織田信奈の野望〜乱世に迷いし少年〜(再掲版)   作:ふわにゃんちゃん

8 / 26
美濃へ

美濃へ

 

長良川の動乱から暫く経った。結局あの後は静観を決め込んでいたことを言われたが、それでもなんとか黒野の地は安堵された。その条件として織田との戦には必ず参加を言い渡された。

長門は商人に取り寄せさせた三線を縁側で弾いていた。前世ではギター等の弦楽器を弾いたことのない長門は見よう見まねで音を奏でていたが上手くいかない。

 

「ん〜なかなか難しいもんだな。無双の元親みたいに弾きたいって思ってんだが……」

 

「長門様、お茶をお持ちしました」

 

そこに高次がお盆にお茶と団子を持ってきた。長門は三線を弾きながらありがとうと礼を言う。

 

「いい音色ですね、三線……でしたか」

 

「ああ、堺の商人に取り寄せさせてな。つい買ってみた」

 

お茶をすすりながら高次は、溜息を吐きながら空を眺める。

 

「長門様、なんとか緋村家の存続はなりましたね」

 

「ああ、結果オーラ………じゃなくて、最終的には嬉しい誤算もあったしな。取り敢えずは危機は去っただろうな」

 

「恐らく織田はこの美濃へ攻めてきますね、桶狭間で今川を破った勢いもありますし、いくら難攻不落の稲葉山城とはいえ………」

 

高次が団子を食べながらそう言うと、長門も三線を置き、お茶を口に含む。その後の歴史を知っている長門は後に稲葉山城が落とされるのは分かっているが、中途半端な自分の知識では大した助力にはならないと思い、極力それを誰かに話すことを良しとしない。

 

「まあ、暫くは大丈夫だろう。美濃には道三殿を上回る智謀の士がいるらしいしな」

 

「え?そんな人がいるのですか?長門様とはどうですか?」

 

「阿呆、私なんかと比べんな、虚しくなるだろうが」

 

長門は団子を食べると再び三線を弾きだす。

 

「忍び隊に斎藤を調べさせたら、ある一人の軍師が浮かび上がった。あの美濃の蝮、斎藤道三をも上回る神算鬼謀の持ち主で、今孔明と称される軍師、竹中半兵衛」

 

「た、竹中半兵衛………?」

 

ポカンと誰それ?という表情を浮かべている。長門はまあそうだろうな、と三線を弾きながら話し出す。

 

「三国志は知ってるよな?それには諸葛孔明っていう天才軍師がいてな、その孔明のような智謀の持ち主だからその渾名がつけられたんだろうな」

 

「な、なるほど……そんな軍師がいるのですか」

 

「………長門様」

 

話し込んでいた2人の後ろから薄い桃色の小袖をきた梅が声をかけた。梅は諜報や戦が始まるときは忍び服であるが、仕事が無い時や、屋敷にいる時は小袖をきているのだった。

閑話休題。長門は後ろを振り向きながら何事だ、と尋ねる。

 

「長隆様が、登城するようにと。美濃への援軍のことで話しておきたい事があるそうです」

 

「軍議か………梅、私の馬を用意しておけ。高次、支度だ」

 

「「ハッ!」」

 

長門が命じると梅も高次もすぐさま支度に急ぎ始めた。長門も三線を持ち、城へ向かうために支度を始める。

 

 

 

 

黒野城の広間に集まった緋村家一門。長門が着く頃には既に全員がついていた。

 

「申し訳ありません。長門、ただいま参りました」

 

「よい、此度はそこまで急ぐ事では無い故な」

 

隆成が笑いながら長門を座らせる。長門が座ったところで軍師を始めた。

 

「さて、先程、義龍殿から我らに援軍要請が届いた。そしてその援軍に隆成と長門に行ってもらう事にした。軍勢は我が軍総勢八千から二千ほどだ」

 

斎藤軍の援軍は隆成と長門が行くことになった。隆成と長門はハッ!と返事をすると広間を後にした。

そして長門は軍備を整え、二千の軍を従えた隆成と合流し、稲葉山城へと向かうことにした。

 

 

 

稲葉山城の城下町につくと、戦が始まるためか町の空気はどんよりとしたものだった。そして稲葉山城に入城すると、家臣に案内され、城内を歩く。

そして広間に案内されると既に美濃三人衆を筆頭に斎藤家家臣が集まっていた。上座に座る義龍に成秀と長門は平伏した。

 

「緋村家より援軍に参りました、緋村隆成と三男の長門です。どうぞお見知り置きを」

 

「うむ、ならば軍議を始める」

 

そして長門たちも家臣たちに混じり軍議に参加した。そして軍議が終わり、義龍は広間を後にした。家臣たちも続々と広間を後にしようとしていたので、長門たちも広間を出て城を後にした。

 

 

