現れたのは、四等身の仮面の戦士――仮面ライダーエグゼイド。
「やっぱり最初はこれでしょ! さあ、ゲームスタートだ!」
でかい図体の戦士は、それでもまるで不自由ない動きで、むしろ俊敏な動きを見せる。
周囲に出現したブロックを足場に竜巻を回避し、そのままの勢いで蛇神へと迫っていくエグゼイド。
『なんだ貴様は! そのふざけた形はなんだ!?』
「まさかお医者さんにそんな力があるとはな。某野菜戦士の息子たちのフュージョン失敗形みたいな姿だよな?」
『知るか! ええい、ちょこまかと!』
本人は至って真面目なのだが、端から見た姿はふざけているに尽きるエグゼイドを眺める蛇神が八つ当たり気味に十六夜に仕掛けるも難なくかわされ、イライラと怒りが募っていく。
もちろんそんな気を知るはずのないエグゼイドに変身した永夢は、楽しそうにブロックを飛び跳ねながら蛇神への距離を詰めていく。
「っと、やっぱりあいつ本体を無効化しないとダメか」
消えない竜巻に意識を向けたエグゼイドは、自身の専用武器であるハンマー型の武器、ガシャコンブレイカーを取り出す。
空中に出現したブロックの上を駆け抜け、さらに、そのうちのひとつを破壊すると中からメダル型のアイテムが姿を表す。
「よし、行くぜ!」
自分より巨大な相手には慣れている。
これまで何度も戦ってきた相手とそう変わらない。
出てきたメダルを使用すると、
『高速化』
音声が流れると共にエグゼイドの移動速度が目に見えて変化する。
というよりも、この場にいる十六夜や黒ウサギの目には動きが見えているのだが、常人が見れば、エグゼイドの移動速度は目で追えないものになっているだろう高速だ。
「へえ……まるでゲーム世界だな。ブロックを壊すとアイテムが出てくるのか」
しかし、そうなると果たして自分にも効果があるのだろうかとブロックに向かう十六夜だが、途中でやめたかのように引き返した。
(どうみても俺はゲームのキャラじゃない。思えば、これらはすべてお医者さんが変なのに姿を変えた瞬間から現れたものだ。それらを関係のない俺が使える確率は低い。おそらく、同じような奴らにしか効力はないな)
そこまで考えをまとめると、恨めしそうに永夢を睨む十六夜。
顔には俺も遊んでみたいとハッキリと書かれている。
「そりゃ! ほっ、よっと!」
思考に耽っている間に永夢は蛇神と戦っていたようで、速さを生かして何度も手に持つガチャコンブレイカーで敵を叩いていく。その度に攻撃を当てた箇所に『HIT!』や『GREAT!』の文字が浮かぶ。
このままいけば、じきに勝負はつく。
(ハッ、本格的にゲームになってきたな! いいぜ、面白いじゃねえかお医者さんよお! でもな)
「俺も混ぜろやゴラアッ!」
――はずだった。
突如発生した、嵐を超える暴力の渦。
腕の一振りで嵐を薙ぎ払った十六夜は、動きを止めた蛇神に肉薄する。
「嘘!?」
『バカな!?』
「ちょ、それ俺の相手!」
驚愕と非難する三つの声。
「ま、中々だったぜ、おまえ。おかげでいいものが観れた」
胸元に飛び込んだ十六夜の蹴りは蛇神の胴体を打ち、その巨躯を空中高く舞い上がらせ、直後川に落下した。その衝撃で川が氾濫し、水で森が浸水する。
またも全身を濡らした十六夜はバツが悪そうに川辺に戻った。
「くそ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代ぐらいは出るんだよな黒ウサギ」
「俺はいらないぜ」
隣でびしょ濡れの相手がいるのに、変身解除すれば関係ないしな。とは続けられないが。もっとも、ほとんどが十六夜のとばっちりなので言っても許されそうだが。
「にしても、人が戦ってるのを横からかっさらうのはマナー違反じゃないのか?」
「いいじゃねえか。これは俺たちの協力プレーだぜ、お医者さん」
「確かにあいつ、俺たちと戦っていた風な話だったけど……まあいいか。あのまま続けてても勝敗は見えてたしな」
パラドも途中からは飽きていた。
人を守るって使命のため勝負をやめろとは言わなかったが、早々に終わらせる気ではあった。ゆえに、十六夜が終わらせてしまったとしても、一言文句を言えれば十分だ。
そう思いなおし、ゲーマドライバーに挿入していたガシャットを取り出す。
『ガシューン』
すると展開していたゲームエリアは消滅し、エグゼイドに変身していた永夢も、仮面の戦士から人間の姿へと戻った。
(神にしては、拍子抜けだったな)
(たぶん、そこまで強いカテゴリーの敵じゃなかったんだよ。それこそ、本当にチュートリアルだったのかもしれない)
(ハア……ひとまずは全員無事なことを喜ぶか)
どこか退屈そうなパラドだが、それでも永夢を通して、戦うこと、遊ぶこと以上に大事なことを知った。だからこその言葉なのだろう。
(楽しめるときはきっとそのうち来るさ)
それがわかっているからこそ、永夢もパラドに声をかける。
自分と繋がっている存在だからこそ。他の誰かにわからなくても、自分にはわかる相手だからこそ、もう道を外さないように。
