織田信奈の野望〜乱世に迷いし少年〜(再掲版)   作:ふわにゃんちゃん

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信奈上洛編
所謂拠点フェイズ


美濃国、稲葉山城改め岐阜城。織田信奈がこの美濃を平定してから早くも二週間が過ぎた。

信奈は美濃を平定して直ぐに、後の世にも語られる『天下布武』を掲げた。『天下布武』とは「武力を以て天下を取る」「武家の政権を以て天下を支配する」という解釈をされるが一説には中国の史書からの引用で七徳の武という為政者の徳を説いたものだと言われている。

そんな織田信奈は近々桶狭間の合戦で打ち破った今川義元を擁立し上洛の軍を起こすらしい。

 

「信奈様が上洛の軍を起こすという噂が町民の間でも広がっているようですね」

 

茶屋で団子を口いっぱいに頬張りながら緋村長門の一番の家臣京極高次。

 

「こういう話ってのは直ぐに尾がつく。彼らは戦の被害者だからな、否が応でも気がつくんだろうな」

 

美濃国黒野、緋村長隆の三男で最近は「黒野の鷹の目」と呼ばれている緋村長門はそれを返しながら団子を手につけるが既に団子の乗せられた皿には既に団子は無くなっていた。

緋村家は織田に降伏した後に元々の黒野の領地は安堵されたが、その代償として長門が織田の人質となる事が条件となった。

しかし基本的な人質と比べると殆ど形だけで特別な制限をかけられる事もなく厚遇も厚遇な扱いを受けていた。

 

「では、そろそろ屋敷の方に戻りましょう」

 

「そうだな、幾ら行動に制限をかけられないとはいえあまり自由過ぎるのもな」

 

「………だったら私を無視して話を進めないで下さい。二十点」

 

団子を食べ終え(殆ど高次が食べてしまったが)茶屋を後にしようとしていた二人に声をかけるのは織田家家老丹羽長秀、愛称は万千代。織田家家老筆頭の柴田勝家と並んで重要視されている重臣で、その落ち着いた雰囲気で自称織田家のお姉さんという立場を確立していた。

因みに長門は何故か長秀の監視下に置かれて生活を送っていた。

それはというのも長門が織田の人質として岐阜城に登城した時に、

 

「万千代、緋村長門はあんたに預けるわ。六やサルじゃ何か良いように言いくるめられそうだし適任かしらね」

 

と決めてしまったのだ。これには長門本人が一番驚いた。そもそも何を言いくるめると思っているのかが分からない。

 

「これは失礼致しました長秀殿、この長門人質の身であるというのに出過ぎた真似を申し訳ありません」

 

「も、申し訳ありません………長秀様」

 

「………そう思っているのなら私で遊ばないでください。十五点」

 

こうも素直にあやまられると怒るにも怒れない。長秀は少し不貞腐れながらも許すしかなかった。

 

「今川義元殿を将軍に擁立か………確か今川は足利家の分家でしたか」

 

「はい、『御所が絶えれば吉良が継ぎ、吉良が絶えれば今川が継ぐ』と申しますし、義元どのが正統な将軍継承者、七十五点です」

 

今川家は鎌倉時代、足利義氏の庶長子として吉良家を興した吉良長氏の二男である国氏が吉良氏の所領から三河の今川荘を分与された事が今川氏の始まりであった。

その為あってか、今川家は足利家・吉良家に次ぐ足利一門として重きを置かれていたのだ。

信奈はその今川義元の下、京の街を荒らす三好、松永を打倒するという大義名分を掲げて上洛する腹づもりである。

なるほど、これで武田と上杉も迂闊に攻め込めないな、と義元を生かしていて良い事があったなと考えた長門。

 

「長門様、緋村家にも出立の命が降るでしょうか?」

 

「と言うよりもう兄上達は既に軍備を整えるらしい。長秀殿、もう命は降っているんだろう?」

 

「はい、緋村家の武力と兵の精強さは姫様も期待してます」

 

緋村の強みは武力がもちろんだが兵の七割を常備兵を占めているというどこにもある。その為に農作物の繁昌期も兵を確保できない事が殆どない。

 

「日も落ちて来ましたね。そろそろ屋敷に戻りましょう」

 

随分長いこと話していたらしく、既に日は西の空に隠れ始め、茜色の空が広がっていた。

 

 

「………こう見ると凄い顔ぶれだな」

 

岐阜城、金華山の麓、織田信奈の号令のもと家臣団が一斉に集まっていた。

柴田勝家、丹羽長秀、森可成、佐久間信盛など譜代の重臣に始まり『美濃三人衆』の稲葉、氏家、安藤、そして先日父長隆から家督を継いだ緋村隆成。

そして信奈と同盟を結んだ三河の松平元康。弱兵呼ばわりされる織田だがその印象を吹き飛ばすほどの顔ぶれである。

具足に身を包んだ長門はその中に懐かしい顔を見つけた。

 

「十兵衛殿!」

 

親友相良良晴の隣に侍っていたのは、十兵衛こと明智十兵衛光秀。実はこの二人は道三がまだ美濃の支配者だった頃に二人で武芸の研鑽や教養を高めていたのだった、所謂幼馴染みであった。

 

「これは長門殿、お久しぶりです。息災にありましたか?」

 

「十兵衛殿こそ、長良川の合戦以降各地を放浪していたとは風の噂で耳に入れていたが、戻って入られたのか」

 

長門は久しぶりの再会に話に花を咲かせていた。

 

「え、長門って十兵衛ちゃんと知り合いだったのかよ」

 

十兵衛ちゃん?と良晴の呼び方には「ん?」と思った長門だが、そこまで気にすることでもなく直ぐに記憶の追憶に追いやった。

 

「ああ、十兵衛殿が道三殿の小姓をしていた頃からな。その頃から十兵衛殿は才能に恵まれていたよ」

 

「へえ、やっぱり十兵衛ちゃんって凄いんだな………って長門ちょっといいか?」

 

そう言うと良晴は光秀から離れ長門と二人きりになった。

 

「なあ、十兵衛ちゃんって………」

 

「ああ、『本能寺の変』の首謀者の明智光秀だ。確認するまでもないだろ?」

 

「でもなああんな素直で可愛いい十兵衛ちゃんが謀叛なんて、考えられないんだよなあ」

 

「歴史が全て正しいとは限らん、事実この世界では今川義元は生きているしそもそも殆どの有名武将が女だ」

 

壁に寄りかかって空を眺める。ふう、と息を吐くと壁から離れ歩き出す。

 

「俺たちがここにいる時点で歴史は違う道を辿ってるんだ。これからどういう道を辿るかはお前次第なんじゃないのか」

 

「長門………」

 

まあ頑張れよとそう言い残すと長門は自分の持ち場に戻った。

 

「あ! お前長秀さんと一緒に住んでるって聞いたけどどうなんだよ!」

 

羨望と怨念の混じり合った声を長門は聞こえてないふりをして立ち去った。


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