とあるG級ハンターが、彼と出会う。そんなお話。
吹き上げる風が、心地良く酒場を吹き抜ける。
周りで出される料理や、おっさんの汗臭い匂いが混ざり合った不思議な香りが鼻を突いた。
いや、普通に臭いわ。料理の匂いなんかおっさんの汗の匂いで打ち消されて何も感じない。
「G級ハンターになって何年も前線に立っているアナタに頼み事があるのよ」
空を飛ぶ集会所。龍歴院が誇る飛行船を丸々一つ使った集会酒場。
そのマスターである彼女に呼び出された俺は、お食事券で出された料理を摘みながら話を聞いていた。
「マスターが直接願い出て来るなんて、珍しいですね」
ホロロースのステーキをカットしながら返事をする。俺は大剣使いだから、ネコの研磨術とか出しとけば何とかなるんだよ。
マスターの言う通り俺はG級ハンター生活三年目、過去に超大型モンスターと呼ばれるモンスターの対峙経験だってある。
所謂人外と呼ばれる部類の人間で、自覚は無いが周りからは
そんな俺に、マスターが直接頼み事をして来たんだ。余程の事に違いないと、おっさんの汗の匂いが染み付いたホロロースステーキを頬張りながら俺は身構えた。
「なに、簡単な仕事だよ。今まさにアナタと同じG級に上がらんとするハンターがいるんだがその子が心配でね。少し面倒を見て欲しいのよ」
「なるほど、ちなみにどんな奴なんです? そのハンターってのは」
なるほど子守か、想像の範囲内だ。
これまでも何人かのハンターのキークエや緊急クエストを手伝って来た。
その時は本人が直接頼みに来たり、仲間内で回しあってクエストの消化をしている。
緊急クエスト四回連続は流石に骨が折れそうだった。
「ちょっと若い子でね。後は直接話してみることさ」
「G級前って事はディアブロスですよね?」
確かG級昇格試験の為のクエストはディアブロスの上位個体。上位だが火力だけがG級で、上位防具だった時はかなり苦戦した記憶がある。
俺の装備はそのディアブロスの素材を使った武器と防具だ。これを完成させるためにそれなりに戦ったモンスターでもあるし、問題は無いだろう。
「そうさね。お、噂をすれば来てくれたみたいだ。紹介するよ、今日G級昇格試験に挑戦する──ゆうた──君だ」
「よろしく」
手を上げて挨拶をして来るのは、まだ若い声の男だった。防具は全身アカム装備にアルバトリオンの素材を使った大剣アルレボ。
二つとも上位の物だが、アカムトルムやアルバトリオンを倒せる優秀なハンターらしい。
俺が子守する必要はないと思うが、そこはマスターの考えなのだろう。
ところでアカム装備のスキル、死んでないか?
まぁ、狩りはスキルが全てじゃないけどな。
「よろしく。さて、それじゃ早速だがクエストに向かおうか。G級クエストはこれまでの上位クエストとはまた格が違ってくる。これはその昇格試験、張り切って行こう」
「はやくいこ」
俺の話を聞いてる途中で、クエストを受けてボードに貼るゆうた君。
なんだ、やる気に満ちた子だな。
「クエてつだって。はやくいこ」
「まぁ、落ち着け。飯は食ったか? あとかなり攻撃が痛いから回復薬グレートは調合分欲しいかもな」
「わすれてた! ありがとう!」
忠告すると、ゆうた君は素直にネコ飯を食べてボックスを漁り出す。
だが、少しして俺の方に向き直ると少しの間を空けてこう口を開いた。
「ハチミツちょうだい」
「無いのかよ、しょうがないな」
流石に上位装備で回復薬グレート無しにクエストは、失敗の可能性が高くなる。
なんならこっちは粉塵と大粉塵も持って行くつもりだ。まぁ、ハチミツくらいあげよう。
「ハチミツちょうだい」
そして回復薬グレートを調合したかと思えば、ゆうた君はまた同じ台詞を吐いた。
一個も持っていなかったのか。しかし、調合分も持っていた方が良いと言ったのは俺。仕方無く二十個のハチミツを彼に渡す。
「はやくいこ」
「よし、準備完了だな。気を引き締めて行くぞ、G級の世界にようこそ」
鐘の音が鳴り、クエスト出発への合図が集会酒場に響いた。
「彼、大丈夫ですかね」
「あの人ならきっとやってくれるさ。ふんたーが仲間でもね」
★ ★ ★
灼熱の大地、砂漠。
しかし、喉すら焼く日差しに俺達の体力が削られる事は無かった。
「運良く同じ場所からスタートだな」
「……」
上位以降のクエストは始まる場所がランダムだ。お互い離れ離れになる可能性もあったが、運良く同じ場所からスタートだな。
エリアは秘境。
エリア11の小さな岩場の上で逆行不可能な隠しエリアだ。レア素材も集められたりする。
さっそくゆうた君も採取をしているが、結構レアな素材が出たりするから俺も採取しておこう。
「採取は終わったか? ディアブロスの初期位置は7番だから、そこに向かうぞ」
早くしないと奴がエリア移動して、この広い砂漠でディアブロスを探す事になるからな。
「さきいってて!」
「いや、ゆうた君を一人にする訳にはいかないさ」
「えぇ……」
何故か明らかにガッカリするゆうた君。
どうしたのだろうか?
