──久しぶりだな姉よ! 腹パンは帰ってきたぁ!!
──出オチあぅおおぶぉああああ!!?
開幕早々、車田伝統芸ローリングダイブですいません。
皆さんどうもおはよう、こんにちは、こんばんは、セレナです。
ギュルギュルと天井近くまで高く上がった了子さんが頭から床にドシャア!!と落ちました……兄さん手加減無しで左手で殴ってるけど生きてるのかなぁ?
っていうか腹パンであんなに人が高く上がるんだなぁ。
ここは特殊災害対策機動部二課のレクリエーションルーム。
ライブ会場でのノイズ襲撃後、細々とした質問を受けてからここへ連れて来られた。
そこは何故かパーティー会場になっていてワタシと兄さんの歓迎パーティーが開いていた
──な なんてことをするのよ、このバカ弟ぉ!!
──やかましいわぁ、岩塩から削った自作塩を食らえぇ!!
パァン! パァン!と塩を投げ付けてるとは思えない音がします。
あれは破裂音? 炸裂音? どちらにしろ塩投げて出る音じゃないです。
ちなみにあの塩は兄さんがアメリカに来てから今日まで長年かけて自作した岩塩から削り下ろしたものです。
まさかFISの空室を丸々使って岩塩製作室にするとは誰も思いませんでした。
マムや姉さんは勿論、研究所のみんなが絶賛する最高級の塩です、マムが言ってたけど日本人は食の追求には余念が無いと言ってました。
確かにあの塩をかけて食べたローストビーフは凄く美味しかった、また食べたいなぁ。
ちなみにあれを懐に入れてた所為で空港で麻薬と間違えられて時間がかかりました
──誰が留学しただぁ!? いい勉強になりましたありがとうございまーす!!
──貴方に決まってるでしょ!? どういたしましてー!!
バガァンと音がしてカン、カン、カーン!とボクシングとかで使うベルみたいなやつの音がします
──っしゃあ!! アイアムチャンピオーン!! 次の挑戦者は誰じゃー!!
わぁあと周りが歓喜立つ中で兄さんが両手を上げて勝利を喜んでいる。
研究所の時も男性職員のみんなとボクシング中継を見て興奮したみんなと兄さんでボクシング大会をその場で開催して全員ボッコボコな顔して翌日、マムに土下座してたっけ
「この料理おいひぃ」
もぐもぐと料理を口に運びながら笑みをこぼすセレナ。
日本の料理はどうしてこう美味しいんだろう?
アメリカで食べた同じ料理でも繊細で上質で舌触りも優しく後味も残り過ぎずアッサリしていて次々と料理を食べたくなる。
ああ、兄さんと一緒に日本に来て大正解!
「ハハッ、楽しんでるようで良かったよ…えーっと…」
そう思って更に料理を食べていると同じテーブルに赤毛の子が座ってきた。
この子は確かアモウ カナデさんだっけ? さっきの戦いでの怪我も見た目は大したこと無いみたいだけど聞いておこう
「セレナ、セレナ・カデンツァヴナ・イヴだよ。セレナって呼んでほしいな」
「そっか、アタシは奏、天羽 奏だ。アタシも奏でいいよ」
「ありがとうカナデ…怪我の方は平気?…」
「疲れはしたけど怪我自体はそんなに酷くなかったよ。心配してくれてありがとな」
それなら良かったとセレナはホッと一息着いた後に奏の横に座りチラチラとこちらを見てくる青い髪の女の子、風鳴 翼に視線を向けた
「…風鳴 翼だ…そのさっきは…助かった…ありがとう」
ぎこちない自己紹介におそらくライブ会場での件の御礼を言っているのだろうツバサ
「ごめんなセレナ。翼って割と人見知りする方でさ」
「ちょっと奏、初対面の人にそんなこと言ったら…」
「うぅん、気にしてないよ。あっちでも似た子たちと接して来たから大丈夫。それにツバサはテレてるとこも可愛い」
その言葉に赤面して俯く翼にへぇーと感心した様子の奏
「セレナって案外やるなぁ。初対面で翼を赤面させるなんてな」
「そうかな、本音を言っただけだよ? カナデだってツバサは可愛いって思うでしょ?」
「もちろん。翼は可愛いよな」
「ふ、二人は意地悪だ」
ニヤニヤと笑う二人に翼は更に赤面して身体が小さくなってしまったようにさえ見える
──コンニチハ、リョウスケ=サン オガワ=シンジデス
──アイエエエー!? ニンジャ!? ニンジャナンデ!?
