少し見ないうちになにやらこの作品が読まれすぎている件について。
いや、本当に書き始めてから今日までこんなに読まれるとは思ってもいなかったです。まだ始まったばかりですのでこの先も温かい目で見守ってくださると助かります。
では、どうぞ。
手加減したつもりはなかった。
未知の強敵。攻略対象……一時として、気を抜いてなどいなかった。
けれど。
「うあっ、あ……ぐう……」
先手を取ったはずの永夢は、衝撃を受けると共に吹き飛ばされ、地面を転がっていた。
これまでも時を止められその間に攻撃を受けることはあったが、これは違う。歴然とした差が永夢と白夜叉の間にはあるのだ。
(まさか、一撃目すら防がれるとはな……無事か、永夢)
(だいじょうぶ。派手に飛ばされたけど、威力自体は低いみたいだ。それよりも……)
(ああ、あいつを攻略するのは骨が折れるな)
パラドと会話しながらも素早く体勢を整えるが、白夜叉からの追撃はない。
「ふむ、やはり一撃では沈まんか。……どうした? さっさとかかって来ぬか。それとも、こちらから出向いた方がよいか?」
先ほどの場所から一歩たりとも動いていない彼女は、永夢に問いかける。
観戦していた十六夜たちにも、二人の戦いの様子は把握できている。飛鳥のみ、若干速さについていけていないようだったが、黒ウサギが起きた出来事を説明して納得していた。
「お医者さんでも歯が立たないか……俺も参戦していいならしてみたいんだが」
「ダメですよ!?」
「わかってるさ。あれはお医者さんの戦いだ。俺が混ざっていい道理がねえ」
覚悟。
ゲーム名にもなっているこの言葉だけで、他の誰かが立ち入ることなど許されないとわかっているのだ。だからこそ、十六夜はゲームの行方を見守ることしかしない。
「でも、先生最初から相手になってないよ? どうにかしないと」
「それはお医者さんの問題だろ。天才ゲーマーとか名乗ってたんだ。それこそ、これはゲームなんだからどうにかするだろ」
耀は十六夜の言葉に頷きながらも、どこか心配そうに見つめている。
「安心しろ。白夜叉も本気で殺しはしないだろうし、お医者さんもそう簡単には倒れねえよ」
「べつにどうこう思ってるわけじゃない」
「……そうかよ」
構うのをやめ、視線を再び永夢たちに戻す十六夜。
黒ウサギはそんなやりとりを微笑ましく眺めながらも飛鳥に戦況の流れを説明しながら、やはり彼女も心配そうに見守るのであった。
「もう一度飛び込んでみるか」
目の前に佇む白夜叉のスピードは永夢たちの想像を軽く超えていた。
(無策で突っ込むのは得策じゃない!)
(わかってるよパラド。だから、あと一度だけ!)
言い聞かせながら、足に力を込める。
純粋な力比べでは決して届かない……理解はできているが、作戦を練るには情報が少なすぎる。
「勝つためにも、俺たちに必要なものを見定める!」
「いい心意気だ!」
その場から飛び出し、再度白夜叉へと突貫する永夢。避けようと思えば容易に避けられる攻撃を、白夜叉はあえてギリギリでかわしてみせる。
「ほれ、どうした?」
「くそっ!」
笑いながら柏手を鳴らしてあちこちを飛び回る白夜叉と、必死になって追い縋る永夢。
姿からは想像できないほどの俊敏さを見せる永夢に十六夜たちは微妙な表情をしているが、耀や黒ウサギは目を輝かせてもいる。
だが、そんなことは関係ない。
「遅くはないが、その程度では届かんぞ」
あと一歩でというところで遊ばれるように逃げられては、一方的に消耗していく。
「やっぱり速さが足りないか!?」
反撃するでもなく、ただ動きを観察するようにしてるだけの相手となればなおさらだ。
基本スペックはレベル1と比べて遥か上になっていても到底敵わない。
(まずは相手と同等のスピードに乗らないと勝負にすらならないか)
(このままじゃなにもできないまま終わるぞ、永夢。そろそろあいつを驚かせようぜ!)
他の誰にも聞こえないはずの声に頷きつつ、辺りを見渡す。
変身するときに同時に広がったゲームエリアによって出現したブロックが目に留まる。
(これは医療じゃない……ただ俺の力を見極めようとしているだけのゲームだ。だけど!)
