管理せよ   作:作者

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 本作には撃ち漏らしの誤字があるから多々注意だぜ。
 


剣と魔法の幻想世界

 

 

 太陽が真上まで上り比較的温暖な気候の草原地帯。

 草木は程よく生い茂り、うさぎ程度ならば隠れそうな位に伸びきっている。

 小動物が隠れるのにピッタリな高草が生え、その合間合間には少し大きめな岩石が転がっている。

 

 此処は【アリアハ王国】北西に位置するシプレ大草原。

 開拓されきってない国内の中、出現する【魔物】の強さが『Gランク』という事で低レベルの冒険者が良く訪れる。

 狩猟が主なライフラインである国にとっては未だに上級冒険者が少ないのは痛手だが、こう言った低ランクで稼ぐ冒険者の存在は彼らにとって、少なくない生命線である。

 

 そして今、平原の片隅で小柄ながらも、直剣と小盾を構えて健気に魔物相手に奮闘している少女がいる。

 彼女の名前は【ミリア・ウィーストン】

 アリアハ王国の冒険者ギルドに属する《Gランク》冒険者である。

 ランク相応に武装も貧弱で、持ち前の直剣もボロボロで、刃が少し欠けていたり持ち手が痛んでいる。

 腕前も決して良いとは言えず、一般人に毛が生え欠けた程度。

 コレでは現在進行形で、〔ゴブリン〕一匹相手にすら苦戦しているのにも納得だ。

 

 

 ——ギィィッ!!

 

 

「うっ!?」

 

 

 《Gランク》の魔物であるゴブリンの放つ飛び掛かり切り。

 その小さな身体に見合わない跳躍力は少ない時間で彼女の目の前まで移動し、その手にもつ短剣を大きく振り上げる。

 懐に入られたのに驚いたのかミリアはすかさず後方に転倒し、小盾を持った左手を腹に当て尻餅をつく。

 

 

 ——キィン!!

 

 

 不幸中の幸い。

 尻餅をついた事で図らずも盾を構え、ゴブリンの斬撃は見事盾に突き刺さった。

 ゴブリンの持つボロボロ短剣では鉄板を貫く事は出来ない。

 弾かれ腕に刺激を与えられたゴブリンは数秒硬直した。

 

 

「う、うわぁ!? あっちいけぇ!!」

 

 

 ゴブリンの赤く充血した赤目が不気味に光り、恐怖するミリア。

 すかさず腹の上に乗るゴブリン向けて直剣を横薙ぎに振るう。

 

 

 ——グシャリ。

 

 

 鋭く研がれた刃物が緑色の頭部に裂き入った。

 中頃まで裂かれた頭部は思考を停止して、暗い闇を作る。

 各所に絶え間なく発信されていた通信はそれを境にパチリと途切れ、身体を支えている筋肉は仕事を放棄する。

 ゴブリンはバタリと草原に転げ落ちた。

 

 

「……ふぇ?」

 

 

 ゴブリンが倒れた事がそんなに不思議なのか、彼女はその死体を見て目をパチクリ。

 やがて我に帰ると目の前のそれが何を意味するのか理解する。

 やったのだ私は、自分の手で。

 ミリアの中に少なくない満足感が現れる。

 初めての戦闘で、生き延びたのだ。倒したのだ、敵を。

 

 

「やった、やった……やったぁぁああ!!」

 

 

 ミリアは思わずガッツポーズした。

 依頼を受けていた訳ではないが、それでも彼の身体の一部を換金所窓口に見せれば討伐料位は貰える。

 これは良い拾い物をしたとワクワクしながらもう動く事のない『ソレ』に近付き、ナイフで耳を剥ぎ取った。

 

 

「えっと、あとは……っと、あったあった」

 

 

 ゴブリンの胸の辺りをナイフで裂いて解体。

 するとコツンと何か硬いものが当たる感触がする。

 ミリアはその周りの肉を裂いて、ソレを取り出す。

 彼女の手に握られていたのは結晶。少し濁った白色の結晶だ。

 一般的にコレは〔魔石〕と呼ばれている。

 

