狭間の小話   作:いつかこう

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アルベドとシャルティアとアウラがパジャマパーティでキャハハウフフするおバカなネタ……のつもりだったんですが、あれー? どうしてこうなった。


パジャマパーティ

「えっと……これでいいのかしら?」

 アルベドが正座して太ももの上で手持ち無沙汰に両手の指を絡めながら、多少不安げな顔でどちらにともなく尋ねる。

 

「で、これからどうすれば良いんでありんすか?」

 アヒル座りをし右腕で枕を抱え、左手の人差し指をぷっくりとした桃色の下唇に当て小首を傾げるシャルティア。

 

「ん~やった事ないからなあ」

 スピアニードルを背もたれ代わりに、頭の後ろで手を組んで足を投げ出し、天井を見上げて考えるアウラ。

 

 こんな感じかな、っと三人で車座になったのはいいが、さてこれから何を話したものか。

 仕事の話をすると言うのも、望まれている事と違うのではないか、そんな戸惑いが沈黙を生む。

 

『けれどアインズ様の勅命とあらば、どうあってもきっちりと果たさなきゃ』

 アルベドは両拳をギュッと握って愛する主人に誓う。

 すでにその固い決意自体がアインズからしたら『あ~っ、もっと気楽にな、気楽に』と言いたくなるものであるが。

 

◇◆◇

 

 ──それは(あるじ)の一言から始まった。

 三人がいつもの口喧嘩をしている時、それを見つけたアインズが(軽く頭を抱えつつ)提案したのだ。

 

「そうだ、パジャマパーティーをやって女性守護者同士で親睦を深めるというのはどうだ。」

 

 敬愛する(あるじ)の提案なら否応もない。さっそくやってみる事にしたのだ。

 場所は第六階層、アウラの自室である。

 もちろんアルベドやシャルティアは、出来ることならアインズ様と……と希望を述べたが、『パジャマパーティーというのは同性同士でやるものだ』という一言で諦めざるを得なかった。

 

 ちなみに全員、ノーマルなパジャマ姿だ。アルベドは白地に青、シャルティアは赤、アウラは黄色の縦縞が入っている。

 色気は無いが、悩んだ末パジャマパーティーというお題目に沿った姿という事でこれに落ち着いた。

 ただアルベドは腰の羽があるのでパジャマの上下の隙間からお尻に近い部分の素肌が覗いており、ある意味マニアックなチラリズムと言えなくもない。

 この場に愛しい人(アインズ)がいないので、アルベドにとってはどうでも良い事だが。

 

◇◆◇

 

突然、シャルティアの頭にペカッと電球が灯った。……電球は知らないので、多分魔法灯かなにかだろう。

 

「そうでありんす! 皆で、自分を創造してくださった至高の御方がどれほど素晴らしいか語り合うと言うのはどうでありんす?」

「おーいいねえ、シャルティアが珍しく良いこと言った!」

「珍しくとは失礼でありんすね」

 素早い茶々にプクッと頬を膨らませつつも、これも珍しくアウラが自分を褒めたため、ドヤッという表情を隠せない。

 

「……いえ、それは止めておいた方が良いと思うわ」

「……どうしてでありんす?」

「うん、なんでさ? 良い意見だと思うけど」

 

 アルベドが静かに異議を唱え、良い気分に水を差されたシャルティアの機嫌が急降下する。

 しかしいつもの厭味ったらしい口調ではなく、守護者統括然とした冷静なトーンだったので一応耳を傾ける。

 アウラも理由が分からず、訳を知りたがった。

 

「考えてごらんなさい。もし至高の御方々の素晴らしさを語り合ったら、ついエキサイトしてお互い自分を創造してくださった御方の賛美に偏ってしまうでしょう。そしてその気は無くても、それが相対的に他の至高の御方を貶める発言になってしまうかもしれない。それは不敬でしょ?」

「え…? う、うん……そう……かな?」

「ま、まあ確かに……そうでありん……す……の?」

 

 なにしろナザリックで一二を争う智者の言葉である。なるほどそういうものかも……と思いつつも、シャルティアもアウラも釈然としない表情をする。

 二人が納得いってないと見て取ったアルベドは、決して勝ち誇ったような表情ではなく、むしろ少し気遣うような目で交互に視線を合わせる。

 

「これは二人……特にシャルティアのためでもあるのよ」

 

 ん? と、シャルティアだけでなくアウラも首を傾げる。

 アルベドは少しの間目を閉じ、そしてゆっくりと開けながら静かに問う。

 