ブロックのひとつを破壊すると、中からメダル型のアイテムが出現する。
エナジーアイテム――対象に吸収されることで効果を発動するアイテム。
そのうちの現れたひとつを使用する。
『高速化』
音声が流れた直後、これまでとは比較にならない速度で移動し始める永夢。
「まだまだ!」
高速で走りながら、更にブロックを破壊し、次のメダルを使用する。
『透明化』
「消えた!?」
「あのメダル、一種類だけじゃないのか」
飛鳥は驚きの声をあげ、十六夜は現れたメダルが違うことに疑問を持ち始める。
今度はエグゼイドの姿が消え、名前の通り透明になって白夜叉に迫る。
「ほほう。面白い技を使うようだが……速度が追いついただけではどうにもならんぞ」
彼女が手をかざすと、一瞬あとになにかを捕まえたかのように手を握った。
「なに!?」
「ほれ、見えなくなっただけなら簡単に捕まえられる」
永夢の声だけが白夜叉の近くで響く。どうにも、移動して接近していた永夢の動きを悟り、透明であろうと関係なく捕らえた白夜叉は完全に常軌を逸している。
これには完全に想定外だったのか、永夢だけでなく、彼の中にいるパラドさえも驚愕した。
「おい黒ウサギ。あれは攻撃のための右腕以外の使用には当てはまらないのか?」
「……残念ですが、その行い自体が攻撃とは認識されなかったようです」
「おいおい、次の行動で攻撃につながらなければセーフってか? ルールの穴を突くような粋な真似するとはな!」
これがゲームの醍醐味だよな、と楽しそうに笑う十六夜と、本当に残念そうに呻く黒ウサギ。
彼らの声などお構いなしに続ける白夜叉は、
「なんじゃ、もう芸は終わりか? ならば」
捕まえている手とは逆の右手に力が宿り出す。
「終いにしようか?」
逃れられない。
どれだけ力を加えようと、細い腕からは考えられない力で握られ解くことが叶わないのだ。
このまま腕を振るわれれば、間違いなく倒される。
彼の中で、パラドが首を縦に振った――ように彼だけが感じていた。
「まだ、終われない! 俺たちのゲーム攻略はここからだッ!!」
ゲーマドライバーを一旦閉じ、片手しか回せなかったが、大きく回転させる。
「だーーーーい変身!!!」
『ダブルアップ!』
力強い掛け声と共に再びゲーマドライバーを開く。
『俺がお前で! お前が俺で! マイティ! マイティ! ブラザーズXX!』
白夜叉が掴んでいた腕から順に透明化が解除されると、すぐさま粒子状になり彼女の腕から逃れるように距離を取り、二箇所に集まり出す粒子。
「なんじゃこれは!」
それぞれオレンジと青緑の粒子が寄り集まり、本来ならあり得ない現象が起こる。
集まった二箇所には、それぞれオレンジを基調とした青緑を基調とした、二人のエグゼイドが存在していた。二人にはそれぞれの右肩、もしくは左肩にレベルXの顔が半分ずつだがついており、二人が肩を並べることでひとつの顔になるようになっている。
「超キョウリョクプレーで」
青緑を基調とした形態のエグゼイド――永夢が左手を隣にいるオレンジを基調としたエグゼイド――パラドに伸ばす。
互いの想いを感じ合い、意識を共有することのできる永夢とパラド。自分自身だとさえ言い合える彼らだからこその変身。
「「クリアしてやるぜ!!」」
伸ばされた手と伸ばす手。
二人の手が重なり合い、ひとつ音を鳴らす。
直後、別々の方向に走り出し、それぞれが白夜叉へと向かっていく。
パラドを取り込んでの変身では、二人になったエグゼイドのうち一人は変身者がパラドになる。これは永夢のある病気とも関係があり、二人は極めて近い存在にある。
その結果が、いまの二人なのだ。
パラドは永夢の天才ゲーマーMとしての一面を持つ、言い換えれば永夢の別側面のようなもの。参加プレイヤーが宝生永夢のみだったとしても参加できている裏には、そうした彼らの事情が介在している。
「散々好きに遊んでくれたが、俺と永夢の力をみせてやるよ!」
「なんじゃ、いきなり二人になったと思うたら人格まで違うとは!?」
「いいや、俺はあいつだ!」
エナジーアイテムを巧みに駆使しながら殴りかかるパラド。