──イヤーッ!
──グワァーッ!
「「「オタッシャデー!」」」
イヤーッ!された兄さんにワタシたち三人のセリフが一つとなり誰からともなくハイタッチを交わした。
この二人とは仲良く出来る。そう確信した一幕だった
「まさか本物のニンジャにイヤーッ!されるとは……日本マジ怖い」
「ふざけすぎるからだよ、ねー?」
「「ねー」」
「このガキども殴りてえー つかお前らいつの間にそんな仲良くなってんだよ?」
セレナと奏は何となくわかる、ノリはいい二人だからな。だがまさか翼までこのノリに乗るとは思わんかった
「さっき友情の誓いを立てたの。もう仲良しだもん、ねー?」
「「ねー」」
この三人、実はかなり相性良いのか? まっ、仲が良いのは良いこったよ……そのノリを続けられるとムカツクから仕返しはするけどな
「翼ー 顔真っ赤になるまで恥ずかしいならやるなよー セレナも調子に乗ってると肉ガム食わせんぞ」
言われて翼は耳まで真っ赤な顔を更に赤くして俯向き、セレナは肉…ガム…いや…と真っ青な顔をしているが料理を口に運ぶ手は止めない。
研究所の飯は確かに美味いとは言い難かったが、どんだけ食いたいんだよ、お前は?
奏は奏で二人の様子を見てゲラゲラ笑ってやがるし…いいトリオになりそうだな
「盛り上がってるわね〜 久々の再会だし話が盛り上がってる感じかしら?」
「了子さん。久々の再会って? アタシら会ったことあるっけ?」
「あら、覚えてないかしら? 奏ちゃんと翼ちゃんは昔、亮介と会ったことあるわよ」
「「え?」」
「思い出したら言ってくれ。話があるんだろ姉貴…セレナ、二人と仲良くやってろよ」
了子の言葉に奏と翼が頭を抱え始めるのを余所に了子を先へと促しセレナの肩を叩き亮介は歩いて行く
────
二課 検査室
「随分とアメリカでは派手にやったみたいだな?」
「……口調はそれでいいのかフィーネさんよ?」
フィーネと共に来たのは二課に備えられている検査室。
CTスキャンの台から降りて服を着替えていると背後から彼女に声を掛けられた
「ここは現在、盗聴も盗撮も出来はしない。それに貴様相手に演じるのは肩がこる」
「ハッ……『姉が弟に姉を演じるのは肩がこる』か……それが姉の言葉かよ?」
「何度も言っているが私はフィーネだ。櫻井りょ…」
「『櫻井 了子の意識は既にアンタに塗り潰された』だろ? 耳にタコが出来てるよクソアマ」
「言葉が過ぎるな? それが数年ぶりに会った姉に対する言葉か?」
「過ぎたら何だ? それが遥々アメリカから帰ってきた弟に対する態度か?」
互いに相手を睨み付ける。一触即発、そんな雰囲気だ。
そんな中で先に雰囲気を弛緩させたのは亮介だった
「メンドくさー ヤメだヤメ。俺はケンカしに帰ってきた訳じゃないんだよ。話しは何だよ? さっさと戻って飯食いたいんだよ……セレナが全部食う前にな」
「………あの子そんなに食べるの?」
「ああ見えてドン引きなほどに食う。一ヶ月アイツの好きなように食わせてたらここの食堂はストを起こすだろう、断言する」
実際にストを起こした俺が言うのだから間違いないね! 断言した俺の言葉に食堂がストを起こした時を想像したのだろう姉が頬をヒクつかせていた
「先天的因子適合者(インヒレント・ジーンドライバー)ってのは誰でもあれだけ食うのか?」
「そんな訳ないでしょ…はぁ、話しはアナタの『左腕』のことよ」
「黙秘権を行使しまーす」
眉間に指を当てて溜息を吐くフィーネ。さっきまでの口調から俺の知る姉の口調になったのは恐らく『そっちの方が楽だから』だろう
「そう言うとは思ったわよ。それでも構わないけどこれを見なさい」
そう言ってホロディスプレイに映し出されたのは俺のCTスキャンの結果だ
「アナタの左腕は聖遺物ね? それも人体と融合してる上にあのセレナって子の使う聖遺物と同じ物でしょう?」
そりゃ分かるわな。教授達ですら調べられたことをシンフォギアの製作者である姉が気付かない訳がない
「ご明察と言っておきましょう。それで何が聞きたいんで?」
CTスキャンの台に腰掛けながら仰々しく両腕を広げて見せる