「あなた達、私に議論で勝てる?」

 

 グッと二人がたじろぐ。

 

「私だって、あなた達にタブラ・スマラグディナ様の……素晴らしさ……を語るにやぶさかでは無いわ。でもそれが高ぶるあまり、不敬を犯してしまうのが嫌なの。だってあなた達を創造された至高の御方々……ぶくぶく茶釜様とペロロンチーノ様は御姉弟じゃない。ニ対一になってしまったら、私だってムキになりかねないもの。……本気を出してしまうかもしれないわ」

 

 最後の言葉にはなんの抑揚も威圧感も無かったが……二人をゾクッとさせるには充分だった。

 

「もちろん、これはあなた達が劣っているからじゃない。私はそういう能力を持って創造されたのだし、あなた方もそう。悔しいけれど、いざ本気の1対1の戦闘になったら私はシャルティアに勝てないわ。同じようにアウラの、魔獣達の多彩な能力を使った総合力には到底太刀打ち出来ない。でもこの場で、単なる口喧嘩ではなく理路整然とした議論なら……」

 

「で、でもニ対一ならなんとか……な、なんでありんす?」

 アウラがポンッと肩を叩いてシャルティアの言葉を遮る。その眼は死んでいた。

 

「ね、だからこの話は止めにしましょ? もっと軽い話題にしない?」

 ポンッと軽く両手を叩いてアルベドが微笑む。それはこの場の絶対強者だけに許された余裕の裁定だった。

 

「う、うん。まあそうだね、止めておいた方がいいかも」

「うっ……わ、分かったでありんす……」

 

 シャルティアはまだ納得していない様子だったが、アウラまで乗り気では無くなったのを見て渋々と諦めた。

 以前より物分りが良くなったのは、色々と経験を積んだおかげかもしれない。

 

 それに……もうひとつアルベドの意見に納得する理由を見つけてしまった。

 自分は覚えていないが、デミウルゴスから説明されたあの戦い。その際に、自分がアインズ様に言い放ったという一言。

 

 『アインズ様よりあの御方の方が優れていたという証明では?』

 

 ──NPCにとって自身の創造主が一番なのはその通りだ。それを責めるNPCもいない。アインズ様もそれを咎め立てたりはしない。

 そうであっても……。

 

 あの苦い記憶……正確には説教の記憶……が蘇り、みるみるションボリしていくシャルティア。

 

『そこまで落ち込まなくっても良いのに』

 出来の悪い、外見年齢は自分より上の妹分が何を思い出したかに気づかず、単に自分の提案が没になった事にガックリしていると思うアウラ。

 何か慰めの言葉でもかけてやろうかと逡巡していると、その前にアルベドが、かって見せた事が無いような笑顔をシャルティアに向けて語りかける。

 

「でも驚いたわ。シャルティアが私達より早く、キチンとアイデアを出すなんて」

「なにそれ、嫌味でありんすか?」

 

 上目遣いにアルベドを睨み、拗ねた口調で聞き返すシャルティア。

 しかしアルベドは全く気にせず、いっそ慈愛に満ちてるとさえ言える表情でやんわりと否定する。

 

「違うわ。ほんとに褒めてるの。アインズ様のお見立て通り、シャルティアは成長しているのね。見直したわ。」

「えっ、なっ、なんでありんすアルベド? ちょっと気持ち悪いでありんすよ?」

「あら誤解しないで、私はただ、アインズ様のご慧眼が素晴らしいって言ってるだけよ」

「ふん、そんな事だろうと思ったでありんす」

「でもあなたがそのご期待に沿うようになってきてるのは確かだから、私も認めるしか無いのよねえ。ああ、うらやましいわ。アインズ様に成長を認めて頂けてるなんて」

「……ま、まあアルベドは最初から優秀でありんすから……優秀過ぎるというのも大変でありんすね」

「あらなに、シャルティア、それこそ嫌味? 私なんてアインズ様の深い御心の一端でも理解出来たらって、日々自分の至らなさを思い知らされてばかりなのに」

「そ、それはしょうがないんでありんす! だ、だってアインズ様は別格過ぎでありんす! でも……あ、アルベドの頭の良さは、私だってその……み、認めてるでありんすよ」

「まあシャルティア……ありがとう、励まされるわ」

「な、なんか照れるでありんすね」

「うふふ、そうね」

「くすくす」

 

