織田信奈の野望〜乱世に迷いし少年〜(再掲版) 作:ふわにゃんちゃん
斎藤道三
初陣から一週間が経ち、戦後処理などが落ち着いた緋村家は美濃の国主である斎藤道三から登城の命が下り、明朝に隆成と長門、その配下は黒野を出発した。
だが、長門は黒野を出てから落ち着きがなかった。
「どうしたのじゃ、長門。やけに落ち着きがないようだが」
「はい、油売りの商人から美濃の国主まで登りつめた美濃の蝮と謳われる斎藤道三殿との謁見など……考えるだけで緊張が……」
斎藤道三、元々は油商人であったが、その才能を美濃の元国主である土岐氏に見出され家臣となる。そしてクーデターを起こし、土岐氏を追放し、美濃を盗ったとされている。
「はっはっは!そこまで気負うことはない。道三殿はそこまで気の難しい方ではないからな」
大笑いをする長隆。彼の緋村家は黒野周辺の美濃を支配する一族であり、土岐氏とは美濃の覇権を争っていたが、国盗りを成した道三に惚れ込み、同盟を結んだのだった。
「左様ですか……」
長門はふぅ、と溜息を吐く。それを見た長門の家臣である京極高次は心配そうに近づく。
「長門様、大丈夫ですか?」
「ああ、父上はああ仰ってはいるが、どうも落ち着かない」
「それも仕方ないことです。相手はあの斎藤道三様なのですから」
「だよなぁ………高次、私の服、どこかおかしくなってないか?」
普段とは違い狼狽える主を見た高次はクスッと笑う。それを見た長門はムッと顔を顰める。
「なんだ?私が狼狽えるのがそんなにおかしいか」
「い、いえ、長門様がそのような顔をなされるのは珍しいなと思っただけです」
高次は恥ずかしそうに顔を赤らめる。長門は本日4回目の溜息を吐く。
黒野を出て約一刻後、稲葉山城に到達した。金華山になる稲葉山城は難攻不落の名城として名が知れている。その城を前に長門は目を輝かせる。
「これが……稲葉山城か。確かに名実ともに堅固な城だと頷ける」
「本当ですね。私も初めて来ましたが、これを攻めるとなると難しいですね」
稲葉山城を好奇の目で見る若者二人を隆成らは暖かな目で見る。その視線に気づいた二人は恥ずかしそうにそっぽを向く。
その後、城下町を見ながら城門をくぐり、隆成と長門は天守に呼ばれた。
現在隆成と長門は案内のものに連れられていた。そして謁見の間には美濃三人衆など、齋藤家の重臣が数人集まっていた。そして暫くの間が空き、齋藤道三が入ってき、上座に座った。長門は作法に乗っ取り平伏する。
「表をあげよ」
道三の命により、長門と隆成は顔を上げる。道三は禿げた頭で如何にも爺さんといった見た目だが、放つ覇気は隆成と同等のものを感じる。
道三はまず隆成に視線を向ける。
「久しぶりじゃな、隆成殿よ」
「いやいや、道三殿こそ、相変わらずそうじゃのう」
はっは!と二人で笑い合う。長門はそれを黙って見続ける。一頻り笑いあったあと道三は長門に視線を向ける。長門は慌てて頭下げる。
「お初にお目にかかります。私、緋村家の三男緋村長門と申します。道三様に拝顔賜り、恐悦至極に存じます」
長門は平伏するが道三は長門に頭を上げさせる。
「ほう、お主が長門か。先の戦のことは聞いておる。なるほど、良き面構えじゃな」
道三は長門を見て満足そうに頷く。道三はどうやら尾張の姫大名、織田信奈に美濃を譲ることになったそうで、それを聞いた斎藤家重臣たちはみな反対し始めた。
「先日尾張の信奈ちゃんと会った時に信奈ちゃんの付き添いに来ていた小僧が未来から来たと言っておったな」
「なんと……!」
「名前は確か、サルと呼ばれておったな」
長門はその場で頭を高速回転させ始めた。
(戦国時代でサルって言ったら豊臣秀吉だよな。それが未来人ってことはどういうことなんだ?何かのドラマ見たいにその人の代わりに生きる的なやつなのか?いやでも、なんでそんなこと?)
「どうしたのじゃ?難しい顔をしおって」
「あ、いえ申し訳ございません!」
長門は再び頭を下げる。場所に関わらず思案に没してしまうのは彼の悪い癖である。
しかし、家臣たちはそれどころではなかった。
「殿!それはどういうことですか⁉︎」
「何故尾張のうつけ姫なんぞに⁉︎」
家臣たちは尾張の織田信奈に美濃を譲渡することが気に食わなかったようだ。
それも当然だ。長門が効いたとこによると織田は弱兵と罵られることもあるらしい。家臣たちは自国一つ纏められない小娘と思っているのだろう。
「恐れながら、よろしいでしょうか?」
長門は挙手しながら割って入る。一同が静まり返り長門に視線を向ける。
道三はなんじゃ?と長門に尋ねる。
「道三様は何故尾張の織田家に美濃をお譲りになろうとお考えになったのですか? 織田の姫君に美濃を譲渡する価値がおありだと?」
「ええい!貴様!殿の御前でなんという!無礼じゃ!」
「よい、ワシが許す」
道三が家臣を諌め、長門の質問に答える。
「ワシとて最初はうつけ姫とたかを食っておったがあの子は将来天下を取ると確信したのじゃ」
「それは何故?」
「まずは鉄砲じゃ。正徳寺に来る前に鉄砲を用意しておった。その数も練度も高かった」
「鉄砲は、確かとても高価なものだったはずですが……確かにその財力は侮れませんが、それだけでございますか?」
長門は矢継ぎ早に質問していく最早国主とその家臣の子とは思えないが何故か誰も諫めようとはしなかった。
「いや、それだけではない。信奈ちゃんの夢は海の先を見ておった」
「海の………先を?」
確かに史実通りだ。信長は天下を統一した後は海外に手を伸ばそうとしていたと言う説は本当だったのだと長門は驚いた。その織田信奈も考えは伝えられている信長と同じだったのだと。
「その時、ワシの野望を引き継いでくれるのは信奈ちゃんしか居ないと思ったのじゃ」
「……なるほど、蝮と称される道三様がそう仰るならばそうなのでしょう。いやはや、拙者もそのうつけ姫とやらに会ってみとうなりました」
「そうか、信奈ちゃんは絶世の美少女じゃったぞ?」
「はい?」
「尻も胸もよいものだったぞ。触ろうとしたら蹴られたがのう」
ワハハハと爆笑する道三。長門は唖然としていた。
(古今東西男ってみんな馬鹿なのか?俺も男だけど)
長門はかつての女好きの友人のことを思い出していた。その彼と初めて会ってから女好きということを知った時、「バッカじゃないのお前?」と言ったことを思い出した。
道三は何かを思い出したかのように長門を向いて長門を凝視する。
「お主も男と言う割には随分と美麗な面じゃな」
この時長門は自分の持っていた斎藤道三への考えが変わった。
斎藤道三は確かに蝮と言われるだけに覇気があったがそれ以上にエロいオヤジだと。