切り裂きジャック(猫耳尻尾付)でダンジョンに行くのは間違いか? 作:ユーベル
しかしこの短期間でUA7800越えとは…………
入団試験(4)(5)を統合しました
―第三者―
合図は無かった。
相対し、武器を構えたと同時に始まっていた。
まだレベル5とは言え、速度に秀でたフィンが2本の槍を構えて突撃を仕掛けてきた。
それに数歩遅れ、ガレスが盾を構えて追従する。
対してジャックは、
すぐさま、フィンの槍とジャックの十字剣『クロスサイフォス』が衝突した。
だが、音がおかしかった。
金属同士がぶつかった音ではなく、金属で岩を叩いたような音であった。
それもその筈だ。
クロスサイフォスの材質は
詰り、
元ネタでは、猛攻によってへし折られたが、最高硬度の石英を名工が
その強度は、アダマンタイトに勝らずとも劣らない。
何はともあれ、両者の動きは一瞬とはいえ止まった。
「うおおおおおおおおお」
その隙にガレスが横合いから突撃を仕掛ける。
それを見たジャックは、体を強引に回転させてフィンの槍を払うと同時に、ガレスの斧に回し蹴りを当て回避すると共に離脱した。
ジャックは自身の身軽さを生かし、離脱した勢いを殺さず素早くフィンに肉薄した。
槍の振りにくいインファイトを選んだようだ。
それに対してフィンは、槍を片方投げ捨てナイフを抜く事で対応した。
が、防御は難しかった。
それはクロスサイフォスの形状が原因であった。
クロスサイフォスは、鍔のすぐ真上から同じ幅の刃が刀身に対して直角に飛び出しているからだ。
詰り、下手に受け止めると飛び出している刃でやられてしまう為、ナイフを巧く使って受け流すしかない。
一方、斧をおもいっきり蹴り飛ばされたガレスは、腕に痺れを感じていた。
ほぼ不意打ちに近い状態で入ったと思った瞬間に渾身の回し蹴りが斧の側面に決まり、力の方向が強引に変えられら為に一時的に筋肉が麻痺してしまっていたのだった。
―ガレス―
油断していた訳ではないが抜かったわい。
アヤツの一撃、手首がもげるかと思ったわい。
じゃが、持てない訳ではない!
しかし、先ほどの一撃、フードをしたままではよけれる筈はなかった。
フードをしているだけで視界が狭まる。
思えば、儂らが近付いた時もフードを
それに、先ほどの蹴りは
これは少し確かめてみるか。
―第三者―
ゆっくり立ち上がったガレスは、気付かれないように移動を始めた。
しかし、ジャックは最初から
そして、ジャックは戦い方も変更する事にした。
剣のみから、体術を織り混ぜる事にした。
次の攻撃の布石のために。
その為、お互いの攻撃は苛烈さを増していった。
回りの観客は全員声も出せなかった。
何せ、
ロキに至っては糸目が驚愕と歓喜で見開いているほどだ。
そうこうしている内に、ガレスはジャックの後ろを取り一気に肉薄した。
いや、肉薄しようとした。
だが、それはかなわなかった。
肉薄するよりも早く、ジャックはフィンを蹴り飛ばし、その反動で反転したからだ。
因みに、フィンは反対側の壁まで吹っ飛ばされた。
「ディストラクトウィング」
無意識だったのだろうか。
ガレスは盾を手放し、可能な限り素早く下がった。
それでも少し遅く、盾と共に鎧が十字に斬られていた。
ガレスは驚愕した。
深層でも実用に耐えうる強度を持つ鎧と盾が
だが、何時までも驚いていられなかった。
「ケストレルランページ」
突如ジャックの周囲に青白く光る刃が出現して、その状態で斬りかかって来たのだから。
これには、流石のガレスも防戦の一方であった。
―フィン―
「ケホッ」
参ったね。
ここまで強いなんて、予想外も良いとこだよ。
でも、さっきのガレスの行動は、フードを被っている限り
なのに、最初から
それに、あの宙を舞う青白く光る刃も気になる。
だが、まずはそのローブを脱がせて、その素顔を拝ませてもらおうかな?
だから、この魔法を使わせて貰うよ。
―第三者―
「【魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て】」
「ウゲッ!」
ほぼ真後ろでフィンの唱えた超短文詠唱を聴いて思わず顔が引き吊ったジャックは、フィンの左手に集った鮮血の魔力光を
「【ヘル・フィネガス】」
「あんたは後回し!イモータルダーヴ!」
「ウグォ」
咄嗟にデュアルブレード用
第2ラウンドの始まりだ。
―ジャック―
さっきのイモータルダーブでクロスサイフォスにヒビ入った。
ローブの止金はそろそろ寿命だな。
安物だけど気に入ってたんだけどもうダメだね。
仕方ない、最悪仕込み刃で戦うしかないかな?