もしかして緊張しているのか? ディアブロスは初めてかもしれないし、火力だけはG級だしな。
「大丈夫だゆうた君。俺が着いているぞ。乙たって気にするな、最悪失敗しても何度でも挑戦すれば良いんだからな!」
「いやだ! 戦いたくない!」
「良いから行くぞ! これは君のクエストなんだから」
ゆうた君を無理矢理引っ張って秘境から出そうとする。この高さから突き落とす事になるんだけど、ハンターだから大丈夫だ。
引きこもっていては始まらない。その装備を作れる技量があるなら大丈夫さ。
「ふざきんな!!!1!!」
大声を出しながら抵抗するゆうた君を無理矢理突き落とす。
秘境を出てしまえば、ゆうた君は諦めたのかとぼとぼと俺の後ろを着いて来た。
よし、その一歩が大切なんだぜ。
だが───俺はその日、彼の狩りに戦慄する事になる。
☆ ☆ ☆
──────ッ!!!
大音量のバウンドボイスがエリア中に響いた。
砂漠の暴君と名高い角竜───ディアブロスは、身体を持ち上げながら咆哮を上げる。
何度も戦った相手に対して咆哮をいなすのはお手の物だ。
俺のスタイルはブレイヴスタイル。
いなしや攻撃を当てて行く事で、自己強化をして戦うスタイルである。
咆哮をいなし、接近してディアブロスに大剣を振り下ろす。こうやって隙を潰して攻撃をするのが狩りの基本である。
一方でゆうた君はディアブロスのバウンドボイスで身体を固めていた。回避もガードも失敗してしまったのか。
と、なると突進は回避出来るだろうか?
案の定、ディアブロスはバウンドボイスで固まったゆうた君に突進を仕掛ける。
鏖魔ならこれで即死だし確定で当たるが、通常種なら回避やガードの余地があった筈。
しかしゆうた君はどちらも出来ずにディアブロスに轢かれてしまった。
まずいと思って、振り向くディアブロスに閃光玉を投げる。
さて、チャンスタイミングだ。回復してからゆうた君にも殴って貰おう。
「え、待ってゆうた君。その体力はヤバくない?!」
そう思った矢先。ゆうた君は体力を回復せずに、閃光玉で視界が真っ白になって暴れているディアブロスに突貫する。
いや、もう次何か貰ったら確実にネコタク行きじゃないか?!
焦って粉塵「ありがとうございます」いや回復してくれよ。
粉塵を二個飲んでから、俺もディアブロスに攻撃しに行く。二人の大剣をディアブロスの足元で振り回そう。ため斬りを当てるチャンスだ。
接近し、ため斬りを一発。直後に俺の身体は何故か空に浮いた。
なんでや。なんでや工藤。何が起こったんや。
同時に振り回された尻尾に当たって俺は吹き飛ぶ。防具が防具だからそんなにダメージは無いが、普通に痛い。
そして何が起こったか確認する為にディアブロスの足元に視線を落とす。
そこでゆうた君は、大剣を横に振っては振り上げて、横に振っては振り上げていた。
「大剣の振り上げはパーティプレイで使っちゃらめぇぇぇ!!」
注意しながら俺はディアブロスに再度接近。ゆうた君の真後ろから大剣の最大溜め切りを───放つ前に大剣が俺を吹っ飛ばした。
───振り上げてから落ちてくる攻撃に当たったのに、身体が上に飛ぶとはこれいかに。
俺の声は聞こえてなかったのか、謝るそぶりも見せないゆうた君が視界から消える。
というか、また尻尾に吹っ飛ばされた。顔面から地面に。痛い。
「ゆうた君?!」
大剣の振り上げは味方を吹っ飛ばすから普通は使わないんだぞ?! 大剣使いなら常識じゃないか?!
そんなゆうた君の真上で、閃光玉の効果が切れたディアブロスは首を振ってから姿勢を低くする。
お得意の突進。振り上げ回転切り振り上げ回転切りを続けていたゆうた君は、案の定轢かれて地面を転がった。
粉塵の前に閃光玉でディアブロスの動きを止める。
尚も突貫しようとするゆうた君の肩を叩いて、俺は彼の動きを止めた。
「回復しよ?!」
「粉塵はやく」
「無くなるわ!!」
回復出来るところは自分でしようね?!
「あと、あの振り上げはダメ。これまでソロだったのか知らないけど、振り上げは味方を吹っ飛ばすから本当にダメ」
「えぇ……」
怪訝そうな声を出すゆうた君。大丈夫、俺は君の先輩だ、きっと間違った事は言ってない筈。
そうだよね?! 俺、間違ってないよね?!
