現実の方で、いろいろありまして…。
次話は今回の投稿よりも絶対に早く投稿します。
前回楽しんでくれた方は今回も、前回楽しめなかった方は今回こそは楽しんでくれたら幸いです。
※次は出来れば、番外を入れたいと思います。ですのでエロ、残酷な描写注意です。
薄暗い森の中を一人駆けていた…何かから逃げるかのように。
「はぁはぁ…ッ!」
怖い…何かに見られてるような感覚が離れない。
ただひたすら走る。
確認しようとして、後ろを向いた。そして転けた。
全力で走りながら後ろを向いたからだろうか、いや今はそんなことはどうでもいい…早く逃げなければ、と顔を上げる。
そして目があった。
「うっ…あっ…あぁ…」
喉が引き攣る。怖い…目の前にいる異形がどうしようもなく怖い。
足が震え、動かない俺を嘲笑うかのように腕が振り上げられる。
逃れられない恐怖から逃れようと目をキツく閉じる。
そしてーーーー
目が覚めた。
柔らかい何かに包み込まれるような感覚を受けながら、荒い息を整えようと深呼吸を繰り返す。
体中が汗でびっしょりで、気持ち悪い。
荒い呼吸を落ち着かせたところで、今自身が森の中ではないことに気付く。
見たこともない異形から逃げ回り、嬲られたという体験が夢ではないことを、先程まで見ていた悪夢と、今も震え続ける体が教えてくる。
ただ、あれほどまでに俺の内側を荒らした、粘着くような恐怖が消えていた。
それに、今俺が寝ていたのは土ではない、しっかりとしたベッドだ。
夥しい木々が立ち並ぶあおの場所で寝たならば感じる筈の硬い感触ではない、柔らかい感触。
それが俺に助かったという事を実感させる。
「う…うぅ…う」
助かったという安心からか、あれほどまでに恐怖を感じていた死の逃走劇では一切流れることのなかった雫が、瞳から溢れ落ちる。
拭っても拭っても溢れ、溢れおちる雫が枯れるまでに暫くの時間がかかった。
泣き終わった俺は、周りを見回していた。目が赤いのは…まぁ見逃してくれ。
コンクリートのような石の素材で出来た壁に、それを彩る様々な家具。
そこには生活感があった。あそこでは感じられなかった人がいるであろう雰囲気も。
と、そこまで考えたところで、部屋に規則正しいノックの音が響いた。
体が硬直する。この世界で初めて遭遇した生命体があれだったからだろうか、やはり不安を感じる。
意味もなく息を殺し、扉を見つめる。
そんな中、扉が外側から内側にゆっくり開いていく。
半開きになった扉の隙間から、
「お邪魔するよ」
と、いう言葉と共に、猫の耳を持った、赤色の髪の少女の顔が出てきた。
人…ではないようだが、あの異形のように襲われる気配を感じなかった為、体から自然と力が抜けていった。
「おや、目が覚めたようだね…魘されていたようだけど、気分はどうだい?」
こちらを心配するような気持ちが籠められた声に、反射的に言葉が出た。
「大丈夫です…むしろ寝る前よりも随分楽です」
「…それもそうだね」
デリカシーがなかったね、と言いながらバツが悪そうに笑う少女は…こんな場面で思い浮かべる感想としてどうかと俺自身思うが、とても綺麗だった。
三つ編みにした髪を左右でお下げにした髪型、綺麗な赤色の髪に映える、淡い緑と深い緑で彩られたワンピース。
「ん?どうしたんだい?」
見つめ過ぎたのだろうか、不思議そうに掛けられた声に慌てて声を出す。
「…いえ…あ、ふと思ったのですが、ここは?」
心の声と口調が合っていない?