呼び出してる暇、無さそうだし。
しかし、【ヘル・フィネガス】の効果って確か、思考の低下と引き換えに攻撃を高めるんじゃなかったけ?
まあいいや。
フィンの間合いまで後…………
5歩
4歩
3歩
2歩
1歩
―第三者―
フィンはジャックが間合いに入った瞬間、鋭い突きを繰り出した。
それに対してジャックは、剣で受け止めさばいた。
しかし、剣の方が限界が近付いていた。
元よりフォトン浸透処理を施していない石英製の剣。
いくら最高硬度の無反応系石英とは言え、いや、無反応系石英だからこそ、3度におよぶPAの使用により急速に脆くなって来ていた。
ジャックのフォトンは、マトイを救うために428万5827回にもおよぶループをした結果、高純度・高濃度・高出力になっており、大量生産品のコモン武器では軽くフォトンを流し込んだだけでオーバーフローして壊れるほどである。
そんな彼女の使う武器は全て改造品か、特注品になるほどだ。
それでも、クロスサイフォスはフォトン浸透処理を施していないにも関わらず、3度もPAの使用に耐えたのだから優秀と言えよう。
だが、それでも限界は限界だ。
一番最初のフィンの一撃を防いだ、左手にもったクロスサイフォスが攻撃をさばいた瞬間、刀身が3分の1にまで折れてしまった。
そこに、いつの間にか吹っ飛びダウンから復帰していたガレスが
しかし、それも
その代償として、もう一振りのクロスサイフォスも、刀身の中程から折れてしまった。
一連の動作を見たフィンとガレスは確信した。
ジャックは、フードで視界が狭まっているのにも関わらず、普通かそれ以上の範囲が見えていると。
―ジャック―
あー、くそっ!
これ絶対気付かれた。
ほぼ360°障害物も関係無しに
それに、この状況下じゃあ
仕方ない、ローブを投げ棄ててWill'Oの方を使うか。
―第三者―
ジャックは、折れたクロスサイフォスを投げ棄てると後退しようとした。
しかし、ここに来てローブの留め金が壊れてしまった。
そうなると当然ローブはずり落ちるわけで。
「あ゛」
「今じゃ!」
裾を踏んづけて転んでしまう訳だ。
今がチャンスだと言わんばかりに、ガレスは確保に乗り出した。
「チイッ」
そんな事はさせないとばかりに、ガレスの斧を蹴り飛ばした時に
ローブの留め金が壊れた以上、バク転をした際脱げるのは必然であり、当然素顔が曝されるのであった。
その素顔を見た全員声も出なかった。
元々声のトーンから二桁行くか行かない位の子供だろうと言うのは解っていた事だ。
しかし、種族までは解らず、腰の辺りが時おり揺れている事から獣人系であることは予測できた。
正体を隠すのに使われたローブが無い今、その全体像が明らかになった。
ノースリーブのジャケットとホットパンツに身を包み、離脱に使ったと思われる機械仕掛けのブーツを履き、腰回りに動きの邪魔にならないように配慮された機械仕掛けのポーチを複数身に付けていた。
アガートラムとおぼしき左腕と、同じデザインをした籠手を身に付けた右腕。
肌の露出している所には元に戻る事の無い傷痕。
それらを見ては黙るしかなかった。
―ジャック―
あーうん、まあ、こうなるよね。
取り敢えず、隼影取り出したけど…………。
「続き、やる?」
―フィン―
彼女の腰の辺りが光ったと思ったら、いつの間にか小剣が握られていた。
さっきまで使っていた剣も同じ様に取り出したのだろうか。
それにさっきまで履いていなかったブーツの事も気になるし、それ以前に彼女には是非とも
だから、僕の答えは…………。
「いや、ここまでにしよう。おめでとう、一次試験は文句無しの合格さ」
―ガレス―
ふう、まさかここまでやるとはおもわなんだ。
しかし、どんな力をしとるんじゃ?
弾かれた斧が刃零れを起こしとる。
まあよい。
この者が何を考えているか、その一端が解るじゃろう。
何せ次はこのまま、儂ら幹部陣とロキによる面接なのだからな。
だが、この子が本日最後の受験者じゃな。
戦いに夢中で時間がたちすぎてもう夕方じゃわい。
他の者達には悪いことしたのう。