織田信奈の野望〜乱世に迷いし少年〜(再掲版)   作:ふわにゃんちゃん

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半兵衛、稲葉山城へ

高次と梅に引きずられて、奥座敷に姿を現した竹中半兵衛は小柄の少女だった。そもそもこの竹中半兵衛の家臣面接は、半兵衛は体が弱く故郷で晴耕雨読の生活をしており、余程ではなければ斎藤家に仕えるつもりはなかった。しかし道三から覇権を奪った義龍に半ば脅される形で斎藤家に仕えることになり、軍師として采配を振い体の弱い半兵衛の影武者として前鬼が戦場に出ていたのだ。

しかし半兵衛が実は姫武将という噂が流れ、それに乗じて元道三派であった美濃三人衆や半兵衛を害そうという東美濃の動きがあったのだ。

 

「なるほど……確かに長良川の時は道三様を逃し、織田の侵攻のほぼ無傷で退けた半兵衛に疑いが持たれたため、明日登城せよというわけか……」

 

「そうじゃ、もしかしたら明日の登城の時に半兵衛が害されるかもしれん、幽閉や暗殺があるやもしれんそこで腕利きの侍を募集しておったのだ」

 

この家臣は見栄のためではなく、暗殺を防ぐための護衛という言い方のほうが良いのかもしれない。

 

「だが、他家からの調略があれば話に乗って半兵衛を美濃から逃がそうと思っていたのだが…………」

 

「……くすん。謀反はダメです……謀反は、不義です」

 

「この通り、謀反を何より嫌う子でのう。明日は登城する、義龍どのに影武者を用いた件を詫びて申し開きする、と言って聞かぬのじゃよ」

 

長政がお任せあれと調子よく頷くと良晴もムキになって声をあげていた。良晴が声を張り上げたため、半兵衛がまた怯えて泣き出し、前鬼がまた良晴に襲いかかっていた。良晴と前鬼の取っ組み合いを眺めながら長門は溜息をついた。

 

(史実とはやっぱりだいぶ違ってるな………明日の登城で半兵衛が城を乗っ取っちまうのか?まあ、恐らく義龍は半兵衛を斬るつもりだろうな)

 

そう思いながら皿に残っていた八丁みそが塗られていたみたらしだんごを口に運んだ。

 

「……不味くはないけど、普通にみたらしだんごが食べたかったな」

 

「そうですか、私は結構好きですよ?」

 

何故か高次も食べていた。

 

 

翌日、半兵衛とその家臣一同は稲葉山城のある金華山を登っていた。義龍の居城である稲葉山城は金華山そのものを天然の要害とした巨大な山城であり、長良川や木曽川などが天然の堀としての役割を果たし織田の侵攻を阻んでいたのである。

 

「井ノ口の町を王城と見立てればまさしく“背山臨水”。井ノ口と稲葉山城は陰陽道の理にかなった王都と言えます。天下を望む蝮様や織田信奈様がこの城にこだわるのもわかりますね」

 

「川が近くになければその町は栄えない、だけど山のない平地ばかりだと今度は防衛が難しい、といったところか………確かにこの井ノ口は山も水も備わっているという意味ではその通りだな」

 

顔を布で覆った長門が半兵衛に同調する。

 

「そういえば長門、なんでそんなものをかぶっているんだ?」

 

「一応緋村家は斎藤家とは同盟関係にあるからな、顔がわれるのは困る。だからこれは病で顔を見せることができないっていうことにするためさ」

 

なるほどな、と良晴は頷く。長門としては堂々と顔を晒して斎藤家に確執を作ることも考えたが、今はまだ見極めるという隆成の方針の為、それはできないでいる。

長門が見ると半兵衛がひぃ!と小さい悲鳴を上げた。

 

「ひ、緋村長門さんは怖いです……。『石兵八陣』に火薬を仕込んで爆発させましたし………長良川でも偽書を送って疑心暗鬼に陥らせてます……」

 

「それはそれは、褒め言葉として受け取っておこう」

 

半兵衛が怯えているが長門はそれをさらりと受け流していた。良晴たちはそれにちょっと引いていた。

 

 

その頃、稲葉山城内では半兵衛の処遇について家臣たちが大激論を繰り広げていた。それも美濃三人衆の一族である半兵衛の出仕を快く思っていないからであった。特に義龍の懐刀とも言える斎藤飛騨守が三人衆と半兵衛を失脚させる為にあの手この手と義龍を疑心暗鬼に駆り立てていた。そしてその中には道三の盟友で今は義龍に従っている緋村隆成の姿もあった。

