エーテルちゃんはひとりぼっち   作:菓子ノ靴

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chapter 1 - 3 ご苦労なことね

城壁を伝って自室に戻ると、汚れたドレスを脱ぎ捨てて、下着姿になった。

 

汗をかいたので本音を言えば下着も変えたいところだったが、洗濯物が増えすぎたら怪しまれる。不承不承(ふしょうぶしょう)パジャマに袖を通して、ベッドに寝転んだ。

 

できれば寝ておこうと思ったが、興奮しているせいか寝付けなかった。

 

ぼうっと天井を眺めて。無聊(ぶりょう)を慰める。

 

時折、手にした鍵をかざして、微笑んでみたりもした。

 

そうやって数時間が無為に過ぎたかという時、ノックの音が部屋にこだました。ノックの主は返事も待たずに、ドアの鍵を外しだす。

 

エーテルは、ノックを聞いた瞬間、ベッドに潜り込んで目をつむっている。彼女に早起きの習慣はないので、寝たふりをしておくのが無難なのだ。

 

「おはようございます」

 

毎朝、決まった時間に決まった台詞を吐く――これもユスティヘル家に仕えるメイドの仕事の一つだ。

 

「……ふぁ……おはよ……」

 

大きく()びをしてみせてから、起き出して、さっきとは別のドレスに袖を通す。

 

ベッドルームを出て、回廊のレッドカーペットの上を歩いていく。

 

後ろには二人のメイドが続く。城内におけるエーテルの行動は、就寝中を除いて、常に監視されている。立ち入りを禁じられている部屋も少なくはない。

 

三階まで吹き抜けになった食堂に着くと、食卓の、朝食が準備されている席にかける。簡単なサラダと、パン、あとはボイルドエッグ。肉類がないことに不満を覚えつつも、静かに口へと運んでいく。温かい紅茶を胃に流し込んで人心地つく。

 

(ごちそうさまでした……)

 

ナフキンで口を軽く拭って、立ち上がる。

 

「着替えてアトリエに行くわ。その後のことは……んー、その時に考えるわ」

 

椅子を戻しにかかるメイドに、いつものように日中の過ごし方を伝える。何をするにも付き添いが必要なため、何をするにも予定を伝えなければならない。

 

一瞬、メイドが不服そうに眉をひそめた。エーテルはそれを見逃さず、期待通りの反応に、内心でにやつく。

 

計画は今のところ順調に進んでいる。

 

自室に戻ろうと歩きだしたエーテルは、思いがけない人物に出くわした。同じ城に住んでいるのに久しぶりに見る顔だ。

 

「これは、お母様。おはようございます。エーテルはお先に朝食をいただいておりました」

「そ、そう……」

「お母様も、どうぞ有意義な一日をお過ごしください。それでは失礼いたします」

「ええ。じゃあ……」

 

自分とまるで似ていない、湿地帯の魔女のような風貌の王妃に、恭しくお辞儀をして、エーテルは食堂を出た。廊下を十歩も進めば、後方からヒステリックな声が響いてくる。

 

「どうしてあの子をここにあげたの!」

慌てた使用人が何か言葉を返す。

「――そんなのは分かってるのよ! 私が言ってるのは、私があの子を見なくて済むように、あなたたちが配慮しなさいってことでしょう!? 使えないわねぇ! あなたもう明日から来なくていいわよ!」

すぐさま平謝りする使用人の叫びが聞こえる。

 

――付き添いの目に留まらないように、エーテルは薄ら笑いを浮かべていた。

 

母の態度にも慣れっ子だ。むしろ自分を避けて今まで生活をしてきたなら、それはなんともご苦労なことだ。言ってくれれば鉢合わせないように配慮くらいはしてやれたのに。

 

そんなことを考えながら、エーテルは食堂を後にした。




次の話は、3話~5話よりも、少しだけ刺激的です。

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