『……なにこの空気』

 

 一人蚊帳の外なアウラが、少し面食らいながらその様子を眺める。

 普段の二人の間には絶対あり得ない、キャハハウフフな褒め合い。これがパジャマパーティーの効果なのだろうか。

 そうだとしたら……いや、当然そうなのだろうけれど、さすがアインズ様の発想は素晴らしい。しかし……。

 

『うーん、なんかこう、微妙に論点をずらされた気もするんだけど……気のせいだよね?』

 

 それにアルベドが早く話題を逸らすためにシャルティアにおべっかを使ったように見えたのはなぜだろうか。

 もちろん、至高の御方々の話をしたがらないシモベなんて居るはずがないから、さっき説明された通り、誤って不敬になる事を危惧したに違いないのだけれど。

 アルベドの表情が妙に硬かったのは、きっとそのためなのだろうけど。

 

『アルベドの事だから、シャルティアも交えてそんな話をしてたらどういう展開になるか、きっと先が見えたんだろうなあ。アインズ様のご提案で始めたパジャマパーティーだから、出来るだけ穏便に済ませたいって思ったのかな。』

 まだ何かモヤモヤと自分でも分からない、釈然としない気持ちを抱きつつも、アウラはそう思って納得することにした。

 

◇◆◇

 

「……という訳で、なかなか面白い人材なのよ」

「へえ……人間にもそんなのがいるんでありんすねえ」

「アルベドやデミウルゴスと同レベルの頭脳の人間って……ちょっと信じられないね」

「まあある意味、精神の異形種と言うべき突然変異ね。非常に興味深い存在であるのは間違いないし、ナザリックの強化という意味でも価値があるのは確かだわ」

「アルベドが人間にそんな高評価を下すなんて、ビックリでありんす」

「でも領域守護者と同等の地位を与えるなんて……あ、もちろん、アインズ様がご許可をなさった事だから正しいのは分かってるよ」

「そうね、私達だけだったらナザリック外の者に価値なしと一顧だにしなかったでしょう。でもアインズ様がご指示をくださったから、私もデミウルゴスも人間の中にそういった興味深い存在を見つける事が出来て視野が広がったわ。ああほんと、なんというアインズ様のご慧眼! 私達の偉大なる支配者!」

「全くでありんす!」

「うんうん」

 

 結構色々な話をしたが、結局最終的にはすべて「アインズ様最高」という話になる。

 まあアルベドが会話を仕切っている以上そうなるのは当然で、もちろんアウラもシャルティアもそれに異議などあるはずが無い。

 

『ん? これって結局他の至高の御方々を……いやいや、そんな事ある訳無いじゃん。うん』

 自分達と共に残ってくださった、そして至高の御方々のまとめ役だったアインズ様の素晴らしさを語り合う事が、他の至高の方々への不敬にあたるはずがない。そんな事を思う方が不敬だ。そもそもアルベドに言われるまで、考えもしなかった。

 

『ん? あれ? じゃあやっぱり自分の創造主の話をするのも……うーん……』

「どうしたの、アウラ。難しい顔をして?」

「え? あ、いや、あたしそんな顔してた? いやあのさ、蒸し返すようだけどさっきの……」

 

 ハッと我に返り、慌ててそう言いながらアルベドの顔を見たアウラは、またかすかな違和感を覚えグッと声をつまらせた。

 アルベドの目の奥にある、自分を観察するような光り。まるで……。

 ──だがそれは一瞬で消え去り、単にアウラの言葉を待つ興味深げな視線だけがあった。

 

「ん?」

「……あー、なんでもないよ、アルベド」

「なんでありんす、アウラ? 今までの話で言い足りない事でもあったんでありんすか? 雑談でありんすから、どんな他愛ない事でもいいんでありんすよ。むしろそれがアインズ様の御心に叶うんでありんすから。ほれ、遠慮せずに話すでありんす」

 

 さあさあ、とシャルティアが促す。会話の間、自分が何か発言する度にアルベドがさりげなく持ち上げるのですっかり良い気分になり、他者にも寛容になっているようだ。

 

「ええ、シャルティアの言う通りだわ。なんでも話してちょうだい、アウラ」

「あ、いや、だ、だから、なんでもないって。気にしないで」

 シャルティアを手玉に取る気ならいつでも出来たんだなと、改めてアルベドの知性に感心とわずかな(おのの)きを感じつつ、ブンブンと手を振りながら頭の片隅で湧き上がった疑念を否定する。

