管理せよ   作:作者

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 転生先は作者オリジナルの世界なんだぜ。
 んでもって不定期更新・打ち切り大な下っ端小説なんだぜ。
 


拉致られたお、おっさん買うお

 

 

 太陽の陽も照明灯の光もない暗く、陰湿な小部屋。

 たたみ6畳程度のこの個室には本棚やら、机やら、ベットやらが置かれているが、それらに傷らしき傷も汚れも、シミや埃の一つも見当たらない。

 生活感の全くない一部屋。

 されど、無人というわけでも無かった。

 

 部屋の中心にぽつりと立ち尽くす、水玉模様帽子付きのパジャマ男。

 年は20代前半だろうか、未だに活発そうな素肌とボサボサながら艶のある黒髪。

 垂れ下がった右手の先には枕が握られている。落ちそうな持ち方だが、今の男にとってそれは重要ではない。

 今、彼にとって最も重要な事。それは、

 

 

「………ここどこだろ」

 

 

 自分はどうやら、拉致られたらしいという事だった。

 

 

 

 

 

 

 男はとりあえず、外に出る事にした。

 

 見ての通り、部屋は暗い。

 気分はハイスピードでローダウンだぜと言わんばかりに暗い。

 このままでは鬱になってしまう事だろう。それだけは避けねばならない。鬱になれば凄まじいほどのダルさに襲われ、一瞬で睡魔に襲われる。そして淫夢に攫われる。

 そしてそこから抜け出すためにわざわざ高い金を払って抗うつ剤を入手し、投与する。投与された自分の身体は拒否反応を起こし麻痺り、頭の中にお花畑を作り出してくれる。でまた購入し無駄な浪費を重ねる。

 なんという悪循環なのだろう。そんな事をして無駄遣いをするなど断固拒否だと男はすぐに外の空気を吸いに行く。

 

 

 つもりだったのだが。

 

 

 如何せん扉が見つからない。

 全くもって意味不明なのだが、扉がない。それは果たして部屋と呼べるのだろうかと疑問になるが、多少のインテリアがあるという判定でギリギリ部屋と呼べる……のか?

 

 

 まあそれはさておき。

 

 

 無いというのならばないで仕方ないのだが。

 だとすれば自分はどうやって生きて行けばいいのだろうか。

 男は考える。

 

 このまま部屋に閉じ込められれば自分は確実に鬱になり。

 

 それどころか食料を入手し生き延びる事すら困難で。

 

 最終的には幻影を夢見てお花畑の中でテクノブレイクする。

 

 なるほど。

 なんという悪夢だろう、これは早急に解決せねばならない。至急部屋を脱出せねば。

 しかし困ったことに窓もない。それどころかエアコンも通気口も見当たらない。 

 この部屋はどうやって酸素を供給しているのだろうか。謎である。

 というかそんなコナン君の事件簿にでも出てきそうな完全密室にどうやって自分が侵入したのか、それすらも謎である。ぜひとも黒縁眼鏡の鍵開け業者に調査を依頼したい。

 

 

 --ピコンッ♪

 

 

 急に軽やかな異音が響いた。

 何かを知らせるアラームのようだ。その発信源はワークデスク上の液晶に付属されたスピーカーから飛び出ていた。

 男は不振に思いながら液晶、つまりパソコンに近付き、スリープを解除した。

 

 

「--!?」

 

 

 男は画面上に映し出された文字列を読み上げて息をのんだ。

 光りだした液晶上に浮かんだ画面は【MAIL】というウインドウ。

 そのウインドウでは既に何かのメールが表示されており、簡素な文のみが記されていた。

 

 

『from:仲介者

 title:依頼

 

 初めまして、私の名は〔仲介者〕

 覚えて貰わなくて結構。簡単に用事を言って終わる仲だ。

 私から言う事はただ一つ。

 

 ”世界を管理し、発展を目指せ”

 

 以上。その為にはどんな支援も取り付けよう。

 健闘を期待する。              』

 

 

 全く意味が分からない。コイツハナニヲイッテイルンダ?