彼と向き合い続ける責任があると、共に居続けると誓ったから。
「それにしても、ゲームにこだわってたのはそういうことか」
しばらく黙っていた十六夜が永夢へと話しかける。
「まあ、そんなところかな」
「見たところそのふたつで変身していたみたいだが、お医者さんの力はそれか?」
力――この世界でいうギフトのことだろうか。
(十六夜くんが興味を持つのは当然だけど、これは僕個人の力ってわけでもない……でも、その方が都合はいいか)
ないとは思うが、適合者と呼ばれる資格者にならないとも限らない。
「そうだね。これは僕の力――エグゼイドとしての、僕の力だよ」
「ふうん……それさえあれば俺でもなれるのか?」
「え? い、いやそれは無理だよ!」
「そうか、やっぱり無理か……一回くらい遊んでみたいんだがなぁ。ロマンがあるし」
本当にただ気になっただけだろう。
笑って残念がる十六夜は、特に気にした様子はない。が、永夢の方は冷や汗ものだ。少し前に、自分たちと似た、けれど誰でも変身できてしまうふざけたゲームのせいで何人もの人がある病気にかかり、またはゲームの中で命を散らした。
(十六夜くんはあのことを知らない。だからこそ、できればアレはないといいんだけれど)
ひとつの可能性を考えながら、その可能性がないことを祈る永夢。
ちなみに、それを思い出していた永夢に感化されたパラドの顔は誰からも見えることはないのだが、ひどく青ざめていたとか。
人知れず、永夢によるアフターケアが彼の中で行われていた。
よくわからないが慌てている様子の永夢にも一言声をかけた十六夜は、まだまだ話し足りない永夢と話し込むことはせず、代わりに黒ウサギに対し笑みを消した表情で話しかける。
「なあ、黒ウサギ。オマエ、なにか決定的なことをずっと隠しているよな?」
「……なんのことです? 箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームのことも」
「違うな。俺が聞いてるのはオマエ達のこと——いや、核心的な聞き方をするぜ。黒ウサギ達はどうして俺達を呼びだす必要があったんだ?」
聞いてものらりくらりとかわそうとしたので、自分と永夢はこのままなら黒ウサギのコミュニティには入らず他所へ行くぞと脅したところ、意図的に隠していたことを看破されたこともあり、黒ウサギは諦めるようにして、自分たちのコミュニティの現状を話し出した。
永夢もこれは聞くべきかな、と生来の人の良さが働いたのか話に耳を傾け始め、そしてコミュニティの誇りである旗と名、さらに中核となる仲間が一人として残っていないことを知らされた。
「もう崖っぷちだな!」
「道理で、十六夜くんたちを手放せないわけだ」
「ホントですよー永夢さんもですからね?」
話しながら永夢に対して逃がす気はないと暗に伝えながら、現状を再確認した黒ウサギはうなだれるように膝をついた。
「まあ、僕も帰る目処が立つまではどうにかしないといけないんだけど。それよりも、いったい誰が?」
「箱庭を襲う最大の天災——"魔王"です。私たちはいつか、魔王から誇りと仲間を取り返したいのです。そのためには、十六夜さん達のような強大な力を持つ人の協力が不可欠なのです! どうかその力、我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか…………!?」
「ま、魔王!?」
「神さまに魔王さまか。おいおい、お医者さんと話してたことがだんだん本当になってきてるじゃねえか」
「ゲームにしてもできすぎてるよ……」
新しい玩具を見たこどものように楽しそうに、期待した笑みを浮かべる十六夜と、まさかのラスボス情報に驚くと同時に、関わった以上は倒すしかないと決意を固め出す。
「魔王から誇りと仲間をねえ。いいな、それ」
「——……は?」
「HA? じゃねえよ。協力するって言ったんだ。もっと喜べ、黒ウサギ。ついでにお医者さんも協力してくれるってよ」
二人の視線が永夢へと向く。
「僕には、まだやらないといけないことがある」
「——ッ!? で、では……」
黒ウサギの話を聞きながら、やはりすぐには帰れないだろうことは自覚していた。
残してきた人たち。
これから救っていく人たち。
でも、目の前の患者から目を背けることはできない。していいことじゃない。それではドクター失格だ。
彼女は、精神的にも、身体的にも疲れ切っている。きっと、彼女の話すこどもたちも……。
「けれど、僕は医者だ。帰り方は探したいけど、キミたちを放っておくことは許されない。だから、僕はまず、キミたちを救うよ」
「え、えゔしゃん……」
自分のことを後回しにしてまで協力しようとしてくれる永夢の言葉に、黒ウサギは泣きそうになりながら感謝の言葉を述べようとする。
同時に十六夜が提案としてフォローに回るのだが。
「なら、お医者さんは黒ウサギに手を貸す。黒ウサギはお医者さんの元いた世界に帰る手助けをする。で、情報は逐一報告。代わりにお医者さんは俺たちと一緒にコミュニティ復興まで協力すると。これで関係は対等だ」