「……その聖遺物はどうやって手に入れたのかしら?……それと…」
「自分の身体のことなら分かってるよ。『融合し続けてることもな』」
こちらの顔を見ながらとても言い難そうにする姉に俺はハッキリと言ってやる。
その瞬間、姉の顔が絶望に染まった。まるで医者に身内の余命宣告を受けた人間の様に
「くくっ…アンタでもそんな顔をすんだな? 少しはまだ弟だと思ってくれてる訳だ」
その顔が余りにも想像してなくて趣味が悪いとは思うが笑ってしまった。
そう俺の左腕はアガートラムだ。セレナが使う聖遺物と『まったく同じアガートラムが俺のアームドギアなのだ』
アメリカにいた頃の話になるがFISで完全聖遺物の機械的起動実験時に俺は『左腕を失い新たな左腕を手に入れた』
それはその時にシンフォギアを装着していたセレナのアガートラムであり俺は死にかけながらもそのアガートラムと融合適合したのだ。
以来、俺の左腕はセレナのアガートラムで有り俺のアームドギアでも有るのだ
「……それがどんな結果を導き出すか…分かっているのよね?」
その言葉の意味に俺は姉から視線を逸らさずに静かに頷いて見せた。
俺の身体は左二の腕から指先までがアガートラムで有りそこ以外は普通の肉体だ、表面上はだが。
ホロディスプレイを見れば分かるのだが、二の腕からから上に心臓へ一本の線が走っている。
それはシンフォギアの融合化を示す物だ。まるでバイパスの様な一本の線は正にバイパス通りの役割を果たしている。
シンフォギアからの力を心臓に運び身体全体へと流してシンフォギアの特性を発揮させているのだ。
故に亮介の身体能力や使う武器類に装者と同じ現象が起こるのだ。
しかし故に、だからと言ってもいい。
亮介の『身体は今も緩やかでは有るが聖遺物との融合を続けている』
物言わぬ無機物化、完全なる聖遺物化、最悪の場合、死に至る。
その先に待つモノは現状では予測出来ていても阻止は出来ない。
何故ならば亮介こそが世界で最初の融合症例だからだ。
左腕を外科的に外そうと心臓にバイパスが通ってしまい心臓の一部が聖遺物化してしまっている以上、手術でも摘出は不可能なのだ
「人はいずれ死ぬ。早いか遅いかだ……たださ…何も残さず死ぬのは怖い」
だから手っ取り早く戦いなんて手段を取っているだけだと笑う
「だから勝負をしようぜ『姉ちゃん』」
「……勝負…懐かしいわね、何をしたいのかしら?」
昔の様に了子を呼ぶ亮介に彼女は暗い顔を上げた
「簡単だよ、一緒に暮らしてた頃に一番やってた勝負さ」
本当に昔は良く二人でくだらないことで勝負をしたもんだな姉ちゃん。
テレビゲームだったり、料理の味の美味い不味いだとか、色々とやったよな、そんな中で一番やったのは
「「競争だ/ね」」
走ったり、何かを作ったり、とにかく何かを競争するゲームでは俺が負けてばっかだった
「内容と勝敗は?」
「どっちが先に望みを果たすかだ。更に言えば姉ちゃんには弟としてハンデをくれてやるよ」
「……いつも負けてばかりだったのに。ハンデって?」
「望みを果たすか…『俺の身体を治すか』だ」
それは単純に時間稼ぎの提案でしかない。フィーネの目的がどれだけ進んでいるか俺には分からない。
故に時間稼ぎとして自分の身を差し出す、そうすれば俺がフィーネの企みを探る時間ぐらいは作れるだろう。
まぁ、下手したらフィーネの目的を進めてしまうかも知れないがそれはその時だ。
あとは『櫻井 了子としての自意識に呼び掛ける手段になるかも知れない』
「……亮介の勝利条件は?」
────フィーネの望みをぶっ潰す
聞くまでもないことだろうによ。俺は諦めが悪いんだ。
フィーネだか、カストディアンだか知らないが、櫻井 了子は俺の姉だ。
例えフィーネに意識を塗り潰されてようと俺の姉である櫻井 了子はそんな甘くないんだよ。
簡単に思惑通りにいくと思うなよフィーネ? 俺と姉ちゃんが協力して出来なかったことはねぇんだよ。
だから俺は姉ちゃんを取り戻す。
理由? そんなもん決まってんだろ
────本当の意味で姉に腹パンするためだよ!!