 理解力も正確性も豆腐も欠けてしまった小さな頭脳で男は、必死にこの文を理解しようと奮闘する。

 つまりは、アレだ。

 この〔仲介者〕とやらどこの誰とも知れないような馬の骨を拉致り、

 本当の意味で完全なる密室に閉じ込め、

 その上”世界を管理する”なんていう意味不な仕事を押し付けてきたと。

 

 

 ………アホなんじゃないだろうか。

 

 

 そんな厨二病も真っ青な危ないお仕事に誰が付き合うのだろうか。幼稚なテロ行為とはこういう事を言うのではないだろうか。

 そもそも此方が受ける事前提で話を進めるのはどうなのだろう。此方にも拒否権というものがあろう。

 

 と、そこまで考えて気が付いた。

 相手はこの密室に閉じ込めた、あるいはそれに関係する人物なのだ。

 つまり、男が鬱になるであろうということも、食料がないことも知っている。

 そこに来て”できる限りの支援をする”だ。どう考えても食料関係も含まれているだろう。

 となれば食糧問題は解決なのだが。

 

 もしもこの依頼を断ればどうなるか。

 食料などの支援がされず、男は夢の中を彷徨い。

 地獄の花畑で渇き寂れた銀世界に出向くことになるだろう。

 

 むむむ、なんという策士!

 

 男は彼を呪った。

 自分を拉致り監禁したことを。

 食料電気その他諸々を取り上げ危ない仕事を強要したことを。 

 なにより自分自身をからかって遊んだことを。

 

 絶対に後悔させてやる。

 

 男はがむしゃらにコンピュータを弄り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 マウスをぐるぐる回し続ける事一時間ちょっと。

 

 コンピュータ内に残されたデータやら何やらを調べていくと、少しだけだが分かったことがある。

 

 まずこの部屋について。

 この部屋は【統括局】と呼ばれていて、その下に属する各施設を運営・管理する場所らしい。簡単に言えば指令室だ。

 ただ一般的な指令室とは違い、様々な組織や個人をあらゆる力をもって意識的に管理することも可能だという事。

 つまり意図して2つの企業を争わせ技術発展を促すことも、国を破滅に追いやる事も可能らしい。

 

 なんかこれだけ見てると『アーマード・コア』みたいだなと感想を持つ。

 が、もう少し調べものをしていると驚くべき事実が発見された。

 

 あったのだ、【アーマード・コア】が。

 

 それだけじゃない、アーマード・コアの派生元である【マッスルトレーサー(  M T  )】や架空の存在でしかない【クレスト】や【キサラギ】といった各社企業まで揃っている。

 まだ自分自身、カタログでしか見ていないがこれが現実にあるのだとすれば恐るべき事実だ。

 自分の立ち位置は統括局という、AC3で言えば【管理者】に値する機構と見れる。統括局は企業の上位存在で、企業の連中はある意味、自分の手のひらで踊っている。

 

 また、例のメールを送ってきた人物。

 奴が何者かは知らないが、自分に対してこんなものを差し出すとは、余程の”力”の持ち主らしい。

 ならばと、これを利用しない手はない。

 奴が提供する品には開発機構も販売者も、兵器も人員も含まれる。

 これらを使って何かを”管理”するだけで、此方は大きな権力と生存権を行使できる。

 

 やってやろうではないか。

 

 その管理とやらが面倒だとしても、やり遂げて見せよう。

 私には力が必要だ。

 私は生き残る権利がある。

 その術もある。

 

 ならば、どんな事をしてでも生き延びる。

 管理だろうが何だろうが、知ったこっちゃない。

 私は好きに生きて、好きに死ぬのだ。

 誰にも邪魔はさせない。させてたまるか。

 

