こんな書き出したばかりの作品なのにありがとうございます!
そして前回の後書きの件ですが、作品として投稿しました。
白夜叉とエグゼイドの勝負は最終局面に移り、二人のエグゼイドの必殺技と白夜叉の一撃が互いに繰り出された。
エグゼイド――永夢は変身が解け、白夜叉との攻防に押し負けたのだろうか、いくつも傷を作りながらも白夜叉と撃ち合った場所を睨んでいる。
対する白夜叉は、無傷のまま両手を突き出した状態で永夢を見ていた。
「これは……」
観戦していた誰かが、この光景を見てそう呟く。
当事者たる永夢は悔しそうに顔を歪めているが、しばらく両手を突き出したままにしていた白夜叉は自身の状況を見て一拍。
「やるではないか」
両手を下ろし、懐から扇子を取り出した彼女は、してやられたとばかりに笑い出した。
突然のことに理解の追いつかない永夢に近寄る白夜叉は、先ほどまで彼を圧倒していたとは思えない細く白い腕を伸ばす。
そうして差し出された手を掴むと、とてもではないが生身では敵わない力で立たされる。
「……完敗です。いまの僕では、本気になってもたぶん勝てない」
「ほほう? まるでいままでの戦いは本気ではなかったような言い方だが?」
「本気でしたよ。僕らは本気で挑んで、そして負けた」
「…………まあよい。そういうことにしておいてやるかのぉ。第一、敗者が勝者の秘密を暴くなど、無粋にも程がある」
勝者? と白夜叉の言葉に永夢は首を捻るが、彼の中にいるパラドはゲームでの興奮が収まってきたのか、
(そういえば、そういうルールだったな……勝負には負けたが試合には勝ったってことか……最初っから手加減されてた上に勝負に負けるのは気に入らないが、試合に負けなかっただけマシだ)
などと勝手な言い分を述べる。
しかしいまのパラドは若干拗ねているのだ。永夢と最高に楽しい協力プレーで遊べたのはいいが、相手を攻略しきれなかった事実があるのだから。
その感情は永夢にも伝わっており、彼の顔にも先ほどから悔しさが滲んでいる。
永夢もパラドも思い出したいたのだ。
『であれば、攻撃には右腕一本しか使わん。攻撃のために他を使わせたなら、それでそやつの勝ちということでいいであろう?』
ゲームを始める前に彼女が述べた言葉。
自分たちの勝利条件がひとつ増えた瞬間でもあった。
白夜叉の最後の格好。そしてエグゼイドと拮抗していたはずの力が一瞬にして押し勝った事実を見れば、わかることがある。白夜叉は、最後の最後で左手を使ったのだ。
「いきなりおかしな格好になったかと思えば次は二人になりおって。しかもなんじゃあのメダルは! この箱庭に長くいるが、あんなものは初めて見たぞ」
「す、すいません」
軽快に話し出した白夜叉になぜか謝る永夢。
「怒ってはおらん。無論、ルール違反とも思っていない。おそらく、それらすべてをひっくるめてお主の力なのじゃろう。非常に興味深いのは事実だがな」
「なら、よかったです……」
「暗い顔じゃな? 勝者ならもっと笑わんか。このわしのゲームをクリアしたのじゃぞ?」
本当の意味でクリアしていたなら、確かに笑えただろう。
もちろん引きずるつもりは毛頭ないのだが、それでも久々のこの結果にはくるものがある。
「ゲームには勝ちましたけど、勝負には負けましたから」
「なんじゃ、思いの外負けず嫌いだったか。ならば次の機会にまた挑んでこい。納得できるまで、何度でもな。無論、ゲームごとの対価はもらうがの」
白夜叉の目が、こちらに走ってくる黒ウサギに向けられる。
まだ距離があるので視線が合うはずもないのだが、黒ウサギは視線が合ってたと後に語った。
「しかし、面白い力だ。それは先天性のものか?」
「いえ、これは後天的なもので……そもそも、ガシャットを作った人が別にいますから」
「なんと! 制作者が別に存在しているのか!? ほうほうほう、ぜひとも其奴には一度話を聞いてみたいものだ」
会ってから時間も経ってない関係だが、これまでの言動や黒ウサギからの扱いといい、白夜叉が問題児なのだろうと察している永夢は、自分と対立し、そして協力し合う存在になった一人の男を思い浮かべる。
(絶対ロクなことにならない……)