 

 そう、気のせい。この会話の流れで、どうしてアルベドがそんな気配を発する理由があろうか。

 再びちらっとアルベドを盗み見るが、なんら変わった様子は無い。どう考えても、自分の錯覚だ。

 

『うん、気のせい、気のせい』

 

 そう、あれが……敵意や殺意であるはずがない。

 

「あ、そ、そうそう、そうだ、あ、あのさ、ずいぶん話したけど、それで、パジャマパーティってどうやったらお開きになるのかな?」

「ああ、そうね、思いもかけずすっかり話し込んでしまったわ。そろそろ終わりにしましょうか」

「そうでありんすね。あーっ良い気分でありんす。パジャマパーティってこんなに楽しいものだったんでありんすね。さすがアインズ様!」

「ええほんとだわ。シャルティアの言う通り」

「そ、そうだね……」

 

「そうだわ! 今夜はこのまま三人でかわのじ(・・・・)になって寝るというのはどうでありんす!?」

 シャルティアがまた頭にペカーッと魔法灯を光らせて提案する。

 

「えっ、私の部屋(ここ)で?」

「まあ、素晴らしいアイデアだわ。もうシャルティアったら、今日は本当に冴えてるのね。私お株を奪われちゃってるわ」

「た、たまたまでありんすよ。もう、アルベドったら。お世辞言っても何も出ないでありんすよ?」

「あら私は……」

「アインズ様のご慧眼が素晴らしいって言・い・た・い・だ・け!」

「もーっ、シャルティアってば、先回りされちゃった。ほんとに頭の回転が早くなってるのね、くわばらくわばら」

「ふふん、私も日々成長してるでありんす!」

「うふふ」

「くすくす」

 

『なんだかなー』

 いや、二人が仲良くしてるのは悪い事じゃないけど、やっぱりシャルティアが恋敵(ライバル)の手の平の上で転がされてるだけにしか見えない。

『っていうか、寝間着でやるんだからそのまま一緒に寝るのが当たり前なのかな。いや、確かに私は終わったらなんとなく各自解散なイメージだったけどさ』

 

◇◆◇

 

「自分で提案しておいてなんでありんすが……ちょ、ちょっと照れるでありんすね。」

「あはは、そうだね」

「ふふっ、まあたまには良いじゃない」

 

 アルベドを真ん中に、左にシャルティア、右にアウラが同じベッドの上に横になった。

 なんとなく年の離れた姉妹……いや、もう大きいのに母親に一緒に寝てもらうようせがんだ、甘えん坊の娘達に見えなくもない。

 シャルティアはいつものライバル心はどこへやら、ピトッとアルベドに寄り添いその左胸に薄紅色に染まった頬をスリスリと擦りつけている。

 アルベドもまたそれを嫌がる事無く、さりげなく優しくシャルティアの髪を撫でている。

 アウラも大人しく寝転がったが、こちらは(シャルティア)に付き合いはしたがもう自立心が芽生え照れくささが強くなってきた反抗期直前の上の娘のように落ち着かない。

 そんな(アウラ)の心境を察したかのように、母親(アルベド)がアウラの後頭部に手を回し、自分の胸に引き寄せる。

 

「うぷっ」

 豊満で柔らかな乳房に鼻先や頬を押し当てられ、むず痒いような、照れくさいような気持ちが湧き上がった。

 軽く抗議の気持ちを込めてアルベドを上目遣いに見つめる。

 

「ふふっ」

 アルベドが慈母のような笑みを浮かべる。

 アウラは逃れようと軽く藻掻くが、アルベドが後頭部に当てた手の平と上腕で実にうまくその力を逃して離してくれない。

 観念して、されるがままに大人しくなる。恥ずかしいが、アルベドの胸の感触が気持ちいいのは確かだ。

 シャルティアが猫のようにゴロゴロと甘えているのが双丘の向こうに見え隠れしている。

 

『自分はまあいいけどさ、シャルティア、いつもの調子に戻ったら恥ずかしさで絶叫しないかな。』

 恋敵(アルベド)に結構なネタを握られた気がするんだけど。

 

『ふう、それにしても……』

 

 確かに色んな事を話した気がする。パジャマ姿で無防備な感じだからか、この間地下第六階層(ここ)の草原で語らった時よりもさらに親密になったような。

 ──だがそれだからこそ、今まであまり考える事も無かったアルベドの心境に……普段の守護者統括としての凛々しい公的な姿、とことんダメになるアインズ様への愛に溺れシャルティアとやり合う痴態とは違う、もっと心の奥に秘められたものに関心が赴く。