その声音は我慢していたゲームをやっとプレイできたときのこどものように明るく、楽しそうなものだった。
「一人で張り切りすぎるなよ、パラド!」
そんな彼に続くように、最近保護者と化している永夢も続く。
こちらはレベルXXの専用武器であるガシャコンキースラッシャーを取り出し、ブレードモードで斬りかかる。
ブレード、アックス、ガンの3モードを自在に切り替えられる複合型のガシャコンウェポンであり、白夜叉がひらりとかわすや否や、躍りかかるパラドにパスし、今後はガンモードに変更しながら攻撃を繰り出すなど、互いに武器を譲り合いつつの戦法を取る。
「二人!? どういうこと黒ウサギ!」
「わ、わからないのですよ!? なにが起きたのでございますか!」
「先生が二人? でも、なんか違う」
「二人で会話してんのか? 流れてる音声と違って人の声はなかなか拾えないな……戦闘で生じる音も邪魔だ。くそ、お医者さんの秘密に迫れそうなんだがなぁ」
観戦している四人がそれぞれの反応を示し、慌ただしくする者や冷静に分析する者に分かれるのだが、エグゼイドが二人になった際の驚きは変身したとき以上のものになっていた。
いまもいつの間にかアックスモードになったガシャコンキースラッシャーをパラドから受け取った永夢が突貫し、横から隙を見てパラドが「高速化」と「マッスル化」を併用した速度とパワーで拳や脚を打ち込んでいく。
「おのれ、おかしな動きをしおって!」
「まだまだ上げてくぜ!」
変幻自在な様々な攻撃方法を可能とする永夢とパラドに、ついつい笑みを浮かべる白夜叉。
つまらなそうにしていた彼女が、ここに来て楽しみ出そうとしてる。
纏う空気の変化に気づいたのか、勝負を決めようとする永夢。対してパラドは、
「心が滾るッ!」
こちらも楽しくて仕方がないと、興奮した際の口癖を漏らす。
「もう少し遊びたかったが、ここが攻めどきだ」
これ以上続けるとなると、元のレベルが違うだろう白夜叉が勝る。力を出すか出さないかで迷っているいまこそ、絶好の好機。
勝機を逃す手はないと、興奮した状態でも冷静な部分が告げる。
互いの意思を感じ取った永夢とパラドの二人が隣に並び合う。
「フィニッシュは必殺技で決まりだ!」
「ああ! 決めるぞ永夢!」
ドライバーのレバーを閉じて再度開く。
『キメワザ!』
『マイティダブルクリティカルストライク!』
二人のエグゼイドの右足にエネルギーが収束していく。
もちろん、永夢とパラドはこの一撃で終わらせるつもりだ。
前に駆け出した二人が空中に飛び上がり、
「「ライダーキック!」」
掛け声と共に、交互に飛び蹴りを叩き込もうとする。
「決めにきたか。よかろう、この白夜叉が受けて立つ!」
右腕に込めた力を前に突き出し、飛び込んでくる二人のエグゼイドに向ける。
「はあっ!!」
激突するふたつの力。
観戦するために下がっていた十六夜たちにすら及ぶ余波をたたき出した技の重なりは、しかし。
僅かな間の拮抗を保つとすぐさま崩れ去り、一瞬後にはエグゼイドと白夜叉の一撃がぶつかりあった場所を中心に爆発が起きた。
『ガッシューン』
「――ッ、ぐぁ!? ……そんな……ことって!」
ガシャットが取り出され、変身が解けた永夢が爆発の中から吹き飛ばされてきた。
二人いたはずのエグゼイドは永夢一人に戻っており、飛ばされてくる際に二人にわかれたときと似た粒子が永夢の中へと入り込んだのだが、それに気づいた者はこの場には誰一人としていなかった。
そして、変身の解けた生身の永夢が睨み、観戦していた四人の視線を一点に集める、爆風に包まれた中心部。
爆風が晴れると共に、そこには両手を突き出した状態の白夜叉が無傷で立っていた――。
この作品を書く前に、仮面ライダークロニクルに興味をもったフィリップを筆頭に仮面ライダークロニクルに関わった人の依頼の解決に乗り出すWサイドと、ゲームで続出する被害から事件性があると見て事態を重く見たドライブサイド(その他盛り盛り)の平成ライダーのクロスオーバーものをエグゼイド本編に絡めながら書こうなどと書き出したものがありましたが、こうして見ていると需要あったりするのだろうか?