そして数日後、織田が美濃へと軍を進めた。緋村勢は織田の進軍経路である木曽川がよく見える場所に陣取っていた。しかし、暫くすると霧が立ち込めてきた。

 

「な⁉︎霧だと?」

 

「恐らく、噂の竹中半兵衛の仕業でしょう。噂によると半兵衛は陰陽師でもあると聞きます。私も詳しくは知りませぬが陰陽の術の何かでしょう」

 

隆成にそう説明する長門。長門たちは竹中半兵衛の姿を見てはいないが、美濃三人衆の一人、安藤守就の舅であるとらしい。

 

「なら、木曽川にあるあの石の塔も半兵衛の策ということなのか?」

 

「ええ、あれは三国志で有名な軍師、諸葛孔明が用いた、石兵八陣というものです。相手を石の迷路に迷い込ませ、溺死させる罠です」

 

「なんと………ここまでの大掛かりの策とは……破る術はあるのか?」

 

「ええ、まあ………っと織田が来たようです」

 

長門の目の先には織田が美濃へと進軍していた。無論半兵衛の石兵八陣の術中にはまっていた。

 

「前に道三殿がおっしゃっておりました。織田には未来から来たものがいると聞きます。そのものが頭の切れるものならば、この策を知っているでしょう。例えばこの石を破壊するとか……」

 

そういった時に、爆発音が木曽川に鳴り響いた。

 

「なるほど、迷路で迷うならそれを壊すと」

 

「ええ、ですが………では、兄上、そろそろ」

 

「ああ、決して油断せぬようにな」

 

ニヤリと笑う長門。そして自分の配下を連れて移動しはじめた。するとさらに大きな爆発が起こった。

 

 

時間は少しだけ遡り、織田陣営。

織田家当主織田信奈は、霧の中、軍を進めていた。

 

「なんなのよ、これ。石の迷路?」

 

「霧も出てきて味方も混乱しております二十点」

 

その信奈に付き従うのは幼い頃より信奈の小姓として従えている丹羽長秀。よく点数をつける癖がある。

そこにその時代にあるはずのない学ランを着た少年、相良良晴がうーんと考え込む。

 

「これって、三国志で見たことあるな」

 

「三国志………諸葛孔明の石兵八陣⁉︎」

 

長秀が気づいたと同時に銅鑼がなった。その銅鑼が織田軍に不安が起こる。

良晴は配下の忍び、蜂須賀五右衛門に指示を出す。

 

「五右衛門!石をぶっ壊せ!迷路に迷うんならぶっ壊せばいい!」

 

「承知つかまった相良氏」

 

五右衛門は爆弾で石の塔を破壊しようと試みた。そして爆弾が爆発すると同時にさらに大きな爆発が起こり周辺の兵が吹き飛んだ。

 

「何⁉︎」

 

「どういうことよサル‼︎」

 

「恐らく、この破壊まで読んで石に火薬を仕掛けていたのでしょう。姫様、撤退しましょう、この状況は………零点です」

 

一つが爆発すると周辺の石が誘爆していた。織田はかなりの被害を被って尾張に撤退し始めた。

 

「〜っ!あぁ〜もう!なんなのよあの策は‼︎」

 

「ですが、信澄様が退路を確保してくれたおかげでなんとか撤退はできました。ここで退路まで断たれていたら……」

 

「織田は終わりってか?」

 

「「「え?」」」

 

信奈たちは目を疑った。目の前には僅か百以下の手勢とはいえ軍勢を率いている青年が立ちふさがっていたのだ。

目の前の青年、緋村長門は馬から降りた。

 

「お初にお目にかかる、織田のお姫様。私はは緋村隆成の養子、緋村長門と申す」

 

「緋村長門………噂には聞いたけれど………何よ、私たちを倒しに来たの?」

 

信奈は長門を睨みつける。長門はその視線を感じても笑みを崩さない。

 

「いえいえ、道三殿がどう感じて美濃をお譲りになろうと考えたのか、その織田のお姫様と未来から来たと言う者に興味が湧いただけですよ」

 

「俺たちの撤退の邪魔をしに来たわけじゃ無いのか?」

 

五右衛門の後ろから話す良晴を見る。長門は暫く良晴の顔を眺めるとクスリと笑う。

 

「ええ、こんなことが外に漏れたら我らは義龍殿に攻め入られます。第一この少数ではできることなどたかが知れてます」

 

「じゃあ、通してくれるのねじゃあ………」

 

「ええ、早い事尾張に撤退されるのが賢明かと思われますよ?」

 

では、と長門は林道から姿を消した。織田は再び撤退を開始した。

 

 

 

長門は良晴の顔を見て少なからず混乱していた。

 

「まさか………何であいつが?」

 

未来から来た良晴とこの時代に転生した長門、かつての親友との邂逅だと知るのは遠い話ではなかった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。