 

『アルベドは……ひょっとしたら辛いのかな。アインズ様への愛の表現があまりにも強いから普段全然そんな感じしないけど。タブラ・スマラグディナ様の事を話題にするのが辛いほど、寂しいのかな。だから一瞬……。』

 

 しばらくしてアウラはアルベドの腕から解放された。他愛ない戯れの時間は終わった。

 シャルティアはあっという間に熟睡したようだ。息をしていない(アンデットの)はずなのにクゴークゴーと小さなイビキをかいている。

 

◇◆◇

 

「どうしたの、アウラ。まだ眠れない?」

 シャルティアがイビキをかきはじめて30分ほどたったろうか。アウラの身動きと視線を感じたのか、アルベドが仰向けで瞼を閉ざしたまま問いかける。

「えっ、あ、うん……」

 あいまいな返事をすると、アウラはアルベドに背中を向け目をつぶった。

 

 しばらく静かな時間が流れる。

 

 クゴー クゴー

 

 シャルティアのイビキだけが沈黙を破っている。

 けれど敏感な聴覚を持つ闇妖精(ダークエルフ)なら叩き起こして文句を言いそうなその音も、今は全く気にならなかった。

 

「──ねえアルベド、まだ起きてる?」

「なに?」

「……いつかさ」

「……」

「いつかきっと、至高の御方々がお戻りになられる日が来るよね」

「……」

 

 不自然なほどの沈黙。やはり触れてはいけなかったんだろうか。

 アルベドの、創造主(タブラ・スマラグディナ様)に対する想い。激情。

 もちろん、自分の創造主(ぶくぶく茶釜さま)に対する想いが劣っているなど露ほども思わない。

 それでも、それぞれのNPCの性格というものがある。アルベドは守護者統括として、辛さを深く心に溜め込んでいるのではないか。

 アウラは、かえって余計なお世話かもしれないと思いつつ、どうしてももう一声かけずにはいられなかった。

 

「だからアルベドもきっと……タブラ・スマラグディナ様にお会い出来る日が来るよ、絶対」

「……」

「……」

 

「……ええ、そうねアウラ、ありがとう」

「……おやすみ、アルベド」

「おやすみ、アウラ」

 

 短い沈黙の後のアルベドの返答は、とても、とても静かで穏やかだった。

 なんの……感情も込められていないような。

 あるいは無限の色彩を持つ感情が凝縮されて、真っ白な一粒の結晶になったような。

 

 真っ白……いや真っ黒……かな? 真っ黒……? どうしてそう思う……んだ……ろ……。

 

 アウラはうつらうつらとした意識の中でボンヤリとそんな事を考えていたが、やがて深い眠りの海に沈んでいった。

 

 

 

 ──安らかな寝息を立てる闇妖精(ダークエルフ)とイビキをかく真祖吸血鬼(トウルーヴァンパイア)に挟まれた淫魔(サキュバス)

 暗闇の中、彼女の金色の双眸がいつまでもいつまでも天井を見つめていた。──

 

 

◇◆◇

 

 翌日、アルベドは毎日の業務報告の後、アインズに昨夜のパジャマパーティの様子をかいつまんで説明した。

 アインズ褒めの部分はいつものように……当人に遮られてしまったため泣く泣く断念したが、しかしそれ以外に実のある話など、全くした覚えがない。

 とにかく雑談、ただの雑談だった。あれで良かったのだろうか。

 だが恐る恐る話したその内容に、アインズはとても穏やかな笑みを浮かべたように見えた。

 

 「ははっ、そうかそうか。実に楽しそうではないか。うんうん、そうやって仲良くしているのが一番だ」

 

 アルベドは首を傾げる。全く生産性が無い、他愛のない会話。ナザリックのためになんら益するとも思えない無駄。しかし(あるじ)は、それがとても良いという。なぜだろう。

 正直、良く理解出来ない。けれど、それで愛しの御方が笑みを浮かべてくださるなら、それは正しい事。きっと御身に比して凡庸な自分には、想像し得ない利益があるのだろう。

 

 「はい、パジャマパーティ、また開きたいですわ」

 

 アルベドはいつも通り、この世で唯一愛する(・・・・・・・・・・)主人に向けて最高の微笑みを浮かべ、ウキウキと弾んだ声で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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