そうこうしてる間にディアブロスは閃光玉の効果が切れて、砂を掻き分け地面に潜って行く。
この瞬間を待っていたんだ。そう思うが早いか、俺は音爆弾を地面に叩きつけ、ディアブロスを地面から引きずり出した。
「よし、チャンスタイミングだ。ここでダメージを稼ぎたいから振り上げはダメだぞ! 大剣は溜め切りが基本な!」
そう忠告してから二人で突貫。同時に放つ溜め切りが、砂の中に身体を半分埋めながら暴れるディアブロスに叩き付けられる。
ブレイヴ状態に入ったから、強溜め切りに繋げて連撃。
狩技──獣宿し【獅子】──を発動し、次の攻撃に備えた。
砂から抜けて、少しだけ空を飛ぶディアブロス。
その弱点の尻尾が降りてきた瞬間に獣宿しで火力の上がった溜め切りをお見舞いしてやるぜ!!
「狩技1発動!」
そんな思惑の中、ゆうた君もこのタイミングで狩技が溜まって発動したらしい。
良いね、やはり大剣は一撃に込める力が好きだ。相手の隙にどう火力をぶつけれるか考えるのが堪らない。
音爆弾から脱出したディアブロスが降りてくるのは絶好のチャンスだ。狙って尻尾を攻撃出来る数少ない機会だからな。
そして俺は最大の力を込めた強溜め切りを───振り下ろす前にお空に吹っ飛んだ。
はぁぁぁぁぁぁ?!?!?!
眼前で振り上げられた大剣とそれに巻き込まれて打ち付けられる砕けた岩盤を受けてディアブロスが怯む。
それは狩技──地衝斬──だった。振り上げと共に衝撃波を出して少し遠くの相手でも攻撃出来て、さらに味方を吹き飛ばす技である。
俺の最大火力が……。
な、嘆いてもしょうがない。
怒りモーションに入ったディアブロスの足を抜けて、ゆうた君の真横に立つ。
「狩技それしか無いの?!」
「ない!」
お前まさかキークエしかやってないな?!
ちょっと待てちょっと待て、なんなんだこの子は。これまで何人かのハンターと戦ってきたが、こんな子は見た事がない。
ただ、昔少しだけ聞いた事がある。
狩場で自分の事だけ考えて立ち回り、パーティに迷惑をかけ続け、何故か態度が凄く大きいハンターが居ると。
集会所でも自分のクエストしか受けないし、ネコ飯は基本秘境検索。スキル度外視の防具に、アイテムを他人にせがむ。
昔馴染みの仲間はそんなハンターを───ふんたーと呼んでいたっけか。
いや、まさか。そんな馬鹿げた存在が本当に居る訳が───
「こんどクエ手伝って! あとはやく倒して! しっぽきって、やくめでしょ!」
───居たぁぁぁああああ!!!
成る程、マスターの意図が分かったぜ。あの人も意地悪だ、こんな子を俺に任せるなんてな。
だけどさ、それって俺が信頼されてるって事だよな。嬉しい限りだね。
──────ッ!!!
怒りを露わにするかのようにバウンドボイスを放つディアブロス。
ここからが奴の本気だ。舐めてかかっていたら俺の防具でも普通に死ぬ。
G級はこんな奴がわんさか居る。一人じゃ勝てっこないし、そんな戦い方をしていたらいつか自分を滅ぼしてしまうんだ。
呆れて放っておくのも手だろう。
こんな奴に付き合ってやれるかと、クエストをリタイアして酒場で晒し者にして笑い者にする奴も居るだろう。
でもさ、そんなのは可哀想じゃないか。
「なぁ、ゆうた」
「なに?」
この子はきっと知らないだけなんだ。仲間との狩りの仕方を。
立ち回りを、やっていけない事を、やらなきゃいけない事を。
きっと一人で始めて、周りの人からはなにも教えて貰えなくて。それでも一人で色んな人に声を掛けてここまで来たんじゃないかな?
その努力だけは認めるべきじゃないか?
ハンターという仕事を頑張ってやろうって気持ちは認めるべきじゃないか?
いけない事をしてるなら、教えてやれば良い。
知らない事があるなら、教えてやれば良い。
それが、
同じ、狩りという
「俺とパーティ組んでさ、これから一緒にハンターとして色々学んでかないか?」
確かにどうしようもない性格の奴は居るかもしれない。
でもこの子が本当にそうだとは、決まった訳じゃないじゃないか。
所謂、地雷だと決め付けるのは───もう少し一緒に
「よろしくお願いします!」
良い定期文あるじゃん。
「おう、それじゃ!」
この
「「一狩り行こうぜ!!」」
★ ★ ★
「ただいま、ところでゆうた君は?」
「フレに呼ばれたから抜けますって出て行ったよ。出荷お疲れ様」
おいぃぃぃぃいいいいいい!!!!!!!
世の中そんなに甘くないゾ、って()
何が言いたいかって、吹き飛ばし攻撃は辞めようね!!
真面目な話を書くのが疲れたんで、ギャグ風味で書きました。もう少しバカやらせたかったけど、文字数多くしてもね。
感想評価お待ちしてますl壁lω・)