 邪魔するものは誰であろうと『敵』だ。

 『敵』は排除する。

 

 

 誰であろうと、私から逃れることはできない。

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 ……と、格好良く意気込んだのはいいのだが。

 実際に今何ができるかと言われれば、そう多くない。

 なぜならば今自分に与えられている力は少ないからだ。

 

 いや、正確には全部揃っている。

 が、今の彼……【統括者】にはその権限が行使できないというのが正確だろう。物理的に。

 

 何が言いたいかというだ。

 つまり。

 

 

 無いのだ、企業やACが。

 

 

 正確には本社ビルや人材、工場や材料がない。

 勿論、これらが存在するならば統括局の権利を実行できるのだが。

 存在しない机上の企業(ペーパーカンパニー)の権利を持っていたところで何にも成りはしない。ある意味詐欺である。

 

 つまり今の統括者は権利は持っている、が動かせる先がないというわけだ。

 ただの役立たずである。

 

 とは言え、やれることがないと言う訳でもない。

 今の彼にもやれることはある。

 それは拠点周りのライフラインの確立だ。

 

 自分の設備の”資材”の納入ラインが確立できれば企業を登場させることも、ACを生み出すことも可能だ。

 その方法には例の仲介者の力を利用する。……らしい。

 仲介者はどうやら通販の真似事をやっているらしく、それで当面サポートしてくるらしい。これでACなどを購入することができ、企業も生み出すこともできる。

 一体どんな原理でやっているんだと決して小さくない疑問が出るが。

 ここはぐっとこらえて我慢するしかない。

 

 因みにこの通販もどきはこのPC上に存在するプログラムの一つ【SHOP】にて使用可能だ。

 いろいろな項目があるが、今できることは少ない。

 ここで使用する通貨を早いところ大量に、安定して回収したいものである。

 

 

 --SHOP

 

 

 とりあえず中に入り、通貨回収に必要な物体を購入する。

 因みに初期状態で所持していた【credit】は1000C()

 C(コーム)というのは『アーマード・コア』で流通している通貨なのだが、どうやらこのSHOPでもコームが主流らしい。

 【アーマード・コア】があったりクレストがあったりと随分『アーマード・コア』中心に統治局周辺が作られている気がするが、気にしたところでメリットはないので考えを放棄する。

 因みにCの下には何故か、しれっと「円」が存在している。

 なぜここで日本要素を入れてきたのかは全くの謎だが、生活雑貨品など細かいものの購入にはかなり役立つので良しとする。

 余談だが1Cで10000円だったりする。

 

 

 ーーselect WEAPON

 

 

 すぐさま兵器販売エリアに移動し、目的の品を得ようと無数の連なる型番を文字列を下へ下へと下げていく。

 幾つも、幾つも。

 暫くしてスクロールはある画面で止まる。そのままカーソルを目的の品の真上まで持って行き、左クリック。

 

 

 --buy? 〔PILOTーSOLDIER typeV—1〕 x[001]

 

 

 パイロットソルジャー。つまるところACのパイロット、V系の「おっさん」である。

 ACVというゲームをプレイした事がある人物ならば分かるだろうが、V系では機体が破壊された場合通称「おっさん」と呼ばれる人間プレイヤーになって戦場を観戦できるようになった。

 アーマードコアで初めて人間を操作できるようになったのだ。

 しかしその弱さは計り知れない。トラックやコンテナに突っ込んでも無傷でそれらを破壊するくせに、ACに小指の先でも当たっただけで即死するほどのスペランカーっぷり。

 はっきり言って弱すぎるのだが。

 それでも歩兵としては破格の性能を持っている。

 

 まず第一に機動力が違う。

 一般歩兵とは違いおっさんは腰あたりから斜め後ろに、肩先を超えた少しあとくらいの両翼に人間台の大型ブースターを備えており、これでフロート移動できる。なかなか素早く、小回りも効く。