 

「義龍さま。半兵衛の叔父である安藤伊賀守は、道三の片腕でしたぞ。しかも信頼のおけぬ男。半兵衛は、安藤と謀って道三を尾張に逃がしたに違いありませぬ」

 

義龍が東美濃衆を重用し始めてから立場が苦しくなってきた美濃三人衆。安藤伊賀守は半兵衛に随行している為、後の二人、稲葉一鉄と氏家卜全はかつて道三の盟友であり、三人衆たちとの親交のあった長隆の協力を仰ぎ、半兵衛の弁護をしていた。

 

「飛騨守!そもそもお主の讒言があったから長良川では道三どのを、そして織田信奈を逃したのではないか!」

 

「そうじゃ!お主の讒言がなければ儂等は織田信奈を討ちとれたというのに!」

 

「黙れ!西美濃衆は信頼ならぬ。先日みた半兵衛は如何にも面妖な面で武家のものではない!」

 

それに、と斎藤飛騨守は長隆に目配せをし、

 

「緋村どの、そなたも道三とは盟友であったな。最近、道三を逃したのはそなたらが裏で糸を引いているという噂が立っているではないか!」

 

もちろん、斎藤飛騨守はそれが事実だとは思っていない。長良川の時には緋村の軍勢は長門と手勢が少々出た以外黒野の地で静観を決め込んでいたのだ。それに目ざとく気付いた斎藤飛騨守は緋村をも害してしまおうと考えていたのだ。

 

「さて、何のことじゃろうな、儂らが兵を出せぬ状況にあったことは先日説明したではないか。半兵衛が男なのか女なのかは今日決まるのであろう?いつまでもこんなところでくだらぬ言い合いをする暇はないのではないか?」

 

長隆は国の為ではなく己の私利私欲の為に手を尽くす斎藤飛騨守が大嫌いであった。

 

「ぐぬぬ…………」

 

斎藤飛騨守も最初は緋村の武力を恐れており下手に出ていたが最近の長隆の言動には耐えきれなくなっていた。

結局、義龍は飛騨守の意見を取り入れ稲葉と氏家は沙汰が決まるまでは謹慎が言い渡された。

 

 

 

(さて、そろそろ潮時じゃな。美濃は織田にとられるのやもしれんのう)

 

 

 

 

稲葉山城についた半兵衛一行は義龍たちが待ち構える御殿へと近づいていた。一ノ谷の兜をかぶった半兵衛が子馬にのって門を潜ろうとした時に、門の屋根の上に仁王立ちしていた斎藤飛騨守は犬の小便を半兵衛の頭目掛けて垂らした。

 

「思い知ったか、わが主君にに阿る文弱の徒が!」

 

半兵衛は一瞬何が起こったのか理解できず固まっていたが、声の主を確認し、己の頭にかけられた生暖かい液体の正体に気付いた。

 

「……きゃああああああ!」

 

小動物のような黄色い悲鳴が響き渡った。半兵衛は思わず『虎御前』を抜刀しかけたが、叔父である安藤伊賀守や良晴たちがなんとか抑えたが浅井長政が怒り、抜刀してしまった。

 

「お前、何やってんだよ! 相手の思う壺じゃねーか!」

 

「し、しまった……猿に窘められるとは」

 

「ええい、皆の者出合え出合え! 竹中半兵衛、ご謀反でござる」

 

この飛騨守の声を聞きつけ館内から義龍たち美濃侍が一斉に門前まで躍り出て半兵衛一行を包囲していた。

 

「……ぐすん……ぐすん、ぐすん。い、い、いぢめ……いぢめられ……」

 

混乱した半兵衛に危機が迫った。良晴も長政も犬千代もあまりの展開に声が出ない。

 

「おいおい……これは流石に不味いぞ……」

 

この後の展開が読めてしまった長門は珍しく焦っていた。安藤伊賀守も慌てて美濃侍たちに刀を納めさせようとしたがそれよりも先に半兵衛が爆発してしまったのだ。

 

「いぢめないでくださあああい!」

 

叫びながらドーマンセーマンのお札を乱舞させ、手持ちのお札を全部をぶちまけ、計十四体の式神を召喚していた。

すなわち、本当に謀反を起こしてしまったのだ。その式神に驚いた美濃侍たちは式神たちに驚き、逃げ出してしまった。それを式神たちが追いかけ回していた。

長門たちが唖然としている間に半兵衛一行は稲葉山城を落としてしまったのだ。


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