にいた者達がカリスを見つけ、ゾンビのように近付いてくる。カリスは背筋がゾッとする。
このままでは喰われる・・・と。
「クウィン!どうにかしろ!」
「大丈夫よ。私あなたが食べられようが気にしないから。」
「くそがーーーーーー!!!」
カリスはその場をメイドを連れて逃げ出した。その後を部屋の人々はぞろぞろと追いかけてゆく。
静かになった部屋のテーブルで頬杖をつきながら、クウィンは物思いに更ける。
(また失敗ね。あなたに会えるまでに完成させたいわ。)
そして、彼女は小さく呟く。
「待っているわ、杉下君。」
彼女はクウィン・リンシーナ。元の生まれは日本、同じくセレスティアに転生させてもらい、この世界に“彼”を追いかけてきた、
『
杉下に告白した先輩である。
ちょうどその時、リオンと村を出る準備をしていたラダマンティスは、盛大なくしゃみをしたと言う。