 

「やった、大収穫だよ今回のは!」

 

 

 魔石を腰についたポーチに入れて彼女は立ち上がる。

 初めての実戦にしては中々の結果ではないか。

 ミリアの中で少なくない満足感が溢れ出る。

 いつもは叔父の連れで魔物の出ない辺りで野草の採取をしていた自分が、一人で魔物退治をやり遂げる。

 これは今後の、そして今のミリアに対して小さなヤル気を与えた。

 

 

「よし! 目的の物も取ったし、魔物も倒したし! 帰ろう!」

 

 

 笑顔で直剣を納め、その場を去って近くの舗道まで向かうミリア。

 向かうはミリアの現在の拠点である、『シルラの街』

 冒険者ギルドがあり、彼女の生活生命線を数多く支える発展都市である。

 

 ミリアは軽い足取りで帰還した。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

「……はい、確かに確認しました。

 受領した依頼『薬草5束の採取』とGランク魔物のゴブリンの討伐料。

 合わせて銅貨8枚大銭貨7枚となります。ご確認下さい」

 

 

 茶髪のセミロングが艶やかな美しさを際立させる、冒険者ギルドの受付嬢。

 彼女が差し出したカルトン(金置き)に置かれた硬貨を受け取り満面の笑みを浮かべる女性冒険者、ミリア。

 彼女は間違いないですと言って財布にそれらを入れて、その場を去る。

 

 

「よーし、後は魔石を商人に売って、そしたら後は……」

 

「ん? あれミリアじゃないか。おーい、ミリアぁ!!」

 

「あ、グリーグさん! 今日はもうお仕事お終いですか〜?」

 

 

 冒険者ギルドを出る手前、ギルド内に併設された酒場の一部から大男が彼女に向けて大声で叫んだ。

 それに気付き、ミリアは掛け声の主を見渡すと、酒場の丸テーブルに座って仲間とワイワイ酒を呑んでいる友人の兄の姿を見つけた。

 ミリアはトコトコ近付いて行って彼に話し掛ける。

 

 

「ん、まあな。ミリアもか?」

 

「はい、そうです! ちょっと疲れちゃいましたけど、ちゃんと完遂出来ました!」

 

 

 その元気な声を聞いてグリーグとその仲間は笑顔になる。

 そして彼女を褒めてあげた。

 

 

「おお、それは凄いな。投げずにちゃんとやり遂げたか」

 

「偉いぞ〜、ミリアちゃん。しっかり出来る女は将来いいお嫁さんになるぞぉ!!」

 

「ガッハッハ! 違いねえ!!」

 

「も〜、何言ってるんですか〜」

 

 

 楽しそうにワイワイ会話する一同。

 ミリアとグリーグは数週間振りに会ったので仕方ないとも言えるが。

 危険も伴いこの業界だ、楽しくやれる事は大事な事なのだろう。

 

 

「まあ実際の所、投げずにやり遂げた事は評価に値するぞ。最近は諦めて放棄する奴も多いからな」

 

「そうそう、そう言う奴らの分まで俺たちが回されるんだから溜まったもんじゃねえよ」

 

 

 最近、やけに魔物討伐の依頼が多い。

 アリアハ王国周辺はそれほどだが、王都や開拓街近く、遠方の他国では特に多いと言う。

 少し前に酒場で騒いでいた奴によると『新たな魔王』が生まれた事とかが関係しているらしいが、本当かは分からない。

 だが少なくとも、ここ最近の魔物が凶暴になっているのは事実だ。

 

 

「ったく……最近はホントキツイぜ……」

 

「もしかして今回の仕事って……」

 

「ああ、そうだ。"『凶暴化した魔物』を討伐してくれ"だとよ。報酬が結構なもんだから受けてみたが、生半可なものじゃなかったな」

 

 