この際誰が喚んだとかは触れない。それはそれ。来たのが悪い。喚んだ奴も悪い。両成敗でいいだろう。
「うん、僕はそれでいいよ」
元々描いていた予定よりも好転しているので、永夢としては納得できる。
帰るのは時間がかかりそうだが、果たしてどうなることやら。
「じゃあ決まりだな。黒ウサギ、さっさとあのヘビを起こしてギフトを貰ってこい。その後は川の終端にある滝と"世界の果て"を見に行くぞ」
「は、はい!」
黒ウサギは嬉しそうに跳躍し、戻ってくるころには、ウッキャーなんて奇声をあげながら戻ってきた。
いいものでも手に入ったのだろう。
それを確認した十六夜は、次は自分のために行動を再開した。
十六夜の要望通りの景色を見てきた後、黒ウサギの心境の変化などもあったのだが、日が暮れた頃には別れた飛鳥たちと合流できた。したのだが、ジンたちから話を聞いた黒ウサギは怒っていた。それはもう、ウサ耳がかわいくウサウサしている余裕もないほどに。
「な、なにかあったの?」
例のごとく十六夜に担がれて帰ってきた永夢は、先ほどまでベンチで寝かされていたのだが、復活してきたばかりで状況を飲み込めていないのか、十六夜に質問する。
「お、無事だったなお医者さん。なんでも明日お嬢さまたち三人がケンカするんだとさ」
さも自分たちは関係ないといった様子で、ジン、飛鳥、耀の三人のケンカだと言い切った。
「聞いているのですか三人とも!」
説教はまだ続いているのだが、
「「「ムシャクシャしてやった。いまは反省しています」」」
「黙らっしゃい!!」
誰が言い出したのか、まるで口裏を合わせていたかのような言い訳に激怒する。ウサ耳も逆立っていた。
しかし、三人の姿勢をただ責めるだけなのも、と思い黒ウサギは諦めたように頷いた。
「まあ仕方ないです。"フォレス・ガロ"程度なら十六夜さんか永夢さんのどちらか一人いれば楽勝でしょう」
「何言ってんだよ。俺もお医者さんも参加しねえよ?」
「当たり前よ。貴方たちなんて参加させないわ」
フン、と鼻を鳴らす二人。
「だ、ダメですよ! 御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」
「そうだよ、チームなんだから協力はしないと! なんでもかんでも自分一人でやろうとしたら、絶対に間違える!」
「そういうことじゃねえよ。っていうか、お医者さんはわかってるだろ?」
十六夜が真剣な顔をする。
「いいか? このケンカはコイツらが売った。そして奴らが買った。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」
「あら、わかっているじゃない」
「……。ああもう、好きにしてください」
「ああ、そういうこと……うん、それなら仕方ないかな。人のやってるゲームに手を出すのは無粋だよね」
丸一日振り回され続けて疲弊した黒ウサギはもう言い返す気力なぞ残っていない。
その後、コミュニティへ帰る前に行くところがあるということで、ジンとは一度別れた。
なんでも、永夢たち四人のギフトの鑑定のため、"サウザンドアイズ"という超大型商業コミュニティに向かうとのこと。
道中、十六夜、飛鳥、耀の三人は興味深そうに街並みを眺めていた。
商店へ向かうペリペッド通りは石造りで整備されており、脇を埋める街路樹は桃色の花を散らしていた。
「桜の木……ではないわよね? 花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずないもの」
「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合いの入った桜が残っていてもおかしくないだろ」
「……? いまは秋だったと思う」
「もう夏も終わって秋のはずだけど」
ん? っといまいち噛みあわない四人。黒ウサギには事情が呑み込めており、助け舟として説明役に回った。
「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」
十六夜がパラレルワールドか? と考え、永夢は自分たちの経験や起きた騒動を三人が一切知らない可能性があるのかと表情を厳しくしていると、黒ウサギの足が止まる。
どうやら店に着いたらしい。商店の旗には、蒼い生地に互いが向かいあう二人の女神像が記されている。あれが、"サウザンドアイズ"の旗なのだろう。
日も暮れてきて、看板を下げる女性店員に、黒ウサギは滑り込みでストップを、
「まっ」
「待ったなしです御客様。うちは時間外営業はやっていません」
かける事は出来なかった。
なんて商売っ気のない店なのかしら」
「ま、全くです! 閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」
