織田信奈の野望〜乱世に迷いし少年〜(再掲版) 作:ふわにゃんちゃん
たこ焼きを作っていたらその隙に攻め込まれていました。
本圀寺の変──本来は三好三人衆が京へと攻め入り、それを15代将軍である足利義昭や明智光秀が防いだ戦いであり光秀が歴史の表舞台に立つターニングポイントともいえるものでもあった。長門はそれを理解していたが――
「くそったれッ‼ 流石に状況が違いすぎやしないか‼」
そう嘆きながら長門は攻め寄せる三好勢を相手に何とか戦線を維持していた。長門の知る歴史ではこの戦いは織田、足利将軍の連合軍が三好を迎え撃っていたが将軍家が明に逃げ去り光秀と親交のあった元足利家臣や若狭の国人衆ら合計二千に満たない兵数で本国寺に籠り籠城戦の構えを見せていた。
かたや三好勢は約八千の兵を引き連れ、堺の南方から攻め寄せると京の東福寺近辺に陣を構え京の町に火を放ちながら本圀寺を四方より方位し織田方の退路を断っていた。
光秀不在の中でも混乱を鎮め、僅かな兵でありながら三好勢を迎え撃っていた長門ではあったが
「敵は寡兵じゃ! 攻め手を緩めるな!」
三好勢の先鋒には薬師寺九朗左衛門そして信奈によって美濃を追われていた斎藤義龍の姿があった。美濃攻めの時こそ美濃三人衆らの寝返りがあり破れた義龍であったが、マムシの道三を討ち取る寸前まで追い詰めた将であり、攻め手は苛烈を極めていた。
「流石は義龍殿か、押し返す隙がねぇな」
「ええ、何とか畿内の国人衆らが駆け付けるまで何とか持ち堪えれば…」
「な、長門さ~ん! 早く追い払ってくださいな。わたくしを倒した信奈さんを苦しめたあなたなら問題ないですわね⁉」
この戦火の中でもお飾り将軍候補である義元は十二単を煌めかせ、よよよと泣き真似を見せる。東海一の弓取りと謳われたのかと疑いたくなる程の姿であった。
「ご安心召されよ義元殿。もう一時凌げば畿内より援軍が来る。さすれば三好勢など押し返してみせましょう。故に義元殿は御所の中で吉報をお待ちくだされ」
「あら、そうですの? でしたらわたくしは奥で休ませていただきますわ。おーっほっほっほ!」
安心したのか甲高い笑い声を上げながら悠然と奥へと下がっていった。いったい何しに来たのだろうかと思った長門は、いざとなったら毬でも蹴らせてやると心に決めていた。
「とは言っても援軍はまだ来ないからな……ん?」
どうしたものかと悩んだ矢先であった。三好勢の攻勢がやや弱まっていたのを直感的に感じた。
「長門様?」
「高次、仕込んでいたあれを使うぞ! 三好勢を押し返す!」
「は、はい!」
好機と見た長門は未だれっせいでありながらニヤリと笑みを浮かべた。
*
一方で攻める三好勢先鋒の九朗左衛門と義龍は果敢に攻め続けるが門を破ることが出来ずやや焦りを感じていた。敵は二千にも満たない寡兵であり戦力差を考えれば多少強引でも難無く落とせるはずであった。しかし昼過ぎから攻め始め結果は鉄砲や矢の応酬によりじわじわと押し返されていた。
「おのれ……緋村の倅が……!」
義龍は長門のことを甘く見ていたわけではなかった。しかし、父や二人の兄に比べたら智勇において些か劣る印象であった。だが長門も美濃での敗戦の後で上洛までの僅かな間であるが成長を遂げていた。
「ここまで攻めあぐねると予想だにせなんだ。ここは一度体制を」
空は間も無く日没を迎え、このまま攻め続けても犠牲が過ぎると九朗左衛門は判断をし一度体制を整えようとしたその時こそ長門が狙っていた千載一遇の好機であった。
「放てえええええ‼‼」
敵の一喝によって弓矢隊が一斉に掃射し矢の雨となって降り注いだ。