 言うグリーグの瞳が憂鬱な物に変わる。

 彼が言うには今回の依頼で仲間が一人重症負ったらしい。

 事前情報とは異なる倍以上の魔物の数、魔攻種の存在。

 更には〔人族領外〕又は〔不干渉領域〕にしか存在しないと言われている『凶獣』の乱入。

 これらの想定外の連続により彼は今、生死の狭間を彷徨っているらしい。

 

 

「そんな事が……あの、その人ってもしかして……」

 

「……クェルドだよ」

 

 

 クェルドは彼らのパーティの後衛を担う魔法使いだ。

 彼の扱う魔法は基本的に属性魔法だが、そのどれもがハイレベルで纏まっており、通常使う中位クラスの魔法ですら大抵の魔物を一撃で狩る。

 反面防御力が少ないが、それも支援用の防護魔法で克服すると言う機転の効きもある。

 それ程の物がパーティを離れるとなると、今後の活動はレベルを下げねばならないだろう。

 いや、それ以上に彼らにとっては仲間がやられたと言う事の方が大事であろうが。

 ミリアは表情が暗くなる。

 

 

「まあそれでも、俺たちは運が良かった。クェルドが目立ったダメージを負ったのは確かに痛いが、それだけだ。

 あれだけの戦力、そして『凶獣』に遭遇して全滅しなかったのは奇跡に近い」

 

「……それでも、勝って帰って来たじゃないですか! 凄いじゃないですか!!」

 

「そうだな。——アレを俺たちの勝利だと言えるならな」

 

「え?」

 

 

 突然のグリーグの告白にミリアは表情が固まる。

 

 

「俺たちは別に、大群相手に抜群のコンビネーションを発揮して勝ったわけじゃない。

 かと言って個人単位で奮闘して勝てたわけでもない。

 『化け物』に会ったんだよ」

 

「化け物……?」

 

 

 グリーグはしゃべり始めた。自分たちに振り掛かった悪夢を。

 

 それは突然の事だった。

 妙に報酬の良い討伐依頼が来たもんだと現場に急ぐ。

 だが、そこには誰一人として居なかった。

 見渡す限りの草原。近くで深く生い茂る森林。

 グリーグは不信に思い、来た道を引き返して帰還しようと試みる。

 最近の世の中は妙だ。今回の依頼も何か、裏があるのかもしれない。

 現場に来て違和感を感じた故に判断だった。

 

 皆に話し、帰還しようとする。

 だが、その瞬間だった。『敵』が現れたのは。

 

 器用にカモフラージュされ、あちこちに掘られた穴から一斉に飛び出し各所から魔法の一斉攻撃を放つ魔物。

 魔法の扱いに長けた魔物『魔攻種』だ。依頼書には魔攻種の存在はなかった。

 これはどういう事だ。

 取り乱しながらも敵の全体像を確認する。

 魔攻種、鉄甲種、剛腕種。

 全て上級魔物だ。しかも全体数は依頼内容にあった3倍はある。

 

 ハメられた。

 

 怪しい話ではあったが、こういう事だったとは。

 後退しつつ応戦し、なんとか脱出を図ろうとする。

 魔攻種の攻撃を躱しながら剛腕種をいなし、鉄甲種の突撃を止める。

 だが一体一体の質が高く、且つ数もあり得ないほど多い。

 

 そんな状態で耐えれるはずもなく。

 ついに魔法使いのクェルドが魔攻種の集中攻撃を受けた。

 

 

「扇状に展開する魔攻種の攻撃全てに対応できなかったんだ。事実奴らの攻撃を受けたのはクェルドだけじゃない。俺だって数発受けた」

 

 

 それでもクェルドは連続して立て続けに攻撃を貰い、戦闘不能になった。

 倒れた仲間を見捨てる訳にも行かず、庇いながら後退する。

 と、その時だ。

 後ろからドタドタと何か大きな奴が走る音がする。

 そいつは森のほうから聞こえ、一瞬で草原に跳躍する。

 

 凶獣だった。

 迅速の疾風竜『這影(ゲンエイ)