まぁその…余り人と話すのは苦手でな…ある程度親しくならないと敬語でしか話せないんだ。ちなみに男限定。
女性?敬語が抜けないどころか、さん付けでしか呼べません。
まぁこんなどうでもいいことは脳内から消し飛ばし、少女の言葉に耳を傾ける。
「ここかい、ここはね…この地底を収める古明地 さとり様の館…地霊殿さ」
誇らしそうに、他人に自慢するように、少女は告げた。
部屋から「起きたようだし、さとり様のところに行こうか」と連れ出され、そのさとりさんの部屋へ行く道中、様々なことについて教えてくれた。
まず少女の名前は、火焔猫 燐と言うらしい。あの後教えてくれた。
次に、この地霊殿が建つ地底について少し教えて貰った。
この地底には、何らかの事情で地上が嫌になった妖怪や、危険な妖怪が住まう旧都と呼ばれる場所があるらしいこと。地底に住まう妖怪は、地上に住む妖怪なんて相手にならないぐらい強いのしかいないということだ。
これを聞いて、絶対に旧都には行かないと心に誓った。
あの俺をボコボコにした異形が簡単に殺られるような奴がたくさんいるなんて場所に俺が行けば、死にに行くようなものでしかない。
これが守られない気がするのは何でだろうか…。
最後に、ここにはさとりさんと燐さんの他に、何人かの妖怪の人が住んでいることが分かった。
名前などは会った時に、と教えてくれなかったが、全員優しい人(?)らしい。
楽しみ半分、怖さ半分ってところだ。
あ、俺を助けてくれたのは燐さんだったらしい。
助けてくれてありがとうございます、て言ったら、『たまたま通りかかっただけだし、それほど強くもなかったからね…だから余り恩を感じなくてもいいよ』と言われた。凄いイケメンだった。
「奏、着いたよ、ここがさとり様の部屋だよ」
思い返している間に着いたらしい。
中から「どうぞ」という、入室を促す声が聞こえた。
躊躇いなく扉を開けた燐さんに促され、恐る恐る部屋に入る。
「…失礼します」
どんな人なのかな?まぁ燐さんを見る限り大丈夫だとは思うが…大丈夫かな…。
「……な…」
「?」
目が会うといきなり目を見開いて驚かれた。訳が分からず首を傾げるが、まぁいいかと首を傾げた状態から普通の状態に戻す。
てか…今見て思ったが、さとりさん、燐さんに負けず劣らず綺麗で可愛い。
この世界には可愛い人しかいないのか!まだよく分からない生命体含め三人(?)にしか会ったことないけど。
なんてどうでもいいことを考えている内に、燐さんとさとりさんの会話が終わったらしく、燐さんにこっちに来いとばかりに手招きされたので取り敢えず移動し、さとりさんの正面に立つ。
綺麗な瞳と、人ならざるものであることを表すような、さとりさんの体と細い管のようなもので繋がった大きな瞳の合計3つの目が俺一人を捉える。
「横溝 奏さんですね?話はお燐から聞きました…災難でしたね」
どうやら優しい人のようだ。安心した。
ただ、その端正な顔に、ありえないものをみたような驚愕と、探していたものに思わない場所で会ってしまったような表情が気になるが。
「先程まで寝ていたようですが…体は大丈夫ですか?」
「あ、はい…大丈夫です」
あの顔は気のせいだったのだろうか…一瞬しか見えなかったから気のせいなのかもしれない。
「今から昼食なのですが…一緒に食べますか、奏さん」
ぐぅぅ〜。
昼食…その単語に反応したのか、それともお腹のすきが限界で、偶然そのタイミングでなってしまったのかは分からないが、さとりさんが苦笑しているのを見て顔が赤くなるのを感じる。
「えっと…その…」
「どうやら待ちきれない人もいるようですし、急ぎましょうか」
顔を俯かせているためどんな表情をしているかははっきりとは分からないが、感じる生暖かい視線から微笑ましいものを見る目で見られていることはなんとなく察した俺は、「……はいぃ」と返すしか出来なかった。
顔を真っ赤にさせた俺には、
「まさか、求めていたものがこんな形で現れるとは…正直想像もつきませんでした……これだけでも手放さない理由としては十分ですが…」
俺から目を離さずに見つめるさとりさんは勿論、さとりさんが何かを呟いていたことすら気づかなかった。
さとりさんと初めて会ってから数時間後…俺はベッドに寝転がって天井を見上げていた。
昼食を取った後、燐さんやさとりさん以外のこの地霊殿の住人の人に会った。
鴉に似た羽を生やした霊烏路 空さんに会った。
余り頭が良さそうな感じじゃなく、元気一杯の子だったが、この子も例に漏れず美人だった。
あ、後、紹介されなかったが、さとりさんと色違いの第三の目を持った女の子を見かけたが…あの子は一体何だったのだろうか?