「甘いわ小童がっ‼」
三好勢もその程度では崩れず盾足軽の部隊を前に出し矢を防いだ。この程度なら何の支障はない。部隊の一時後退を指示しようとしたした瞬間、最前線から大きな爆発音と共に兵の悲鳴が飛んでいた。
「な、なんじゃと⁉」
「何が起きておる!」
義龍らはすぐには理解できないでいたが、本圀寺から大きな玉が投げられているのを確認した。
「焙烙玉かっっ!」
『焙烙玉』調理器具であった焙烙や陶器に火薬を詰めた手榴弾に近い兵器であるがこの兵器は爆発による破片での殺傷が本来の機能であったが長門はかねてから火薬を取り寄せ、火薬や爆弾についての知識はある程度持ち合わせていたが失敗を繰り返し、試行錯誤の末質の高い火薬を生成し、爆発力を上げていた。
まだ大量生産出来る代物ではなかったがこの場面では効果覿面であった。突然の轟音と爆発そして破片の爆散により前線は混乱が起きていた。
「ひぇ……‼な、なんだよ今のは」
「い、いてぇ‼前が見えねぇよ」
轟音に混乱する者、破片が刺さった者、爆発で絶命したもの。撃ち込まれたのは数発であったが虚を突くには十分過ぎた。
「今だ開門‼ 押し返せ‼」
その隙を逃すことなく長門は門を開け放ち一気に攻めかかった。長門は自らが槍を持ち先陣を切ると浮足立った三好勢を次々に血祭りにあげていった。
「長門様に続けぇー!」
あっという間に戦の流れを変えてしまった織田軍は三好勢を完全に押し返し撤退を余儀なくさせた。
*
「な、長門殿……」
堺大急ぎで馬を駆けた光秀は長門が三好を追い払ったその夜には本圀寺に到着していたが血や刀傷のついた長門や兵を見て感じたのは安堵でなく己の身勝手さを恥じていた。光秀は彼の腕自体は知ってはいたが本来自分が任された役目を放り、勝手な振舞いをしてしまった。誤っても謝り切れないだろう。光秀は事の顛末を説明した。
「申し訳ないのです……この…十兵衛のせいで」
自分の情けなさに涙がこらえるので精一杯であったが言葉を何とか絞り出した。どんな罵声でも受ける覚悟であったが長門の口からはそんな言葉は出てこなかった。
「よくご無事に戻られたな十兵衛殿。十兵衛殿に任された役目も果たせて良かった」
「え……」
「気にするな。三好勢は何とか追い返せたし畿内の国人衆や大和の松永弾正も間も無く駆けつけよう。そうなれば勝てる。そもそも俺にお主を裁く権限はない」
「長門殿……」
光秀は涙が頬を伝うのを感じた。長門は昔から優しかった。道三に仕えていた頃から目をかけてもらい妹のように接してくれていた。
「……と昔ならこれでよかったかもしないが……」
え?と顔を上げる光秀と額を思いっ切りデコピンした。
「あぅっ⁉」
「戦の遅参への罰くらい与えんと示しがつかんしなぁ」
そういいながらデコピンをやめる気配のない長門の表情は笑いながら怒っていた。
「す、すいませんでしたあぁぁぁぁ‼」
光秀の悲痛な叫び声に先ほどまでの重い空気が少し軽くなった。
「そういえば信奈様と良晴は?」
「いや、その……」
「長門様……! 大変……!」
現れたのは長門付きの忍びである梅であった。彼女には松永弾正への援軍要請に向かってもらっていた。そのただならぬ気配に長門もデコピンを止めた。
「何があった」
「松永弾正久秀謀反……! 忍び衆の何人かやられた……。こっちに攻め込んできます……!」
「「なっ⁉」」
一難去って迎えるのはまた一難であった。
*注意
この物語はフィクションで戦国時代の話あり、当たり前ですが現実に火薬を個人で作ることは許可を受けた者でなけれな出来ませんし爆弾なんて作ったら普通に犯罪なので止めましょう。