 黒い体毛に覆われ、強靭な四脚を豪快に動かして疾走するソイツは正に狩人。

 紅い目を光らせるソイツは窮地に追い込まれているグリーグたちを追撃する存在としてはぴったりだった。

 

 目の前からジリジリと迫る魔物群。

 後ろから疾走してくる凶獣。

 損亡し、機能を失いかけているパーティ。

 

 正に絶体絶命だった。

 

 

「けどな、それでも俺たちは助かったんだよ。

 天からやってきた『化け物』のおかげでな」

 

 

 ソイツは突然現れた。

 遥か上空で此方を見下すように佇む、茶色の鎧に身を包んだ天使。

 いや、鎧というのは比喩だ。奴の身体には鎧のような繋ぎ目も、覗き穴もない。それ自体が身体の様だった。

 生身の身体のようなソレに身を包んだソイツは両翼の筒状の翼から炎を吐きながらその無機質な紫色の『目』で見ていた。

 この光景には流石のグリーグたちも止まってしまう。グリーグたちだけでなく、魔物すら上空を見上げているほどだ。

 

 だがそれも一瞬。

 奴は急に右手を動かし始め、その手に握る〔筒状の何か〕の先を魔物たちの元に向けた。

 それが何かは分からない。が、強力な武器だという事は分かった。

 

 目の前に降り掛かる無数の『何か』

 連続して放たれるソレらは魔物たちの身体をバラバラに破壊し、彼らの腕や頭はいとも簡単に千切れ、粉砕された。

 しかもそれが魔物全体に降り掛かるのだ。

 この段階で最初は抵抗し魔法を放っていた魔攻種はその大多数が死滅していた。

 

 更に化け物の攻撃は続く。

 局地的に降り注がれる何かが他の穴へと攻撃対象を変えると、今度降り注がれるのは無数の何かではない。

 ボトリ。

 自分たちにもある程度視認できる程度の速さで落とされたそれは丸く、手のひら大の大きさに見える。

 だがそれでも身体が反応する頃には既に地面にぶつかる程の速さ。事実魔物たちも落とされ地面に衝突する頃に動き始めていた。

 瞬間、響く大爆発。

 手のひら大の何かが落とされた穴の中でだ。

 爆破魔法と同等か、それ以上の大爆発を起こすその『何か』は、声唱なしで、しかも連続してそれらを振り落としていく。

 この段階で穴に潜んでいた魔物は全て死に、穴は崩落。適度に地上にもそれらが落とされたことで魔物たちは全体数を限りなく減らされた。

 もはや全滅間近だ。

 

 化け物は筒状の翼を使ってゆっくりと地面に舞い降りる。

 無機質な後ろ姿が何処か頼もしく見えた。

 が、目の前で繰り広げられる惨劇をみてその感想も消え失せた。

 

 逃げ惑い、背を向ける魔物たち。

 それに向けてただただ右手に持つ何かから絶え間なく小さな何かを浴びせる。

 まるで作業だと言わんばかりのその行動に背筋を凍り、息が止まる。

 もしも、その矛先が自分たちに向けられたら?

 考えただけで恐怖が募っていく。

 

 目の前のコイツは危険だ、化け物だ。

 そう脳が判断を下す頃には魔物の殲滅は終わっていた。

 見渡す限りの血海。

 千切れそこら中に飛び散った腕や頭、飛び出した内臓、ボロボロになった血濡れの帽子や肌着、鎧。

 降り注ぐ何かに破壊されたのか剛腕種の持っていた大刀は半ばから折れている。

 

 思わず吐き気が込み上げてくる。

 自分たちでもここまで惨状を作り出した事はない。

 これではまるで、”戦争”ではないか。

 目の前の化け物がやったのは”戦闘”ではない。”蹂躙”だ。

 

 やがて化け物はゆっくりと此方を振り向き。

 その無機質な紫色の目を向けて、ニヒルに笑った。

 

 

 ーー次はお前たちの番だ

 

 

 グリーグには目の前の化け物が、そう言っているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 おっさん無双。


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