「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」
「出禁!? これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!?」
アレコレと喚く黒ウサギに、店員は冷めたような眼と侮蔑を込めた声で対応する。
「なるほど、"箱庭の貴族"であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」
喚いていた黒ウサギが言葉に詰まる。代わりに十六夜が名乗る。
「俺達は"ノーネーム"ってコミュニティなんだが」
「ほほう。ではどこの"ノーネーム"様でしょう。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
力のある商店であるがこそ、信用できない客を扱うリスクは冒さない。
"名"と"旗"が無い影響がこの状況でも出てきているのだ。
黒ウサギは心の底から悔しそうな顔をして、小声で呟いた。
「その……あの………私達に、旗はありません」
「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ! 久しぶりだ黒ウサギィィィィ!」
黒ウサギは店内から爆走してきた着物姿の白髪の少女に抱きつかれ、少女と共にクルクルクルクルクと空中四回転半ひねりして浅い水路まで吹き飛んだ。
十六夜と永夢は眼を丸くし、店員は痛そうな頭を抱えた、
「……おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか? なんなら俺も別バージョンで是非」
「ありません」
「なんなら有料でも」
「やりません」
「ならあんたでもいいから」
「やりたくありません」
「そこをなんとか」
「なりません」
「そ、それより二人に怪我がないか確認しないと!」
真剣な表情の十六夜に、真剣な表情でキッパリ言い切る女性店員。そして一人慌てはためく永夢。三人は割とマジだった。
三人が真剣に話している間、黒ウサギに強襲した白髪の少女は黒ウサギの胸に顔を埋めてなすり付けていた。
「し、白夜叉様?! どうして貴女がこんな下層に!?」
「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろに! フフ、フホホフホホ! ほれ、ここが良いかここが良いか!」
スリスリスリスリ。
「し、白夜叉様! ちょ、ちょっと離れてください!」
白夜叉と呼ばれた少女を無理やり剥がし、頭を掴んで店に向かって投げつける。
くるくると縦回転した少女を、十六夜は足で受け止めた。
「てい」
「ゴハァ! お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」
「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」
「ちょっ、十六夜くん!?」
彼の暴行に注意しようとした永夢だが、それより早く飛んできた少女が反応する。
「普通に手で受け止めんか!! そんで、そこの注意しようとしたおんしは誰じゃ!」
「あ、えっと宝生永夢です。それより平気なんですか!?」
「この程度で怪我はせん」
「ええ……」
一連の流れの中で呆気にとられていた飛鳥は、思い出したように白夜叉に話しかける。
「貴女はこの店の人?」
「おお、そうだとも。この"サウザンドアイズ"の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」
白夜叉は指をわしゃわしゃと動かして飛鳥に迫ろうとするが、
「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」
何処までも冷静な声で女性店員に釘を刺され、動きを止めた。
「うう………まさか私まで濡れる事になるなんて」
濡れた服やスカートを絞りながら黒ウサギが戻ってきた。
「因果応報……かな」
「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元に来たということは………遂に黒ウサギが私のペットに」
「なりません! どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」
ウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギ。
何処まで本気かわからない白夜叉は笑って店に招く。
「まあいい。話があるなら店内で聞こう」
「いいのですか?」
「よいよい。"ノーネーム"だとわかっていながら名を尋ねる性悪店員に対する侘びだ」
む、っと拗ねるような顔をする女性店員。彼女にしてみればルールを守っただけなのだから気を悪くするのは仕方のないことだろう。
「………わかりました、どうぞ」
五人は、やはり女性店員に睨まれながら暖簾をくぐった。