彼は自身の中で思い浮かんだ想像を振り払い、話を続ける。
「あの人は自慢気に語ってくれると思いますよ。それよりも、次は必ず僕たちが勝ってみせますからね」
「大きくでたものだ。だが、嫌いではないぞ。今回のゲームの賞品はまたおいおいにの。なにか欲しいものがあれが訪ねてこい」
このとき、未知の力を持つ永夢と話すばかりで白夜叉は特に注意して彼の話を聞くことはなかった。
永夢の一人称が変わっていることには、終ぞ誰も突っ込むことはなかった。
その後は十六夜たちも合流し、あの変な格好はなんだの、二人に分裂できるかだのと質問責めに合う永夢だったが、すべてを説明していると時間が足りないと言い張り、すべてを語ることはなかった。
それでも、これから共にいる仲間たちに対して、自分がゲーマドライバーとガシャットによって先ほどの戦士に変身することだけは伝えることができた。
「あら、それなら貴方からそれを借りれば私でも使えるのかしら?」
永夢が握るガシャットを指しながら訪ねる飛鳥。
「十六夜くんにも言ったけど、これはそんな簡単に使えるものじゃないよ。適正だってあるし、僕じゃないと満足に使えないものだってある」
「……そう。それは残念ね」
「私も先生みたいに遊んでみたかったかも」
もっとも、そんな話をするものだから、興味を持った問題児たちの期待の目を受けることになるのだが、十六夜が前に同じ質問をしていたせいか、彼のときほど慌てることなく答えることができた。
「そういや、お医者さんのギフトって結局なんなんだ?」
「わしも確認していなかったな。ゲームが終わったらと約束していたろ? うん?」
続いて第二波のように迫ってきた十六夜と白夜叉。
だが、そのくらいならと素直にギフトカードを渡すのだった。
「なになに? “永遠の救済”に――ハッ、まじかよお医者さん! “天才ゲーマーM”って、ギフトにまでなってるのか! あんた本当に最高だな!」
「どちらも聞いたことのないものじゃな……まあ、あのふざけた成りをする者はいなかったから当然か」
「”永遠の救済”って、なんかすごい曖昧だよね」
「あら、いいんじゃないからしか? 天才ゲーマーよりは医者って感じがするわ」
「確かに。でも、少し大袈裟?」
各々覗き込んでは好き勝手な感想を述べていく問題児たち。
それを言うなら十六夜のギフトネームこそを弄るべきなのだが、どうにも、少年少女からしてみれば永夢は楽しく弄れる対象だったのだ。
このままゲーマー方面の話を開始しようかと思った矢先、白夜叉から終了の言葉をもたらされる。
「さて、では今日はこの辺りで終いじゃ」
楽しいものを見させてもらったぞ、と愉快に笑うと、周りの景色はゲーム盤から元いた和室へと戻っていた。
六人と一匹は暖簾の下げられた店前に移動し、耀は一礼した。
「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」
「あら、駄目よ春日部さん。次に挑戦するときは対等の条件で挑むのだもの」
「ああ。吐いた唾を飲み込むなんて格好付かねえからな。次は渾身の大舞台で挑むぜ」
「ふふ、よかろう。楽しみにしておけ。………ところで」
白夜叉は真剣な顔で黒ウサギ達を見る。
「今さらだが、一つだけ聞かせてくれ。おんしらは自分達のコミュニティがどういう状況にあるか、よく理解しているか?」
「ああ、名前とか旗の話か? それなら聞いたぜ」
「ならそれを取り戻すために、"魔王"と戦わねばならんことも?」
「聞いてるわよ」
「………では、おんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」
「そうよ。打倒魔王だなんてカッコいいじゃない」
「"カッコいい"で済む話ではないのだがのう………全く、若さゆえのものなのか。無謀というか、勇敢というか。まあ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰ればわかるだろう。それでも魔王と戦う事を望むというならば止めんが………そこの娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ。それに仮面戦士のおんしもだ。素質は認める。だが甘さも目立つ。遊び半分でゲームに臨むのであれば、死ぬぞ」