案内してくれた燐さんはまるで気づいていなかったが。
そんなことを思い返しながらごろごろする。そして横を向いた時、こちらを覗き込む誰かと目が会った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
突然のことに思考が追いつかず、悲鳴を上げながらベッドの上を移動し壁際まで後ずさる。
下がった分広がった視界に、こちらを覗き込んだ下手人の全身が写り込んだ。
「あっ……」
思わず声が漏れた。
淡い黄緑の美しい髪に、こちらを引き込むように深いエメラルドグリーンの瞳。
そして、一度見たら忘れることなんて出来ない、さとりさんと色違いの青色の第三の目。
間違いなく、案内して貰っている途中に見かけた女の子だった。
ベッドの上で黙り込んだ俺と、首を傾げた状態で固まっている女の子。
もとの姿ならばこの状態になったが最後、事案発生でお縄だろうが、生憎今の俺は悲しいことに、この女の子よりも小柄だ。
「……見えてるの?」
「…?」
首を傾げたまま問いかける少女の言葉に、訳が分からず首を傾げる俺。そんな俺を見て更に首を傾げる女の子。
互いに無言。正直気まずい。
無音で固まる俺と少女をよそに。扉がひとりでに開いた。
「奏さん入りますよ…何をしているんですか?」
まぁ勿論勝手に開くわけでもなく、さとりさんが外から開けただけなのだが。
開いた先に固まる俺と少女の二人。勿論ツッコまれた。
「…ちょっと待ってください…まさか
答えようと口を開こうとした瞬間、さとりさんの驚愕したような声色の呟きに口を閉ざした。
視えている…何がだろうか?
「私の能力だけでなく、こいしの能力も
どうやらこの女の子はこいしさんと言うらしい。
首を傾げる俺とこいしさんに、考え込むさとりさん。カオス度はます一方だ。
数時間後ーー
「そうなんですか…」
さとりさんに、能力のことやこいしさん、さとりさんのことを説明された俺は納得の声を上げ、こちらを見つめるこいしさんをチラリと見る。
首をもう傾げていないが、こちらを先程からずっと凝視している。
能力上、存在感が道端の石ころように小さく、結果的に認識されない筈の自分を的確に認識した俺が余程珍しいのか…。
しかし、人に認識されないか…さとりさんの『心を読む』能力とは違い、後天的に獲得したものらしいが…なにか過去にあったのだろうか?一瞬悲しそうな表情になったさとりさんの顔が俺にそう思わせる。
「それで…その『能力』というのは、俺にもあるものなんですか?」
「絶対にある…とは言えませんが、私とこいしの能力を防いだ、或いは無効化した以上、ある可能性が高いです」
俺は心の中で思わずガッツポーズした。
物語の登場人物ぐらいしか持つことの出来ない特殊な能力が俺にあるかもしれない。それだけで転生してよかったと思う俺は現金なのだろうか。
転生だけでなく特殊な能力まである。本格的にあの神に感謝してもいいかもしれない。まぁ転生してすぐに死にかけたことに関しては忘れないが。
「どうやったら自分の能力が分かるんですか?」
さとりさんの能力や、こいしさんの能力を把握している以上、何かしらの方法で能力が分かると思って聞いたが、どうやら当たりらしく、『心の中で自分自身の能力を強くイメージする』ことによって能力が分かるらしい。
「早速やってみますね!」
興奮したように告げ、言われたように心の中で強く、強くイメージする。
イメージする俺の脳内に一つの文が浮かんだ。
『外す程度の能力』
この能力が、望んだように特別な力を与えるだけでなく、様々な受難を俺に持ち込むことになるとは、浮かれている俺には全く持って想像などしていなかった。