 しかも数メートル程度の壁ならちょっとブーストを吹かせるだけで飛び越える事が可能である。

 

 次に防御力が違う。

 先ほど説明した機動力・ジャンプ力に生身の人間が絶えるのは無茶がある。というかACの機動・挙動を完全に制御して操作するのにも、HBGB(ハイブグラブ)に耐えるのも相当過酷である。

 これを解消するためにパイロットスーツはかなり厚く作られており、対人もこなせる様に軽い装甲も付加されている。

 人間用のライフルやパルスに数発耐えられるのはこのためだ。

 

 最後に攻撃力が違う。

 勿論、彼らの所持武器が高火力したのは先に説明した装甲を貫通するためだ。

 ライフルはマグナムかと言いたくなるようなライフル弾丸を3連射し、パルスライフルは”溶かし”の効果が高いものが採用されている。

 これらが生身の歩兵に向けられた場合、一発でも受けたらミンチ確定だろう。とくに後者は爆発して熱が球状に広がる性質を持つためかすりヒットでも大変なことになる。

 

 

 ……ってことをプログラムの一つ、【LIBRARY】で見た。

 そもそもこんな設定など、ただの一般ユーザーである統括者が知っているわけがない。

 ここで説明をみるまでは彼だって、信じなかった。まさかおっさんが強いだなんて。

 しかもコスパに優れる。

 値段は一般兵の3倍。赤いわけではないが、戦力はそれ以上に値する。

 資金回収要員にはぴったりだ。

 

 因みに資金の稼ぎ方も【LIBRARY】で入手した情報だ。

 何かと重要な情報がギッシリ詰まっているので、定期的に吸収していくことにする。

 

 と言う訳でとりあえずおっさんを50人購入する。一人10Cで合計500Cだ。

 これだけの文面をみると気持ち悪いことこの上ない。誰が好き好んでおっさんなんて買うのか。しかし高性能おっさんなので問題ない。

 というよりもおっさん一人の価値がたったの10万円というのにも驚きだ。ACFAでは代替可能な凡人と完全に消耗品扱いな人間だが、これはそれと同じくらいに酷いだろう。

 まあ、安いのは財政面で助かるので大歓迎だが。

 

 他にもおっさん用の武装も購入しておくことにしておく。

 なにやら歩兵用兵装を見ているとなかなかに数が多くてわくわくする。

 小型カードリッジに装填されたエネルギーを使ってごく短時間だけエネルギー刃を構成するレーザーブレードや、

 対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル)を一回り大きくして大口径・衝撃増加・爆破ダメージ付与を施した対装甲破壊銃(アンチアーマーヒートライフル)

  またこれらの武器を携行するための背部マウントなど、様々な異色武装が並んでいる。

 

 ひとまずは一人分の武装を購入する。

 おっさん標準用装備である大口径強襲用小銃では装甲兵器の相手が出来ないため、背部マウントを増設し、電磁誘導ロケットを装備。

 また対集団戦を考慮してライフルの下部ストックにマウントして使用する小型投擲弾射出装置を追加。

 懐には接近戦用の切り札として光刃形成装置(レーザーブレードグリップ)を。

 ついでに弾倉ポーチも4つ増やしておいた。

 

 と、ある程度の戦闘状況に対応できる武装を購入した。

 雑魚掃討用の標準ライフル、密集戦用投擲弾、対装甲ロケット、近接用レーザーブレード、追加弾倉。

 これならば初めての実践でも死ぬことはないだろう。過剰武装ともいえる。

 因みに過剰武装であるため、当然高い。この追加セットだけで350C使っている。ロケットとレーザーブレードだけで280Cもするって、どれだけ割高なんだ。

 

 

 早くもお小遣い残金2割を下回る統治者であった。

 

 

 

 

 

 

 




 
 〇今話主人公が発した言葉一覧〇

・「………ここどこだろ」
・「--!?」




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