予言するように断言する白夜叉。
耀と飛鳥は一瞬だけ言い返そうと言葉を探したが、魔王と同じく"主催者権限"をもつ白夜叉の助言は、物を言わさぬ威圧感があった。
「打倒魔王の前に様々なギフトゲームに挑んで力を付けろ。今のままでは魔王のゲームを生き残れん。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれ死ぬ様は、いつ見ても悲しいものだ」
全員にそう告げる。
「だいじょうぶですよ」
だが、忠告された永夢は、静かな声音で告げた。
「貴方とのゲームは危険ではあっても、それまででした。だから僕たちはゲームで遊ぶことができた」
「だから、それが危険じゃと――」
「人の命がかかってるのに遊べる人なんて、ドクターじゃない。僕は人の命を救うドクターです。人の命を弄ぶような奴相手に遊び半分で挑んだりはしません」
再度、より強い口調で言い聞かせようとした白夜叉が口を閉じる。
心配ないと、この若者は既に自分のことを理解していると安心したかのように。
「おんしはどうも、なにかを切り抜けてきた過去があるようだな。他の者と纏うものが違うのは、その過去にあるやもしれん。あいわかった。ならばいまは、その言葉を信じよう」
「はい、ありがとうございます」
戦ったからこそわかること。
彼の言葉に込められた想いは本物だと、そう思えた。
「ご忠告どうも。だがな、次はお前の本気のゲームに挑みに行くから、その時にでも改めて評価してもらおうか!」
最後に、十六夜が軽い口調で、されど本気の目をして宣言する。
それにつられるように白夜叉も笑みを浮かべ、思いついたとばかりに答える。
「ふふ、望むところだ。私は三三四五外門に本拠を構えておる。いつでも遊びに来い。………ただし、黒ウサギをチップに賭けてもらうがの」
「嫌です!」
「その条件呑んだ!」
「呑みません!!」
黒ウサギは即答で返す。対して白夜叉は拗ねたように唇を尖らせる。
「つれない事を言うなよぅ。私のコミュニティに所属すれば生涯を遊んで暮らせると保証するぞ? 三食首輪付きの個室も用意するし」
「三食首輪付きってソレもう明らかにペット扱いですから!」
「その手があった。これなら簡単に勝負を挑める」
「だな。じゃあ俺がいい感じの樹を切り倒してくるから、春日部は小屋の設計図と首輪の調達を頼む。お医者さんは黒ウサギのストレスがたまらないように相手をしてやってくれ」
「うん。あとは――」
「なんの話をしてるんですかこの問題児様方あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
十六夜と耀、永夢は三人揃ってハリセンを叩きつけられた。
「ちょっと!? 僕はなにも言ってませんよね!」
怒る黒ウサギ。笑う白夜叉に十六夜と耀。巻き込まれたことを嘆く永夢。店を出た五人と一匹は無愛想な女性店員に見送られて"サウザンドアイズ"を後にした。
帰り道では男性陣と女性陣にわかれて話が盛り上がっており、
「そういやお医者さんは、その力を使ってなにをしてたんだ?」
「なにをって?」
「あん? だからよ、もとの世界ではなにをしてたのかなーって。強力な力を持つと苦労しないか?」
ゲームの話をしていた十六夜が一転、そんなことを訊いてくる。
「え? あー……どうだろう。力と向き合うことも必要だけど、僕たちドクターはみんな、患者や命と向き合ってきたんだ。僕はただ、医者として患者の命を救って、患者の笑顔を取り戻したい。そうやって、進んできただけだよ」
心が折れそうなとき。迷ったとき。大変なときに気づかせてくれた人たちのおかげだけどね。
と永夢は続けた。
「……そうか。少しだけお医者さんの世界に興味がわいてきた」
仲間のことや、これまでのことを思い出したのか、嬉しそうな永夢から解答を受け取った十六夜は、どこか羨ましそうな視線を彼に向けていた。
サブタイが……サブタイが苦しい!